会社法 条文 会社法 解説
第2編 株式会社

第1章 設立

第3節 出資
第32条 【設立時発行株式に関する事項の決定】

 @ 発起人は、株式会社の設立に際して次に掲げる事項(定款に定めがある事項を除く。)を定めようとするときは、その全員の同意を得なければならない。

 1 発起人が割当てを受ける設立時発行株式の数

 2 前号の設立時発行株式と引換えに払い込む金銭の額

 3 成立後の株式会社の資本金及び資本準備金の額に関する事項

 A 設立しようとする株式会社が種類株式発行会社である場合において、前項第一号の設立時発行株式が第百八条第三項前段の規定による定款の定めがあるものであるときは、発起人は、その全員の同意を得て、当該設立時発行株式の内容を定めなければならない。
発起人が定款に、割り当てを受ける設立時発行株式数、その株式の価額、成立後の株式会社の資本金と資本準備金の額に関する事項を定めていない場合についての規定である。この場合、発起人は、発起人全員の同意を得た上で、これらを定めることができる。
第33条 【定款の記載又は記録事項に関する検査役の選任】

 @ 発起人は、定款に第二十八条各号に掲げる事項についての記載又は記録があるときは、第三十条第一項の公証人の認証の後遅滞なく、当該事項を調査させるため、裁判所に対し、検査役の選任の申立てをしなければならない。

 A 前項の申立てがあった場合には、裁判所は、これを不適法として却下する場合を除き、検査役を選任しなければならない。

 B 裁判所は、前項の検査役を選任した場合には、成立後の株式会社が当該検査役に対して支払う報酬の額を定めることができる。

 C 第二項の検査役は、必要な調査を行い、当該調査の結果を記載し、又は記録した書面又は電磁的記録(法務省令で定めるものに限る。)を裁判所に提供して報告をしなければならない。

 D 裁判所は、前項の報告について、その内容を明瞭にし、又はその根拠を確認するため必要があると認めるときは、第二項の検査役に対し、更に前項の報告を求めることができる。

 E 第二項の検査役は、第四項の報告をしたときは、発起人に対し、同項の書面の写しを交付し、又は同項の電磁的記録に記録された事項を法務省令で定める方法により提供しなければならない。

 F 裁判所は、第四項の報告を受けた場合において、第二十八条各号に掲げる事項(第二項の検査役の調査を経ていないものを除く。)を不当と認めたときは、これを変更する決定をしなければならない。

 G 発起人は、前項の決定により第二十八条各号に掲げる事項の全部又は一部が変更された場合には、当該決定の確定後一週間以内に限り、その設立時発行株式の引受けに係る意思表示を取り消すことができる。

 H 前項に規定する場合には、発起人は、その全員の同意によって、第七項の決定の確定後一週間以内に限り、当該決定により変更された事項についての定めを廃止する定款の変更をすることができる。

 I 前各項の規定は、次の各号に掲げる場合には、当該各号に定める事項については、適用しない。

 1 第二十八条第一号及び第二号の財産(以下この章において「現物出資財産等」という。)について定款に記載され、又は記録された価額の総額が五百万円を超えない場合 同条第一号及び第二号に掲げる事項

 2 現物出資財産等のうち、市場価格のある有価証券(証券取引法(昭和二十三年法律第二十五号)第二条第一項に規定する有価証券をいい、同条第二項の規定により有価証券とみなされる権利を含む。以下同じ。)について定款に記載され、又は記録された価額が当該有価証券の市場価格として法務省令で定める方法により算定されるものを超えない場合 当該有価証券についての第二十八条第一号又は第二号に掲げる事項

 3 現物出資財産等について定款に記載され、又は記録された価額が相当であることについて弁護士、弁護士法人、公認会計士(外国公認会計士(公認会計士法(昭和二十三年法律第百三号)第十六条の二第五項に規定する外国公認会計士をいう。)を含む。以下同じ。)、監査法人、税理士又は税理士法人の証明(現物出資財産等が不動産である場合にあっては、当該証明及び不動産鑑定士の鑑定評価。以下この号において同じ。)を受けた場合 第二十八条第一号又は第二号に掲げる事項(当該証明を受けた現物出資財産等に係るものに限る。)

 J 次に掲げる者は、前項第三号に規定する証明をすることができない。


 1 発起人

 2 第二十八条第二号の財産の譲渡人

 3 設立時取締役(第三十八条第一項に規定する設立時取締役をいう。)又は設立時監査役(同条第二項第二号に規定する設立時監査役をいう。)

 4 業務の停止の処分を受け、その停止の期間を経過しない者

 5 弁護士法人、監査法人又は税理士法人であって、その社員の半数以上が第一号から第三号までに掲げる者のいずれかに該当するもの
変態設立事項は、定款へ記載・記録されてはじめて効力が生じるが、さらに裁判所の選任する検査役による調査が必要である。本条は発起人の権限濫用を防止し、会社の財産的基盤を確保する趣旨の規定である。ただし、第10項のようにこれらが免除される場合もある。
第34条 【出資の履行】

 @ 発起人は、設立時発行株式の引受け後遅滞なく、その引き受けた設立時発行株式につき、その出資に係る金銭の全額を払い込み、又はその出資に係る金銭以外の財産の全部を給付しなければならない。ただし、発起人全員の同意があるときは、登記、登録その他権利の設定又は移転を第三者に対抗するために必要な行為は、株式会社の成立後にすることを妨げない。

 A 前項の規定による払込みは、発起人が定めた銀行等(銀行(銀行法(昭和五十六年法律第五十九号)第二条第一項に規定する銀行をいう。第七百三条第一号において同じ。)、信託会社(信託業法(平成十六年法律第百五十四号)第二条第二項に規定する信託会社をいう。以下同じ。)その他これに準ずるものとして法務省令で定めるものをいう。以下同じ。)の払込みの取扱いの場所においてしなければならない。
株式会社の株主は間接有限責任しか負わないため(第104条)、会社債権者の担保となるのは会社財産だけとなる。そのため、会社財産の充実のため発起人に対し、払込金全額の払い込み・現物出資の全部給付を行うことが義務付けられている(第1項)。

この出資の履行については、以下の二つの行為がよくあり、どちらも禁止されている。

一つ目は預合(あずけあい)というものである。これは、発起人が払い込み取り扱い機関から出資金相当額を借り入れ、これを設立中の会社の預金として表面上払い込みがなされたかのように装い、同時に借りた金を返すまでは預金を引き出さないことを約束することである。現実的には、会社の資本金が確保されていないのは明白で、このような行為には刑罰が科される(第965条)。

二つ目は見せ金である。これは、発起人がA銀行からお金を借り、そのお金を払い込み取り扱い機関のB銀行に払い込んだ後すぐに引き出し、A銀行に返済することである。これも預合と同様、資本金が確保されてないため、無効な払い込みであるとされている(最高裁昭和38年12月6日)。
第35条 【設立時発行株式の株主となる権利の譲渡】

 前条第一項の規定による払込み又は給付(以下この章において「出資の履行」という。)をすることにより設立時発行株式の株主となる権利の譲渡は、成立後の株式会社に対抗することができない。
権利株(株主となることができる権利)の譲渡は、当事者間では有効な行為であるが、成立後の会社には対抗することができない。
第36条 【設立時発行株式の株主となる権利の喪失】

 @ 発起人のうち出資の履行をしていないものがある場合には、発起人は、当該出資の履行をしていない発起人に対して、期日を定め、その期日までに当該出資の履行をしなければならない旨を通知しなければならない。

 A 前項の規定による通知は、同項に規定する期日の二週間前までにしなければならない。

 B 第一項の規定による通知を受けた発起人は、同項に規定する期日までに出資の履行をしないときは、当該出資の履行をすることにより設立時発行株式の株主となる権利を失う。
発起人のうちの誰かが出資の履行をしない場合は、他の発起人はその発起人に対して、期日を定め、その期日までに履行をするよう通知しなければならない。期日までに履行をしなかった発起人は、株主となる権利を失う。
第37条 【発行可能株式総数の定め等】

 @ 発起人は、株式会社が発行することができる株式の総数(以下「発行可能株式総数」という。)を定款で定めていない場合には、株式会社の成立の時までに、その全員の同意によって、定款を変更して発行可能株式総数の定めを設けなければならない。

 A 発起人は、発行可能株式総数を定款で定めている場合には、株式会社の成立の時までに、その全員の同意によって、発行可能株式総数についての定款の変更をすることができる。

 B 設立時発行株式の総数は、発行可能株式総数の四分の一を下ることができない。ただし、設立しようとする株式会社が公開会社でない場合は、この限りでない。
発起人は、発行可能株式総数を定款で定めなければならない。これは授権資本制度の授権枠を明らかにするためである(発行可能株式総数の範囲内で、株主総会決議によることなく、取締役会の決議等により株式発行を認める制度)。

また、設立時には発行可能株式総数の4分の1以上の株式を発行しなければならない。ただし、会社が株式譲渡制限会社である場合は、この規定の適用はない。