会社法 条文 会社法 解説
第2編 株式会社

第2章 株式

第2節 株主名簿
第121条 【株主名簿】

 株式会社は、株主名簿を作成し、これに次に掲げる事項(以下「株主名簿記載事項」という。)を記載し、又は記録しなければならない。

 1 株主の氏名又は名称及び住所

 2 前号の株主の有する株式の数(種類株式発行会社にあっては、株式の種類及び種類ごとの数)

 3 第一号の株主が株式を取得した日

 4 株式会社が株券発行会社である場合には、第二号の株式(株券が発行されているものに限る。)に係る株券の番号
会社は株主名簿を作成する義務を負う。この株主名簿とは、株主および株券に関する事項を明らかにするために会社法の規定により作成される帳簿のことである。株式は絶えず変動するため、会社との関係で株主を明確化し、会社からの各種通知や株主の権利行使を簡単に行うことが株主名簿の目的である。

第122条 【株主名簿記載事項を記載した書面の交付等】

 @ 前条第一号の株主は、株式会社に対し、当該株主についての株主名簿に記載され、若しくは記録された株主名簿記載事項を記載した書面の交付又は当該株主名簿記載事項を記録した電磁的記録の提供を請求することができる。

 A 前項の書面には、株式会社の代表取締役(委員会設置会社にあっては、代表執行役。次項において同じ。)が署名し、又は記名押印しなければならない。

 B 第一項の電磁的記録には、株式会社の代表取締役が法務省令で定める署名又は記名押印に代わる措置をとらなければならない。

 C 前三項の規定は、株券発行会社については、適用しない。
株主名簿に記載された株主は、会社に対して、当該株主に関する株主名簿記載事項を記載した書面等の提供を請求することができる(第1項)。株券不発行が原則となっているため(第214条)、株主の地位の証明等に用いるためである。

ただし、株券発行会社については、書面等の請求をすることはできない(第4項)。株券発行会社の場合、株主の地位の証明等は株券を示せばよいためである。
第123条 【株主名簿管理人】

 株式会社は、株主名簿管理人(株式会社に代わって株主名簿の作成及び備置きその他の株主名簿に関する事務を行う者をいう。以下同じ。)を置く旨を定款で定め、当該事務を行うことを委託することができる。
株式会社は株主名簿管理人に株主名簿の管理を委託することができる。この株主名簿管理人は、会社に代わって株主名簿の作成および備置きその他の株主名簿に関する事務を行う者のことである。証券会社や信託銀行などが行う場合が多い。これにより、会社は株主名簿に関する事務コストを削減することができる。
第124条 【基準日】

 @ 株式会社は、一定の日(以下この章において「基準日」という。)を定めて、基準日において株主名簿に記載され、又は記録されている株主(以下この条において「基準日株主」という。)をその権利を行使することができる者と定めることができる。

 A 基準日を定める場合には、株式会社は、基準日株主が行使することができる権利(基準日から三箇月以内に行使するものに限る。)の内容を定めなければならない。

 B 株式会社は、基準日を定めたときは、当該基準日の二週間前までに、当該基準日及び前項の規定により定めた事項を公告しなければならない。ただし、定款に当該基準日及び当該事項について定めがあるときは、この限りでない。

 C 基準日株主が行使することができる権利が株主総会又は種類株主総会における議決権である場合には、株式会社は、当該基準日後に株式を取得した者の全部又は一部を当該権利を行使することができる者と定めることができる。ただし、当該株式の基準日株主の権利を害することができない。

 D 第一項から第三項までの規定は、第百四十九条第一項に規定する登録株式質権者について準用する。
株式会社は基準日制度をとることができる。この基準日制度とは、会社が一定の日(基準日)を定め、その日において株主名簿に記載されている株主をその権利行使者とする制度のことである(第1項)。

本来であれば、株主総会の議決権や配当を受け取る権利などは、その時点の株主のはずである。しかし、現在の株式会社においては多数の株主が存在しており、絶えず変動しているため、誰がその時点の株主かを確認することは困難を極める。そのため、会社は基準日制度をとることにより、基準日時点の株主のみに権利行使を認めることで、会社の事務処理上の便宜を図ったものである。
第125条 【株主名簿の備置き及び閲覧等】

 @ 株式会社は、株主名簿をその本店(株主名簿管理人がある場合にあっては、その営業所)に備え置かなければならない。

 A 株主及び債権者は、株式会社の営業時間内は、いつでも、次に掲げる請求をすることができる。この場合においては、当該請求の理由を明らかにしてしなければならない。

 1 株主名簿が書面をもって作成されているときは、当該書面の閲覧又は謄写の請求

 2 株主名簿が電磁的記録をもって作成されているときは、当該電磁的記録に記録された事項を法務省令で定める方法により表示したものの閲覧又は謄写の請求

 B 株式会社は、前項の請求があったときは、次のいずれかに該当する場合を除き、これを拒むことができない。

 1 当該請求を行う株主又は債権者(以下この項において「請求者」という。)がその権利の確保又は行使に関する調査以外の目的で請求を行ったとき。

 2 請求者が当該株式会社の業務の遂行を妨げ、又は株主の共同の利益を害する目的で請求を行ったとき。

 3 請求者が当該株式会社の業務と実質的に競争関係にある事業を営み、又はこれに従事するものであるとき。

 4 請求者が株主名簿の閲覧又は謄写によって知り得た事実を利益を得て第三者に通報するため請求を行ったとき。

 5 請求者が、過去二年以内において、株主名簿の閲覧又は謄写によって知り得た事実を利益を得て第三者に通報したことがあるものであるとき。

 C 株式会社の親会社社員は、その権利を行使するため必要があるときは、裁判所の許可を得て、当該株式会社の株主名簿について第二項各号に掲げる請求をすることができる。この場合においては、当該請求の理由を明らかにしてしなければならない。

 D 前項の親会社社員について第三項各号のいずれかに規定する事由があるときは、裁判所は、前項の許可をすることができない。
株主名簿は原則として、本店に備置かなければならない(第1項)。株主名簿管理人がある場合は、その営業所である。これは、利害関係者に対しての情報開示のためである。

株主・会社債権者は株主名簿の閲覧・謄写を請求することができる(第2項)。ただし、一定の事由がある場合はこの請求を拒むことができる(第3項)。

また、当該株式会社の親会社の社員は、権利行使のために必要があり、かつ、裁判所の許可を得た場合は、株主名簿の閲覧・謄写を請求することができる(第4項)。ただし、第3項の各号に該当する場合は、裁判所は許可をすることはできない(第5項)。
第126条 【株主に対する通知等】

 @ 株式会社が株主に対してする通知又は催告は、株主名簿に記載し、又は記録した当該株主の住所(当該株主が別に通知又は催告を受ける場所又は連絡先を当該株式会社に通知した場合にあっては、その場所又は連絡先)にあてて発すれば足りる。

 A 前項の通知又は催告は、その通知又は催告が通常到達すべきであった時に、到達したものとみなす。

 B 株式が二以上の者の共有に属するときは、共有者は、株式会社が株主に対してする通知又は催告を受領する者一人を定め、当該株式会社に対し、その者の氏名又は名称を通知しなければならない。この場合においては、その者を株主とみなして、前二項の規定を適用する。

 C 前項の規定による共有者の通知がない場合には、株式会社が株式の共有者に対してする通知又は催告は、そのうちの一人に対してすれば足りる。

 D 前各項の規定は、第二百九十九条第一項(第三百二十五条において準用する場合を含む。)の通知に際して株主に書面を交付し、又は当該書面に記載すべき事項を電磁的方法により提供する場合について準用する。この場合において、第二項中「到達したもの」とあるのは、「当該書面の交付又は当該事項の電磁的方法による提供があったもの」と読み替えるものとする。
会社が株主に対してする通知や催告は、株主名簿に記載した当該株主の住所に宛てて発送すればよい(第1項)。そして、その通知や催告が通常到達すべきであった時に、株主のもとに到達したものとみなされる(第2項)。

株式を複数の者で共有している場合は、会社からの通知や催告を代表して受領刷る者を一人決めて、会社に対して通知しなければならない。この通知がない場合、会社は誰か一人に対して通知や催告をすればよい(第4項)。