会社法 条文 会社法 解説
第2編 株式会社

第2章 株式

第3節 株式の譲渡等
第1款 株式の譲渡

第127条 【株式の譲渡】


 株主は、その有する株式を譲渡することができる。
本条は株式譲渡自由の原則についての規定である。株主は株式を自由に他人に譲渡することができる。

株式会社においては、株主は間接有限責任しか負わず、債権者の担保となるのは会社財産のみである。そのため、会社財産確保のために、株式会社においては、社員たる株主には退社が認められていない。したがって、株主が投下した資本を回収したい場合、原則として、持っている株式を他人に譲渡する以外に方法がない。

そのため、会社法は株式譲渡自由の原則を定めて、株主が投下した資本の回収を保障し、投資家が投資しやすいようにしている。
第128条 【株券発行会社の株式の譲渡】

 @ 株券発行会社の株式の譲渡は、当該株式に係る株券を交付しなければ、その効力を生じない。ただし、自己株式の処分による株式の譲渡については、この限りでない。

 A 株券の発行前にした譲渡は、株券発行会社に対し、その効力を生じない。
株券発行会社においては、株式を譲渡したとしても、株券を交付しなければその効力が生じない(第1項)。株券が株式そのものとして扱われるからである。

また、株券発行会社においては、株式の取得と株券の発行時期にタイムラグが生じることがある。株券が発行されるまでに株式を譲渡したとしても、それを会社に主張することはできない(第2項)。

しかし、株券発行会社が合理的な理由なしに株券を発行しない場合、判例では、株券発行前に株式譲渡がされたとき、会社は株券の譲受人を株主として取り扱わなければならないとしている(最高裁昭和47年11月8日)。
第129条 【自己株式の処分に関する特則】

 @ 株券発行会社は、自己株式を処分した日以後遅滞なく、当該自己株式を取得した者に対し、株券を交付しなければならない。

 A 前項の規定にかかわらず、公開会社でない株券発行会社は、同項の者から請求がある時までは、同項の株券を交付しないことができる。
会社が保有している自社株のことを、自己株式という。この自己株式は、株券発行会社であっても株券を発行しないのが普通である。そのため、株券発行会社は自己株式を処分した場合、当該自己株式を取得した者に対して株券を交付しなければならない(第1項)。

ただし、公開会社でない株券発行会社は、当該自己株式を取得した者から請求されるまで、株券を交付する必要はない(第2項)。
第130条 【株式の譲渡の対抗要件】

 @ 株式の譲渡は、その株式を取得した者の氏名又は名称及び住所を株主名簿に記載し、又は記録しなければ、株式会社その他の第三者に対抗することができない。

 A 株券発行会社における前項の規定の適用については、同項中「株式会社その他の第三者」とあるのは、「株式会社」とする。
株式譲渡は、株券が発行されている場合は、当事者間で株券を交付すればその効力が生じる(第128条第1項)。しかし、会社に対しては、株主名簿の名義を書き換えなければ株主としての地位を主張することはできない。

ただし、判例では、会社が名義書き換えを不当に拒絶した場合、過失により名義書き換えを怠った場合には、名義書き換え前であっても、株主としての地位を会社に主張することができるとしている。
第131条 【権利の推定等】

 @ 株券の占有者は、当該株券に係る株式についての権利を適法に有するものと推定する。

 A 株券の交付を受けた者は、当該株券に係る株式についての権利を取得する。ただし、その者に悪意又は重大な過失があるときは、この限りでない。
株券発行会社が発行する株券を占有している者は、正当な権利者だと推定される(第1項)。株券の占有者が会社に対して、株主名簿の書き換えを請求した場合、原則として、会社は無条件で応じなければならない。

ただし、これはあくまで推定規定であって、会社が正当な権利者でないということを証明すれば、書き換えを拒絶することができる。

株券の交付を受けた者は、悪意または重過失がない限り、株主としての権利を取得することができる(第2項)。これを、善意取得という。本来であれば、株式の譲渡人が本当の株主でなかった場合、株式譲渡は無効となるはずである。しかし、それでは何も知らずに株式を譲渡された譲受人は不測の損害を被ることとなり、株式取引の安全性が害される。そこで、会社法では、このようなことが起こらないように、正当な権利者と推定される株券の占有者から株式を譲渡された譲受人は、その譲渡人が本当の株主ではなかったとしても、株主としての権利を取得するとしている。
第132条 【権利の推定等 その2】

 株式会社は、次の各号に掲げる場合には、当該各号の株式の株主に係る株主名簿記載事項を株主名簿に記載し、又は記録しなければならない。

 1 株式を発行した場合

 2 当該株式会社の株式を取得した場合

 3 自己株式を処分した場合
会社は以下の場合、株主名簿に記載しなければならない。

・株式を発行した場合
・自社株式を取得した場合
・自己株式を処分した場合

これらは株主名簿の正確性を維持するためである。株式の併合・分割の場合も同様である。
第133条 【株主の請求による株主名簿記載事項の記載又は記録】

 @ 株式を当該株式を発行した株式会社以外の者から取得した者(当該株式会社を除く。以下この節において「株式取得者」という。)は、当該株式会社に対し、当該株式に係る株主名簿記載事項を株主名簿に記載し、又は記録することを請求することができる。

 A 前項の規定による請求は、利害関係人の利益を害するおそれがないものとして法務省令で定める場合を除き、その取得した株式の株主として株主名簿に記載され、若しくは記録された者又はその相続人その他の一般承継人と共同してしなければならない。
株式を当該株式を発行した会社以外の者から取得した者は、その会社に対して、当該株式に関する株主名簿記載事項を株主名簿に記載することを請求できる(第1項)。つまり、名義書き換えを請求できるということである。

この請求は、法務省令が定める一定の場合を除き、株主名簿に記載された株式の譲渡人と共同で行わなければならない(第2項)。株式譲渡の事実の存在を明確にするためである。
第134条 【株主の請求による株主名簿記載事項の記載又は記録 その2】

 前条の規定は、株式取得者が取得した株式が譲渡制限株式である場合には、適用しない。ただし、次のいずれかに該当する場合は、この限りでない。

 1 当該株式取得者が当該譲渡制限株式を取得することについて第百三十六条の承認を受けていること。

 2 当該株式取得者が当該譲渡制限株式を取得したことについて第百三十七条第一項の承認を受けていること。

 3 当該株式取得者が第百四十条第四項に規定する指定買取人であること。

 4 当該株式取得者が相続その他の一般承継により譲渡制限株式を取得した者であること。
株式取得者が取得した株式が譲渡制限株式である場合、第133条第1項の請求をすることができない。

ただし、譲渡による取得につき会社の承認(第136条第1項、第137条第1項)がある場合、請求者が指定買取人である場合、相続その他の一般承継である場合、譲渡制限株式の株式取得者は株主名簿の名義書き換えを請求することができる。
第135条 【親会社株式の取得の禁止】

 @ 子会社は、その親会社である株式会社の株式(以下この条において「親会社株式」という。)を取得してはならない。

 A 前項の規定は、次に掲げる場合には、適用しない。

 1 他の会社(外国会社を含む。)の事業の全部を譲り受ける場合において当該他の会社の有する親会社株式を譲り受ける場合

 2 合併後消滅する会社から親会社株式を承継する場合

 3 吸収分割により他の会社から親会社株式を承継する場合

 4 新設分割により他の会社から親会社株式を承継する場合

 5 前各号に掲げるもののほか、法務省令で定める場合

 B 子会社は、相当の時期にその有する親会社株式を処分しなければならない。
子会社は、第2項の場合を除いて、親会社の株式を取得することはできない。これは、以下の理由からである。

・会社支配の歪曲化:親会社は子会社に対して強い支配力を有している。親会社の経営者が子会社に対して、株式の取得を強要し、その他の株主の影響を減少させることにより、自己保身を図る可能性があること。

・資本の空洞化:親会社と子会社は実質的には同一の経済体であり、子会社が親会社株式を取得したとしても、見かけ上資本金が増加するだけで、実際は自分で自分の株式を買っているのと同じことである。

これらの理由により、子会社の親会社株式の取得は認められていない。
第2款 株式の譲渡に係る承認手続

第136条 【株主からの承認の請求】


 譲渡制限株式の株主は、その有する譲渡制限株式を他人(当該譲渡制限株式を発行した株式会社を除く。)に譲り渡そうとするときは、当該株式会社に対し、当該他人が当該譲渡制限株式を取得することについて承認をするか否かの決定をすることを請求することができる。
本条は、譲渡制限株式を譲渡により取得する場合について、株主(譲渡する人)からの譲渡等承認請求についての規定である。

一般的に、大規模な会社では株主の個性は問題とはならないため、株式の譲渡を制限する必要がない。しかし、日本の株式会社は同族会社など、小規模な場合が多く、株式の自由譲渡を認めると、会社にとって好ましくない人間が株主となり経営に支障をきたすことも考えられる。

会社法では、このような事態を防ぐために、定款であらかじめ定めておくことを条件に、すべての株式または一部の種類の株式の譲渡による取得について、会社の承認を必要とするという形で、株式の譲渡制限を認めている。
第137条 【株式取得者からの承認の請求】

 @ 譲渡制限株式を取得した株式取得者は、株式会社に対し、当該譲渡制限株式を取得したことについて承認をするか否かの決定をすることを請求することができる。

 A 前項の規定による請求は、利害関係人の利益を害するおそれがないものとして法務省令で定める場合を除き、その取得した株式の株主として株主名簿に記載され、若しくは記録された者又はその相続人その他の一般承継人と共同してしなければならない。
本条は、譲渡制限株式を譲渡により取得する場合について、株式取得者(譲渡された人)からの譲渡等承認請求についての規定である。

株式取得者から譲渡等承認請求を行う場合、法務省令が定める一定の場合を除き、株主名簿に記載された株式の譲渡人と共同で行わなければならない(第2項)。
第138条 【譲渡等承認請求の方】

 次の各号に掲げる請求(以下この款において「譲渡等承認請求」という。)は、当該各号に定める事項を明らかにしてしなければならない。

 1 第百三十六条の規定による請求 次に掲げる事項

  イ 当該請求をする株主が譲り渡そうとする譲渡制限株式の数(種類株式発行会社にあっては、譲渡制限株式の種類及び種類ごとの数)

  ロ イの譲渡制限株式を譲り受ける者の氏名又は名称

  ハ 株式会社が第百三十六条の承認をしない旨の決定をする場合において、当該株式会社又は第百四十条第四項に規定する指定買取人がイの譲渡制限株式を買い取ることを請求するときは、その旨

 2 前条第一項の規定による請求 次に掲げる事項

  イ 当該請求をする株式取得者の取得した譲渡制限株式の数(種類株式発行会社にあっては、譲渡制限株式の種類及び種類ごとの数)

  ロ イの株式取得者の氏名又は名称

  ハ 株式会社が前条第一項の承認をしない旨の決定をする場合において、当該株式会社又は第百四十条第四項に規定する指定買取人がイの譲渡制限株式を買い取ることを請求するときは、その旨
本条は、譲渡等承認請求の方法についての規定である。

条文 請求者 明らかにしなければならない事項
第136条 譲渡人 ・譲り渡そうとする譲渡制限株式の数
・譲り受ける者の氏名又は名称
・会社が承認しない場合、譲渡制限株式を買い取ることを請求するときは、その旨
第137条第1項 譲受人 ・取得した譲渡制限株式の数
・譲受人の氏名又は名称
・会社が承認しない場合、譲渡制限株式を買い取ることを請求するときは、その旨
第139条 【譲渡等の承認の決定等】

 @ 株式会社が第百三十六条又は第百三十七条第一項の承認をするか否かの決定をするには、株主総会(取締役会設置会社にあっては、取締役会)の決議によらなければならない。ただし、定款に別段の定めがある場合は、この限りでない。

 A 株式会社は、前項の決定をしたときは、譲渡等承認請求をした者(以下この款において「譲渡等承認請求者」という。)に対し、当該決定の内容を通知しなければならない。
譲渡制限株式の譲渡による取得を承認する機関のことを、譲渡承認機関という。

ケース 譲渡承認機関
取締役会設置会社 取締役会
取締役会非設置会社 株主総会
※定款に、これと違う定めをすることができる。
※決定されたことは、譲渡等承認請求者に、内容を通知しなければならない。

第140条 【株式会社又は指定買取人による買取り】

 @ 株式会社は、第百三十八条第一号ハ又は第二号ハの請求を受けた場合において、第百三十六条又は第百三十七条第一項の承認をしない旨の決定をしたときは、当該譲渡等承認請求に係る譲渡制限株式(以下この款において「対象株式」という。)を買い取らなければならない。この場合においては、次に掲げる事項を定めなければならない。

 1 対象株式を買い取る旨

 2 株式会社が買い取る対象株式の数(種類株式発行会社にあっては、対象株式の種類及び種類ごとの数)

 A 前項各号に掲げる事項の決定は、株主総会の決議によらなければならない。

 B 譲渡等承認請求者は、前項の株主総会において議決権を行使することができない。ただし、当該譲渡等承認請求者以外の株主の全部が同項の株主総会において議決権を行使することができない場合は、この限りでない。

 C 第一項の規定にかかわらず、同項に規定する場合には、株式会社は、対象株式の全部又は一部を買い取る者(以下この款において「指定買取人」という。)を指定することができる。

 D 前項の規定による指定は、株主総会(取締役会設置会社にあっては、取締役会)の決議によらなければならない。ただし、定款に別段の定めがある場合は、この限りでない。
譲渡制限株式発行会社は、譲渡承認請求を承認しなかったとき、その株式を買い取らなければならない。これは、譲渡制限株式を保有する者の投下資本の回収を保障するためである。この場合、会社は、株式を買い取る旨、買い取る株式数を株主総会の決議で決めなければならない。

会社は自ら株式を買い取る以外に、第三者を指定買取人にして、指定買取人に株式を買い取ってもらうこともできる。
第141条 【株式会社による買取りの通知】

 @ 株式会社は、前条第一項各号に掲げる事項を決定したときは、譲渡等承認請求者に対し、これらの事項を通知しなければならない。

 A 株式会社は、前項の規定による通知をしようとするときは、一株当たり純資産額(一株当たりの純資産額として法務省令で定める方法により算定される額をいう。以下同じ。)に前条第一項第二号の対象株式の数を乗じて得た額をその本店の所在地の供託所に供託し、かつ、当該供託を証する書面を譲渡等承認請求者に交付しなければならない。

 B 対象株式が株券発行会社の株式である場合には、前項の書面の交付を受けた譲渡等承認請求者は、当該交付を受けた日から一週間以内に、前条第一項第二号の対象株式に係る株券を当該株券発行会社の本店の所在地の供託所に供託しなければならない。この場合においては、当該譲渡等承認請求者は、当該株券発行会社に対し、遅滞なく、当該供託をした旨を通知しなければならない。

 C 前項の譲渡等承認請求者が同項の期間内に同項の規定による供託をしなかったときは、株券発行会社は、前条第一項第二号の対象株式の売買契約を解除することができる。
譲渡制限株式発行会社が、譲渡承認請求を承認せず、自ら株式を買い取るために、第140条第1項の決定をしたときは、これらの事項を譲渡等承認請求者に通知する必要がある。この場合、「一株当り純資産額×買い取る株式数」で求められた額を供託所に供託し、当該供託を証明する書面を譲渡等承認請求者に交付しなければならない(供託とは、金銭、有価証券などの財産を国家機関である供託所に提出して管理してもらう制度で、供託金は後に返還を受けることができる)。

株券発行会社の株式の場合、譲渡等承認請求者は当該供託を証明する書面の交付を受けたときはその日から1週間以内に、その株券を供託所に供託し、供託したことを会社に通知しなければならない。もし、株券を供託しなかった場合は、会社は株式買い取り契約を解除することができる。
第142条 【指定買取人による買取りの通知】

 @ 指定買取人は、第百四十条第四項の規定による指定を受けたときは、譲渡等承認請求者に対し、次に掲げる事項を通知しなければならない。

 1 指定買取人として指定を受けた旨

 2 指定買取人が買い取る対象株式の数(種類株式発行会社にあっては、対象株式の種類及び種類ごとの数)

 A 指定買取人は、前項の規定による通知をしようとするときは、一株当たり純資産額に同項第二号の対象株式の数を乗じて得た額を株式会社の本店の所在地の供託所に供託し、かつ、当該供託を証する書面を譲渡等承認請求者に交付しなければならない。

 B 対象株式が株券発行会社の株式である場合には、前項の書面の交付を受けた譲渡等承認請求者は、当該交付を受けた日から一週間以内に、第一項第二号の対象株式に係る株券を当該株券発行会社の本店の所在地の供託所に供託しなければならない。この場合においては、当該譲渡等承認請求者は、指定買取人に対し、遅滞なく、当該供託をした旨を通知しなければならない。

 C 対象株式が株券発行会社の株式である場合には、前項の書面の交付を受けた譲渡等承認請求者は、当該交付を受けた日から一週間以内に、第一項第二号の対象株式に係る株券を当該株券発行会社の本店の所在地の供託所に供託しなければならない。この場合においては、当該譲渡等承認請求者は、指定買取人に対し、遅滞なく、当該供託をした旨を通知しなければならない。
本条は、会社が第三者を指定買取人にして、その者に株式の買取をしてもらう場合についての規定である。

指定買取人は、譲渡等承認請求者に対して、指定買取人として指定を受けた旨、買い取る株式数を通知しなければならない。

基本的に、会社が買い取る場合(第141条)とほとんど同じである。
第143条 【譲渡等承認請求の撤回】

 @ 第百三十八条第一号ハ又は第二号ハの請求をした譲渡等承認請求者は、第百四十一条第一項の規定による通知を受けた後は、株式会社の承諾を得た場合に限り、その請求を撤回することができる。

 A 第百三十八条第一号ハ又は第二号ハの請求をした譲渡等承認請求者は、前条第一項の規定による通知を受けた後は、指定買取人の承諾を得た場合に限り、その請求を撤回することができる。
譲渡等承認請求者の請求が承認されなかった場合の株式買取請求の撤回についての規定である。

ケース 譲渡等承認請求の撤回
会社が買い取る場合 第141条第1項の通知を受けた後は、原則として撤回することができない。ただし、会社が承認した場合は、撤回できる。
指定買取人が買い取る場合 第142条第1項の通知を受けた後は、原則として撤回することができない。ただし、指定買取人が承認した場合は、撤回できる。
第144条 【売買価格の決定】

 @ 第百四十一条第一項の規定による通知があった場合には、第百四十条第一項第二号の対象株式の売買価格は、株式会社と譲渡等承認請求者との協議によって定める。

 A 株式会社又は譲渡等承認請求者は、第百四十一条第一項の規定による通知があった日から二十日以内に、裁判所に対し、売買価格の決定の申立てをすることができる。

 B 裁判所は、前項の決定をするには、譲渡等承認請求の時における株式会社の資産状態その他一切の事情を考慮しなければならない。

 C 第一項の規定にかかわらず、第二項の期間内に同項の申立てがあったときは、当該申立てにより裁判所が定めた額をもって第百四十条第一項第二号の対象株式の売買価格とする。

 D 第一項の規定にかかわらず、第二項の期間内に同項の申立てがないとき(当該期間内に第一項の協議が調った場合を除く。)は、一株当たり純資産額に第百四十条第一項第二号の対象株式の数を乗じて得た額をもって当該対象株式の売買価格とする。

 E 第百四十一条第二項の規定による供託をした場合において、第百四十条第一項第二号の対象株式の売買価格が確定したときは、株式会社は、供託した金銭に相当する額を限度として、売買代金の全部又は一部を支払ったものとみなす。

 F 前各項の規定は、第百四十二条第一項の規定による通知があった場合について準用する。この場合において、第一項中「第百四十条第一項第二号」とあるのは「第百四十二条第一項第二号」と、「株式会社」とあるのは「指定買取人」と、第二項中「株式会社」とあるのは「指定買取人」と、第四項及び第五項中「第百四十条第一項第二号」とあるのは「第百四十二条第一項第二号」と、前項中「第百四十一条第二項」とあるのは「第百四十二条第二項」と、「第百四十条第一項第二号」とあるのは「同条第一項第二号」と、「株式会社」とあるのは「指定買取人」と読み替えるものとする。
本条は、譲渡制限株式の譲渡による取得について、譲渡の承認がなされなかった場合の株式買い取り請求の売買価格の決定方法についての規定である。

原則的に、売買価格は会社(または指定買取人)と譲渡等承認請求者の協議によって決めることとなる(第1項)。しかし、協議がうまくいかなかった場合は、裁判所に対して売買価格決定の申し立てをすることとなる(裁判所に対して申し立てをしなかったときは、「一株当り純資産額×買い取る株式数」によって求められた額が売買価格となる)。
第145条 【株式会社が承認をしたとみなされる場合】

 次に掲げる場合には、株式会社は、第百三十六条又は第百三十七条第一項の承認をする旨の決定をしたものとみなす。ただし、株式会社と譲渡等承認請求者との合意により別段の定めをしたときは、この限りでない。

 1 株式会社が第百三十六条又は第百三十七条第一項の規定による請求の日から二週間(これを下回る期間を定款で定めた場合にあっては、その期間)以内に第百三十九条第二項の規定による通知をしなかった場合

 2 株式会社が第百三十九条第二項の規定による通知の日から四十日(これを下回る期間を定款で定めた場合にあっては、その期間)以内に第百四十一条第一項の規定による通知をしなかった場合(指定買取人が第百三十九条第二項の規定による通知の日から十日(これを下回る期間を定款で定めた場合にあっては、その期間)以内に第百四十二条第一項の規定による通知をした場合を除く。)

 3 前二号に掲げる場合のほか、法務省令で定める場合
譲渡制限株式発行会社は、譲渡制限株式の譲渡による取得の許否をした場合、譲渡等承認請求者に内容を通知しなければならない(第139条第2項)。これには期間制限があり、譲渡等承認請求があった日から2週間以内に通知しなかった場合、原則的に譲渡による取得を承認したものとみなされる(第1号)。

また、会社が自ら株式を買い取る場合(第140条)も、譲渡等承認請求者に内容を通知しなければならないが、この場合には、第139条第2項の通知から40日以内にしなければならない。しなかった場合は、原則的に譲渡による取得を承認したものとみなされる(第2号)。

ただし、会社と譲渡等承認請求者との間で、これらとは別の定めをした場合は、その定めのほうが優先される。
第3款 株式の質入れ

第146条 【株式の質入れ】


 @ 株主は、その有する株式に質権を設定することができる。

 A 株券発行会社の株式の質入れは、当該株式に係る株券を交付しなければ、その効力を生じない。
株主は株式に質権を設定することができる(第1項)。質権設定について、会社法では以下の二つについて認めている。

名前 説明
略式質 株券発行会社において、当事者間の質権設定の合意と株券の交付を効力発生要件とし、かつ、株券の占有継続を第三者対抗要件とする質権のことである。
登録質 株券発行会社において、略式質の要件に加え、質権設定者(株主)の請求によって会社が株主名簿に質権者の氏名・名称および住所を記載・記録する質権のことである。

株券不発行会社において、当事者間の質権設定の合意に加え、質権設定者(株主)の請求によって会社が株主名簿に質権者の氏名・名称および住所を記載・記録する質権のことである。


質権については、民法の以下を参照。
第1節 総則 第342条〜第351条
第2節 動産質 第352条〜第355条
第3節 不動産質 第356条〜第361条
第4節 権利質 第362条〜第368条
第147条 【株式の質入れの対抗要件】

 @ 株式の質入れは、その質権者の氏名又は名称及び住所を株主名簿に記載し、又は記録しなければ、株式会社その他の第三者に対抗することができない。

 A 前項の規定にかかわらず、株券発行会社の株式の質権者は、継続して当該株式に係る株券を占有しなければ、その質権をもって株券発行会社その他の第三者に対抗することができない。

 B 民法第三百六十四条の規定は、株式については、適用しない。
保有する株式に質権設定をしたとしても、次のような対抗要件を備えなければ、第三者に対しては質権設定を主張することはできない。

株券不発行会社の株式に質権設定がされている場合、質権者の氏名・名称および住所の株主名簿への記載・記録がされていること(第1項)。

株券発行会社の株式に質権設定がされている場合、株券が継続保有されていること(第2項)。
第148条 【株主名簿の記載等】

 株式に質権を設定した者は、株式会社に対し、次に掲げる事項を株主名簿に記載し、又は記録することを請求することができる。

 1 質権者の氏名又は名称及び住所

 2 質権の目的である株式
株式に質権設定をした株主は、会社に対して質権者の氏名・名称および住所、質権の目的である株式を株主名簿に記載・記録するよう請求することができる。

登録質においては、株主名簿への記載・記録が第三者対抗要件であるため、重要である。
第149条 【株主名簿の記載事項を記載した書面の交付等】

 @ 前条各号に掲げる事項が株主名簿に記載され、又は記録された質権者(以下「登録株式質権者」という。)は、株式会社に対し、当該登録株式質権者についての株主名簿に記載され、若しくは記録された同条各号に掲げる事項を記載した書面の交付又は当該事項を記録した電磁的記録の提供を請求することができる。

 A 前項の書面には、株式会社の代表取締役(委員会設置会社にあっては、代表執行役。次項において同じ。)が署名し、又は記名押印しなければならない。

 B 第一項の電磁的記録には、株式会社の代表取締役が法務省令で定める署名又は記名押印に代わる措置をとらなければならない。

 C 前三項の規定は、株券発行会社については、適用しない。
質権者の氏名・名称および住所、質権の目的である株式が株主名簿に記載された質権者は、株式会社に対して、株主名簿に記載・記録された第148条各号に掲げる事項を記載した書面等の交付を請求することができる。これは、登録株式質権者であることの証明等に用いるためである。

ただし、本条の規定は株券発行会社については適用されない。株券発行会社の株式に質権設定する場合、質権設定者は質権者に対して株券を交付しなければならないため(第146条第2項)、登録株式質権者としての地位の証明は、株券の占有によって可能であるためである。
第150条 【登録株式質権者に対する通知等】

 @ 株式会社が登録株式質権者に対してする通知又は催告は、株主名簿に記載し、又は記録した当該登録株式質権者の住所(当該登録株式質権者が別に通知又は催告を受ける場所又は連絡先を当該株式会社に通知した場合にあっては、その場所又は連絡先)にあてて発すれば足りる。

 A 前項の通知又は催告は、その通知又は催告が通常到達すべきであった時に、到達したものとみなす。
会社は、登録株式質権者に対して通知や催告をしなければならない場合がある、そのようなとき、会社は通知や催告を株主名簿に記載・記録した住所に宛てて発送すればよく(第1項)、それが通常到達すべきであった時に登録株式質権者のもとに到達したものとみなされる(第2項)。
第151条 【株式の質入れの効果】

 株式会社が次に掲げる行為をした場合には、株式を目的とする質権は、当該行為によって当該株式の株主が受けることのできる金銭等(金銭その他の財産をいう。以下同じ。)について存在する。

 1 第百六十七条第一項の規定による取得請求権付株式の取得

 2 第百七十条第一項の規定による取得条項付株式の取

 3 第百七十三条第一項の規定による第百七十一条第一項に規定する全部取得条項付種類株式の取得

 4 株式の併合

 5 株式の分割

 6 第百八十五条に規定する株式無償割当て

 7 第二百七十七条に規定する新株予約権無償割当て

 8 剰余金の配当

 9 残余財産の分配

 10 組織変更

 11 合併(合併により当該株式会社が消滅する場合に限る。)

 12 株式交換

 13 株式移転

 14 株式の取得(第一号から第三号までに掲げる行為を除く。)
本条は株式質の物上代位権についての規定である。質権には、物上代位権という派生的権利が認められている。質権の目的物の価値が他のものに変形した場合、その変形したものに対して質権の効力が及ぶという権利である。これについは、民法の以下を参照。

第1節 総則 第342条〜第351条
第1節 総則 第303条〜第305条

質権者は、本条各号が定める事由が生じた場合、その行為によって株主が受けることのできる金銭等について質権の効力を及ぼすことができる。
第152条 【株式の質入れの効果 その2】

 @ 株式会社(株券発行会社を除く。以下この条において同じ。)は、前条第一号から第三号までに掲げる行為をした場合(これらの行為に際して当該株式会社が株式を交付する場合に限る。)又は同条第六号に掲げる行為をした場合において、同条の質権の質権者が登録株式質権者(第二百十八条第五項の規定による請求により第百四十八条各号に掲げる事項が株主名簿に記載され、又は記録されたものを除く。以下この款において同じ。)であるときは、前条の株主が受けることができる株式について、その質権者の氏名又は名称及び住所を株主名簿に記載し、又は記録しなければならない。

 A 株式会社は、株式の併合をした場合において、前条の質権の質権者が登録株式質権者であるときは、併合した株式について、その質権者の氏名又は名称及び住所を株主名簿に記載し、又は記録しなければならない。

 B 株式会社は、株式の分割をした場合において、前条の質権の質権者が登録株式質権者であるときは、分割した株式について、その質権者の氏名又は名称及び住所を株主名簿に記載し、又は記録しなければならない。
株券不発行会社の株式に、登録質の方法により質権設定をした場合、会社が取得請求権付株式の取得、取得条項付株式の取得、全部取得条項付種類株式の取得、株式無償割り当てを行ったときには、質権設定者(株主)が受けることができる株式について、質権者の氏名・名称および住所を株主名簿に記載・記録しなければならない(第1項)。

また、株券不発行会社の株式に、登録質の方法により質権設定をした場合、会社が株式の併合または株式の分割を行ったときには、併合・分割した株式について、質権者の氏名・名称および住所を株主名簿に記載・記録しなければならない(第2項、第3項)。
第153条 【株式の質入れの効果 その3】

 @ 株券発行会社は、前条第一項に規定する場合には、第百五十一条の株主が受ける株式に係る株券を登録株式質権者に引き渡さなければならない。

 A 株券発行会社は、前条第二項に規定する場合には、併合した株式に係る株券を登録株式質権者に引き渡さなければならない。

 B 株券発行会社は、前条第三項に規定する場合には、分割した株式について新たに発行する株券を登録株式質権者に引き渡さなければならない。
株券発行会社の株式に登録質の方法によって質権設定した場合、会社が取得請求権付株式の取得、取得条項付株式の取得、全部取得条項付種類株式の取得、株式無償割り当てを行ったときには、質権設定者(株主)が受けることができる株券を登録株式質権者に引き渡さなければならない(第1項)。

また、株券発行会社の株式に、登録質の方法により質権設定をした場合、会社が株式の併合または株式の分割を行ったときには、併合・分割した株券を登録株式質権者に引き渡さなければならない(第2項)。

株券発行会社の株式の質入は、当該株式の株券を交付しなければ効力が生じないためである。
第154条 【株式の質入れの効果 その4】

 @ 登録株式質権者は、第百五十一条の金銭等(金銭に限る。)を受領し、他の債権者に先立って自己の債権の弁済に充てることができる。

 A 前項の債権の弁済期が到来していないときは、登録株式質権者は、株式会社に同項に規定する金銭等に相当する金額を供託させることができる。この場合において、質権は、その供託金について存在する。
本条は、物上代位権の優先弁済的効力についての規定である。債権者は、債務者の財産に担保物権を設定しておけば、その財産から他の債務者に優先して債権を回収することができる。

株式質の場合、登録株式質権者は第151条各号の事由が生じ、質権設定者(株主)がその対価として金銭を受領した場合、他の債権者に優先して自己の債権の弁済に充てることができる(第1項)。

ただし、この場合、債権の弁済期が到来していない場合には当該金銭を充当することはできない。しかし、この金銭をそのままにしておけば、他の債権者に対して弁済されてしまう危険があるため、登録質権者はこの金銭を供託させることができる(第2項)。そして、質権はこの供託金に存在することになる。
第4款 信託財産に属する株式についての対抗要件等

第154条の2 【信託財産に属する株式についての対抗要件等】


 @ 株式については、当該株式が信託財産に属する旨を株主名簿に記載し、又は記録しなければ、当該株式が信託財産に属することを株式会社その他の第三者に対抗することができない。

 A 第百二十一条第一号の株主は、その有する株式が信託財産に属するときは、株式会社に対し、その旨を株主名簿に記載し、又は記録することを請求することができる。

 B 株主名簿に前項の規定による記載又は記録がされた場合における第百二十二条第一項及び第百三十二条の規定の適用については、第百二十二条第一項中「記録された株主名簿記載事項」とあるのは「記録された株主名簿記載事項(当該株主の有する株式が信託財産に属する旨を含む。)」と、第百三十二条中「株主名簿記載事項」とあるのは「株主名簿記載事項(当該株主の有する株式が信託財産に属する旨を含む。)」とする。

 C 前三項の規定は、株券発行会社については、適用しない。
本条は、信託法(平成18年法律第108号)の制定に伴って新設された規定である。

信託財産(受託者に属する財産であって、信託により管理または処分をすべき一切の財産)に属する株式は、そのことを株主名簿に記載・記録しなければ、会社や第三者に主張することはできない。