会社法 条文 会社法 解説
第2編 株式会社

第2章 株式

第3節 株式の譲渡等

第2款 株式の譲渡に係る承認手続
第136条 【株主からの承認の請求】

 譲渡制限株式の株主は、その有する譲渡制限株式を他人(当該譲渡制限株式を発行した株式会社を除く。)に譲り渡そうとするときは、当該株式会社に対し、当該他人が当該譲渡制限株式を取得することについて承認をするか否かの決定をすることを請求することができる。
本条は、譲渡制限株式を譲渡により取得する場合について、株主(譲渡する人)からの譲渡等承認請求についての規定である。

一般的に、大規模な会社では株主の個性は問題とはならないため、株式の譲渡を制限する必要がない。しかし、日本の株式会社は同族会社など、小規模な場合が多く、株式の自由譲渡を認めると、会社にとって好ましくない人間が株主となり経営に支障をきたすことも考えられる。

会社法では、このような事態を防ぐために、定款であらかじめ定めておくことを条件に、すべての株式または一部の種類の株式の譲渡による取得について、会社の承認を必要とするという形で、株式の譲渡制限を認めている。
第137条 【株式取得者からの承認の請求】

 @ 譲渡制限株式を取得した株式取得者は、株式会社に対し、当該譲渡制限株式を取得したことについて承認をするか否かの決定をすることを請求することができる。

 A 前項の規定による請求は、利害関係人の利益を害するおそれがないものとして法務省令で定める場合を除き、その取得した株式の株主として株主名簿に記載され、若しくは記録された者又はその相続人その他の一般承継人と共同してしなければならない。
本条は、譲渡制限株式を譲渡により取得する場合について、株式取得者(譲渡された人)からの譲渡等承認請求についての規定である。

株式取得者から譲渡等承認請求を行う場合、法務省令が定める一定の場合を除き、株主名簿に記載された株式の譲渡人と共同で行わなければならない(第2項)。
第138条 【譲渡等承認請求の方】

 次の各号に掲げる請求(以下この款において「譲渡等承認請求」という。)は、当該各号に定める事項を明らかにしてしなければならない。

 1 第百三十六条の規定による請求 次に掲げる事項

  イ 当該請求をする株主が譲り渡そうとする譲渡制限株式の数(種類株式発行会社にあっては、譲渡制限株式の種類及び種類ごとの数)

  ロ イの譲渡制限株式を譲り受ける者の氏名又は名称

  ハ 株式会社が第百三十六条の承認をしない旨の決定をする場合において、当該株式会社又は第百四十条第四項に規定する指定買取人がイの譲渡制限株式を買い取ることを請求するときは、その旨

 2 前条第一項の規定による請求 次に掲げる事項

  イ 当該請求をする株式取得者の取得した譲渡制限株式の数(種類株式発行会社にあっては、譲渡制限株式の種類及び種類ごとの数)

  ロ イの株式取得者の氏名又は名称

  ハ 株式会社が前条第一項の承認をしない旨の決定をする場合において、当該株式会社又は第百四十条第四項に規定する指定買取人がイの譲渡制限株式を買い取ることを請求するときは、その旨
本条は、譲渡等承認請求の方法についての規定である。

条文 請求者 明らかにしなければならない事項
第136条 譲渡人 ・譲り渡そうとする譲渡制限株式の数
・譲り受ける者の氏名又は名称
・会社が承認しない場合、譲渡制限株式を買い取ることを請求するときは、その旨
第137条第1項 譲受人 ・取得した譲渡制限株式の数
・譲受人の氏名又は名称
・会社が承認しない場合、譲渡制限株式を買い取ることを請求するときは、その旨
第139条 【譲渡等の承認の決定等】

 @ 株式会社が第百三十六条又は第百三十七条第一項の承認をするか否かの決定をするには、株主総会(取締役会設置会社にあっては、取締役会)の決議によらなければならない。ただし、定款に別段の定めがある場合は、この限りでない。

 A 株式会社は、前項の決定をしたときは、譲渡等承認請求をした者(以下この款において「譲渡等承認請求者」という。)に対し、当該決定の内容を通知しなければならない。
譲渡制限株式の譲渡による取得を承認する機関のことを、譲渡承認機関という。

ケース 譲渡承認機関
取締役会設置会社 取締役会
取締役会非設置会社 株主総会
※定款に、これと違う定めをすることができる。
※決定されたことは、譲渡等承認請求者に、内容を通知しなければならない。

第140条 【株式会社又は指定買取人による買取り】

 @ 株式会社は、第百三十八条第一号ハ又は第二号ハの請求を受けた場合において、第百三十六条又は第百三十七条第一項の承認をしない旨の決定をしたときは、当該譲渡等承認請求に係る譲渡制限株式(以下この款において「対象株式」という。)を買い取らなければならない。この場合においては、次に掲げる事項を定めなければならない。

 1 対象株式を買い取る旨

 2 株式会社が買い取る対象株式の数(種類株式発行会社にあっては、対象株式の種類及び種類ごとの数)

 A 前項各号に掲げる事項の決定は、株主総会の決議によらなければならない。

 B 譲渡等承認請求者は、前項の株主総会において議決権を行使することができない。ただし、当該譲渡等承認請求者以外の株主の全部が同項の株主総会において議決権を行使することができない場合は、この限りでない。

 C 第一項の規定にかかわらず、同項に規定する場合には、株式会社は、対象株式の全部又は一部を買い取る者(以下この款において「指定買取人」という。)を指定することができる。

 D 前項の規定による指定は、株主総会(取締役会設置会社にあっては、取締役会)の決議によらなければならない。ただし、定款に別段の定めがある場合は、この限りでない。
譲渡制限株式発行会社は、譲渡承認請求を承認しなかったとき、その株式を買い取らなければならない。これは、譲渡制限株式を保有する者の投下資本の回収を保障するためである。この場合、会社は、株式を買い取る旨、買い取る株式数を株主総会の決議で決めなければならない。

会社は自ら株式を買い取る以外に、第三者を指定買取人にして、指定買取人に株式を買い取ってもらうこともできる。
第141条 【株式会社による買取りの通知】

 @ 株式会社は、前条第一項各号に掲げる事項を決定したときは、譲渡等承認請求者に対し、これらの事項を通知しなければならない。

 A 株式会社は、前項の規定による通知をしようとするときは、一株当たり純資産額(一株当たりの純資産額として法務省令で定める方法により算定される額をいう。以下同じ。)に前条第一項第二号の対象株式の数を乗じて得た額をその本店の所在地の供託所に供託し、かつ、当該供託を証する書面を譲渡等承認請求者に交付しなければならない。

 B 対象株式が株券発行会社の株式である場合には、前項の書面の交付を受けた譲渡等承認請求者は、当該交付を受けた日から一週間以内に、前条第一項第二号の対象株式に係る株券を当該株券発行会社の本店の所在地の供託所に供託しなければならない。この場合においては、当該譲渡等承認請求者は、当該株券発行会社に対し、遅滞なく、当該供託をした旨を通知しなければならない。

 C 前項の譲渡等承認請求者が同項の期間内に同項の規定による供託をしなかったときは、株券発行会社は、前条第一項第二号の対象株式の売買契約を解除することができる。
譲渡制限株式発行会社が、譲渡承認請求を承認せず、自ら株式を買い取るために、第140条第1項の決定をしたときは、これらの事項を譲渡等承認請求者に通知する必要がある。この場合、「一株当り純資産額×買い取る株式数」で求められた額を供託所に供託し、当該供託を証明する書面を譲渡等承認請求者に交付しなければならない(供託とは、金銭、有価証券などの財産を国家機関である供託所に提出して管理してもらう制度で、供託金は後に返還を受けることができる)。

株券発行会社の株式の場合、譲渡等承認請求者は当該供託を証明する書面の交付を受けたときはその日から1週間以内に、その株券を供託所に供託し、供託したことを会社に通知しなければならない。もし、株券を供託しなかった場合は、会社は株式買い取り契約を解除することができる。
第142条 【指定買取人による買取りの通知】

 @ 指定買取人は、第百四十条第四項の規定による指定を受けたときは、譲渡等承認請求者に対し、次に掲げる事項を通知しなければならない。

 1 指定買取人として指定を受けた旨

 2 指定買取人が買い取る対象株式の数(種類株式発行会社にあっては、対象株式の種類及び種類ごとの数)

 A 指定買取人は、前項の規定による通知をしようとするときは、一株当たり純資産額に同項第二号の対象株式の数を乗じて得た額を株式会社の本店の所在地の供託所に供託し、かつ、当該供託を証する書面を譲渡等承認請求者に交付しなければならない。

 B 対象株式が株券発行会社の株式である場合には、前項の書面の交付を受けた譲渡等承認請求者は、当該交付を受けた日から一週間以内に、第一項第二号の対象株式に係る株券を当該株券発行会社の本店の所在地の供託所に供託しなければならない。この場合においては、当該譲渡等承認請求者は、指定買取人に対し、遅滞なく、当該供託をした旨を通知しなければならない。

 C 対象株式が株券発行会社の株式である場合には、前項の書面の交付を受けた譲渡等承認請求者は、当該交付を受けた日から一週間以内に、第一項第二号の対象株式に係る株券を当該株券発行会社の本店の所在地の供託所に供託しなければならない。この場合においては、当該譲渡等承認請求者は、指定買取人に対し、遅滞なく、当該供託をした旨を通知しなければならない。
本条は、会社が第三者を指定買取人にして、その者に株式の買取をしてもらう場合についての規定である。

指定買取人は、譲渡等承認請求者に対して、指定買取人として指定を受けた旨、買い取る株式数を通知しなければならない。

基本的に、会社が買い取る場合(第141条)とほとんど同じである。
第143条 【譲渡等承認請求の撤回】

 @ 第百三十八条第一号ハ又は第二号ハの請求をした譲渡等承認請求者は、第百四十一条第一項の規定による通知を受けた後は、株式会社の承諾を得た場合に限り、その請求を撤回することができる。

 A 第百三十八条第一号ハ又は第二号ハの請求をした譲渡等承認請求者は、前条第一項の規定による通知を受けた後は、指定買取人の承諾を得た場合に限り、その請求を撤回することができる。
譲渡等承認請求者の請求が承認されなかった場合の株式買取請求の撤回についての規定である。

ケース 譲渡等承認請求の撤回
会社が買い取る場合 第141条第1項の通知を受けた後は、原則として撤回することができない。ただし、会社が承認した場合は、撤回できる。
指定買取人が買い取る場合 第142条第1項の通知を受けた後は、原則として撤回することができない。ただし、指定買取人が承認した場合は、撤回できる。
第144条 【売買価格の決定】

 @ 第百四十一条第一項の規定による通知があった場合には、第百四十条第一項第二号の対象株式の売買価格は、株式会社と譲渡等承認請求者との協議によって定める。

 A 株式会社又は譲渡等承認請求者は、第百四十一条第一項の規定による通知があった日から二十日以内に、裁判所に対し、売買価格の決定の申立てをすることができる。

 B 裁判所は、前項の決定をするには、譲渡等承認請求の時における株式会社の資産状態その他一切の事情を考慮しなければならない。

 C 第一項の規定にかかわらず、第二項の期間内に同項の申立てがあったときは、当該申立てにより裁判所が定めた額をもって第百四十条第一項第二号の対象株式の売買価格とする。

 D 第一項の規定にかかわらず、第二項の期間内に同項の申立てがないとき(当該期間内に第一項の協議が調った場合を除く。)は、一株当たり純資産額に第百四十条第一項第二号の対象株式の数を乗じて得た額をもって当該対象株式の売買価格とする。

 E 第百四十一条第二項の規定による供託をした場合において、第百四十条第一項第二号の対象株式の売買価格が確定したときは、株式会社は、供託した金銭に相当する額を限度として、売買代金の全部又は一部を支払ったものとみなす。

 F 前各項の規定は、第百四十二条第一項の規定による通知があった場合について準用する。この場合において、第一項中「第百四十条第一項第二号」とあるのは「第百四十二条第一項第二号」と、「株式会社」とあるのは「指定買取人」と、第二項中「株式会社」とあるのは「指定買取人」と、第四項及び第五項中「第百四十条第一項第二号」とあるのは「第百四十二条第一項第二号」と、前項中「第百四十一条第二項」とあるのは「第百四十二条第二項」と、「第百四十条第一項第二号」とあるのは「同条第一項第二号」と、「株式会社」とあるのは「指定買取人」と読み替えるものとする。
本条は、譲渡制限株式の譲渡による取得について、譲渡の承認がなされなかった場合の株式買い取り請求の売買価格の決定方法についての規定である。

原則的に、売買価格は会社(または指定買取人)と譲渡等承認請求者の協議によって決めることとなる(第1項)。しかし、協議がうまくいかなかった場合は、裁判所に対して売買価格決定の申し立てをすることとなる(裁判所に対して申し立てをしなかったときは、「一株当り純資産額×買い取る株式数」によって求められた額が売買価格となる)。
第145条 【株式会社が承認をしたとみなされる場合】

 次に掲げる場合には、株式会社は、第百三十六条又は第百三十七条第一項の承認をする旨の決定をしたものとみなす。ただし、株式会社と譲渡等承認請求者との合意により別段の定めをしたときは、この限りでない。

 1 株式会社が第百三十六条又は第百三十七条第一項の規定による請求の日から二週間(これを下回る期間を定款で定めた場合にあっては、その期間)以内に第百三十九条第二項の規定による通知をしなかった場合

 2 株式会社が第百三十九条第二項の規定による通知の日から四十日(これを下回る期間を定款で定めた場合にあっては、その期間)以内に第百四十一条第一項の規定による通知をしなかった場合(指定買取人が第百三十九条第二項の規定による通知の日から十日(これを下回る期間を定款で定めた場合にあっては、その期間)以内に第百四十二条第一項の規定による通知をした場合を除く。)

 3 前二号に掲げる場合のほか、法務省令で定める場合
譲渡制限株式発行会社は、譲渡制限株式の譲渡による取得の許否をした場合、譲渡等承認請求者に内容を通知しなければならない(第139条第2項)。これには期間制限があり、譲渡等承認請求があった日から2週間以内に通知しなかった場合、原則的に譲渡による取得を承認したものとみなされる(第1号)。

また、会社が自ら株式を買い取る場合(第140条)も、譲渡等承認請求者に内容を通知しなければならないが、この場合には、第139条第2項の通知から40日以内にしなければならない。しなかった場合は、原則的に譲渡による取得を承認したものとみなされる(第2号)。

ただし、会社と譲渡等承認請求者との間で、これらとは別の定めをした場合は、その定めのほうが優先される。