会社法 条文 会社法 解説
第2編 株式会社

第2章 株式

第4節 株式会社による自己の株式の取得

第2款 株主との合意による取得
第1目 総則

第156条 【株式の取得に関する事項の決定】


 @ 株式会社が株主との合意により当該株式会社の株式を有償で取得するには、あらかじめ、株主総会の決議によって、次に掲げる事項を定めなければならない。ただし、第三号の期間は、一年を超えることができない。

 1 取得する株式の数(種類株式発行会社にあっては、株式の種類及び種類ごとの数)

 2 株式を取得するのと引換えに交付する金銭等(当該株式会社の株式等を除く。以下この款において同じ。)の内容及びその総額

 3 株式を取得することができる期間

 A 前項の規定は、前条第一号及び第二号並びに第四号から第十三号までに掲げる場合には、適用しない。
株式会社が、株主から自己株式を買い取る場合、取得する株式数、株式取得と引き換えに交付する金銭等の内容とその総額、株式取得期間(最長1年間)を、株主総会決議により決めなければならない。これは、会社支配の公正を害するという自己株式の取得による弊害を防止するためである(取締役の不正な目的でないかを検証するためである)。

株主総会は、定時株主総会だけでなく、臨時株主総会であってもよい。
第157条 【取得価格等の決定】

 @ 株式会社は、前条第一項の規定による決定に従い株式を取得しようとするときは、その都度、次に掲げる事項を定めなければならない。

 1 取得する株式の数(種類株式発行会社にあっては、株式の種類及び数)

 2 株式一株を取得するのと引換えに交付する金銭等の内容及び数若しくは額又はこれらの算定方法

 3 株式を取得するのと引換えに交付する金銭等の総額

 4 株式の譲渡しの申込みの期日

 A 取締役会設置会社においては、前項各号に掲げる事項の決定は、取締役会の決議によらなければならない。

 B 第一項の株式の取得の条件は、同項の規定による決定ごとに、均等に定めなければならない。
自己株式を取得しようとする会社は、取得株式数、株式一株を取得するのと引き換えに交付する金銭等の内容と数若しくは額又はこれらの算定方法、株式を取得するのと引換えに交付する金銭等の総額、株式の譲渡しの申込みの期日をその都度決めなければならない。

また、これらの条件はすべての株式について均等でなければならない。これは、株主平等原則(第109条第1項)に抵触しないようにするためである。

ただし、取締役会設置会社は、これらの決定を取締役会の決議によらなければならない。機動性を確保するためである。
第158条 【株主に対する通知等】

 @ 株式会社は、株主(種類株式発行会社にあっては、取得する株式の種類の種類株主)に対し、前条第一項各号に掲げる事項を通知しなければならない。

 A 公開会社においては、前項の規定による通知は、公告をもってこれに代えることができる。
株式会社は、第157条第1項各号の事項を決定した場合、株主全員にその内容を通知しなければならない。ただし、公開会社は多数の株主が存在するため、公告によって行うことができる。
第159条 【譲渡しの申込み】

 @ 前条第一項の規定による通知を受けた株主は、その有する株式の譲渡しの申込みをしようとするときは、株式会社に対し、その申込みに係る株式の数(種類株式発行会社にあっては、株式の種類及び数)を明らかにしなければならない。

 A 株式会社は、第百五十七条第一項第四号の期日において、前項の株主が申込みをした株式の譲受けを承諾したものとみなす。ただし、同項の株主が申込みをした株式の総数(以下この項において「申込総数」という。)が同条第一項第一号の数(以下この項において「取得総数」という。)を超えるときは、取得総数を申込総数で除して得た数に前項の株主が申込みをした株式の数を乗じて得た数(その数に一に満たない端数がある場合にあっては、これを切り捨てるものとする。)の株式の譲受けを承諾したものとみなす。
自己株式を取得しようとする株式会社が、第158条の通知を株主に対して行った場合、保有株式を譲渡したい株主は譲渡の申し込みをしなければならない。この場合、株主は申し込みに係る株式数を明らかにしなければならない。

そして、会社は、第157条第1項第4号の期日において、株式の譲受を承諾したものとみなされる。

もし、株主からの申し込み総数が、取得予定の総数を超えた場合は、按分配分した数について譲受が承認されたものとみなされる。例えば、取得予定数が100万株、申し込み総数が200万株だった場合において、ある株主が10万株申し込んだとする。この場合、(100万株÷200万株)×10万株で、5万株について譲り受けが承認される。
第2目 特定の株主からの取得

第160条 【特定の株主からの取得】


 @ 株式会社は、第百五十六条第一項各号に掲げる事項の決定に併せて、同項の株主総会の決議によって、第百五十八条第一項の規定による通知を特定の株主に対して行う旨を定めることができる。

 A 株式会社は、前項の規定による決定をしようとするときは、法務省令で定める時までに、株主(種類株式発行会社にあっては、取得する株式の種類の種類株主)に対し、次項の規定による請求をすることができる旨を通知しなければならない。

 B 前項の株主は、第一項の特定の株主に自己をも加えたものを同項の株主総会の議案とすることを、法務省令で定める時までに、請求することができる。

 C 第一項の特定の株主は、第百五十六条第一項の株主総会において議決権を行使することができない。ただし、第一項の特定の株主以外の株主の全部が当該株主総会において議決権を行使することができない場合は、この限りでない。

 D 第一項の特定の株主を定めた場合における第百五十八条第一項の規定の適用については、同項中「株主(種類株式発行会社にあっては、取得する株式の種類の種類株主)」とあるのは、「第百六十条第一項の特定の株主」とする。
自己株式を取得しようとする株式会社は、株主総会で、第156条第1項各号の事項の決定に併せて、特定の株主のみからの自己株式取得を決議することができる(第1項)。この決議は特別決議である(第309条第2項第2号)。

この場合、当該特定の株主以外の株主は、自己の保有する株式も併せて買い取るよう請求することができる(第3項)。これを売主追加請求権という。なお、株主の売主追加請求権行使の機会を確保するため、会社は売主追加請求権を行使できる旨を当該特定の株主以外の株主に対して通知しなければならない(第2項)。
第161条 【市場価格のある株式の取得の特則】

 前条第二項及び第三項の規定は、取得する株式が市場価格のある株式である場合において、当該株式一株を取得するのと引換えに交付する金銭等の額が当該株式一株の市場価格として法務省令で定める方法により算定されるものを超えないときは、適用しない。
株式会社が特定の株主からのみ、自己株式を取得する場合には、他の株主には原則として売主追加請求権が認められている(第160条第3項)。

しかし、株式を市場価格以下で特定の株主から取得する場合には、他の株主には売主追加請求権は認められていない。市場価格以下で自己株式を取得する場合には、特定の株主を優遇しているとは必ずしもいえないためである。
第162条 【相続人等からの取得の特則】

 第百六十条第二項及び第三項の規定は、株式会社が株主の相続人その他の一般承継人からその相続その他の一般承継により取得した当該株式会社の株式を取得する場合には、適用しない。ただし、次のいずれかに該当する場合は、この限りでない。

 1 株式会社が公開会社である場合

 2 当該相続人その他の一般承継人が株主総会又は種類株主総会において当該株式について議決権を行使した場合
株式会社が特定の株主からのみ、自己株式を取得する場合には、他の株主には原則として売主追加請求権が認められている(第160条第3項)。

しかし、非公開会社が株式相続人等から株式を取得する場合には、売主追加請求権は認められていない。これは、もし、相続等によって会社にとって好ましくない者が株主となった場合のことなどを想定して、認められていない。

もっとも、公開会社の場合には、株式譲渡は自由であるため、売主追加請求権は認められている(本条第1号)。また、非公開会社でも、相続人等が承継した株式について、株主総会において議決権を行使した場合にも、売主追加請求権が認められている(本条第2号)。
第163条 【子会社からの株式の取得】

 株式会社がその子会社の有する当該株式会社の株式を取得する場合における第百五十六条第一項の規定の適用については、同項中「株主総会」とあるのは、「株主総会(取締役会設置会社にあっては、取締役会)」とする。この場合においては、第百五十七条から第百六十条までの規定は、適用しない。
本条は、株式会社がその子会社から自己株式を取得する場合の特則についての規定である。

株式会社が株主から自己株式を取得するには(第155条第3号)、取得株式数など第156条第1項に規定されている事項を記載しなければならない。

しかし、株式会社がその子会社から自己株式を取得する場合には、この定めは、取締役会設置会社においては、取締役会の決議によることが原則となる。この場合、第157条から第160条までの規定は適用されない。子会社からの自己株式の取得は企業グループの整理を意味し、スピードが要求されるため、手続きが簡略化されている。
第164条 【特定の株主からの取得に関する定款の定め】

 @ 株式会社は、株式(種類株式発行会社にあっては、ある種類の株式。次項において同じ。)の取得について第百六十条第一項の規定による決定をするときは同条第二項及び第三項の規定を適用しない旨を定款で定めることができる。

 A 株式の発行後に定款を変更して当該株式について前項の規定による定款の定めを設け、又は当該定めについての定款の変更(同項の定款の定めを廃止するものを除く。)をしようとするときは、当該株式を有する株主全員の同意を得なければならない。
自己株式を取得しようとする株式会社は、株主総会において、第156条第1項各号の事項の決定に併せて、特定の株主のみからの自己株式取得を決議することができる(第160条第1項)。この場合、当該特定の株主以外の株主は、自己の保有する株式も併せて買い取るよう請求することができるのが原則である(第160条第3項)。

しかし、会社は、定款によって売主追加請求権を排除することができる(本条第1項)。これは、自己株式の取得手続きを煩雑にし、迅速性を害するためである。

ただし、株式発行後に売主追加請求権を排除したのでは、株主に不測の損害が生じる可能性があるため、株式発行後の売主追加請求権排除の定款変更は株主全員の同意が必要である(本条第2項)。
第3目 市場取引等による株式の取得

第165条 【市場取引等による株式の取得】


 @ 第百五十七条から第百六十条までの規定は、株式会社が市場において行う取引又は金融商品取引法第二十七条の二第六項 に規定する公開買付けの方法(以下この条において「市場取引等」という。)により当該株式会社の株式を取得する場合には、適用しない。

 A 取締役会設置会社は、市場取引等により当該株式会社の株式を取得することを取締役会の決議によって定めることができる旨を定款で定めることができる。

 B 前項の規定による定款の定めを設けた場合における第百五十六条第一項の規定の適用については、同項中「株主総会」とあるのは、「株主総会(第百六十五条第一項に規定する場合にあっては、株主総会又は取締役会)」とする。
株式会社が自己株式を取得するときにおいて、市場取引または株式公開買付(いわゆるTOBのことで、金融商品取引法第27条の2第6項)によって取得する場合には、第157条から第160条までの規定は適用されない。これは、市場取引・株式公開買付による自己株式の取得にはスピードが要求されるためである。

また、同様の理由から、取締役会設置会社は、定款の定めにより、市場取引・株式公開買付によって自己株式を取得しようとする場合には、取得についての授権決議を取締役会において行うことが認められている。つまり、定款にこの旨の定めを置いた取締役会設置会社は、取締役会決議だけで、市場取引・株式公開買付による自己株式の取得が可能となる。