会社法 条文 会社法 解説
第2編 株式会社

第2章 株式

第4節 株式会社による自己の株式の取得

第5款 相続人等に対する売渡しの請求
第174条 【相続人等に対する売渡しの請求に関する定款の定め】

 株式会社は、相続その他の一般承継により当該株式会社の株式(譲渡制限株式に限る。)を取得した者に対し、当該株式を当該株式会社に売り渡すことを請求することができる旨を定款で定めることができる。
会社は、相続等により譲渡制限株式を取得した者に対して、当該株式を会社に売り渡すよう請求できる旨を定款で定めることができる。これは、相続等によって会社にとって好ましくない者が株主となった場合などについて想定したものである。
第175条 【売渡しの請求の決定】

 @ 株式会社は、前条の規定による定款の定めがある場合において、次条第一項の規定による請求をしようとするときは、その都度、株主総会の決議によって、次に掲げる事項を定めなければならない。

 1 次条第一項の規定による請求をする株式の数(種類株式発行会社にあっては、株式の種類及び種類ごとの数)

 2 前号の株式を有する者の氏名又は名称

 A 前項第二号の者は、同項の株主総会において議決権を行使することができない。ただし、同号の者以外の株主の全部が当該株主総会において議決権を行使することができない場合は、この限りでない。
第174条の請求をする場合、会社は請求する株式数、当該株式を有する者の氏名・名称を株主総会の決議によってその都度決めなければならない。この場合、取締役会設置会社であっても取締役会決議で当該事項を決めることはできず、株主総会決議で決めなければならない点に注意する必要がある。
第176条 【売渡しの請求】

 @ 株式会社は、前条第一項各号に掲げる事項を定めたときは、同項第二号の者に対し、同項第一号の株式を当該株式会社に売り渡すことを請求することができる。ただし、当該株式会社が相続その他の一般承継があったことを知った日から一年を経過したときは、この限りでない。

 A 前項の規定による請求は、その請求に係る株式の数(種類株式発行会社にあっては、株式の種類及び種類ごとの数)を明らかにしてしなければならない。

 B 株式会社は、いつでも、第一項の規定による請求を撤回することができる。
会社は、第175条第1項各号の事項を定めたときは、第175条第1項第2号の者に対して、当該株式の売り渡しを請求することができる。ただし、この請求は、会社が相続等があったことを知った日から1年以内にしなければならない。これは一種の消滅時効であり、当該株式の所有者の地位を早期確定する趣旨である。

また、会社はこの請求をいつでも撤回することができる。撤回を認めても、当該株式の所有者に不都合が生じることはないからである。
第177条 【売買価格の決定】

 @ 前条第一項の規定による請求があった場合には、第百七十五条第一項第一号の株式の売買価格は、株式会社と同項第二号の者との協議によって定める。

 A 株式会社又は第百七十五条第一項第二号の者は、前条第一項の規定による請求があった日から二十日以内に、裁判所に対し、売買価格の決定の申立てをすることができる。

 B 裁判所は、前項の決定をするには、前条第一項の規定による請求の時における株式会社の資産状態その他一切の事情を考慮しなければならない。

 C 第一項の規定にかかわらず、第二項の期間内に同項の申立てがあったときは、当該申立てにより裁判所が定めた額をもって第百七十五条第一項第一号の株式の売買価格とする。

 D 第二項の期間内に同項の申立てがないとき(当該期間内に第一項の協議が調った場合を除く。)は、前条第一項の規定による請求は、その効力を失う。
本条は、譲渡制限株式を相続等によって取得した者に対する株式売渡請求の売買価格決定方法についての規定である。

譲渡制限株式を相続等によって取得した者に対する株式買取請求を行った場合、その売買価格は会社と当該株式の所有者との協議によって決めるのが原則である。

この協議がうまくいかなかったとき、会社と当該株式の所有者は、裁判所に売買価格の決定を請求することができる。そして、裁判所が決めた価格が売買価格となる。

また、協議がうまくいかず、裁判所にも請求をしなかったときは、会社が行った売り渡し請求は効力を失うことになる。