会社法 条文 会社法 解説
第2編 株式会社

第2章 株式

第8節 募集株式の発行等

第1款 募集事項の決定等
第199条 【募集事項の決定】

 @ 株式会社は、その発行する株式又はその処分する自己株式を引き受ける者の募集をしようとするときは、その都度、募集株式(当該募集に応じてこれらの株式の引受けの申込みをした者に対して割り当てる株式をいう。以下この節において同じ。)について次に掲げる事項を定めなければならない。

 1 募集株式の数(種類株式発行会社にあっては、募集株式の種類及び数。以下この節において同じ。)

 2 募集株式の払込金額(募集株式一株と引換えに払い込む金銭又は給付する金銭以外の財産の額をいう。以下この節において同じ。)又はその算定方法

 3 金銭以外の財産を出資の目的とするときは、その旨並びに当該財産の内容及び価額

 4 募集株式と引換えにする金銭の払込み又は前号の財産の給付の期日又はその期間

 5 株式を発行するときは、増加する資本金及び資本準備金に関する事項

 A 前項各号に掲げる事項(以下この節において「募集事項」という。)の決定は、株主総会の決議によらなければならない。

 B 第一項第二号の払込金額が募集株式を引き受ける者に特に有利な金額である場合には、取締役は、前項の株主総会において、当該払込金額でその者の募集をすることを必要とする理由を説明しなければならない。

 C 種類株式発行会社において、第一項第一号の募集株式の種類が譲渡制限株式であるときは、当該種類の株式に関する募集事項の決定は、当該種類の株式を引き受ける者の募集について当該種類の株式の種類株主を構成員とする種類株主総会の決議を要しない旨の定款の定めがある場合を除き、当該種類株主総会の決議がなければ、その効力を生じない。ただし、当該種類株主総会において議決権を行使することができる種類株主が存しない場合は、この限りでない。

 D 募集事項は、第一項の募集ごとに、均等に定めなければならない。
本条は募集株式の発行等における発行事項の決定についての規定である。募集株式とは、新株発行と自己株式の処分の上位概念であり、募集に応じて株式会社の発行する株式または株式会社の処分する自己株式の引き受けの申込者に対して割り当てる株式のことである。

旧商法では、新株発行と自己株式の処分は、別々に規制されていたが、この二つは実質的には同内容の行為であるため、会社法では同一の規定となっている。

募集株式の発行等を行うには、原則として株主総会の特別決議によって、募集株式数、募集株式の払い込み金額(またはその算定方法)、金銭以外の財産を出資の目的とするときはその旨並びに当該財産の内容及び価額、募集株式と引換えにする金銭の払込み又は前号の財産の給付の期日又はその期間、株式を発行するときは、増加する資本金及び資本準備金に関する事項を決めなければならない。

ただし、公開会社においては、これらの事項を取締役会の決議によって決めることができる。また、募集事項は募集ごとに均等に決めなければならない。株主平等原則に違反しないようにするためである。
第200条 【募集事項の決定の委任】

 @ 前条第二項及び第四項の規定にかかわらず、株主総会においては、その決議によって、募集事項の決定を取締役(取締役会設置会社にあっては、取締役会)に委任することができる。この場合においては、その委任に基づいて募集事項の決定をすることができる募集株式の数の上限及び払込金額の下限を定めなければならない。

 A 前項の払込金額の下限が募集株式を引き受ける者に特に有利な金額である場合には、取締役は、同項の株主総会において、当該払込金額でその者の募集をすることを必要とする理由を説明しなければならない。

 B 第一項の決議は、前条第一項第四号の期日(同号の期間を定めた場合にあっては、その期間の末日)が当該決議の日から一年以内の日である同項の募集についてのみその効力を有する。

 C 種類株式発行会社において、第一項の募集株式の種類が譲渡制限株式であるときは、当該種類の株式に関する募集事項の決定の委任は、当該種類の株式について前条第四項の定款の定めがある場合を除き、当該種類の株式の種類株主を構成員とする種類株主総会の決議がなければ、その効力を生じない。ただし、当該種類株主総会において議決権を行使することができる種類株主が存しない場合は、この限りでない。
募集株式の発行等を行う場合、第199条の事項を決めなければならないが、この決定は株主総会の特別決議によって、取締役(取締役会非設置会社)または取締役会(取締役会設置会社)に委任することができる。公開会社においては、募集事項の決定機関は取締役会とされているため(第201条第1項)、このこととの均衡を保ち、資金調達の便宜を図るためである。この委任をするときは、委任に基づいて募集事項の決定をすることができる募集株式数の上限と払い込み金額の下限を決めなければならない。

払い込み金額の下限が、募集株式の引受者に特に有利な金額である場合、取締役は当該払込金額でその者の募集をすることを必要とする理由を説明しなければならない。特定株主に対する有利発行は、他の既存株主を害する可能性があるためである。この特に有利な金額とは、上場企業の場合であれば、発行決議前三ヶ月の平均株価から10%を超える割引をしたかどうかで判断されると解されている(最高裁昭和50年4月8日)。

第201条 【公開会社における募集事項の決定の特則】

 @ 第百九十九条第三項に規定する場合を除き、公開会社における同条第二項の規定の適用については、同項中「株主総会」とあるのは、「取締役会」とする。この場合においては、前条の規定は、適用しない。

 A 前項の規定により読み替えて適用する第百九十九条第二項の取締役会の決議によって募集事項を定める場合において、市場価格のある株式を引き受ける者の募集をするときは、同条第一項第二号に掲げる事項に代えて、公正な価額による払込みを実現するために適当な払込金額の決定の方法を定めることができる。

 B 公開会社は、第一項の規定により読み替えて適用する第百九十九条第二項の取締役会の決議によって募集事項を定めたときは、同条第一項第四号の期日(同号の期間を定めた場合にあっては、その期間の初日)の二週間前までに、株主に対し、当該募集事項(前項の規定により払込金額の決定の方法を定めた場合にあっては、その方法を含む。以下この節において同じ。)を通知しなければならない。

 C 前項の規定による通知は、公告をもってこれに代えることができる。

 D 第三項の規定は、株式会社が募集事項について同項に規定する期日の二週間前までに金融商品取引法第四条第一項から第三項までの届出をしている場合その他の株主の保護に欠けるおそれがないものとして法務省令で定める場合には、適用しない。
本条は、公開会社における募集株式の発行等に関する募集事項の決定の特則についての規定である。

募集株式の発行等を行う場合、株主総会の特別決議によって募集事項を決定するのが原則である(第199条第2項、第309条第2項第5号)。しかし、第199条第3項の有利発行の場合を除いて、公開会社においては募集事項の決定は取締役会の決議によって行われる。公開会社においては、募集株式の発行等は大規模になるのが普通で、手続きの迅速性が求められるためである。

公開会社は、取締役会の決議によって募集事項を決めた場合、これを株主に通知しなければならない。この通知は公告に代えて行うこともできる。また、金融商品取引法第4条第1項または第2項の届出をしている場合、その他の株主の保護に欠ける危険性がないものとして法務省令で定める場合には、通知または公告は不要である。
第202条 【株主に株式の割当てを受ける権利を与える場合】

 @ 株式会社は、第百九十九条第一項の募集において、株主に株式の割当てを受ける権利を与えることができる。この場合においては、募集事項のほか、次に掲げる事項を定めなければならない。

 1 株主に対し、次条第二項の申込みをすることにより当該株式会社の募集株式(種類株式発行会社にあっては、当該株主の有する種類の株式と同一の種類のもの)の割当てを受ける権利を与える旨

 2 前号の募集株式の引受けの申込みの期日

 A 前項の場合には、同項第一号の株主(当該株式会社を除く。)は、その有する株式の数に応じて募集株式の割当てを受ける権利を有する。ただし、当該株主が割当てを受ける募集株式の数に一株に満たない端数があるときは、これを切り捨てるものとする。

 B 第一項各号に掲げる事項を定める場合には、募集事項及び同項各号に掲げる事項は、次の各号に掲げる場合の区分に応じ、当該各号に定める方法によって定めなければならない。

 1 当該募集事項及び第一項各号に掲げる事項を取締役の決定によって定めることができる旨の定款の定めがある場合(株式会社が取締役会設置会社である場合を除く。) 取締役の決定

 2 当該募集事項及び第一項各号に掲げる事項を取締役会の決議によって定めることができる旨の定款の定めがある場合(次号に掲げる場合を除く。) 取締役会の決議

 3 株式会社が公開会社である場合 取締役会の決議

 4 前三号に掲げる場合以外の場合 株主総会の決議

 C 株式会社は、第一項各号に掲げる事項を定めた場合には、同項第二号の期日の二週間前までに、同項第一号の株主(当該株式会社を除く。)に対し、次に掲げる事項を通知しなければならない。

 1 募集事項

 2 当該株主が割当てを受ける募集株式の数

 3 第一項第二号の期日

 D 第百九十九条第二項から第四項まで及び前二条の規定は、第一項から第三項までの規定により株主に株式の割当てを受ける権利を与える場合には、適用しない。
株主割当とは、募集株式の募集において、会社が株主に株式の割当てを受ける権利を与えることである。この株主割当を行うには、募集事項のほかに、株主に対して引受の申し込みをすることにより当該会社の募集株式の割当てを受ける権利を与える旨、募集株式の引受の申し込みの期日を決めなければならない。

株主割当は、株主が有する株式数に応じて行われる。そのため、株主割当による株式の発行には有利や不利が生じることはない。そのため、有利発行に関する第199条第2項から第4項までと第200条と第201条の規定は、株主割当には適用されない。

会社は、第1項各号の事項を決めた場合、割当ての対象とした株主に対して、募集事項、株主が割当てを受ける募集株式数、引受申し込み期日を通知しなければならない。