会社法 条文 会社法 解説
第2編 株式会社

第2章 株式

第8節 募集株式の発行等

第6款 募集に係る責任等
第211条 【引受けの無効又は取消しの制限】

 @ 民法第九十三条ただし書及び第九十四条第一項の規定は、募集株式の引受けの申込み及び割当て並びに第二百五条の契約に係る意思表示については、適用しない。

 A 募集株式の引受人は、第二百九条の規定により株主となった日から一年を経過した後又はその株式について権利を行使した後は、錯誤を理由として募集株式の引受けの無効を主張し、又は詐欺若しくは強迫を理由として募集株式の引受けの取消しをすることができない。
民法第93条ただし書は心裡留保、民法第94条第1項は虚偽表示についての規定である。これらは募集株式の引受けの申し込みと割当てについての意思表示に適用されない。

また、募集株式の引受人は、株主となってから1年後、または当該株式の権利を行使した後は、募集株式の引受けについて錯誤無効(民法第95条)を主張したり、詐欺・強迫による取り消し(民法第96条第1項)を行うことができない。

民法の規定については以下を参照。
第2節 意思表示 第93条〜第98条の2


募集株式の引受けの申し込みなどは意思表示を要素とする。そのため、もし申し込みについて虚偽表示などの瑕疵があった場合、本来であれば民法の規定により無効となるはずである。しかし、意思表示の無効の主張には期間制限がないため、無効の主張をすることができるとしたら、多数の利害関係人が絡む会社の法律関係が不安定となってしまう。そこで、本条の規定により意思表示の瑕疵の主張を制限し、会社の法律関係の安定を図っている。
第212条 【不公正な払込金額で株式を引き受けた者等の責任】

 @ 募集株式の引受人は、次の各号に掲げる場合には、株式会社に対し、当該各号に定める額を支払う義務を負う。

 1 取締役(委員会設置会社にあっては、取締役又は執行役)と通じて著しく不公正な払込金額で募集株式を引き受けた場合 当該払込金額と当該募集株式の公正な価額との差額に相当する金額

 2 第二百九条の規定により募集株式の株主となった時におけるその給付した現物出資財産の価額がこれについて定められた第百九十九条第一項第三号の価額に著しく不足する場合 当該不足額

 A 前項第二号に掲げる場合において、現物出資財産を給付した募集株式の引受人が当該現物出資財産の価額がこれについて定められた第百九十九条第一項第三号の価額に著しく不足することにつき善意でかつ重大な過失がないときは、募集株式の引受けの申込み又は第二百五条の契約に係る意思表示を取り消すことができる。
募集株式の引受人が、取締役等と通謀して著しく不公正な払い込み金額で募集株式を引き受けた場合、公正な価額との差額を会社に対して支払う責任を負う(本条第1項第1号)。また、現物出資財産の価額が、募集事項が定める価額に著しく不足する場合、引受人は不足額を会社に対して支払う責任を負う(本条第1項第2号)。

本条は、このように、差額支払い義務を引受人に課すことで、会社財産を確保し出資が確実に履行されることを担保する趣旨の規定である。

ただし、第1項第2号の場合、引受人が悪意または重過失がなかったときは、募集株式の引受けの申し込み、割当て、総株引受けについての意思表示を取り消すことができる(本条第2項)。
第213条 【出資された財産等の価額が不足する場合の取締役等の責任】

 @ 前条第一項第二号に掲げる場合には、次に掲げる者(以下この条において「取締役等」という。)は、株式会社に対し、同号に定める額を支払う義務を負う。

 1 当該募集株式の引受人の募集に関する職務を行った業務執行取締役(委員会設置会社にあっては、執行役。以下この号において同じ。)その他当該業務執行取締役の行う業務の執行に職務上関与した者として法務省令で定めるもの

 2 現物出資財産の価額の決定に関する株主総会の決議があったときは、当該株主総会に議案を提案した取締役として法務省令で定めるもの

 3 現物出資財産の価額の決定に関する取締役会の決議があったときは、当該取締役会に議案を提案した取締役(委員会設置会社にあっては、取締役又は執行役)として法務省令で定めるもの

 A 前項の規定にかかわらず、次に掲げる場合には、取締役等は、現物出資財産について同項の義務を負わない。

 1 現物出資財産の価額について第二百七条第二項の検査役の調査を経た場合

 2 当該取締役等がその職務を行うについて注意を怠らなかったことを証明した場合

 B 第一項に規定する場合には、第二百七条第九項第四号に規定する証明をした者(以下この条において「証明者」という。)は、株式会社に対し前条第一項第二号に定める額を支払う義務を負う。ただし、当該証明者が当該証明をするについて注意を怠らなかったことを証明したときは、この限りでない。

 C 募集株式の引受人がその給付した現物出資財産についての前条第一項第二号に定める額を支払う義務を負う場合において、次の各号に掲げる者が当該現物出資財産について当該各号に定める義務を負うときは、これらの者は、連帯債務者とする。

 1 取締役等 第一項の義務

 2 証明者 前項本文の義務
募集株式の引受人が給付した現物出資財産の価額が、募集事項が定める価額(第199条第1項第3号)に著しく不足する場合(第212条)、取締役等は不足額を会社に対して支払う連帯責任を負う。差額支払い義務を取締役等に課すことで、会社財産を確保し出資が確実に履行されることを担保する趣旨の規定である。

ただし、現物出資財産等につき検査役の調査を受けたとき、現物出資財産等が不足したことにつき無過失を証明したときは、取締役は責任を免除される。

また、現物出資財産等の証明・鑑定評価をした者も、取締役等の同様の差額支払い義務を連帯して負う。ただし、現物出資財産等が不足したことについて無過失を証明したときは、責任を免除される。