会社法 条文 会社法 解説
第2編 株式会社

第2章 株式

第9節 株券

第3款 株券喪失登録
第221条 【株券喪失登録簿】

 株券発行会社(株式会社がその株式(種類株式発行会社にあっては、全部の種類の株式)に係る株券を発行する旨の定款の定めを廃止する定款の変更をした日の翌日から起算して一年を経過していない場合における当該株式会社を含む。以下この款(第二百二十三条、第二百二十七条及び第二百二十八条第二項を除く。)において同じ。)は、株券喪失登録簿を作成し、これに次に掲げる事項(以下この款において「株券喪失登録簿記載事項」という。)を記載し、又は記録しなければならない。

 1 第二百二十三条の規定による請求に係る株券(第二百十八条第二項又は第二百十九条第三項の規定により無効となった株券及び株式の発行又は自己株式の処分の無効の訴えに係る請求を認容する判決が確定した場合における当該株式に係る株券を含む。以下この款(第二百二十八条を除く。)において同じ。)の番号

 2 前号の株券を喪失した者の氏名又は名称及び住所

 3 第一号の株券に係る株式の株主又は登録株式質権者として株主名簿に記載され、又は記録されている者(以下この款において「名義人」という。)の氏名又は名称及び住所

 4 第一号の株券につき前三号に掲げる事項を記載し、又は記録した日(以下この款において「株券喪失登録日」という。)
本条から第233条までは株券失効制度についての規定である。これは、株主が株券を喪失した場合、株券が善意取得されることを防止するため、株券を無効とする制度である。

有価証券が喪失した場合、これを無効とするには非訟事件手続法上の公示催告手続(非訟事件手続法第142条)によるのが通常である。しかし、株券については簡易迅速な処理の必要性が強いため、特別な手続きが規定されている。

株券発行会社は、株券失効制度のために、株券喪失登録簿を作成する必要がある。そして、株券喪失者から請求があると、株券の番号、株券喪失者の氏名・名称と住所、喪失した株券の株式の株主または登録株式質権者の氏名・名称と住所、喪失登録日を株券喪失登録簿に記載しなければならない。
第222条 【株券喪失登録簿に関する事務の委託】

 株券発行会社における第百二十三条の規定の適用については、同条中「株主名簿の」とあるのは「株主名簿及び株券喪失登録簿の」と、「株主名簿に」とあるのは「株主名簿及び株券喪失登録簿に」とする。
株券発行会社が株主名簿管理人(第123条)に株主名簿の管理を委託している場合、株主名簿管理人は株主名簿に加えて、株券喪失登録簿も管理することとなる。
第223条 【株券喪失登録の請求】

 株券を喪失した者は、法務省令で定めるところにより、株券発行会社に対し、当該株券についての株券喪失登録簿記載事項を株券喪失登録簿に記載し、又は記録すること(以下「株券喪失登録」という。)を請求することができる。
株券喪失者は、株券発行会社に株券喪失登録簿記載事項(第221条各号)を株券喪失登録簿に記載するよう請求することができる。これにより、株券の善意取得を防ぐことができる。
第224条 【名義人等に対する通知】

 @ 株券発行会社が前条の規定による請求に応じて株券喪失登録をした場合において、当該請求に係る株券を喪失した者として株券喪失登録簿に記載され、又は記録された者(以下この款において「株券喪失登録者」という。)が当該株券に係る株式の名義人でないときは、株券発行会社は、遅滞なく、当該名義人に対し、当該株券について株券喪失登録をした旨並びに第二百二十一条第一号、第二号及び第四号に掲げる事項を通知しなければならない。

 A 株式についての権利を行使するために株券が株券発行会社に提出された場合において、当該株券について株券喪失登録がされているときは、株券発行会社は、遅滞なく、当該株券を提出した者に対し、当該株券について株券喪失登録がされている旨を通知しなければならない。
株券喪失登録をした者が株主名簿上の株主(名義人)でないとき、株券発行会社は名義人に対して、株券喪失登録をしたということ、株券番号、株券を喪失した者の氏名・名称・住所、喪失登録日を通知しなければならない。

また、株式についての権利を行使するために株券が株券発行会社に提出された場合、株券を提出した者に対して、当該株券が株券喪失登録がされているということを通知しなければならない。
第225条 【株券を所持する者による抹消の申請】

 @ 株券喪失登録がされた株券を所持する者(その株券についての株券喪失登録者を除く。)は、法務省令で定めるところにより、株券発行会社に対し、当該株券喪失登録の抹消を申請することができる。ただし、株券喪失登録日の翌日から起算して一年を経過したときは、この限りでない。

 A 前項の規定による申請をしようとする者は、株券発行会社に対し、同項の株券を提出しなければならない。

 B 第一項の規定による申請を受けた株券発行会社は、遅滞なく、同項の株券喪失登録者に対し、同項の規定による申請をした者の氏名又は名称及び住所並びに同項の株券の番号を通知しなければならない。

 C 株券発行会社は、前項の規定による通知の日から二週間を経過した日に、第二項の規定により提出された株券に係る株券喪失登録を抹消しなければならない。この場合においては、株券発行会社は、当該株券を第一項の規定による申請をした者に返還しなければならない。
株券喪失登録がされている株券を持っている者は、株券喪失登録の翌日から1年以内であれば、株券喪失登録の抹消を申請することができる。放置しておくと、株券の効力が失われてしまうため、抹消することにより効力を保全するためである。この場合、当該株券を会社に対して提出する必要があるが、後に返還される。

株券喪失登録の抹消の申請がなされると、会社は株券喪失登録者に対して抹消の申請をした者の氏名・名称、住所、株券番号を通知しなければならない。そして、この通知の日か2週間後に株券喪失登録は抹消される。
第226条 【株券喪失登録者による抹消の申請】

 @ 株券喪失登録者は、法務省令で定めるところにより、株券発行会社に対し、株券喪失登録(その株式(種類株式発行会社にあっては、全部の種類の株式)に係る株券を発行する旨の定款の定めを廃止する定款の変更をした場合にあっては、前条第二項の規定により提出された株券についての株券喪失登録を除く。)の抹消を申請することができる。

 A 前項の規定による申請を受けた株券発行会社は、当該申請を受けた日に、当該申請に係る株券喪失登録を抹消しなければならない。
例えば、株券喪失登録をしたが、その株券を発見した場合などは、株券喪失登録をしておく必要はない。このような場合、株券喪失登録者は株券発行会社に対して、株券喪失登録の抹消を申請することができる。会社が、この申請を受けた場合、申請を受けた日に、株券喪失登録を抹消しなければならない。
第227条 【株券を発行する旨の定款の定めを廃止した場合における株券喪失登録の抹消】

 その株式(種類株式発行会社にあっては、全部の種類の株式)に係る株券を発行する旨の定款の定めを廃止する定款の変更をする場合には、株券発行会社は、当該定款の変更の効力が生ずる日に、株券喪失登録(当該株券喪失登録がされた株券に係る株式の名義人が株券喪失登録者であるものに限り、第二百二十五条第二項の規定により提出された株券についてのものを除く。)を抹消しなければならない。
株券発行会社は、定款変更により株券発行を廃止することができる(第218条第1項)。この場合、株券発行会社は株券喪失登録も抹消しなければならない。株券発行をやめるのであれば、株券失効制度も必要ないためである。
第228条 【株券の無効】

 @ 株券喪失登録(抹消されたものを除く。)がされた株券は、株券喪失登録日の翌日から起算して一年を経過した日に無効となる。

 A 前項の規定により株券が無効となった場合には、株券発行会社は、当該株券についての株券喪失登録者に対し、株券を再発行しなければならない。
株券喪失登録がされた株券は、喪失登録の翌日から1年後に無効となる。これで、株券が善意取得される可能性はなくなる。

しかし、このままでは株券喪失登録をした株主は権利行使をすることができないため、株券が無効となった後、株券発行会社は株券喪失登録者に対して株券を再発行しなければならない。
第229条 【異議催告手続との関係】

 @ 株券喪失登録者が第二百二十条第一項の請求をした場合には、株券発行会社は、同項の期間の末日が株券喪失登録日の翌日から起算して一年を経過する日前に到来するときに限り、同項の規定による公告をすることができる。

 A 株券発行会社が第二百二十条第一項の規定による公告をするときは、当該株券発行会社は、当該公告をした日に、当該公告に係る株券についての株券喪失登録を抹消しなければならない。
株券喪失登録者が、第220条第1項の請求をした場合、会社は、当該期間の末日が株券喪失登録日の翌日から起算して1年を経過する日前に到来するときに限り、その公告をすることができる。

例えば、2009年10月10日に株券喪失登録がされた場合、第220条第1項の期間の末日が2010年10月5日であれば、第220条第1項の公告をすることができる。しかし、2010年10月20日であれば、公告をすることはできない。

株券喪失登録から1年経過すれば、当該株券は無効とされてしまうからである(第228条第1項)。
第230条 【株券喪失登録の効力】

 @ 株券発行会社は、次に掲げる日のいずれか早い日(以下この条において「登録抹消日」という。)までの間は、株券喪失登録がされた株券に係る株式を取得した者の氏名又は名称及び住所を株主名簿に記載し、又は記録することができない。

 1 当該株券喪失登録が抹消された日

 2 株券喪失登録日の翌日から起算して一年を経過した日

 A 株券発行会社は、登録抹消日後でなければ、株券喪失登録がされた株券を再発行することができない。

 B 株券喪失登録者が株券喪失登録をした株券に係る株式の名義人でないときは、当該株式の株主は、登録抹消日までの間は、株主総会又は種類株主総会において議決権を行使することができない。

 C 株券喪失登録がされた株券に係る株式については、第百九十七条第一項の規定による競売又は同条第二項の規定による売却をすることができない。
株券喪失登録がされている株券の株式については、原則的に、名義書換、議決権行使、第197条第1項による競売、第197条第2項による売却をすることはできない(本条第1項、第3項、第4項)。これは、株券発行会社においては株券が株式そのものとして扱われるため、株券喪失登録がされている場合は不完全な権利状態にあり、権利行使を凍結する必要があるためである。

ただし、株券喪失登録者が名義人である場合は、株主総会の議決権行使はすることができる(本条第3項)。
第231条 【株券喪失登録簿の備置き及び閲覧等】

 @ 株券発行会社は、株券喪失登録簿をその本店(株主名簿管理人がある場合にあっては、その営業所)に備え置かなければならない。

 A 何人も、株券発行会社の営業時間内は、いつでも、株券喪失登録簿(利害関係がある部分に限る。)について、次に掲げる請求をすることができる。この場合においては、当該請求の理由を明らかにしてしなければならない。

 1 株券喪失登録簿が書面をもって作成されているときは、当該書面の閲覧又は謄写の請求

 2 株券喪失登録簿が電磁的記録をもって作成されているときは、当該電磁的記録に記録された事項を法務省令で定める方法により表示したものの閲覧又は謄写の請求
株券喪失登録簿は原則として、本店に備え置かなければならない。ただし、株主名簿管理人がいる場合は、その営業所となる。

誰であっても、株券喪失登録簿を閲覧・謄写することができる(第125条第2項から第5項のような株主名簿の閲覧・謄写請求のような制限規定はない)。ただし、その場合は、理由を明らかにしなければならない。
第232条 【株券喪失登録者に対する通知等】

 @ 株券発行会社が株券喪失登録者に対してする通知又は催告は、株券喪失登録簿に記載し、又は記録した当該株券喪失登録者の住所(当該株券喪失登録者が別に通知又は催告を受ける場所又は連絡先を株券発行会社に通知した場合にあっては、その場所又は連絡先)にあてて発すれば足りる。

 A 前項の通知又は催告は、その通知又は催告が通常到達すべきであった時に、到達したものとみなす。
会社が株券喪失登録者に対してする通知や催告は、株券喪失登録簿に記載されてある住所にすればよく、通常到達すべきであった時に到達したものとみなされる。
第233条 【適用除外】

 非訟事件手続法(明治三十一年法律第十四号)第三編の規定は、株券については、適用しない。
会社法は株券失効制度を導入しているため、非訟事件手続法第三編の規定(公示催告、除権決定制度)は適用されない。

従来、株券喪失者の権利救済は、公示催告と除権決定制度による株券再発行という手続きによって行われていた。しかし、費用、公示期間、善意取得制度との関係において問題があったため、会社法では株券失効制度が設けられている、