会社法 条文 会社法 解説
第2編 株式会社

第3章 新株予約権

第4節 新株予約権の譲渡等

第1款 新株予約権の譲渡
第254条 【新株予約権の譲渡】

 @ 新株予約権者は、その有する新株予約権を譲渡することができる。

 A 前項の規定にかかわらず、新株予約権付社債に付された新株予約権のみを譲渡することはできない。ただし、当該新株予約権付社債についての社債が消滅したときは、この限りでない。

 B 新株予約権付社債についての社債のみを譲渡することはできない。ただし、当該新株予約権付社債に付された新株予約権が消滅したときは、この限りでない。
新株予約権者は、原則的に、新株予約権を自由に譲渡することができる(第1項)。これは流動性を確保することにより、商品性を高めるためである。

しかし、新株予約権付社債の場合、新株予約権だけとか社債だけとかを、譲渡することはできない(どちらかが消滅した場合はできる)。新株予約権付社債において、新株予約権と社債は不可分な性質であるためである。
第255条 【証券発行新株予約権の譲渡】

 @ 証券発行新株予約権の譲渡は、当該証券発行新株予約権に係る新株予約権証券を交付しなければ、その効力を生じない。ただし、自己新株予約権(株式会社が有する自己の新株予約権をいう。以下この章において同じ。)の処分による証券発行新株予約権の譲渡については、この限りでない。

 A 証券発行新株予約権付社債に付された新株予約権の譲渡は、当該証券発行新株予約権付社債に係る新株予約権付社債券を交付しなければ、その効力を生じない。ただし、自己新株予約権付社債(株式会社が有する自己の新株予約権付社債をいう。以下この条及び次条において同じ。)の処分による当該自己新株予約権付社債に付された新株予約権の譲渡については、この限りでない。
証券発行新株予約権は、新株予約権を譲渡したとしても、新株予約権証券を交付しなければその効力が生じない(第1項)。新株予約権証券が新株予約権そのものとして扱われるためである。ただし、自己新株予約権の処分による証券発行新株予約権の譲渡は、自己株式の処分と同様に、新株予約権証券を交付しなくても有効とされている(第1項ただし書き)。

証券発行新株予約権付社債に付された新株予約権の譲渡についても、証券発行新株予約権の場合と同様である(第2項)。
第256条 【自己新株予約権の処分に関する特則】

 @ 株式会社は、自己新株予約権(証券発行新株予約権に限る。)を処分した日以後遅滞なく、当該自己新株予約権を取得した者に対し、新株予約権証券を交付しなければならない。

 A 前項の規定にかかわらず、株式会社は、同項の者から請求がある時までは、同項の新株予約権証券を交付しないことができる。

 B 株式会社は、自己新株予約権付社債(証券発行新株予約権付社債に限る。)を処分した日以後遅滞なく、当該自己新株予約権付社債を取得した者に対し、新株予約権付社債券を交付しなければならない。

 C 第六百八十七条の規定は、自己新株予約権付社債の処分による当該自己新株予約権付社債についての社債の譲渡については、適用しない。
自己新株予約権とは、会社が保有している自社の新株予約権のことである。証券発行新株予約権であっても、自己新株予約権について新株予約権証券を発行しないのが普通である。

そのため、新株予約権を発行する会社は、自己新株予約権を処分した場合、当該自己新株予約権を取得した者に対して新株予約権証券を交付しなければならない(第1項)。ただし、当該自己新株予約権の取得者から請求されるまでは交付しなくてもよい(第2項)。

自己新株予約権付社債を処分した場合、当該自己新株予約権付社債の取得者に対して、新株予約権付社債券を交付する必要がある(第3項)。ただし、自己新株予約権付社債の処分による当該自己新株予約権付社債についての社債を譲渡するには、新株予約権付社債券を交付しなくてもよい(第4項)。
第257条 【新株予約権の譲渡の対抗要件】

 @ 新株予約権の譲渡は、その新株予約権を取得した者の氏名又は名称及び住所を新株予約権原簿に記載し、又は記録しなければ、株式会社その他の第三者に対抗することができない。

 A 記名式の新株予約権証券が発行されている証券発行新株予約権及び記名式の新株予約権付社債券が発行されている証券発行新株予約権付社債に付された新株予約権についての前項の規定の適用については、同項中「株式会社その他の第三者」とあるのは、「株式会社」とする。

 B 第一項の規定は、無記名新株予約権及び無記名新株予約権付社債に付された新株予約権については、適用しない。
新株予約権の譲渡において、当事者間での譲渡の合意さえあれば、譲受人は譲渡人に対して新株予約権者であることを主張することができる。しかし、会社や第三者に対しては、新株予約権原簿の名義を書き換えない限り、新株予約権者の地位を主張することはできない(第1項)。ただし、無記名新株予約権と無記名新株予約権付社債に付された新株予約権の譲渡については第1項の規定は適用されない(第3項)。無記名の場合、その性質上、新株予約権原簿は無記名新株予約権の権利変動に関する記載を求めていないからである(第249条第1号、第2号)。つまり、この場合、無記名債権は動産として扱われるという民法の原則通り(民法第86条第3項)、新株予約権証券の占有移転が対抗要件となる(民法第178条)。
第258条 【権利の推定等】

 @ 新株予約権証券の占有者は、当該新株予約権証券に係る証券発行新株予約権についての権利を適法に有するものと推定する。

 A 新株予約権証券の交付を受けた者は、当該新株予約権証券に係る証券発行新株予約権についての権利を取得する。ただし、その者に悪意又は重大な過失があるときは、この限りでない。

 B 新株予約権付社債券の占有者は、当該新株予約権付社債券に係る証券発行新株予約権付社債に付された新株予約権についての権利を適法に有するものと推定する。

 C 新株予約権付社債券の交付を受けた者は、当該新株予約権付社債券に係る証券発行新株予約権付社債に付された新株予約権についての権利を取得する。ただし、その者に悪意又は重大な過失があるときは、この限りでない。
新株予約権証券、新株予約権付社債券の占有者は、正当な権利者であると推定される(第1項、第3項)。しかし、この規定は推定規定であるため、正当な権利者ではないことを証明した場合は別である。例えば、新株予約権証券を盗んだ者が、新株予約権原簿の名義書換を請求してきた場合、会社がその者を正当な新株予約権者ではないと証明すれば、名義書換を拒否することができる。

新株予約権証券、新株予約権付社債券の交付を受けた者は、悪意または重過失がない限り、新株予約権者としての権利を取得することができる(第2項、第4項)。これを善意取得という。

新株予約権の譲渡において、譲渡人が本当の新株予約権者ではなかった場合、本来であればその譲渡は無効である。しかし、それでは何も知らずに新株予約権を譲り受けた者が不測の損害を被ることとなる。会社法ではこのようなことが起こらないように、正当な権利者と推定される者から新株予約権などを譲渡された者は、その譲渡人が本当の新株予約権者でなかったとしても、新株予約権者としての権利を取得するものとしている。
第259条 【新株予約権者の請求によらない新株予約権原簿記載事項の記載又は記録】

 @ 株式会社は、次の各号に掲げる場合には、当該各号の新株予約権の新株予約権者に係る新株予約権原簿記載事項を新株予約権原簿に記載し、又は記録しなければならない。

 1 当該株式会社の新株予約権を取得した場合

 2 自己新株予約権を処分した場合

 A 前項の規定は、無記名新株予約権及び無記名新株予約権付社債に付された新株予約権については、適用しない。
新株予約権を発行する会社は、自社の新株予約権を取得した場合(第1項第1号)、自己新株予約権を処分した場合(第1項第2号)には、関係する新株予約権原簿記載事項を新株予約権原簿に記載・記録しなければならない(第1項)。これは、新株予約権原簿の正確性を担保するためである。ただし、第1項は無記名新株予約権と無記名新株予約権付社債に付された新株予約権については適用しない(第2項)。無記名の場合、その性質上、新株予約権原簿は無記名新株予約権の権利変動に関する記載を求めていないからである(第249条第1号、第2号)。
第260条 【新株予約権者の請求による新株予約権原簿記載事項の記載又は記録】

 @ 新株予約権を当該新株予約権を発行した株式会社以外の者から取得した者(当該株式会社を除く。以下この節において「新株予約権取得者」という。)は、当該株式会社に対し、当該新株予約権に係る新株予約権原簿記載事項を新株予約権原簿に記載し、又は記録することを請求することができる。

 A 前項の規定による請求は、利害関係人の利益を害するおそれがないものとして法務省令で定める場合を除き、その取得した新株予約権の新株予約権者として新株予約権原簿に記載され、若しくは記録された者又はその相続人その他の一般承継人と共同してしなければならない。

 B 前二項の規定は、無記名新株予約権及び無記名新株予約権付社債に付された新株予約権については、適用しない。
本条と次条は、新株予約権原簿の名義書換請求についての規定である。

新株予約権を、当該新株予約権を発行した会社以外から取得した者は、会社に対して、当該新株予約権に関する新株予約権原簿記載事項を新株予約権原簿に記載するよう請求できる(第1項)。

新株予約権を譲り受けたということを会社に対して主張し、新株予約権者としての権利を行使するには、新株予約権原簿の名義を書換なければならない(第257条第1項)。

本条第1項の請求は、法務省令で定める一定の場合を除いて、新株予約権原簿に記載された新株予約権の譲渡人と共同でしなければならない(第2項)。これは、新株予約権の譲渡の事実を明確にするためである。

ただし、第1項と第2項の規定は、無記名新株予約権と無記名新株予約権付社債に付された新株予約権については適用されない(第3項)。無記名の場合、その性質上、新株予約権原簿は無記名新株予約権の権利変動に関する記載を求めていないからである(第249条第1号、第2号)。
第261条 【新株予約権者の請求による新株予約権原簿記載事項の記載又は記録 その2】

 前条の規定は、新株予約権取得者が取得した新株予約権が譲渡制限新株予約権である場合には、適用しない。ただし、次のいずれかに該当する場合は、この限りでない。

 1 当該新株予約権取得者が当該譲渡制限新株予約権を取得することについて次条の承認を受けていること。

 2 当該新株予約権取得者が当該譲渡制限新株予約権を取得したことについて第二百六十三条第一項の承認を受けていること。

 3 当該新株予約権取得者が相続その他の一般承継により譲渡制限新株予約権を取得した者であること。
新株予約権を、当該新株予約権を発行した会社以外から取得した者は、会社に対して、当該新株予約権に関する新株予約権原簿記載事項を新株予約権原簿に記載するよう請求できる(第260条第1項)。

しかし、譲渡制限新株予約権の場合、この請求をすることができない。これは、譲渡制限新株予約権の場合、通常は新たな新株予約権者の出現を想定していないためである。ただし、譲渡による取得について会社の承認(第262条、第263条第1項)がある場合(本条第1号、第2号)には、新株予約権者名簿の名義書換請求をすることができる。会社が承認している場合、会社にとって不都合な点がないためである。

また、相続等によって譲渡制限新株予約権を取得した者も新株予約権者名簿の名義書換請求をすることができる(第3号)。相続人は被相続人である前新株予約権者と実質的には同一の地位にあるといえるためである。