会社法 条文 会社法 解説
第2編 株式会社

第3章 新株予約権

第4節 新株予約権の譲渡等

第3款 新株予約権の質入れ
AがBにお金を貸すとき、Bが所有物に質権を設定したとする。この場合、お金を貸したAを質権者、お金を借りたBを質権設定者という。

質権については、民法の以下の部分も参照。
第1節 総則 第342条〜第351条
第2節 動産質 第352条〜第355条
第3節 不動産質 第356条〜第361条
第4節 権利質 第362条〜第368条
第267条 【新株予約権の質入れ】

 @ 新株予約権者は、その有する新株予約権に質権を設定することができる。

 A 前項の規定にかかわらず、新株予約権付社債に付された新株予約権のみに質権を設定することはできない。ただし、当該新株予約権付社債についての社債が消滅したときは、この限りでない。

 B 新株予約権付社債についての社債のみに質権を設定することはできない。ただし、当該新株予約権付社債に付された新株予約権が消滅したときは、この限りでない。

 C 証券発行新株予約権の質入れは、当該証券発行新株予約権に係る新株予約権証券を交付しなければ、その効力を生じない。

 D 証券発行新株予約権付社債に付された新株予約権の質入れは、当該証券発行新株予約権付社債に係る新株予約権付社債券を交付しなければ、その効力を生じない。
新株予約権者は、新株予約権に質権を設定することができる(第1項)。

ただし、新株予約権付社債の社債部分が消滅しない限り、新株予約権付社債の新株予約権のみに質権を設定することはできない(第2項)。また、逆に、新株予約権付社債の新株予約権部分が消滅しない限り、新株予約権付社債の社債のみに質権を設定することはできない(第3項)。新株予約権付社債において、新株予約権と社債は不可分的な性質を有しているためである。

また、証券発行新株予約権の質入は、新株予約権証券を交付しなければ、効力を生じない(第4項)。これは、新株予約権証券が新株予約権そのものとして扱われるためである。同様に、証券発行新株予約権付社債の新株予約権の質入は、新株予約権付社債を交付しなければ、効力を生じない(第5項)。
第268条 【新株予約権の質入れの対抗要件】

 @ 新株予約権の質入れは、その質権者の氏名又は名称及び住所を新株予約権原簿に記載し、又は記録しなければ、株式会社その他の第三者に対抗することができない。

 A 前項の規定にかかわらず、証券発行新株予約権の質権者は、継続して当該証券発行新株予約権に係る新株予約権証券を占有しなければ、その質権をもって株式会社その他の第三者に対抗することができない。

 B 第一項の規定にかかわらず、証券発行新株予約権付社債に付された新株予約権の質権者は、継続して当該証券発行新株予約権付社債に係る新株予約権付社債券を占有しなければ、その質権をもって株式会社その他の第三者に対抗することができない。
本条は、新株予約権を質入した場合の、第三者に対する対抗要件についての規定である。

第268条 質入したもの 対抗要件
第1項 新株予約権 質権者の氏名・名称と住所を新株予約権原簿に記載・記録すること。
第2項 証券発行新株予約権 新株予約権証券の占有
第3項 証券発行新株予約権付社債 新株予約権付社債券の占有
第269条 【新株予約権原簿の記載等】

 @ 新株予約権に質権を設定した者は、株式会社に対し、次に掲げる事項を新株予約権原簿に記載し、又は記録することを請求することができる。

 1 質権者の氏名又は名称及び住所

 2 質権の目的である新株予約権

 A 前項の規定は、無記名新株予約権及び無記名新株予約権付社債に付された新株予約権については、適用しない。
新株予約権に質権を設定した新株予約権者は、会社に対して、質権者の氏名・名称と住所、質権の目的である新株予約権を新株予約権原簿に記載・記録するよう請求することができる。

登録質については、新株予約権者名簿への記載が第三者対抗要件とされているので(第268条第1項)、第三者に質権を主張しようとする場合、この請求権が重要な意味を持つ。

ただし、第1項の規定は、無記名新株予約権と無記名新株予約権付社債の新株予約権については適用されない。無記名の場合、その性質上、新株予約権原簿は無記名新株予約権の権利変動に関する記載を求めていないからである(第249条第1号、第2号)。
第270条 【新株予約権原簿の記載事項を記載した書面の交付等】

 @ 前条第一項各号に掲げる事項が新株予約権原簿に記載され、又は記録された質権者(以下「登録新株予約権質権者」という。)は、株式会社に対し、当該登録新株予約権質権者についての新株予約権原簿に記載され、若しくは記録された同項各号に掲げる事項を記載した書面の交付又は当該事項を記録した電磁的記録の提供を請求することができる。

 A 前項の書面には、株式会社の代表取締役(委員会設置会社にあっては、代表執行役。次項において同じ。)が署名し、又は記名押印しなければならない。

 B 第一項の電磁的記録には、株式会社の代表取締役が法務省令で定める署名又は記名押印に代わる措置をとらなければならない。

 C 前三項の規定は、証券発行新株予約権及び証券発行新株予約権付社債に付された新株予約権については、適用しない。
質権者の氏名・名称と住所、質権の目的である新株予約権が新株予約権原簿に記載・記録された質権者(登録新株予約権質権者)は、会社に対して、新株予約権者原簿に記載・記録された第269条各号に掲げる事項を記載した書面等の交付を請求することができる(第1項)。登録新株予約権質権者であることの証明等に用いるためである。

ただし、証券発行新株予約権と証券発行新株予約権付社債の新株予約権については、書面等を請求することはできない(第4項)。第三者に対する対抗要件は新株予約権証券と新株予約権付社債券の占有だからである(第268条)
第271条 【登録新株予約権質権者に対する通知等】

 @ 株式会社が登録新株予約権質権者に対してする通知又は催告は、新株予約権原簿に記載し、又は記録した当該登録新株予約権質権者の住所(当該登録新株予約権質権者が別に通知又は催告を受ける場所又は連絡先を当該株式会社に通知した場合にあっては、その場所又は連絡先)にあてて発すれば足りる。

 A 前項の通知又は催告は、その通知又は催告が通常到達すべきであった時に、到達したものとみなす。
会社が登録新株予約権質権者に対して通知や催告をする場合、新株予約権原簿に記載・記録してある住所に宛てて発送すればよい(第1項)。この場合、通常到達すべきであった時に到達したものとみなされる(第2項)。
第272条 【新株予約権の質入れの効果】

 @ 株式会社が次に掲げる行為をした場合には、新株予約権を目的とする質権は、当該行為によって当該新株予約権の新株予約権者が受けることのできる金銭等について存在する。

 1 新株予約権の取得

 2 組織変更

 3 合併(合併により当該株式会社が消滅する場合に限る。)

 4 吸収分割

 5 新設分割

 6 株式交換

 7 株式移転

 A 登録新株予約権質権者は、前項の金銭等(金銭に限る。)を受領し、他の債権者に先立って自己の債権の弁済に充てることができる。

 B 前項の債権の弁済期が到来していないときは、登録新株予約権質権者は、株式会社に同項に規定する金銭等に相当する金額を供託させることができる。この場合において、質権は、その供託金について存在する。

 C 新株予約権付社債に付された新株予約権(第二百三十六条第一項第三号の財産が当該新株予約権付社債についての社債であるものであって、当該社債の償還額が当該新株予約権についての同項第二号の価額以上であるものに限る。)を目的とする質権は、当該新株予約権の行使をすることにより当該新株予約権の新株予約権者が交付を受ける株式について存在する。
本条は、新株予約権に設定した質権の物上代位権についての規定である。物上代位については、民法の以下の部分を参照。
第295条〜第302条

質権を設定した新株予約権に本条第1項各号の事由が生じた場合、質権はこれらの事由により新株予約権者が受けることのできる金銭等にも存在することになる(第1項)。

登録新株予約権質権者は、第1項各号の事由が生じ、質権設定者である株主が対価として金銭を受領した場合、他の債権者に優先して自己の債権の弁済に充てることができる(第2項)。つまり、優先弁済的効力が認められている。ただし、質権が担保している債権の弁済期が到来していない場合、質権設定者は期限の利益を有している以上、当該金銭を債務の弁済に充当することはできない。

しかし、金銭をそのまま放置しておけば、登録新株予約権質権者は優先弁済権を有しているにもかかわらず、他の債権に弁済されてしまう危険性がある。このようなことを防ぐために、会社に当該金銭に相当する金額を供託させることができる(第3項)。そして、この供託金に質権が存在することになる。