会社法 条文 会社法 解説
第2編 株式会社

第3章 新株予約権

第7節 新株予約権の行使

第3款 責任
第285条 【不公正な払込金額で新株予約権を引き受けた者等の責任】

 @ 新株予約権を行使した新株予約権者は、次の各号に掲げる場合には、株式会社に対し、当該各号に定める額を支払う義務を負う。

 1 第二百三十八条第一項第二号に規定する場合において、募集新株予約権につき金銭の払込みを要しないこととすることが著しく不公正な条件であるとき(取締役(委員会設置会社にあっては、取締役又は執行役。次号において同じ。)と通じて新株予約権を引き受けた場合に限る。) 当該新株予約権の公正な価額

 2 第二百三十八条第一項第三号に規定する場合において、取締役と通じて著しく不公正な払込金額で新株予約権を引き受けたとき 当該払込金額と当該新株予約権の公正な価額との差額に相当する金額

 3 第二百八十二条の規定により株主となった時におけるその給付した現物出資財産の価額がこれについて定められた第二百三十六条第一項第三号の価額に著しく不足する場合 当該不足額

 A 前項第三号に掲げる場合において、現物出資財産を給付した新株予約権者が当該現物出資財産の価額がこれについて定められた第二百三十六条第一項第三号の価額に著しく不足することにつき善意でかつ重大な過失がないときは、新株予約権の行使に係る意思表示を取り消すことができる。
本条は、新株予約権を行使した場合の新株予約権者の差額支払い義務についての規定である。

新株予約権を取締役と通じて無償で引き受けた場合において、金銭の払込みを要しないこととする条件が著しく不公正なとき、新株予約権者は公正な価額を支払わなければならない(第1項第1号)。

取締役と通謀して著しく不公正な払い込み金額で新株予約権を引き受けたとき、公正な価額との差額を支払わなければならない(第1項第2号)。

現物出資の財産が、募集事項が定める価額(第236条第1項第3号)から著しく不足する場合、その不足額を支払わなければならない(第1項第3号)。ただし、この場合、新株予約権者が善意であり重過失がなかったときは、新株予約権行使の意思表示を取り消すことができる(第2項)。

第1項各号は、会社財産の確保と出資の履行が確実になされることを担保する趣旨の規定である。

第286条 【出資された財産等の価額が不足する場合の取締役等の責任】

 @ 前条第一項第三号に掲げる場合には、次に掲げる者(以下この条において「取締役等」という。)は、株式会社に対し、同号に定める額を支払う義務を負う。

 1 当該新株予約権者の募集に関する職務を行った業務執行取締役(委員会設置会社にあっては、執行役。以下この号において同じ。)その他当該業務執行取締役の行う業務の執行に職務上関与した者として法務省令で定めるもの

 2 現物出資財産の価額の決定に関する株主総会の決議があったときは、当該株主総会に議案を提案した取締役として法務省令で定めるもの

 3 現物出資財産の価額の決定に関する取締役会の決議があったときは、当該取締役会に議案を提案した取締役(委員会設置会社にあっては、取締役又は執行役)として法務省令で定めるもの

 A 前項の規定にかかわらず、次に掲げる場合には、取締役等は、現物出資財産について同項の義務を負わない。

 1 現物出資財産の価額について第二百八十四条第二項の検査役の調査を経た場合

 2 当該取締役等がその職務を行うについて注意を怠らなかったことを証明した場合

 B 第一項に規定する場合には、第二百八十四条第九項第四号に規定する証明をした者(以下この条において「証明者」という。)は、株式会社に対し前条第一項第三号に定める額を支払う義務を負う。ただし、当該証明者が当該証明をするについて注意を怠らなかったことを証明したときは、この限りでない。

 C 新株予約権者がその給付した現物出資財産についての前条第一項第三号に定める額を支払う義務を負う場合において、次に掲げる者が当該現物出資財産について当該各号に定める義務を負うときは、これらの者は、連帯債務者とする。

 1 取締役等 第一項の義務

 2 証明者 前項本文の義務
新株予約権の引受人が給付した現物出資財産の価額が、募集事項の定める事項(第236条第1項第3号)に著しく不足する場合(第285条第1項第3号)、取締役等は不足額を会社に支払う連帯責任を負う(第1項、第4項第1号)。差額支払い義務を取締役等にも課すことによって、会社財産の確保と出資の履行が確実になされることを担保する趣旨の規定である。

ただし、現物出資財産等について、検査役の調査を受けたとき(第2項第1号)、現物出資財産の不足について無過失を証明したとき(第2項第2号)、取締役等は責任を免れることができる。

また、現物出資財産等の証明や鑑定評価をした者も取締役等と同等の差額支払い義務を負う(第3項、第4項第2号)。ただし、これらの者が、現物出資財産の不足について無過失を証明したときは、責任を免れることができる(第3項ただし書き)。