会社法 条文 会社法 解説
第2編 株式会社

第3章 新株予約権

第8節 新株予約権に係る証券

第3款 新株予約権証券等の提出
第293条 【新株予約権証券の提出に関する公告等】

 @ 株式会社が次の各号に掲げる行為をする場合において、当該各号に定める新株予約権に係る新株予約権証券(当該新株予約権が新株予約権付社債に付されたものである場合にあっては、当該新株予約権付社債に係る新株予約権付社債券。以下この款において同じ。)を発行しているときは、当該株式会社は、当該行為の効力が生ずる日までに当該株式会社に対し当該新株予約権証券を提出しなければならない旨を当該日の一箇月前までに、公告し、かつ、当該新株予約権の新株予約権者及びその登録新株予約権質権者には、各別にこれを通知しなければならない。

 1 取得条項付新株予約権の取得 当該取得条項付新株予約権

 2 組織変更 全部の新株予約権

 3 合併(合併により当該株式会社が消滅する場合に限る。) 全部の新株予約権

 4 吸収分割 第七百五十八条第五号イに規定する吸収分割契約新株予約権

 5 新設分割 第七百六十三条第十号イに規定する新設分割計画新株予約権

 6 株式交換 第七百六十八条第一項第四号イに規定する株式交換契約新株予約権

 7 株式移転 第七百七十三条第一項第九号イに規定する株式移転計画新株予約権

 A 株式会社は、前項各号に掲げる行為の効力が生ずる日までに当該株式会社に対して新株予約権証券を提出しない者があるときは、当該新株予約権証券の提出があるまでの間、当該行為によって当該新株予約権証券に係る新株予約権の新株予約権者が交付を受けることができる金銭等の交付を拒むことができる。

 B 第一項各号に定める新株予約権に係る新株予約権証券は、同項各号に掲げる行為の効力が生ずる日に無効となる。

 C 第二百二十条の規定は、第一項各号に掲げる行為をした場合において、新株予約権証券を提出することができない者があるときについて準用する。
会社が、本条第1項各号に掲げる行為を行う場合、それに関連する新株予約権について新株予約権証券・新株予約権付社債券を発行しているときは、その保有者は当該新株予約権証券・新株予約権付社債券を提出しなければならない(第1項)。本条第1項各号に掲げる行為の場合、新たに新株予約権証券・新株予約権付社債券が発行されるからである。

そして、会社は、本条第1項各号の行為の効力発生日までに新株予約権証券・新株予約権付社債券を提出するように公告しなければならない(この公告は効力発生日の1ヶ月前までにしなければならない)。さらに、新株予約権者と登録新株予約権質権者には、通知もしなければならない。提出された新株予約権証券・新株予約権付社債券は効力発生日に無効となる(第3項)。

会社は、効力発生日までに提出をしない新株予約権者等に対して、提出があるまで新株予約権者等が受領できる金銭等の交付を拒むことができる(第2項)。

何らかの理由により当該行為の効力発生日までに株券を提出できない株主がいる可能性がある。このような場合、会社は、その者の請求により、利害関係人に対して異議があれば一定の期間内にこれを述べることができる旨を公告することができる。株券の不提出に利害関係を有する利害関係人に異議申し立てを行う機会を確保するためである。そして、利害関係人が異議を述べなかった場合には、会社は、この請求者に対して、第3項により交付を止めていた金銭等を交付することができる(第4項)。
第294条 【無記名式の新株予約権証券等が提出されない場合】

 @ 第百三十二条の規定にかかわらず、前条第一項第一号に掲げる行為をする場合(株式会社が新株予約権を取得するのと引換えに当該新株予約権の新株予約権者に対して当該株式会社の株式を交付する場合に限る。)において、同項の規定により新株予約権証券(無記名式のものに限る。以下この条において同じ。)が提出されないときは、株式会社は、当該新株予約権証券を有する者が交付を受けることができる株式に係る第百二十一条第一号に掲げる事項を株主名簿に記載し、又は記録することを要しない。

 A 前項に規定する場合には、株式会社は、前条第一項の規定により提出しなければならない新株予約権証券を有する者が交付を受けることができる株式の株主に対する通知又は催告をすることを要しない。

 B 第二百四十九条及び第二百五十九条第一項の規定にかかわらず、前条第一項第一号に掲げる行為をする場合(株式会社が新株予約権を取得するのと引換えに当該新株予約権の新株予約権者に対して当該株式会社の他の新株予約権(新株予約権付社債に付されたものを除く。)を交付する場合に限る。)において、同項の規定により新株予約権証券が提出されないときは、株式会社は、当該新株予約権証券を有する者が交付を受けることができる当該他の新株予約権(無記名新株予約権を除く。)に係る第二百四十九条第三号イに掲げる事項を新株予約権原簿に記載し、又は記録することを要しない。

 C 前項に規定する場合には、株式会社は、前条第一項の規定により提出しなければならない新株予約権証券を有する者が交付を受けることができる新株予約権の新株予約権者に対する通知又は催告をすることを要しない。

 D 第二百四十九条及び第二百五十九条第一項の規定にかかわらず、前条第一項第一号に掲げる行為をする場合(株式会社が新株予約権を取得するのと引換えに当該新株予約権の新株予約権者に対して当該株式会社の新株予約権付社債を交付する場合に限る。)において、同項の規定により新株予約権証券が提出されないときは、株式会社は、当該新株予約権証券を有する者が交付を受けることができる新株予約権付社債(無記名新株予約権付社債を除く。)に付された新株予約権に係る第二百四十九条第三号イに掲げる事項を新株予約権原簿に記載し、又は記録することを要しない。

 E 前項に規定する場合には、株式会社は、前条第一項の規定により提出しなければならない新株予約権証券を有する者が交付を受けることができる新株予約権付社債に付された新株予約権の新株予約権者に対する通知又は催告をすることを要しない。
本条は、会社が第293条第1項第1号に掲げる行為をする場合において、無記名式の新株予約権の提出の特例について規定している。

会社が株式を発行したり自己株式を処分したりする場合、原則的には、株主の氏名・名称や住所など、その株式に関する株主名簿記載事項を株主名簿に記載しなければならない(第132条)。

しかし、第293条第1項第1号に掲げる行為をする場合、無記名式の新株予約権証券が提出されないとき、会社は、当該新株予約権証券を有する者が交付を受けることができる株式について、株主の氏名・名称と住所(第121条第1号)を株主名簿に記載する必要はない(本条第2項)。無記名式の新株予約権証券の券面上には、新株予約権者の氏名や住所が表示されないため、記載することができないからである。また、同様に、当該新株予約権証券の保有者が交付を受けることができる株式の株主に対する通知や催告も不要とされている(本条第2項)。

本条の第1項と第2項と同様の趣旨の規定は、当該無記名式新株予約権証券を有する者が交付を受けることができる他の新株予約権(第3項、第4項)、新株予約権社債(第5項、第6項)についても置かれている。