会社法 条文 会社法 解説
第2編 株式会社

第4章 機関

第10節 委員会及び執行役

第5款 執行役の権限等
第418条 【執行役の権限】

 執行役は、次に掲げる職務を行う。

 1 第四百十六条第四項の規定による取締役会の決議によって委任を受けた委員会設置会社の業務の執行の決定

 2 委員会設置会社の業務の執行
取締役会設置会社では、原則として、取締役会が業務執行を決定し、取締役が業務を執行する(362条第1項第2号、第348条第1項)。

しかし、委員会設置会社では、執行役が取締役会の決議により委任を受けた業務の執行を決定し、業務を執行する(本条)。執行役と委員会設置会社の関係は委任関係である(第402条第3項)。そのため、執行役は善管注意義務を負う(第402条第3項、民法第644条)。
第419条 【執行役の監査委員に対する報告義務等】

 @ 執行役は、委員会設置会社に著しい損害を及ぼすおそれのある事実を発見したときは、直ちに、当該事実を監査委員に報告しなければならない。

 A 第三百五十五条、第三百五十六条及び第三百六十五条第二項の規定は、執行役について準用する。この場合において、第三百五十六条第一項中「株主総会」とあるのは「取締役会」と、第三百六十五条第二項中「取締役会設置会社においては、第三百五十六条第一項各号」とあるのは「第三百五十六条第一項各号」と読み替えるものとする。

 B 第三百五十七条の規定は、委員会設置会社については、適用しない。
執行役は、委員会設置会社に著しい損害を及ぼす可能性のある事実を発見したときは、すぐにその事実を監査委員に報告しなければならない(第1項)。

委員会設置会社の業務執行は執行役が担うため、執行役には取締役と同様に、忠実義務、競業避止義務を負う。また、利益相反取引の制限も受ける(第2項)。

取締役は会社に著しい損害を及ぼす可能性のある事実を発見したときは、すぐにその事実を株主に報告しなければならない(第357条)。しかし、委員会設置会社では執行役が業務執行を担うため、取締役は業務執行を直接担当することはない。そのため、委員会設置会社の取締役はこのような報告義務を負わない(第3項)。
第420条 【代表執行役】

 @ 取締役会は、執行役の中から代表執行役を選定しなければならない。この場合において、執行役が一人のときは、その者が代表執行役に選定されたものとする。

 A 代表執行役は、いつでも、取締役会の決議によって解職することができる。

 B 第三百四十九条第四項及び第五項の規定は代表執行役について、第三百五十二条の規定は民事保全法第五十六条に規定する仮処分命令により選任された執行役又は代表執行役の職務を代行する者について、第四百一条第二項から第四項までの規定は代表執行役が欠けた場合又は定款で定めた代表執行役の員数が欠けた場合について、それぞれ準用する。
取締役会は、執行役の中から代表執行役を選ばなければならない。代表執行役とは、会社を代表する執行役のことである。もし、執行役が一人だけの場合は、自動的にその執行役が代表執行役となる。

代表執行役は、いつでも、取締役会の決議により解職することができる。これは取締役会の監督機能を実効化するためである。

代表執行役は、会社の業務に関する一切の裁判上または裁判外の行為をする権限をもつ。この包括的な権限が代表執行役の特徴である。この包括的な権限があるため、代表権に加えた制限は、善意の第三者に対して主張することはできない。

民事保全法第56条により執行役・代表執行役の職務代行者が選任された場合、この代行者は、仮処分命令に別の定めがある場合を除き、会社の常務(会社として日常行われる通常の業務)に属しない行為をするには、裁判所の許可を得なければならない。もし、裁判所の許可を得ていない場合は無効となる。ただし、この場合でも、善意の第三者に対しては主張することはできない。

代表執行役が解職などされた場合、または定款の定める員数を下回った場合、前の代表執行役は、新たに代表執行役が就任するまで、代表執行役としての権限をもつ。また、裁判所は、利害関係人からの申し立てにより、一時代表執行役の職務を行うべき者を選任することができる。
第421条 【表見代表執行役】

 委員会設置会社は、代表執行役以外の執行役に社長、副社長その他委員会設置会社を代表する権限を有するものと認められる名称を付した場合には、当該執行役がした行為について、善意の第三者に対してその責任を負う。
表見代表執行役とは、社長や副社長など会社を代表する権限を有するであろう名称を付されているが、実際には代表権を有していない執行役のことである。

普通であれば、委員会設置会社の社長は代表執行役である。そのため、外部の者が代表執行役ではない委員会設置会社の社長(表見代表執行役)を見れば、代表執行役だと誤認してしまうおそれがある。このような場合、その外部の者が善意の第三者であれば(代表執行役ではないと知らなかった場合)、表見代表執行役がした行為については委員会設置会社が責任を負う。

本条は、表見代表取締役と同様の制度である(第354条)。
第422条 【株主による執行役の行為の差止め】

 @ 六箇月(これを下回る期間を定款で定めた場合にあっては、その期間)前から引き続き株式を有する株主は、執行役が委員会設置会社の目的の範囲外の行為その他法令若しくは定款に違反する行為をし、又はこれらの行為をするおそれがある場合において、当該行為によって当該委員会設置会社に回復することができない損害が生ずるおそれがあるときは、当該執行役に対し、当該行為をやめることを請求することができる。

 A 公開会社でない委員会設置会社における前項の規定の適用については、同項中「六箇月(これを下回る期間を定款で定めた場合にあっては、その期間)前から引き続き株式を有する株主」とあるのは、「株主」とする。
本条は、株主の執行役に対する違法行為差止請求権についての規定である。

6ヶ月前(定款によりさらに短い期間にすることもできる)から株式を保有している株主は、執行役が委員会設置会社の目的の範囲外の行為その他法令若しくは定款に違反する行為をし、又はこれらの行為をするおそれがある場合において、会社に回復することができない損害が生ずるおそれがあるときは、当該執行役に対し、当該行為をやめることを請求することができる。

本来であれば、会社が執行役に対してやめるよう請求すべきであるが、馴れ合いなどにより行われない場合もあるため、株主にも差止請求権が認められている。

非公開会社においては、6ヶ月という期間は設けられていない。