会社法 条文 会社法 解説
第2編 株式会社

第4章 機関

第11節 役員等の損害賠償責任
第423条 【役員等の株式会社に対する損害賠償責任】

 @ 取締役、会計参与、監査役、執行役又は会計監査人(以下この節において「役員等」という。)は、その任務を怠ったときは、株式会社に対し、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

 A 取締役又は執行役が第三百五十六条第一項(第四百十九条第二項において準用する場合を含む。以下この項において同じ。)の規定に違反して第三百五十六条第一項第一号の取引をしたときは、当該取引によって取締役、執行役又は第三者が得た利益の額は、前項の損害の額と推定する。

 B 第三百五十六条第一項第二号又は第三号(これらの規定を第四百十九条第二項において準用する場合を含む。)の取引によって株式会社に損害が生じたときは、次に掲げる取締役又は執行役は、その任務を怠ったものと推定する。

 1 第三百五十六条第一項(第四百十九条第二項において準用する場合を含む。)の取締役又は執行役

 2 株式会社が当該取引をすることを決定した取締役又は執行役

 3 当該取引に関する取締役会の承認の決議に賛成した取締役(委員会設置会社においては、当該取引が委員会設置会社と取締役との間の取引又は委員会設置会社と取締役との利益が相反する取引である場合に限る。)
会社と役員等(取締役、会計参与、監査役、執行役、会計監査人)の関係は、委任に関する規定に従うため(第330条、第402条第3項)、役員等は会社に対して善管注意義務(民法第644条)を負う。また、取締役は会社に対して忠実義務も負う(第355条)。

そのため、役員等は、法律や定款に違反した場合はもちろんのこと、一般的な善管注意義務・忠実義務に違反して会社に損害を与えた場合も、民法上の債務不履行の一般原則(民法第415条)によって会社に対して損害賠償責任を負うことになるはずである。しかし、会社法ではこれらだけではなく、役員等の任務懈怠に対する損害賠償責任についても特別の規定を設けている(本条第1項)。

また、取締役・執行役が株主総会の承認を得ずに、自己または第三者のために会社の事業の部類に属する取引を行った場合、取締役または第三者が得た利益の額は、会社の被った被害の額であると推定される(本条第2項)。

取締役・執行役と会社との間の利益相反取引により会社が損害を被った場合、取締役・執行役が株主総会で承認を得ていても、当該取引を行った取締役、会社が当該取引をすることを決定した取締役・執行役、当該取引に関する取締役会の承認決議に賛成した取締役には、任務懈怠が推定される(本条第3項)。
第424条 【株式会社に対する損害賠償責任の免除】

 前条第一項の責任は、総株主の同意がなければ、免除することができない。
役員等の任務懈怠責任(第423条第1項)は、総株主の同意がなければ免除することができない。責任の免除は会社の業務執行の一部といえるため、理論的には取締役会の権限のはずである。

しかし、取締役会により恣意的に責任が免除されてしまう可能性もあるため、総株主の同意が必要とされている。
第425条 【責任の一部免除】

 @ 前条の規定にかかわらず、第四百二十三条第一項の責任は、当該役員等が職務を行うにつき善意でかつ重大な過失がないときは、賠償の責任を負う額から次に掲げる額の合計額(第四百二十七条第一項において「最低責任限度額」という。)を控除して得た額を限度として、株主総会の決議によって免除することができる。

 1 当該役員等がその在職中に株式会社から職務執行の対価として受け、又は受けるべき財産上の利益の一年間当たりの額に相当する額として法務省令で定める方法により算定される額に、次のイからハまでに掲げる役員等の区分に応じ、当該イからハまでに定める数を乗じて得た額

  イ 代表取締役又は代表執行役 六

  ロ 代表取締役以外の取締役(社外取締役を除く。)又は代表執行役以外の執行役 四

  ハ 社外取締役、会計参与、監査役又は会計監査人 二

 2 当該役員等が当該株式会社の新株予約権を引き受けた場合(第二百三十八条第三項各号に掲げる場合に限る。)における当該新株予約権に関する財産上の利益に相当する額として法務省令で定める方法により算定される額

 A 前項の場合には、取締役は、同項の株主総会において次に掲げる事項を開示しなければならない。

 1 責任の原因となった事実及び賠償の責任を負う額

 2 前項の規定により免除することができる額の限度及びその算定の根拠

 3 責任を免除すべき理由及び免除額

 B 監査役設置会社又は委員会設置会社においては、取締役は、第四百二十三条第一項の責任の免除(取締役(監査委員であるものを除く。)及び執行役の責任の免除に限る。)に関する議案を株主総会に提出するには、次の各号に掲げる株式会社の区分に応じ、当該各号に定める者の同意を得なければならない。

 1 監査役設置会社 監査役(監査役が二人以上ある場合にあっては、各監査役)

 2 委員会設置会社 各監査委員

 C 第一項の決議があった場合において、株式会社が当該決議後に同項の役員等に対し退職慰労金その他の法務省令で定める財産上の利益を与えるときは、株主総会の承認を受けなければならない。当該役員等が同項第二号の新株予約権を当該決議後に行使し、又は譲渡するときも同様とする。

 D 第一項の決議があった場合において、当該役員等が前項の新株予約権を表示する新株予約権証券を所持するときは、当該役員等は、遅滞なく、当該新株予約権証券を株式会社に対し預託しなければならない。この場合において、当該役員等は、同項の譲渡について同項の承認を受けた後でなければ、当該新株予約権証券の返還を求めることができない。
役員等の任務懈怠責任は、総株主の同意がなければ免除することができない(第424条)。ただし、総株主の同意がなくても、その役員等が職務を行うにつき善意無重過失である場合、最低責任限度額(賠償責任額−本条第1項第1号と第2号の合計額)を限度として、株主総会の特別決議により免除することができる。

株主総会において一部免除に関する決議をする場合、株主に対する情報提供のために、取締役は、責任の原因となった事実・賠償責任を負う額・免除できる額の限度・算定の根拠・責任を免除する理由・免除額を、株主総会において開示しなければならない。

取締役がこのような責任の一部を免除する議案を株主総会に提出するにあたっては、監査役会設置会社では監査役、委員会設置会社では監査委員全員の同意を得なければならない。

株主総会において、一部免除の決議がされた場合、会社がその決意後に当該役員等に対して退職慰労金その他法務省令で定める財産上の利益を与えるときは、株主総会の承認が必要となる。当該役員等が新株予約権をその決議後に行使・譲渡するときも同様である。また、当該社外取締役等が新株予約権証券を所持するときは、すぐにその新株予約権証券を会社に預託しなければならず、当該社外取締役等が、当該新株予約権を譲渡するためにその新株予約権証券の返還を求めるには、株主総会の承認が必要である。
第426条 【取締役等による免除に関する定款の定め】

 @ 第四百二十四条の規定にかかわらず、監査役設置会社(取締役が二人以上ある場合に限る。)又は委員会設置会社は、第四百二十三条第一項の責任について、当該役員等が職務を行うにつき善意でかつ重大な過失がない場合において、責任の原因となった事実の内容、当該役員等の職務の執行の状況その他の事情を勘案して特に必要と認めるときは、前条第一項の規定により免除することができる額を限度として取締役(当該責任を負う取締役を除く。)の過半数の同意(取締役会設置会社にあっては、取締役会の決議)によって免除することができる旨を定款で定めることができる。

 A 前条第三項の規定は、定款を変更して前項の規定による定款の定め(取締役(監査委員であるものを除く。)及び執行役の責任を免除することができる旨の定めに限る。)を設ける議案を株主総会に提出する場合、同項の規定による定款の定めに基づく責任の免除(取締役(監査委員であるものを除く。)及び執行役の責任の免除に限る。)についての取締役の同意を得る場合及び当該責任の免除に関する議案を取締役会に提出する場合について準用する。

 B 第一項の規定による定款の定めに基づいて役員等の責任を免除する旨の同意(取締役会設置会社にあっては、取締役会の決議)を行ったときは、取締役は、遅滞なく、前条第二項各号に掲げる事項及び責任を免除することに異議がある場合には一定の期間内に当該異議を述べるべき旨を公告し、又は株主に通知しなければならない。ただし、当該期間は、一箇月を下ることができない。

 C 公開会社でない株式会社における前項の規定の適用については、同項中「公告し、又は株主に通知し」とあるのは、「株主に通知し」とする。

 D 総株主(第三項の責任を負う役員等であるものを除く。)の議決権の百分の三(これを下回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)以上の議決権を有する株主が同項の期間内に同項の異議を述べたときは、株式会社は、第一項の規定による定款の定めに基づく免除をしてはならない。

 E 前条第四項及び第五項の規定は、第一項の規定による定款の定めに基づき責任を免除した場合について準用する。
役員等の任務懈怠責任は、総株主の同意がなければ免除することができない(第424条)。ただし、取締役が二人以上いる監査役設置会社または委員会設置会社はこの任務懈怠責任について、「当該役員等が善意無重過失であり、状況を勘案して特に必要と認めるときは取締役の過半数の同意ないし取締役会決議によって免除することができる」旨を定款で定めることができる(これは登記事項である)。この場合の免除額は、最低責任限度額が限度となる。

取締役がこのような責任の一部免除に関する定款変更の議案を株主総会に提出するにあたっては、監査役会設置会社においては監査役、委員会設置会社においては監査委員会の同意を得なければならない。

定款の定めは株主に不利益をもたらす可能性があるため、当該定めに基づいて役員等の責任が免除された場合、株主による異議申し立ての制度が設けられている。会社は、株主による異議申し立ての機会を確保すべく、責任の原因となった事実・賠償責任額・免除できる額の限度・免除額、責任を免除することに異議がある場合には一定の期間内に異議を述べるべき旨を公告するか、株主に通知しなければならない。株式譲渡制限会社においては公告による方法は認められていない。

総株主の議決権の3%以上の議決権を有する株主が、通知期間内に異議申し立てを述べた場合、会社は当該役員等の責任を免除することができない。

取締役等によって一部免除の同意等がなされた場合、会社がその決意後に当該役員等に対して退職慰労金その他法務省令で定める財産上の利益を与えるときは、株主総会の承認が必要となる。当該役員等が新株予約権をその決議後に行使・譲渡するときも同様である。また、当該社外取締役等が新株予約権証券を所持するときは、すぐにその新株予約権証券を会社に預託しなければならず、当該社外取締役等が、当該新株予約権を譲渡するためにその新株予約権証券の返還を求めるには、株主総会の承認が必要である。
第427条 【責任限定契約】

 @ 第四百二十四条の規定にかかわらず、株式会社は、社外取締役、会計参与、社外監査役又は会計監査人(以下この条において「社外取締役等」という。)の第四百二十三条第一項の責任について、当該社外取締役等が職務を行うにつき善意でかつ重大な過失がないときは、定款で定めた額の範囲内であらかじめ株式会社が定めた額と最低責任限度額とのいずれか高い額を限度とする旨の契約を社外取締役等と締結することができる旨を定款で定めることができる。

 A 前項の契約を締結した社外取締役等が当該株式会社又はその子会社の業務執行取締役若しくは執行役又は支配人その他の使用人に就任したときは、当該契約は、将来に向かってその効力を失う。

 B 第四百二十五条第三項の規定は、定款を変更して第一項の規定による定款の定め(社外取締役(監査委員であるものを除く。)と契約を締結することができる旨の定めに限る。)を設ける議案を株主総会に提出する場合について準用する。

 C 第一項の契約を締結した株式会社が、当該契約の相手方である社外取締役等が任務を怠ったことにより損害を受けたことを知ったときは、その後最初に招集される株主総会において次に掲げる事項を開示しなければならない。

 1 第四百二十五条第二項第一号及び第二号に掲げる事項

 2 当該契約の内容及び当該契約を締結した理由

 3 第四百二十三条第一項の損害のうち、当該社外取締役等が賠償する責任を負わないとされた額

 D 第四百二十五条第四項及び第五項の規定は、社外取締役等が第一項の契約によって同項に規定する限度を超える部分について損害を賠償する責任を負わないとされた場合について準用する。
取締役等の任務懈怠責任(第423条第1項)は、総株主の同意がなければ免除することはできない(第424条)。しかし、会社は、社外取締役等の任務懈怠責任について「当該社外取締役等が善意無重過失である場合、定款で定めた額の範囲内であらかじめ会社が定めた額と最低責任限度額(第425条第1項)とのいずれか高い額を限度とする旨の契約を社外取締役等と締結することができる」旨を定款で定めることができる(本条第1項)。これを、責任限定契約という。

定款においてこの規定を設ける場合、利害関係人に重大な影響を与えることがあるため、この定款の定めと当該社外取締役等は登記事項とされている(第911条第3項第24号、第25号、第26号)。

取締役が責任限定契約に関する定款変更の議案を株主総会に提出する場合、監査役会設置会社においては監査役、委員会設置会社においては監査委員全員の同意が必要である(第3項、第425条第3項)。

第1項の契約をした社外取締役等が当該会社・その子会社の業務執行取締役・執行役・支配人その他の使用人に就任したときは、当該契約は将来に向かってその効力を失う。効力を失うのは将来に向かってであり、遡及することはない。

会社が、責任限定契約の相手方である社外取締役等が任務を怠ったことにより損害を受けたことを知ったときは、その後最初に招集される株主総会において、第4項各号の事項を開示しなければならない。これは、責任の一部免除が不正なものでないかを、株主がチェックするためである。

責任限定契約により社外取締役等が責任を免除された場合、会社がその後に当該社外取締役等に対して退職慰労金その他の法務省令で定める財産上の利益を与えるときは、株主総会の承認を得る必要がある。これは、新株予約権をその決議後に行使・譲渡するときも同様である。また、当該社外取締役等が新株予約権証券を所持するときは、すぐにその新株予約権証券を会社に預託しなければならず、当該社外取締役等が、当該新株予約権を譲渡するためにその新株予約権証券の返還を求めるには、株主総会の承認が必要である。
第428条 【取締役が自己のためにした取引に関する特則】

 @ 第三百五十六条第一項第二号(第四百十九条第二項において準用する場合を含む。)の取引(自己のためにした取引に限る。)をした取締役又は執行役の第四百二十三条第一項の責任は、任務を怠ったことが当該取締役又は執行役の責めに帰することができない事由によるものであることをもって免れることができない。

 A 前三条の規定は、前項の責任については、適用しない。
取締役・執行役が会社と自己のために利益相反取引を行った場合、当該取締役・執行役の任務懈怠責任は無過失責任とされている。そのため、任務懈怠が当該取締役・執行役の責任でなくても、任務懈怠責任を免れることはできない(第1項)。責任限定契約が締結されている場合であっても、同様に責任を免れることはできない(第2項)。
第429条 【役員等の第三者に対する損害賠償責任】

 @ 役員等がその職務を行うについて悪意又は重大な過失があったときは、当該役員等は、これによって第三者に生じた損害を賠償する責任を負う。

 A 次の各号に掲げる者が、当該各号に定める行為をしたときも、前項と同様とする。ただし、その者が当該行為をすることについて注意を怠らなかったことを証明したときは、この限りでない。

 1 取締役及び執行役 次に掲げる行為

  イ 株式、新株予約権、社債若しくは新株予約権付社債を引き受ける者の募集をする際に通知しなければならない重要な事項についての虚偽の通知又は当該募集のための当該株式会社の事業その他の事項に関する説明に用いた資料についての虚偽の記載若しくは記録

  ロ 計算書類及び事業報告並びにこれらの附属明細書並びに臨時計算書類に記載し、又は記録すべき重要な事項についての虚偽の記載又は記録

  ハ 虚偽の登記

  ニ 虚偽の公告(第四百四十条第三項に規定する措置を含む。)

 2 会計参与 計算書類及びその附属明細書、臨時計算書類並びに会計参与報告に記載し、又は記録すべき重要な事項についての虚偽の記載又は記録

 3 監査役及び監査委員 監査報告に記載し、又は記録すべき重要な事項についての虚偽の記載又は記録

 4 会計監査人 会計監査報告に記載し、又は記録すべき重要な事項についての虚偽の記載又は記録
役員等が、その職務を行うについて、悪意または重大な過失により第三者に損害を与えた場合、その損害を賠償しなければならない(第1項)。第三者を保護するために、本条は設けられている。

この役員等の第三者に対する責任の法的性質については、法定責任説(特別の法定責任と解する見解)、不法行為特則説(不法行為責任の特則と解する見解)の二つがあり、判例や通説では前者の法定責任説を採用している。

本条が適用されるための要件は以下である。

要件1:悪意または重過失 法定責任説では悪意または重過失の対象は任務懈怠である。不法行為特則説では悪意または重過失の対象は第三者に対する加害である。

要件2:損害 損害の範囲は直接責任だけではなく間接責任も含むとされている。直接責任とは、役員等の任務懈怠により会社財産が減少した結果生じる損害のことである。間接責任とは、会社財産には無関係に生じる損害のことである。

要件3:第三者 第三者とは株主も含むとされている。


役員等が、本条第2項各号の重要書類に虚偽記載等をした場合、当該役員が無過失であったことを証明しない限り、第三者に対して責任が課される(第2項)。
第430条 【役員等の連帯責任】

 役員等が株式会社又は第三者に生じた損害を賠償する責任を負う場合において、他の役員等も当該損害を賠償する責任を負うときは、これらの者は、連帯債務者とする。
複数の役員等が任務懈怠により、第三者に対する損害賠償責任を負う場合、その役員等の損害賠償債務は連帯債務となる。

連帯債務とは、複数の債務者が同一内容の給付について、それぞれ独立して債権者に対して全部の給付を債務を負い、その中の一人が弁済すれば、他の者も債務を免れるという多数当事者の債務のことである。