会社法 条文 会社法 解説
第2編 株式会社

第4章 機関

第7節 監査役
第381条 【監査役の権限】

 @ 監査役は、取締役(会計参与設置会社にあっては、取締役及び会計参与)の職務の執行を監査する。この場合において、監査役は、法務省令で定めるところにより、監査報告を作成しなければならない。

 A 監査役は、いつでも、取締役及び会計参与並びに支配人その他の使用人に対して事業の報告を求め、又は監査役設置会社の業務及び財産の状況の調査をすることができる。

 B 監査役は、その職務を行うため必要があるときは、監査役設置会社の子会社に対して事業の報告を求め、又はその子会社の業務及び財産の状況の調査をすることができる。

 C 前項の子会社は、正当な理由があるときは、同項の報告又は調査を拒むことができる。
監査役とは、取締役(会計参与設置会社は取締役と会計参与)の職務執行を監督する機関である(第1項)。

監査役の設置は原則として任意であるが(第326条第2項)、公開会社でない会計参与設置会社を除く取締役会設置会社、会計監査人設置会社であって、かつ委員会設置会社以外の会社では、必要的機関とされている(第327条第2項、第3項、第4項)。

監査役は独任制の機関であり、数人の監査役がいる場合であっても、各自が独立して監査権限を行使する。監査役の権限は以下である。

・会社業務全般の監査:原則として、会社の業務全般を監査する。そのため、監査役には会計監査の権限もある。具体的には、計算書類とその附属明細書、臨時計算書類、連結計算書を監査し、監査報告を作成する(第436条、第441条、第444条)。会計監査以外の業務監査において、監査役は取締役の職務執行が法令・定款に適合しているかどうかという適法性監査を行う。しかし、職務執行が妥当であるかどうかを監査する妥当性監査については、監査役は経営の専門家はないため権限はないとする解釈が一般的である(妥当性監査については取締役会による監督に委ねられている)。なお、監査役会設置会社・会計監査人設置会社以外の非公開会社においては、定款で監査役の監査権限の範囲を会計に関するものに限定することができる(第389条第1項)。

・監査報告の作成:会社関係者に対する情報提供のため、会社の業務全般について、法務省令で定めるところにより、監査報告を作成する。

・調査権:監査役は、いつでも、取締役・会計参与・支配人その他の使用人に対して、事業報告を求め、または、自ら会社の業務・財産の状況を調査することができる。

・子会社調査権:監査役は、その職務を行うため必要があるときは、監査役設置会社の子会社に対して事業の報告を求め、又はその子会社の業務及び財産の状況の調査をすることができる。子会社は、正当な理由があるときは、調査を拒否することができる。
第382条 【取締役への報告義務】

 監査役は、取締役が不正の行為をし、若しくは当該行為をするおそれがあると認めるとき、又は法令若しくは定款に違反する事実若しくは著しく不当な事実があると認めるときは、遅滞なく、その旨を取締役(取締役会設置会社にあっては、取締役会)に報告しなければならない。
監査役は、取締役が不正行為をしたとき、する可能性があるとき、法令・定款に違反する事実もしくは著しく不当な事実があるときは、すぐに、取締役(取締役会設置会社では取締役会)に報告しなければならない。
第383条 【取締役会への出席義務等】

 @ 監査役は、取締役会に出席し、必要があると認めるときは、意見を述べなければならない。ただし、監査役が二人以上ある場合において、第三百七十三条第一項の規定による特別取締役による議決の定めがあるときは、監査役の互選によって、監査役の中から特に同条第二項の取締役会に出席する監査役を定めることができる。

 A 監査役は、前条に規定する場合において、必要があると認めるときは、取締役(第三百六十六条第一項ただし書に規定する場合にあっては、招集権者)に対し、取締役会の招集を請求することができる。

 B 前項の規定による請求があった日から五日以内に、その請求があった日から二週間以内の日を取締役会の日とする取締役会の招集の通知が発せられない場合は、その請求をした監査役は、取締役会を招集することができる。

 C 前二項の規定は、第三百七十三条第二項の取締役会については、適用しない。
監査役は、取締役会に出席し、必要があれば意見を述べなければならない。ただし、特別取締役による取締役会(第373条第1項)には、監査役全員が出席する必要はなく、互選により出席する監査役を決めることができる。

また、監査役は必要があれば、取締役ないし招集権者に対して、取締役会の招集を求めることができる。もし、招集に応じないときは、監査役自らが取締役会を招集することができる。ただし、特別取締役による議決の定めがある場合には適用されない。
第384条 【株主総会に対する報告義務】

 監査役は、取締役が株主総会に提出しようとする議案、書類その他法務省令で定めるものを調査しなければならない。この場合において、法令若しくは定款に違反し、又は著しく不当な事項があると認めるときは、その調査の結果を株主総会に報告しなければならない。
監査役は、取締役が株主総会に提出しようとする議案、書類その他法務省令で定めるものを調査しなければならない。そして、法令・定款に違反し、または著しく不当な事実があるときは、その調査結果を株主総会に報告しなければならない。
第385条 【監査役による取締役の行為の差止め】

 @ 監査役は、取締役が監査役設置会社の目的の範囲外の行為その他法令若しくは定款に違反する行為をし、又はこれらの行為をするおそれがある場合において、当該行為によって当該監査役設置会社に著しい損害が生ずるおそれがあるときは、当該取締役に対し、当該行為をやめることを請求することができる。

 A 前項の場合において、裁判所が仮処分をもって同項の取締役に対し、その行為をやめることを命ずるときは、担保を立てさせないものとする。
本条は、監査役の取締役に対する違法行為差止請求権についての規定である。

監査役は、取締役が会社の目的外の行為、法令・定款違反の行為をした場合またはする可能性があるときにおいて、会社に著しい損害が生じる危険性がある場合には、その取締役に対して、当該行為をやめるよう請求することができる。

本来であれば、会社が当該取締役にやめるよう請求すべきであるが、取締役間の馴れ合いにより差止請求が行われない場合もあるため、監査役に差止請求権が認められている。
第386条 【監査役設置会社と取締役との間の訴えにおける会社の代表】

 @ 第三百四十九条第四項、第三百五十三条及び第三百六十四条の規定にかかわらず、監査役設置会社が取締役(取締役であった者を含む。以下この条において同じ。)に対し、又は取締役が監査役設置会社に対して訴えを提起する場合には、当該訴えについては、監査役が監査役設置会社を代表する。

 A 第三百四十九条第四項の規定にかかわらず、次に掲げる場合には、監査役が監査役設置会社を代表する。

 1 監査役設置会社が第八百四十七条第一項の訴えの提起の請求(取締役の責任を追及する訴えの提起の請求に限る。)を受ける場合

 2 監査役設置会社が第八百四十九条第三項の訴訟告知(取締役の責任を追及する訴えに係るものに限る。)並びに第八百五十条第二項の規定による通知及び催告(取締役の責任を追及する訴えに係る訴訟における和解に関するものに限る。)を受ける場合
会社が代表取締役を選定した場合、会社の裁判上の代表権は原則として代表取締役が有することになる(第349条第4項)。しかし、会社とその会社の取締役との間で訴訟が起き、代表取締役が会社を代表するとしたら、当該取締役が代表取締役であった場合などには利益相反が起きる危険性がある。また、代表取締役と当該取締役との間の馴れ合いにより、訴訟追行が不十分となる危険性もある。

そのため、取締役と監査役設置会社との間の訴訟においては、監査役が会社を代表することになる(第1項)。

また、株主代表訴訟の前段階の請求である、監査役設置会社が取締役の責任を追及する訴えの提起の請求(第847条第1項)を受ける場合、監査役設置会社が株主代表訴訟の訴訟告知、和解に関する通知・催告(第849条第3項、第850条第2項)を受ける場合には、監査役が会社を代表する(第2項)。
第387条 【監査役の報酬等】

 @ 監査役の報酬等は、定款にその額を定めていないときは、株主総会の決議によって定める。

 A 監査役が二人以上ある場合において、各監査役の報酬等について定款の定め又は株主総会の決議がないときは、当該報酬等は、前項の報酬等の範囲内において、監査役の協議によって定める。

 B 監査役は、株主総会において、監査役の報酬等について意見を述べることができる。
監査役の報酬等は、定款、株主総会の決議によって決める。取締役会で決めることができないのは、監査役の独立性を保つためである。また、監査役は、株主総会において監査役の報酬等について意見を述べることができる。

監査役が二人以上いる場合において、監査役全員の報酬総額についての定めはあるが、各監査役の報酬等が決まっていない場合は、監査役の協議によって各監査役の報酬等を決める。
第388条 【費用等の請求】

 監査役がその職務の執行について監査役設置会社(監査役の監査の範囲を会計に関するものに限定する旨の定款の定めがある株式会社を含む。)に対して次に掲げる請求をしたときは、当該監査役設置会社は、当該請求に係る費用又は債務が当該監査役の職務の執行に必要でないことを証明した場合を除き、これを拒むことができない。

 1 費用の前払の請求

 2 支出した費用及び支出の日以後におけるその利息の償還の請求

 3 負担した債務の債権者に対する弁済(当該債務が弁済期にない場合にあっては、相当の担保の提供)の請求
監査役が、その職務の執行について監査役設置会社に対して、費用の前払い(第1号)、支出した費用及び支出の日以後におけるその利息の償還(第2号)、負担した債務の債権者に対する弁済(第3号)を請求したときは、会社は、その請求に関する費用または債務が監査役の職務執行に必要でないことを証明しない限り、これを拒否することができない。

費用の必要性の立証責任を会社側にすることにより、監査役の独立性を担保するための規定である。
第389条 【定款の定めによる監査範囲の限定】

 @ 公開会社でない株式会社(監査役会設置会社及び会計監査人設置会社を除く。)は、第三百八十一条第一項の規定にかかわらず、その監査役の監査の範囲を会計に関するものに限定する旨を定款で定めることができる。

 A 前項の規定による定款の定めがある株式会社の監査役は、法務省令で定めるところにより、監査報告を作成しなければならない。

 B 前項の監査役は、取締役が株主総会に提出しようとする会計に関する議案、書類その他の法務省令で定めるものを調査し、その調査の結果を株主総会に報告しなければならない。

 C 第二項の監査役は、いつでも、次に掲げるものの閲覧及び謄写をし、又は取締役及び会計参与並びに支配人その他の使用人に対して会計に関する報告を求めることができる。

 1 会計帳簿又はこれに関する資料が書面をもって作成されているときは、当該書面

 2 会計帳簿又はこれに関する資料が電磁的記録をもって作成されているときは、当該電磁的記録に記録された事項を法務省令で定める方法により表示したもの

 D 第二項の監査役は、その職務を行うため必要があるときは、株式会社の子会社に対して会計に関する報告を求め、又は株式会社若しくはその子会社の業務及び財産の状況の調査をすることができる。

 E 前項の子会社は、正当な理由があるときは、同項の規定による報告又は調査を拒むことができる。

 F 第三百八十一条から第三百八十六条までの規定は、第一項の規定による定款の定めがある株式会社については、適用しない。
監査役は、原則として会社の業務全般を監査する(第381条第1項)。

しかし、監査役会設置会社・会計監査人設置会社以外の非公開会社においては、定款で、監査役の監査権限の範囲を会計に関するものだけに限定することができる(第1項)。非公開会社は、一般的に小規模である場合が多いため、業務の執行機関と監査機関を分離して厳格な監査を行う必要性が高くないためである。