会社法 条文 会社法 解説
第2編 株式会社

第5章 計算等

第2節 会計帳簿等

第2款 計算書類等
第435条 【計算書類等の作成及び保存】

 @ 株式会社は、法務省令で定めるところにより、その成立の日における貸借対照表を作成しなければならない。

 A 株式会社は、法務省令で定めるところにより、各事業年度に係る計算書類(貸借対照表、損益計算書その他株式会社の財産及び損益の状況を示すために必要かつ適当なものとして法務省令で定めるものをいう。以下この章において同じ。)及び事業報告並びにこれらの附属明細書を作成しなければならない。

 B 計算書類及び事業報告並びにこれらの附属明細書は、電磁的記録をもって作成することができる。

 C 株式会社は、計算書類を作成した時から十年間、当該計算書類及びその附属明細書を保存しなければならない。
計算書類とは、貸借対照表、損益計算書、株主持分変動計算書の総称である。会社は、計算書類と計算書類の附属明細書、事業報告と事業報告の附属明細書の作成義務が課せられている(第1項、第2項)。また、これらは電磁的方法により作成することができる(第3項)。

名前 説明
貸借対照表 一定時点における企業の財務状況を明らかにする
損益計算書 一定期間における企業の利益または損失を明らかにする
株主持分計算書 資本の部の項目の変動を明らかにする
事業報告 事業の状況の概要を文章で明らかにする
附属明細書 計算書類と事業報告を補足する重要な事項の詳細を文章で明らかにする
※計算書類と商法上作成が義務付けられている会計帳簿をまとめて、商業帳簿と呼ぶことがある(商法第19条)。
※貸借対照表と損益計算書とこれらの附属明細書は、財務諸表規則上の財務諸表にあたる(財務諸表規則第1条)。


会社は、計算書類とその附属明細書を、作成した時から10年間保存しなければならない(第4項)。
第436条 【計算書類等の監査等】

 @ 監査役設置会社(監査役の監査の範囲を会計に関するものに限定する旨の定款の定めがある株式会社を含み、会計監査人設置会社を除く。)においては、前条第二項の計算書類及び事業報告並びにこれらの附属明細書は、法務省令で定めるところにより、監査役の監査を受けなければならない。

 A 会計監査人設置会社においては、次の各号に掲げるものは、法務省令で定めるところにより、当該各号に定める者の監査を受けなければならない。

 1 前条第二項の計算書類及びその附属明細書 監査役(委員会設置会社にあっては、監査委員会)及び会計監査人

 2 前条第二項の事業報告及びその附属明細書 監査役(委員会設置会社にあっては、監査委員会)

 B 取締役会設置会社においては、前条第二項の計算書類及び事業報告並びにこれらの附属明細書(第一項又は前項の規定の適用がある場合にあっては、第一項又は前項の監査を受けたもの)は、取締役会の承認を受けなければならない。
計算書類等は監査役・会計監査人の監査を受けなければならない(第1項、第2項)。これは、計算書類等が適切に作成されたものかを検査するためである。

また、計算書類等の作成は業務執行にあたるため、取締役会設置会社においては、取締役会の承認を受けなければならない(第3項)。この承認は、取締役会が監査結果を踏まえた上で計算書類等を承認するか否かを判断できるよう、監査役・会計監査人による監査後に行われる。
第437条 【計算書類等の株主への提供】

 取締役会設置会社においては、取締役は、定時株主総会の招集の通知に際して、法務省令で定めるところにより、株主に対し、前条第三項の承認を受けた計算書類及び事業報告(同条第一項又は第二項の規定の適用がある場合にあっては、監査報告又は会計監査報告を含む。)を提供しなければならない。
取締役会設置会社においては、定時株主総会の招集通知に際して、取締役会の承認を受けた計算書類・事業報告を提供しなければならない。

計算書類等は、原則として、定時株主総会の承認を受ける必要があるため(第438条第2項)、前もって提供することにより、株主の準備の便宜を図るためである。
第438条 【計算書類等の定時株主総会への提出等】

 @ 次の各号に掲げる株式会社においては、取締役は、当該各号に定める計算書類及び事業報告を定時株主総会に提出し、又は提供しなければならない。

 1 第四百三十六条第一項に規定する監査役設置会社(取締役会設置会社を除く。) 第四百三十六条第一項の監査を受けた計算書類及び事業報告

 2 会計監査人設置会社(取締役会設置会社を除く。) 第四百三十六条第二項の監査を受けた計算書類及び事業報告

 3 取締役会設置会社 第四百三十六条第三項の承認を受けた計算書類及び事業報告

 4 前三号に掲げるもの以外の株式会社 第四百三十五条第二項の計算書類及び事業報告

 A 前項の規定により提出され、又は提供された計算書類は、定時株主総会の承認を受けなければならない。

 B 取締役は、第一項の規定により提出され、又は提供された事業報告の内容を定時株主総会に報告しなければならない。
取締役は、計算書類を定時株主総会に提出し、定時株主総会の承認を受けなければならない(第1項、第2項)。このように、最終的に、会社の所有者である株主がその責任を負う形となっている。

また、取締役は、事業報告を定時株主総会に提出し、その内容を報告しなければならない(第1項、第3項)。計算書類と違い、事業報告はその性質上、承認を受ける必要はない。
第439条 【会計監査人設置会社の特則】

 会計監査人設置会社については、第四百三十六条第三項の承認を受けた計算書類が法令及び定款に従い株式会社の財産及び損益の状況を正しく表示しているものとして法務省令で定める要件に該当する場合には、前条第二項の規定は、適用しない。この場合においては、取締役は、当該計算書類の内容を定時株主総会に報告しなければならない。
計算書類は、原則として定時株主総会の承認を受けなければならない(第438条)。

しかし、会計監査人設置会社は、取締役会の承認を受けた計算書類が法令・定款に従い株式会社の財産および損益の状況を正しく表示しているものとして法務省令で定める要件に該当する場合には、定時株主総会の承認は不要である。この場合、取締役は、当該計算書類の内容を定時株主総会で報告するだけでよい。

会計の専門家である会計監査人による監査は一般に高度の正確性を有しているため、承認を省略しても不都合はあまり生じないと考えられているからである。
第440条 【計算書類の公告】

 @ 株式会社は、法務省令で定めるところにより、定時株主総会の終結後遅滞なく、貸借対照表(大会社にあっては、貸借対照表及び損益計算書)を公告しなければならない。

 A 前項の規定にかかわらず、その公告方法が第九百三十九条第一項第一号又は第二号に掲げる方法である株式会社は、前項に規定する貸借対照表の要旨を公告することで足りる。

 B 前項の株式会社は、法務省令で定めるところにより、定時株主総会の終結後遅滞なく、第一項に規定する貸借対照表の内容である情報を、定時株主総会の終結の日後五年を経過する日までの間、継続して電磁的方法により不特定多数の者が提供を受けることができる状態に置く措置をとることができる。この場合においては、前二項の規定は、適用しない。

 C 金融商品取引法第二十四条第一項の規定により有価証券報告書を内閣総理大臣に提出しなければならない株式会社については、前三項の規定は、適用しない。
株式会社は、定時株主総会の終結後すぐに、貸借対照表を公告しなければならない。大会社においては、さらに損益計算書も公告しなければならない。

公告方法を定款で電子公告によるとしている会社においては、電子公告でしなければならない(第940条第1項第2号)。ただし、定款で公告の方法を官報または時事に関する日刊新聞と定めている場合は、その要旨を公告することで足りる(第2項、第939条第1項第1号、第2号)。

この定めがある会社であっても、定時株主総会の終結後すぐに、貸借対照表の内容である情報を、定時株主総会の終結の日後5年を経過するまでの間、サイトなどの電磁的方法により不特定多数の者が閲覧できる状態にしておく措置をとることができる(第3項)。

なお、本条の第1項から第3項までの規定による公告は、有価証券報告書を提出している会社の場合、する必要はない(第4項)。有価証券報告書の方がより詳細な記述をしているためである。
第441条 【臨時計算書類】

 @ 株式会社は、最終事業年度の直後の事業年度に属する一定の日(以下この項において「臨時決算日」という。)における当該株式会社の財産の状況を把握するため、法務省令で定めるところにより、次に掲げるもの(以下「臨時計算書類」という。)を作成することができる。

 1 臨時決算日における貸借対照表

 2 臨時決算日の属する事業年度の初日から臨時決算日までの期間に係る損益計算書

 A 第四百三十六条第一項に規定する監査役設置会社又は会計監査人設置会社においては、臨時計算書類は、法務省令で定めるところにより、監査役又は会計監査人(委員会設置会社にあっては、監査委員会及び会計監査人)の監査を受けなければならない。

 B 取締役会設置会社においては、臨時計算書類(前項の規定の適用がある場合にあっては、同項の監査を受けたもの)は、取締役会の承認を受けなければならない。

 C 次の各号に掲げる株式会社においては、当該各号に定める臨時計算書類は、株主総会の承認を受けなければならない。ただし、臨時計算書類が法令及び定款に従い株式会社の財産及び損益の状況を正しく表示しているものとして法務省令で定める要件に該当する場合は、この限りでない。

 1 第四百三十六条第一項に規定する監査役設置会社又は会計監査人設置会社(いずれも取締役会設置会社を除く。) 第二項の監査を受けた臨時計算書類

 2 取締役会設置会社 前項の承認を受けた臨時計算書類

 3 前二号に掲げるもの以外の株式会社 第一項の臨時計算書類
臨時計算書類とは、臨時決算日(最終事業年度の直後の事業年度に関する一定の日)における会社の財産状況を把握するための計算書類のことである。臨時決算日における貸借対照表、臨時決算日の属する事業年度の初日から臨時決算日までの損益計算書のことである。

臨時計算書類は計算書類と同様の手法により作成・監査・承認される必要がある。ただし、計算書類とは異なり、臨時計算書類は公告や電磁的方法による公開は必要ない。
第442条 【】

 @ 株式会社は、次の各号に掲げるもの(以下この条において「計算書類等」という。)を、当該各号に定める期間、その本店に備え置かなければならない。

 1 各事業年度に係る計算書類及び事業報告並びにこれらの附属明細書(第四百三十六条第一項又は第二項の規定の適用がある場合にあっては、監査報告又は会計監査報告を含む。) 定時株主総会の日の一週間(取締役会設置会社にあっては、二週間)前の日(第三百十九条第一項の場合にあっては、同項の提案があった日)から五年間

 2 臨時計算書類(前条第二項の規定の適用がある場合にあっては、監査報告又は会計監査報告を含む。) 臨時計算書類を作成した日から五年間

 A 株式会社は、次の各号に掲げる計算書類等の写しを、当該各号に定める期間、その支店に備え置かなければならない。ただし、計算書類等が電磁的記録で作成されている場合であって、支店における次項第三号及び第四号に掲げる請求に応じることを可能とするための措置として法務省令で定めるものをとっているときは、この限りでない。

 1 前項第一号に掲げる計算書類等 定時株主総会の日の一週間(取締役会設置会社にあっては、二週間)前の日(第三百十九条第一項の場合にあっては、同項の提案があった日)から三年間

 2 前項第二号に掲げる計算書類等 同号の臨時計算書類を作成した日から三年間

 B 株主及び債権者は、株式会社の営業時間内は、いつでも、次に掲げる請求をすることができる。ただし、第二号又は第四号に掲げる請求をするには、当該株式会社の定めた費用を支払わなければならない。

 1 計算書類等が書面をもって作成されているときは、当該書面又は当該書面の写しの閲覧の請求

 2 前号の書面の謄本又は抄本の交付の請求

 3 計算書類等が電磁的記録をもって作成されているときは、当該電磁的記録に記録された事項を法務省令で定める方法により表示したものの閲覧の請求

 4 前号の電磁的記録に記録された事項を電磁的方法であって株式会社の定めたものにより提供することの請求又はその事項を記載した書面の交付の請求

 C 株式会社の親会社社員は、その権利を行使するため必要があるときは、裁判所の許可を得て、当該株式会社の計算書類等について前項各号に掲げる請求をすることができる。ただし、同項第二号又は第四号に掲げる請求をするには、当該株式会社の定めた費用を支払わなければならない。
会社は計算書類等を会社に備え置かなければならない。これは、利害関係者に対する情報提供のためである。

計算書類とその附属明細書・事業報告は原本を承認された定時株主総会の日から本店に5年間、写しを支店に3年間備え置かなければならない。

臨時計算書類については、原本を作成した日から本店に5年間、写しを支店に3年間備え置かなければならない。

株主、会社債権者は、その権利を行使するため必要があるときは、計算書類等の閲覧・謄写を請求することができる。当該会社の親会社の社員は、その権利を行使するため必要があるときは、裁判所の許可を得て、計算書類等の閲覧・謄写を請求することができる。
第443条 【計算書類等の提出命令】

 裁判所は、申立てにより又は職権で、訴訟の当事者に対し、計算書類及びその附属明細書の全部又は一部の提出を命ずることができる。
裁判所は、訴訟の当事者に対して計算書類とその附属明細書の全部または一部の提出を命じることができる。これらは会社の財務状況の立証に不可欠な書類であるためである。