会社法 条文 会社法 解説
第2編 株式会社

第5章 計算等

第6節 剰余金の配当等に関する責任
第461条 【配当等の制限】

 @ 次に掲げる行為により株主に対して交付する金銭等(当該株式会社の株式を除く。以下この節において同じ。)の帳簿価額の総額は、当該行為がその効力を生ずる日における分配可能額を超えてはならない。

 1 第百三十八条第一号ハ又は第二号ハの請求に応じて行う当該株式会社の株式の買取り

 2 第百五十六条第一項の規定による決定に基づく当該株式会社の株式の取得(第百六十三条に規定する場合又は第百六十五条第一項に規定する場合における当該株式会社による株式の取得に限る。)

 3 第百五十七条第一項の規定による決定に基づく当該株式会社の株式の取得

 4 第百七十三条第一項の規定による当該株式会社の株式の取得

 5 第百七十六条第一項の規定による請求に基づく当該株式会社の株式の買取り

 6 第百九十七条第三項の規定による当該株式会社の株式の買取り

 7 第二百三十四条第四項(第二百三十五条第二項において準用する場合を含む。)の規定による当該株式会社の株式の買取り

 8 剰余金の配当

 A 前項に規定する「分配可能額」とは、第一号及び第二号に掲げる額の合計額から第三号から第六号までに掲げる額の合計額を減じて得た額をいう(以下この節において同じ。)。

 1 剰余金の額

 2 臨時計算書類につき第四百四十一条第四項の承認(同項ただし書に規定する場合にあっては、同条第三項の承認)を受けた場合における次に掲げる額

  イ 第四百四十一条第一項第二号の期間の利益の額として法務省令で定める各勘定科目に計上した額の合計額

  ロ 第四百四十一条第一項第二号の期間内に自己株式を処分した場合における当該自己株式の対価の額

 3 自己株式の帳簿価額

 4 最終事業年度の末日後に自己株式を処分した場合における当該自己株式の対価の額

 5 第二号に規定する場合における第四百四十一条第一項第二号の期間の損失の額として法務省令で定める各勘定科目に計上した額の合計額

 6 前三号に掲げるもののほか、法務省令で定める各勘定科目に計上した額の合計額
本条は、自己株式の取得(第1項第1号から第7号)と株主に対する剰余金の配当(第1項第8号)に際して、会社の交付する金銭等の分配可能額についての規定である。これらの場合、本条によって算出される分配可能額(第2項第1号と第2号の合計額から、第3号から第6号の合計額を引いたもの)を超えて金銭等を交付することはできない。

例えば、会社は第446条の計算によって剰余金が生じたとしても、その全てを株主に分配できるわけではなく、本条によって算出される額を限度として分配できるだけである。

第462条 【剰余金の配当等に関する責任】

 @ 前条第一項の規定に違反して株式会社が同項各号に掲げる行為をした場合には、当該行為により金銭等の交付を受けた者並びに当該行為に関する職務を行った業務執行者(業務執行取締役(委員会設置会社にあっては、執行役。以下この項において同じ。)その他当該業務執行取締役の行う業務の執行に職務上関与した者として法務省令で定めるものをいう。以下この節において同じ。)及び当該行為が次の各号に掲げるものである場合における当該各号に定める者は、当該株式会社に対し、連帯して、当該金銭等の交付を受けた者が交付を受けた金銭等の帳簿価額に相当する金銭を支払う義務を負う。

 1 前条第一項第二号に掲げる行為 次に掲げる者

  イ 第百五十六条第一項の規定による決定に係る株主総会の決議があった場合(当該決議によって定められた同項第二号の金銭等の総額が当該決議の日における分配可能額を超える場合に限る。)における当該株主総会に係る総会議案提案取締役(当該株主総会に議案を提案した取締役として法務省令で定めるものをいう。以下この項において同じ。)

  ロ 第百五十六条第一項の規定による決定に係る取締役会の決議があった場合(当該決議によって定められた同項第二号の金銭等の総額が当該決議の日における分配可能額を超える場合に限る。)における当該取締役会に係る取締役会議案提案取締役(当該取締役会に議案を提案した取締役(委員会設置会社にあっては、取締役又は執行役)として法務省令で定めるものをいう。以下この項において同じ。)

 2 前条第一項第三号に掲げる行為 次に掲げる者

  イ 第百五十七条第一項の規定による決定に係る株主総会の決議があった場合(当該決議によって定められた同項第三号の総額が当該決議の日における分配可能額を超える場合に限る。)における当該株主総会に係る総会議案提案取締役

  ロ 第百五十七条第一項の規定による決定に係る取締役会の決議があった場合(当該決議によって定められた同項第三号の総額が当該決議の日における分配可能額を超える場合に限る。)における当該取締役会に係る取締役会議案提案取締役

 3 前条第一項第四号に掲げる行為 第百七十一条第一項の株主総会(当該株主総会の決議によって定められた同項第一号に規定する取得対価の総額が当該決議の日における分配可能額を超える場合における当該株主総会に限る。)に係る総会議案提案取締役

 4 前条第一項第六号に掲げる行為 次に掲げる者

  イ 第百九十七条第三項後段の規定による決定に係る株主総会の決議があった場合(当該決議によって定められた同項第二号の総額が当該決議の日における分配可能額を超える場合に限る。)における当該株主総会に係る総会議案提案取締役

  ロ 第百九十七条第三項後段の規定による決定に係る取締役会の決議があった場合(当該決議によって定められた同項第二号の総額が当該決議の日における分配可能額を超える場合に限る。)における当該取締役会に係る取締役会議案提案取締役

 5 前条第一項第七号に掲げる行為 次に掲げる者

  イ 第二百三十四条第四項後段(第二百三十五条第二項において準用する場合を含む。)の規定による決定に係る株主総会の決議があった場合(当該決議によって定められた第二百三十四条第四項第二号(第二百三十五条第二項において準用する場合を含む。)の総額が当該決議の日における分配可能額を超える場合に限る。)における当該株主総会に係る総会議案提案取締役

  ロ 第二百三十四条第四項後段(第二百三十五条第二項において準用する場合を含む。)の規定による決定に係る取締役会の決議があった場合(当該決議によって定められた第二百三十四条第四項第二号(第二百三十五条第二項において準用する場合を含む。)の総額が当該決議の日における分配可能額を超える場合に限る。)における当該取締役会に係る取締役会議案提案取締役

 6 前条第一項第八号に掲げる行為 次に掲げる者

  イ 第四百五十四条第一項の規定による決定に係る株主総会の決議があった場合(当該決議によって定められた配当財産の帳簿価額が当該決議の日における分配可能額を超える場合に限る。)における当該株主総会に係る総会議案提案取締役

  ロ 第四百五十四条第一項の規定による決定に係る取締役会の決議があった場合(当該決議によって定められた配当財産の帳簿価額が当該決議の日における分配可能額を超える場合に限る。)における当該取締役会に係る取締役会議案提案取締役

 A 前項の規定にかかわらず、業務執行者及び同項各号に定める者は、その職務を行うについて注意を怠らなかったことを証明したときは、同項の義務を負わない。

 B 第一項の規定により業務執行者及び同項各号に定める者の負う義務は、免除することができない。ただし、前条第一項各号に掲げる行為の時における分配可能額を限度として当該義務を免除することについて総株主の同意がある場合は、この限りでない。
会社は分配可能額の範囲内でしか剰余金を配当することができない(第461条第1項)。

もし、これに反して配当がされた場合(いわゆる蛸配当)、会社法では有効なものとして取り扱われる(旧商法では、無効になると解されてきた)。だが、蛸配当に関わった関係者には、特別の責任が課せられる。これにより、蛸配当を防止しようとしている。

具体的には、蛸配当により金銭等の交付を受けた株主は、交付を受けた金銭等の帳簿価額に相当する金銭全額を支払う義務を負う(第1項)。これは無過失責任である。

蛸配当に関与した業務執行者は、交付した金銭等の帳簿価額に相当する金銭全額の支払い義務を負う(第1項)。これは過失責任であり、注意を怠らなかったことを証明すれば責任を免れることができる。

総株主の同意があっても、全ての責任を免除することはできないが、分配可能額を限度として免除することは可能である(第3項)。
第463条 【株主に対する求償権の制限等】

 @ 前条第一項に規定する場合において、株式会社が第四百六十一条第一項各号に掲げる行為により株主に対して交付した金銭等の帳簿価額の総額が当該行為がその効力を生じた日における分配可能額を超えることにつき善意の株主は、当該株主が交付を受けた金銭等について、前条第一項の金銭を支払った業務執行者及び同項各号に定める者からの求償の請求に応ずる義務を負わない。

 A 前条第一項に規定する場合には、株式会社の債権者は、同項の規定により義務を負う株主に対し、その交付を受けた金銭等の帳簿価額(当該額が当該債権者の株式会社に対して有する債権額を超える場合にあっては、当該債権額)に相当する金銭を支払わせることができる。
本条は、民法の債権者代位権(民法第423条)の特則である。

蛸配当(分配可能額を超えての配当)がなされた場合、この配当に関わった取締役・執行役が、交付した金銭等の帳簿価額に相当する金銭を会社に対して支払ったとき(第462条第1項)、当該取締役・執行役は、蛸配当であることを知っていた株主(悪意の株主)に対してその額を求償することができる。

また、蛸配当がなされた場合、会社債権者は、株主に対してその交付を受けた金銭等の帳簿価額に相当する金銭を支払わせることができる。
第464条 【買取請求に応じて株式を取得した場合の責任】

 @ 株式会社が第百十六条第一項の規定による請求に応じて株式を取得する場合において、当該請求をした株主に対して支払った金銭の額が当該支払の日における分配可能額を超えるときは、当該株式の取得に関する職務を行った業務執行者は、株式会社に対し、連帯して、その超過額を支払う義務を負う。ただし、その者がその職務を行うについて注意を怠らなかったことを証明した場合は、この限りでない。

 A 前項の義務は、総株主の同意がなければ、免除することができない。
反対株主の株式買取請求権に応じて会社が自己株式を取得する場合(第116条第1項)、株主に対して支払った金銭の額がその支払いの日における分配可能額を超えるときは、これに関わった業務執行者は、会社に対して連帯してその超過額支払う義務を負う。ただし、この義務は過失義務であり、注意を怠らなかったことを証明した場合には支払う必要はない。また、総株主の同意により免除されることもある。

第463条の蛸配当の場合の支払い義務は分配額全額であり、本条の支払い義務は超過した部分という違いがある。
第465条 【欠損が生じた場合の責任】

 @ 株式会社が次の各号に掲げる行為をした場合において、当該行為をした日の属する事業年度(その事業年度の直前の事業年度が最終事業年度でないときは、その事業年度の直前の事業年度)に係る計算書類につき第四百三十八条第二項の承認(第四百三十九条前段に規定する場合にあっては、第四百三十六条第三項の承認)を受けた時における第四百六十一条第二項第三号、第四号及び第六号に掲げる額の合計額が同項第一号に掲げる額を超えるときは、当該各号に掲げる行為に関する職務を行った業務執行者は、当該株式会社に対し、連帯して、その超過額(当該超過額が当該各号に定める額を超える場合にあっては、当該各号に定める額)を支払う義務を負う。ただし、当該業務執行者がその職務を行うについて注意を怠らなかったことを証明した場合は、この限りでない。

 1 第百三十八条第一号ハ又は第二号ハの請求に応じて行う当該株式会社の株式の買取り 当該株式の買取りにより株主に対して交付した金銭等の帳簿価額の総額

 2 第百五十六条第一項の規定による決定に基づく当該株式会社の株式の取得(第百六十三条に規定する場合又は第百六十五条第一項に規定する場合における当該株式会社による株式の取得に限る。) 当該株式の取得により株主に対して交付した金銭等の帳簿価額の総額

 3 第百五十七条第一項の規定による決定に基づく当該株式会社の株式の取得 当該株式の取得により株主に対して交付した金銭等の帳簿価額の総額

 4 第百六十七条第一項の規定による当該株式会社の株式の取得 当該株式の取得により株主に対して交付した金銭等の帳簿価額の総額

 5 第百七十条第一項の規定による当該株式会社の株式の取得 当該株式の取得により株主に対して交付した金銭等の帳簿価額の総額

 6 第百七十三条第一項の規定による当該株式会社の株式の取得 当該株式の取得により株主に対して交付した金銭等の帳簿価額の総額

 7 第百七十六条第一項の規定による請求に基づく当該株式会社の株式の買取り 当該株式の買取りにより株主に対して交付した金銭等の帳簿価額の総額

 8 第百九十七条第三項の規定による当該株式会社の株式の買取り 当該株式の買取りにより株主に対して交付した金銭等の帳簿価額の総額

 9 次のイ又はロに掲げる規定による当該株式会社の株式の買取り 当該株式の買取りにより当該イ又はロに定める者に対して交付した金銭等の帳簿価額の総額

  イ 第二百三十四条第四項 同条第一項各号に定める者

  ロ 第二百三十五条第二項において準用する第二百三十四条第四項 株主

 10 剰余金の配当(次のイからハまでに掲げるものを除く。) 当該剰余金の配当についての第四百四十六条第六号イからハまでに掲げる額の合計額

  イ 定時株主総会(第四百三十九条前段に規定する場合にあっては、定時株主総会又は第四百三十六条第三項の取締役会)において第四百五十四条第一項各号に掲げる事項を定める場合における剰余金の配当

  ロ 第四百四十七条第一項各号に掲げる事項を定めるための株主総会において第四百五十四条第一項各号に掲げる事項を定める場合(同項第一号の額(第四百五十六条の規定により基準未満株式の株主に支払う金銭があるときは、その額を合算した額)が第四百四十七条第一項第一号の額を超えない場合であって、同項第二号に掲げる事項についての定めがない場合に限る。)における剰余金の配当

  ハ 第四百四十八条第一項各号に掲げる事項を定めるための株主総会において第四百五十四条第一項各号に掲げる事項を定める場合(同項第一号の額(第四百五十六条の規定により基準未満株式の株主に支払う金銭があるときは、その額を合算した額)が第四百四十八条第一項第一号の額を超えない場合であって、同項第二号に掲げる事項についての定めがない場合に限る。)における剰余金の配当

 A 前項の義務は、総株主の同意がなければ、免除することができない。
会社が自己株式を取得したり、剰余金の配当を行ったり本条第1項各号の行為をした場合、分配可能額規制を守っていても、期末に欠損が生じた場合には、これに関わった業務執行者は、会社に対して連帯して欠損額の填補責任を負う。ただし、この責任は過失責任であり、注意を怠らなかったことを証明した場合には責任を負う必要はない。また、総株主の同意により免除されることもある。