会社法 条文 | 会社法 解説 |
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第2編 株式会社 第9章 清算 第2節 特別清算 第1款 特別清算の開始 |
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第510条 【特別清算開始の原因】 裁判所は、清算株式会社に次に掲げる事由があると認めるときは、第五百十四条の規定に基づき、申立てにより、当該清算株式会社に対し特別清算の開始を命ずる。 1 清算の遂行に著しい支障を来すべき事情があること。 2 債務超過(清算株式会社の財産がその債務を完済するのに足りない状態をいう。次条第二項において同じ。)の疑いがあること。 |
特別清算とは、会社がすでに解散し清算に入ったが、清算の遂行に著しい支障を来すべき事情があるとき、債務超過の疑いがあるときに、裁判所の特別清算開始命令により、厳重な監督のもとに行われる特殊な清算手続きのことである。 裁判所の監督に属するというのが、通常の清算との大きな違いである。そのため、特別清算は、通常の清算と破産との中間に位置する倒産処理方法といえる。 |
第511条 【特別清算開始の申立て】 @ 債権者、清算人、監査役又は株主は、特別清算開始の申立てをすることができる。 A 清算株式会社に債務超過の疑いがあるときは、清算人は、特別清算開始の申立てをしなければならない。 |
特別清算の申し立ては以下の者が行うことができる。 ・債権者 ・清算人 ・監査役 ・株主 また、清算人は、清算株式会社に債務超過の疑いがあるときは、特別清算開始の申し立てをしなければならない。 |
第512条 【他の手続の中止命令】 @ 裁判所は、特別清算開始の申立てがあった場合において、必要があると認めるときは、債権者、清算人、監査役若しくは株主の申立てにより又は職権で、特別清算開始の申立てにつき決定があるまでの間、次に掲げる手続の中止を命ずることができる。ただし、第一号に掲げる破産手続については破産手続開始の決定がされていない場合に限り、第二号に掲げる手続についてはその手続の申立人である債権者に不当な損害を及ぼすおそれがない場合に限る。 1 清算株式会社についての破産手続 2 清算株式会社の財産に対して既にされている強制執行、仮差押え又は仮処分の手続(一般の先取特権その他一般の優先権がある債権に基づくものを除く。) A 特別清算開始の申立てを却下する決定に対して第八百九十条第五項の即時抗告がされたときも、前項と同様とする。 |
特別清算開始の申し立て(第510条)があった場合、裁判所は必要があると認めるときは、特別清算開始の申し立てにつき決定があるまで、その手続きを害しない限度で、清算株式会社についての破産手続き、清算株式会社の財産に対して既にされている強制執行、仮差押え、仮処分手続きの中止を命じることができる(第1項)。これらの手続きは、清算株式会社の財務状況を変動させ、特別清算に関する手続きに支障をきたすおそれがあるためである。 特別清算開始の申し立てを却下する決定に対して即時抗告がされたときも、裁判所は必要があると認めるときは、第1項と同様の措置をとることができる(第2項)。 |
第513条 【特別清算開始の申立ての取下げの制限】 特別清算開始の申立てをした者は、特別清算開始の命令前に限り、当該申立てを取り下げることができる。この場合において、前条の規定による中止の命令、第五百四十条第二項の規定による保全処分又は第五百四十一条第二項の規定による処分がされた後は、裁判所の許可を得なければならない。 |
特別清算開始の申し立ては、裁判所が特別清算開始を命令した後は取り下げることができない。しかし、命令前であれば、取り下げることができる(本条)。 ただし、第540条第2項による保全命令、第541条第2項による株主名簿記載禁止処分がなされている場合において、特別清算開始の申し立てを取り下げようとするときは、裁判所の許可を得なければならない(本条)。 |
第514条 【特別清算開始の命令】 裁判所は、特別清算開始の申立てがあった場合において、特別清算開始の原因となる事由があると認めるときは、次のいずれかに該当する場合を除き、特別清算開始の命令をする。 1 特別清算の手続の費用の予納がないとき。 2 特別清算によっても清算を結了する見込みがないことが明らかであるとき。 3 特別清算によることが債権者の一般の利益に反することが明らかであるとき。 4 不当な目的で特別清算開始の申立てがされたとき、その他申立てが誠実にされたものでないとき。 |
裁判所は、債権者・清算人・監査役・株主から特別清算開始の申し立てがあった場合において、審理の結果、特別清算開始の原因事由である、清算の遂行に著しい支障をきたす事情、債務超過のいずれかがあると認めるときは、原則として、特別清算開始命令を出さなければならない。 ただし、本条各号に掲げる事由がある場合、特別清算開始命令を出すことはできない。 |
第515条 【他の手続の中止等】 @ 特別清算開始の命令があったときは、破産手続開始の申立て、清算株式会社の財産に対する強制執行、仮差押え若しくは仮処分又は財産開示手続(民事執行法(昭和五十四年法律第四号)第百九十七条第一項の申立てによるものに限る。以下この項において同じ。)の申立てはすることができず、破産手続(破産手続開始の決定がされていないものに限る。)、清算株式会社の財産に対して既にされている強制執行、仮差押え及び仮処分の手続並びに財産開示手続は中止する。ただし、一般の先取特権その他一般の優先権がある債権に基づく強制執行、仮差押え、仮処分又は財産開示手続については、この限りでない。 A 特別清算開始の命令が確定したときは、前項の規定により中止した手続は、特別清算の手続の関係においては、その効力を失う。 B 特別清算開始の命令があったときは、清算株式会社の債権者の債権(一般の先取特権その他一般の優先権がある債権、特別清算の手続のために清算株式会社に対して生じた債権及び特別清算の手続に関する清算株式会社に対する費用請求権を除く。以下この節において「協定債権」という。)については、第九百三十八条第一項第二号又は第三号に規定する特別清算開始の取消しの登記又は特別清算終結の登記の日から二箇月を経過する日までの間は、時効は、完成しない。 |
特別清算開始命令があったときは、破産手続き開始の申し立て、清算株式会社の財産に対する強制執行・仮差押え・仮処分・財産開示手続きの申し立てはすることができない(第1項)。また、破産手続き開始決定がなされていない破産手続き、清算株式会社の財産に対して既にされている強制執行・仮差押え・仮処分の手続き、財産開示手続きは中止となる(第1項)。 特別清算開始命令が確定したときは、第1項の規定により中止した手続きは、特別清算手続きとの関係においてはその効力を失う(第2項)。ただし、一般の先取特権その他一般の優先権がある債権に基づく強制執行・仮差押え・仮処分・財産開示手続きは例外的に可能である。 特別清算開始命令があったときは、清算株式会社の債権者の債権(協定債権)については、特別清算開始の取り消しの登記または特別清算終結の登記の日から2ヶ月を経過する日までは、時効は完成しない(第3項)。 |
第516条 【担保権の実行の手続等の中止命令】 裁判所は、特別清算開始の命令があった場合において、債権者の一般の利益に適合し、かつ、担保権の実行の手続等(清算株式会社の財産につき存する担保権の実行の手続、企業担保権の実行の手続又は清算株式会社の財産に対して既にされている一般の先取特権その他一般の優先権がある債権に基づく強制執行の手続をいう。以下この条において同じ。)の申立人に不当な損害を及ぼすおそれがないものと認めるときは、清算人、監査役、債権者若しくは株主の申立てにより又は職権で、相当の期間を定めて、担保権の実行の手続等の中止を命ずることができる。 |
特別清算開始命令があった場合、裁判所は、債権者の一般の利益に適合し、かつ、担保権の実行の手続き等の申立人に不当な損害を及ぼす危険性がないものと認めるときは、担保権の実行の手続き等の中止を命じることができる。 担保権の実行の手続き等は、特別清算手続きに支障をきたすおそれがあるためである。 |
第517条 【相殺の禁止】 @ 協定債権を有する債権者(以下この節において「協定債権者」という。)は、次に掲げる場合には、相殺をすることができない。 1 特別清算開始後に清算株式会社に対して債務を負担したとき。 2 支払不能(清算株式会社が、支払能力を欠くために、その債務のうち弁済期にあるものにつき、一般的かつ継続的に弁済することができない状態をいう。以下この款において同じ。)になった後に契約によって負担する債務を専ら協定債権をもってする相殺に供する目的で清算株式会社の財産の処分を内容とする契約を清算株式会社との間で締結し、又は清算株式会社に対して債務を負担する者の債務を引き受けることを内容とする契約を締結することにより清算株式会社に対して債務を負担した場合であって、当該契約の締結の当時、支払不能であったことを知っていたとき。 3 支払の停止があった後に清算株式会社に対して債務を負担した場合であって、その負担の当時、支払の停止があったことを知っていたとき。ただし、当該支払の停止があった時において支払不能でなかったときは、この限りでない。 4 特別清算開始の申立てがあった後に清算株式会社に対して債務を負担した場合であって、その負担の当時、特別清算開始の申立てがあったことを知っていたとき。 A 前項第二号から第四号までの規定は、これらの規定に規定する債務の負担が次に掲げる原因のいずれかに基づく場合には、適用しない。 1 法定の原因 2 支払不能であったこと又は支払の停止若しくは特別清算開始の申立てがあったことを協定債権者が知った時より前に生じた原因 3 特別清算開始の申立てがあった時より一年以上前に生じた原因 |
協定債権とは、一般の先取特権その他一般の優先権がある債権、特別清算手続きのために清算株式会社に対して生じた債権、特別清算手続きに関する清算株式会社に対する費用請求権などのことである。協定債権を有する者を、協定債権者という。 協定債権者は、原則として、協定債権と第1項各号の債務を相殺することはできない。これらの場合において相殺を認めてしまうと、特別清算手続きによらずに優先的に清算株式会社の債務を弁済したことになってしまうためである。 ただし、第2項各号のように、相殺を認めないとすると当該債務者にとって酷となる場合においては、例外的に、相殺が認められている。 |
第518条 【相殺の禁止 その2】 @ 清算株式会社に対して債務を負担する者は、次に掲げる場合には、相殺をすることができない。 1 特別清算開始後に他人の協定債権を取得したとき。 2 支払不能になった後に協定債権を取得した場合であって、その取得の当時、支払不能であったことを知っていたとき。 3 支払の停止があった後に協定債権を取得した場合であって、その取得の当時、支払の停止があったことを知っていたとき。ただし、当該支払の停止があった時において支払不能でなかったときは、この限りでない。 4 特別清算開始の申立てがあった後に協定債権を取得した場合であって、その取得の当時、特別清算開始の申立てがあったことを知っていたとき。 A 前項第二号から第四号までの規定は、これらの規定に規定する協定債権の取得が次に掲げる原因のいずれかに基づく場合には、適用しない。 1 法定の原因 2 支払不能であったこと又は支払の停止若しくは特別清算開始の申立てがあったことを清算株式会社に対して債務を負担する者が知った時より前に生じた原因 3 特別清算開始の申立てがあった時より一年以上前に生じた原因 4 清算株式会社に対して債務を負担する者と清算株式会社との間の契約 |
清算株式会社に対して債務を負担する者は、原則として、第1項各号の債権と当該債務を相殺することはできない。これらの場合において相殺を認めてしまうと、特別清算手続きによらずに優先的に清算株式会社の債務を弁済したことになってしまうためである。 ただし、第2項各号のように、相殺を認めないとすると当該債務者にとって酷となる場合においては、例外的に、相殺が認められている。 |