会社法 条文 会社法 解説
第2編 株式会社

第9章 清算

第2節 特別清算

第6款 清算株式会社の行為の制限等
第535条 【清算株式会社の行為の制限】

 @ 特別清算開始の命令があった場合には、清算株式会社が次に掲げる行為をするには、裁判所の許可を得なければならない。ただし、第五百二十七条第一項の規定により監督委員が選任されているときは、これに代わる監督委員の同意を得なければならない。

 1 財産の処分(次条第一項各号に掲げる行為を除く。)

 2 借財

 3 訴えの提起

 4 和解又は仲裁合意(仲裁法(平成十五年法律第百三十八号)第二条第一項に規定する仲裁合意をいう。)

 5 権利の放棄

 6 その他裁判所の指定する行為

 A 前項の規定にかかわらず、同項第一号から第五号までに掲げる行為については、次に掲げる場合には、同項の許可を要しない。

 1 最高裁判所規則で定める額以下の価額を有するものに関するとき。

 2 前号に掲げるもののほか、裁判所が前項の許可を要しないものとしたものに関するとき。

 B 第一項の許可又はこれに代わる監督委員の同意を得ないでした行為は、無効とする。ただし、これをもって善意の第三者に対抗することができない。
特別清算開始命令があった場合において以下の行為をするには、原則として、裁判所または監督委員の許可を得なければならない(第1項)。

・財産の処分(次条第一項各号に掲げる行為を除く。)
・借財
・訴えの提起
・和解又は仲裁合意
・権利の放棄
・その他裁判所の指定する行為

裁判所または監督委員の許可を得ずにこれらの行為をした場合、その行為は無効となる(第3項)。ただし、最高裁判所規則で定める額以下の価額を有するものに関するとき、裁判所が許可を必要としないものとしたものに関するときは、許可は必要ない(第2項)。
第536条 【事業の譲渡の制限等】

 @ 特別清算開始の命令があった場合には、清算株式会社が次に掲げる行為をするには、裁判所の許可を得なければならない。

 1 事業の全部の譲渡

 2 事業の重要な一部の譲渡(当該譲渡により譲り渡す資産の帳簿価額が当該清算株式会社の総資産額として法務省令で定める方法により算定される額の五分の一(これを下回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)を超えないものを除く。)

 A 前条第三項の規定は、前項の許可を得ないでした行為について準用する。

 B 第七章(第四百六十七条第一項第五号を除く。)の規定は、特別清算の場合には、適用しない。
特別清算開始命令があった場合、清算株式会社が事業の全部の譲渡・事業の重要な一部の譲渡をする場合には、裁判所の許可を得なければならない(第1項)。裁判所の許可を得ずにした場合は、その行為は無効となる(第2項)。

清算株式会社にはこのような規定があるため、通常の事業譲渡等に関する規定(第7章)は、清算株式会社には適用されない(第3項)。
第537条 【債務の弁済の制限】

 @ 特別清算開始の命令があった場合には、清算株式会社は、協定債権者に対して、その債権額の割合に応じて弁済をしなければならない。

 A 前項の規定にかかわらず、清算株式会社は、裁判所の許可を得て、少額の協定債権、清算株式会社の財産につき存する担保権によって担保される協定債権その他これを弁済しても他の債権者を害するおそれがない協定債権に係る債務について、債権額の割合を超えて弁済をすることができる。
特別清算開始命令があった場合、清算株式会社は、協定債権者に対してその債権額の割合に応じて弁済しなければならない(第1項)。債権者平等原則を担保するためである。

ただし、少額の協定債権、清算株式会社の財産につき存する担保権により担保される協定債権、その他これを弁済しても他の債権者を害する危険性のない協定債権に関する債務については、裁判所の許可を得て弁済することができる(第2項)。
第538条 【換価の方法】

 @ 清算株式会社は、民事執行法その他強制執行の手続に関する法令の規定により、その財産の換価をすることができる。この場合においては、第五百三十五条第一項第一号の規定は、適用しない。

 A 清算株式会社は、民事執行法その他強制執行の手続に関する法令の規定により、第五百二十二条第二項に規定する担保権(以下この条及び次条において単に「担保権」という。)の目的である財産の換価をすることができる。この場合においては、当該担保権を有する者(以下この条及び次条において「担保権者」という。)は、その換価を拒むことができない。

 B 前二項の場合には、民事執行法第六十三条及び第百二十九条(これらの規定を同法その他強制執行の手続に関する法令において準用する場合を含む。)の規定は、適用しない。

 C 第二項の場合において、担保権者が受けるべき金額がまだ確定していないときは、清算株式会社は、代金を別に寄託しなければならない。この場合においては、担保権は、寄託された代金につき存する。
清算株式会社は、民事執行法等の規定により、その財産を換価して金銭に替えることができる。この場合は、第535条第1項第1号による裁判所または監督委員の許可は必要ない(第1項)。

また、清算株式会社は第522条第2項が規定する担保権の目的である財産であっても換価して金銭に替えることができる。この場合、担保権者は、担保権を有することを理由として会社財産の換価を拒否することはできない(第2項)。ただし、担保権者が不測の損害を被ることを防止するため、担保権者が受けるべき金額がまだ確定していないときは、清算株式会社は代金を別に寄託しなければならない。そして、この場合においては、担保権は寄託された代金に存在することになる(第4項)。

なお、これらの場合においては、換価した財産の金銭に剰余が生じる見込みがない場合に関する規定である民事執行法第63条と第129条の規定は適用されない(第3項)。
第539条 【担保権者が処分をすべき期間の指定】

 @ 担保権者が法律に定められた方法によらないで担保権の目的である財産の処分をする権利を有するときは、裁判所は、清算株式会社の申立てにより、担保権者がその処分をすべき期間を定めることができる。

 A 担保権者は、前項の期間内に処分をしないときは、同項の権利を失う。
担保権者が法律に定められた方法(例えば競売など)によらないで担保権の目的である財産の処分をする権利を有するときは、裁判所は、清算株式会社の申し立てにより担保権者がその処分をできる期間を決めることができる(第1項)。

この期間内に担保権者が処分をしなかったときは、担保権者はその担保権を失う(第2項)。

担保権行使に期間制限を設けることにより、特別清算手続きの迅速性をと安定性を確保するためである。