会社法 条文 会社法 解説
第2編 株式会社

第9章 清算

第2節 特別清算

第7款 清算の監督上必要な処分等
第540条 【清算株式会社の財産に関する保全処分】

 @ 裁判所は、特別清算開始の命令があった場合において、清算の監督上必要があると認めるときは、債権者、清算人、監査役若しくは株主の申立てにより又は職権で、清算株式会社の財産に関し、その財産の処分禁止の仮処分その他の必要な保全処分を命ずることができる。

 A 裁判所は、特別清算開始の申立てがあった時から当該申立てについての決定があるまでの間においても、必要があると認めるときは、債権者、清算人、監査役若しくは株主の申立てにより又は職権で、前項の規定による保全処分をすることができる。特別清算開始の申立てを却下する決定に対して第八百九十条第五項の即時抗告がされたときも、同様とする。

 B 裁判所が前二項の規定により清算株式会社が債権者に対して弁済その他の債務を消滅させる行為をすることを禁止する旨の保全処分を命じた場合には、債権者は、特別清算の関係においては、当該保全処分に反してされた弁済その他の債務を消滅させる行為の効力を主張することができない。ただし、債権者が、その行為の当時、当該保全処分がされたことを知っていたときに限る。
特別清算開始命令があったときは、裁判所は、必要があると認めるときは、債権者・清算人・監査役・株主の申し立てまたは職権により、清算株式会社の財産の保全処分を命じることができる(第1項)。保全処分とは、当該財産の処分禁止の仮処分などのことである。

この保全処分の必要性は、特別清算手続き中だけではなくそれ以前にも存在するため、裁判所は、特別清算開始の申し立てがあった時から申し立ての決定があるまでの間においても保全処分を行うことができる。また、特別清算開始の申し立てを却下する決定に対して即時抗告がされたとき(第890条第5項)も、裁判所は保全処分を行うことができる(第2項)。

これらにより、裁判所が保全処分を命じた場合、会社債権者は、特別清算の関係においては、保全処分に反してされた弁済その他の債務を消滅させる行為の効力を主張することはできない(第3項)。ただし、その時点において、保全処分の存在を知らなかった場合は別である。
第541条 【株主名簿の記載等の禁止】

 @ 裁判所は、特別清算開始の命令があった場合において、清算の監督上必要があると認めるときは、債権者、清算人、監査役若しくは株主の申立てにより又は職権で、清算株式会社が株主名簿記載事項を株主名簿に記載し、又は記録することを禁止することができる。

 A 裁判所は、特別清算開始の申立てがあった時から当該申立てについての決定があるまでの間においても、必要があると認めるときは、債権者、清算人、監査役若しくは株主の申立てにより又は職権で、前項の規定による処分をすることができる。特別清算開始の申立てを却下する決定に対して第八百九十条第五項の即時抗告がされたときも、同様とする。
特別清算開始命令があった場合、裁判所は、必要があると認めるときは、債権者・清算人・監査役・株主の申し立てまたは職権により、清算株式会社が株主名簿記載事項を株主名簿に記載・記録することを禁止することができる(第1項)。株主名簿記載事項が変更されることにより、特別清算手続きに支障が出ることを防ぐためである。

この措置の必要性は、特別清算手続き中だけではなくそれ以前にも存在するため、裁判所は、特別清算開始の申し立てがあった時から申し立ての決定があるまでの間においても株主名簿への記載・記録を禁止することができる。また、特別清算開始の申し立てを却下する決定に対して即時抗告がされたとき(第890条第5項)も、裁判所は株主名簿への記載・記録を禁止することができる(第2項)。
第542条 【役員等の財産に対する保全処分】

 @ 裁判所は、特別清算開始の命令があった場合において、清算の監督上必要があると認めるときは、清算株式会社の申立てにより又は職権で、発起人、設立時取締役、設立時監査役、第四百二十三条第一項に規定する役員等又は清算人(以下この款において「対象役員等」という。)の責任に基づく損害賠償請求権につき、当該対象役員等の財産に対する保全処分をすることができる。

 A 裁判所は、特別清算開始の申立てがあった時から当該申立てについての決定があるまでの間においても、緊急の必要があると認めるときは、清算株式会社の申立てにより又は職権で、前項の規定による保全処分をすることができる。特別清算開始の申立てを却下する決定に対して第八百九十条第五項の即時抗告がされたときも、同様とする。
特別清算開始命令があったときは、裁判所は、必要があると認めるときは、清算株式会社の申し立てまたは職権により、発起人・設立時取締役・設立時監査役・取締役・会計参与・監査役・執行役・会計監査人・清算人の責任に基づく損害賠償請求権のために、これらの役員等の財産に対する保全処分をすることができる(第1項)。

この保全処分の必要性は、特別清算手続き中だけではなくそれ以前にも存在するため、裁判所は、特別清算開始の申し立てがあった時から申し立ての決定があるまでの間においても保全処分を行うことができる。また、特別清算開始の申し立てを却下する決定に対して即時抗告がされたとき(第890条第5項)も、裁判所は保全処分を行うことができる(第2項)。
第543条 【役員等の責任の免除の禁止】

 裁判所は、特別清算開始の命令があった場合において、清算の監督上必要があると認めるときは、債権者、清算人、監査役若しくは株主の申立てにより又は職権で、対象役員等の責任の免除の禁止の処分をすることができる。
特別清算開始命令があったときは、裁判所は、必要があると認めるときは、債権者・清算人・監査役・株主の申し立てまたは職権により、発起人・設立時取締役・設立時監査役・取締役・会計参与・監査役・執行役・会計監査人・清算人の責任の免除の禁止の処分をすることができる。

これらの役員等の責任が安易に免除され、損害賠償請求ができなくなることを防止することにより、特別清算を十分なものにする趣旨である。
第544条 【役員等の責任の免除の取消し】

 @ 特別清算開始の命令があったときは、清算株式会社は、特別清算開始の申立てがあった後又はその前一年以内にした対象役員等の責任の免除を取り消すことができる。不正の目的によってした対象役員等の責任の免除についても、同様とする。

 A 前項の規定による取消権は、訴え又は抗弁によって、行使する。

 B 第一項の規定による取消権は、特別清算開始の命令があった日から二年を経過したときは、行使することができない。当該対象役員等の責任の免除の日から二十年を経過したときも、同様とする。
特別清算開始命令があったときは、清算株式会社は、特別清算開始の申し立ての1年前以降に行った発起人・設立時取締役・設立時監査役・取締役・会計参与・監査役・執行役・会計監査人の責任の免除の取り消しすることができる。また、不正の目的でなされた責任の免除についても同様に取り消すことができる(第1項)。
第545条 【役員等責任査定決定】

 @ 裁判所は、特別清算開始の命令があった場合において、必要があると認めるときは、清算株式会社の申立てにより又は職権で、対象役員等の責任に基づく損害賠償請求権の査定の裁判(以下この条において「役員等責任査定決定」という。)をすることができる。

 A 裁判所は、職権で役員等責任査定決定の手続を開始する場合には、その旨の決定をしなければならない。

 B 第一項の申立て又は前項の決定があったときは、時効の中断に関しては、裁判上の請求があったものとみなす。

 C 役員等責任査定決定の手続(役員等責任査定決定があった後のものを除く。)は、特別清算が終了したときは、終了する。
特別清算開始命令があった場合、裁判所は、必要があると認めるときは、清算株式会社の申し立てまたは職権により、発起人・設立時取締役・設立時監査役・取締役・会計参与・監査役・執行役・会計監査人の責任に基づく損害賠償請求権の査定の裁判をすることができる(第1項)。請求可能な損害賠償額を査定することにより、損害賠償額を清算株式会社の財務内容に反映させるためである。

ただし、この手続きは、特別清算が終了したときは、それと共に終了することになる(第4項)。