会社法 条文 会社法 解説
第3編 持分会社

第3章 管理

第2節 業務を執行する社員
第593条 【業務を執行する社員と持分会社との関係】

 @ 業務を執行する社員は、善良な管理者の注意をもって、その職務を行う義務を負う。

 A 業務を執行する社員は、法令及び定款を遵守し、持分会社のため忠実にその職務を行わなければならない。

 B 業務を執行する社員は、持分会社又は他の社員の請求があるときは、いつでもその職務の執行の状況を報告し、その職務が終了した後は、遅滞なくその経過及び結果を報告しなければならない。

 C 民法第六百四十六条から第六百五十条までの規定は、業務を執行する社員と持分会社との関係について準用する。この場合において、同法第六百四十六条第一項、第六百四十八条第二項、第六百四十九条及び第六百五十条中「委任事務」とあるのは「その職務」と、同法第六百四十八条第三項中「委任」とあるのは「前項の職務」と読み替えるものとする。

 D 前二項の規定は、定款で別段の定めをすることを妨げない。
持分会社が定款で業務執行社員を決めた場合、その者は株式会社においての取締役と同じような立場になり、会社やその他の社員との間には委任に似た関係が生じる。そのため、業務執行社員には善管注意義務と忠実義務が課せられる(第1項、第2項)。また、持分会社・その他の社員からの請求があれば、いつでもその職務の執行状況を報告し、職務が終了した後はすぐに経過と結果を報告しなければならない。

さらに、業務執行社員と持分会社との間の関係については、民法の委任についての規定(民法第646条から第650条)が準用される。

民法の委任についての規定は、以下を参照。
第10節 委任 第643条〜第656条
第594条 【競業の禁止】

 @ 業務を執行する社員は、当該社員以外の社員の全員の承認を受けなければ、次に掲げる行為をしてはならない。ただし、定款に別段の定めがある場合は、この限りでない。

 1 自己又は第三者のために持分会社の事業の部類に属する取引をすること。

 2 持分会社の事業と同種の事業を目的とする会社の取締役、執行役又は業務を執行する社員となること。

 A 業務を執行する社員が前項の規定に違反して同項第一号に掲げる行為をしたときは、当該行為によって当該業務を執行する社員又は第三者が得た利益の額は、持分会社に生じた損害の額と推定する。
業務執行社員には、株式会社の取締役と同様に、競業避止義務が課せられる。そのため、その他の社員全員の承認がなければ、以下の行為をすることはできない(承認があれば可能である)。

・自己又は第三者のために持分会社の事業の部類に属する取引をすること。
・持分会社の事業と同種の事業を目的とする会社の取締役、執行役又は業務を執行する社員となること。

ただし、定款において、別の定めをすることができる。
第595条 【利益相反取引の制限】

 @ 業務を執行する社員は、次に掲げる場合には、当該取引について当該社員以外の社員の過半数の承認を受けなければならない。ただし、定款に別段の定めがある場合は、この限りでない。

 1 業務を執行する社員が自己又は第三者のために持分会社と取引をしようとするとき。

 2 持分会社が業務を執行する社員の債務を保証することその他社員でない者との間において持分会社と当該社員との利益が相反する取引をしようとするとき。

 A 民法第百八条の規定は、前項の承認を受けた同項第一号の取引については、適用しない。
業務執行社員には、株式会社の取締役と同様に、利益相反取引が制限される。そのため、その他の社員の過半数の承認がなければ、以下の行為をすることはできない(承認があれば可能である)。

・業務を執行する社員が自己又は第三者のために持分会社と取引をしようとするとき。
・持分会社が業務を執行する社員の債務を保証することその他社員でない者との間において持分会社と当該社員との利益が相反する取引をしようとするとき。

民法第108条は、自己契約・双方代理についての規定である。以下を、参照。
第3節 代理 第99条〜第118条

第596条 【業務を執行する社員の持分会社に対する損害賠償責任】

 業務を執行する社員は、その任務を怠ったときは、持分会社に対し、連帯して、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
業務執行社員が、その任務を怠ったときは、会社に対して損害賠償責任を負う。また、任務を怠った業務執行社員が複数いる場合には、連帯債務となる。
第597条 【業務を執行する有限責任社員の第三者に対する損害賠償責任】

 業務を執行する有限責任社員がその職務を行うについて悪意又は重大な過失があったときは、当該有限責任社員は、連帯して、これによって第三者に生じた損害を賠償する責任を負う。
業務執行社員がその職務を行うについて悪意または重過失により第三者に損害を与えた場合、当該第三者に対して損害賠償責任を負う。また、この場合に、業務執行社員が複数いるときは、連帯債務となる。
第598条 【法人が業務を執行する社員である場合の特則】

 @ 法人が業務を執行する社員である場合には、当該法人は、当該業務を執行する社員の職務を行うべき者を選任し、その者の氏名及び住所を他の社員に通知しなければならない。

 A 第五百九十三条から前条までの規定は、前項の規定により選任された社員の職務を行うべき者について準用する。
法人でも持分会社の業務執行社員になることができる。ただし、実際的にはその持分会社の社員または従業員が業務執行社員の役割を果たすことになる。そのため、このような場合には、法人は業務執行社員の職務を行うべき者を選任し、その者の氏名と住所を他の社員に通知しなければならない(第1項)。そして、選任された者には業務執行社員に関する規定(第593条から第597条)が準用される(第2項)。
第599条 【持分会社の代表】

 @ 業務を執行する社員は、持分会社を代表する。ただし、他に持分会社を代表する社員その他持分会社を代表する者を定めた場合は、この限りでない。

 A 前項本文の業務を執行する社員が二人以上ある場合には、業務を執行する社員は、各自、持分会社を代表する。

 B 持分会社は、定款又は定款の定めに基づく社員の互選によって、業務を執行する社員の中から持分会社を代表する社員を定めることができる。

 C 持分会社を代表する社員は、持分会社の業務に関する一切の裁判上又は裁判外の行為をする権限を有する。

 D 前項の権限に加えた制限は、善意の第三者に対抗することができない。
業務執行社員は、原則として、会社の代表権を有する(第1項)。この会社を代表権を有する社員は、会社の業務に関する一切の裁判上または裁判外の行為をする権限を有する(第4項)。つまり、包括的権限があるということである。包括的権限という性質があるため、代表権に制限を加えた場合であっても、善意の第三者には対抗することができない(第5項)。

業務執行社員が複数いる場合、原則として、各自が単独で会社を代表する(第2項)。ただし、特定の業務執行社員にのみ代表権を与えることも可能である(第3項)。
第600条 【持分会社を代表する社員等の行為についての損害賠償責任】

 持分会社は、持分会社を代表する社員その他の代表者がその職務を行うについて第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。
持分会社の代表者(業務執行社員など)がその職務を行うについて、第三者に損害を与えた場合、持分会社も損害賠償責任を負う。これは、民法第44条の法人の不法行為能力と同趣旨の規定である。

対外的な関係においては、代表者と持分会社は一体のものとみられるためである。
第601条 【持分会社と社員との間の訴えにおける会社の代表】

 第五百九十九条第四項の規定にかかわらず、持分会社が社員に対し、又は社員が持分会社に対して訴えを提起する場合において、当該訴えについて持分会社を代表する者(当該社員を除く。)が存しないときは、当該社員以外の社員の過半数をもって、当該訴えについて持分会社を代表する者を定めることができる。
持分会社が民事訴訟を起こしたり、逆に訴えられたりした場合、会社を代表する社員が裁判上の行為を行うのが原則である(第599条第4項)。

しかし、持分会社を代表して裁判上の行為をするはずの代表者が持分会社を訴えたり、逆に持分会社から訴えられたりした場合においては、代表者以外の社員の過半数の決するところにより、会社を代表する者を決めることができる。
第602条 【持分会社と社員との間の訴えにおける会社の代表 その2】

 第五百九十九条第一項の規定にかかわらず、社員が持分会社に対して社員の責任を追及する訴えの提起を請求した場合において、持分会社が当該請求の日から六十日以内に当該訴えを提起しないときは、当該請求をした社員は、当該訴えについて持分会社を代表することができる。ただし、当該訴えが当該社員若しくは第三者の不正な利益を図り又は当該持分会社に損害を加えることを目的とする場合は、この限りでない。
持分会社の社員が、持分会社に対して他の社員の責任を追求するよう請求した場合において、持分会社が60日以内に責任を追及する裁判を起こさないときは、当該社員自身が持分会社の代表者として裁判をすることができる(これを代位という)。ただし、その裁判の目的が他の社員の責任追及という本来の目的ではなく、不正な利益を得ることや会社に損害を与えることが目的であるような場合には、代位することはできない。