会社法 条文 会社法 解説
第3編 持分会社

第4章 社員の加入及び退社

第2節 社員の退社
第606条 【任意退社】

 @ 持分会社の存続期間を定款で定めなかった場合又はある社員の終身の間持分会社が存続することを定款で定めた場合には、各社員は、事業年度の終了の時において退社をすることができる。この場合においては、各社員は、六箇月前までに持分会社に退社の予告をしなければならない。

 A 前項の規定は、定款で別段の定めをすることを妨げない。

 B 前二項の規定にかかわらず、各社員は、やむを得ない事由があるときは、いつでも退社することができる。
持分会社の定款で、存続期間について規定がない場合や存続期間が無期限とされている場合については、各社員は6ヶ月前までに退社の予告をした上で、持分会社の毎事業年度終了時に退社することができる(第1項)。ただし、定款において退社についての規定がある場合は、それに従わなければならない(第2項)。また、第1項と第2項の規定にかかわらず、各社員はやむを得ない事由がある場合はいつでも退社することができる(第3項)。
第607条 【法定退社】

 @ 社員は、前条、第六百九条第一項、第六百四十二条第二項及び第八百四十五条の場合のほか、次に掲げる事由によって退社する。

 1 定款で定めた事由の発生

 2 総社員の同意

 3 死亡

 4 合併(合併により当該法人である社員が消滅する場合に限る。)

 5 破産手続開始の決定

 6 解散(前二号に掲げる事由によるものを除く。)

 7 後見開始の審判を受けたこと。

 8 除名

 A 持分会社は、その社員が前項第五号から第七号までに掲げる事由の全部又は一部によっては退社しない旨を定めることができる。
法定退社とは、社員が当然にその社員としての地位を失い退社することである。第1項各号に規定されているものが、法定退社事由である。

ただし、破産手続開始の決定・解散・後見開始の審判を受けた場合については、当該会社の事情により退社させない方が良いこともあるため、定款で退社事由には当たらないと規定することができる(第2項)。
第608条 【相続及び合併の場合の特則】

 @ 持分会社は、その社員が死亡した場合又は合併により消滅した場合における当該社員の相続人その他の一般承継人が当該社員の持分を承継する旨を定款で定めることができる。

 A 第六百四条第二項の規定にかかわらず、前項の規定による定款の定めがある場合には、同項の一般承継人(社員以外のものに限る。)は、同項の持分を承継した時に、当該持分を有する社員となる。

 B 第一項の定款の定めがある場合には、持分会社は、同項の一般承継人が持分を承継した時に、当該一般承継人に係る定款の変更をしたものとみなす。

 C 第一項の一般承継人(相続により持分を承継したものであって、出資に係る払込み又は給付の全部又は一部を履行していないものに限る。)が二人以上ある場合には、各一般承継人は、連帯して当該出資に係る払込み又は給付の履行をする責任を負う。

 D 第一項の一般承継人(相続により持分を承継したものに限る。)が二人以上ある場合には、各一般承継人は、承継した持分についての権利を行使する者一人を定めなければ、当該持分についての権利を行使することができない。ただし、持分会社が当該権利を行使することに同意した場合は、この限りでない。
社員が死亡(自然人である社員の場合)または合併で消滅(法人である社員の場合)した場合において、持分会社は相続人やその他の一般承継人(契約により権利義務を取得したのではなく、相続などにより権利義務を受け継いだ者)が当該社員の持分を引き継げることを定款で定めることができる(第1項)。

第2項から第5項までは、第1項の場合においての一般承継人の地位や権利義務関係などについての特則である。
第609条 【持分の差押債権者による退社】

 @ 社員の持分を差し押さえた債権者は、事業年度の終了時において当該社員を退社させることができる。この場合においては、当該債権者は、六箇月前までに持分会社及び当該社員にその予告をしなければならない。

 A 前項後段の予告は、同項の社員が、同項の債権者に対し、弁済し、又は相当の担保を提供したときは、その効力を失う。

 B 第一項後段の予告をした同項の債権者は、裁判所に対し、持分の払戻しの請求権の保全に関し必要な処分をすることを申し立てることができる。
本条は、社員の債権者が社員を退社させることができる場合についての規定である。持分会社は、人的結合要素が強いため、社員の持分は当該持分会社の他の社員の意思と無関係に処分することはできない。

そこで、社員の債権者は、社員の持分を差し押さえた上で、その社員を持分会社の事業年度終了時に退社させ、その結果として当該社員の持分の金額の支払いを持分会社から得ることができる。この場合、退社させる事業年度終了時の6ヶ月前までに当該社員と持分会社に対して、退社させるということを予告しなければならない(第1項)。

第1項の予告は、当該社員が債権者に対して、弁済するか相当の担保を提供したときは、予告は効力を失い、当該社員は退社することを免れる(第2項)。

また、債権者は、社員を退社させて持分額を持分会社から得るまでの間に、持分を処分されたりしないように、裁判所に対して持分金額の請求権を保全するための仮処分の請求をすることができる(第3項)。
第610条 【退社に伴う定款のみなし変更】

 第六百六条、第六百七条第一項、前条第一項又は第六百四十二条第二項の規定により社員が退社した場合(第八百四十五条の規定により社員が退社したものとみなされる場合を含む。)には、持分会社は、当該社員が退社した時に、当該社員に係る定款の定めを廃止する定款の変更をしたものとみなす。
本条は、社員が以下のような形で退社した場合についての規定である。

・任意退社の規定に従って退社する場合
・法定退社の規定に従って退社する場合
・社員の債権者が社員の持分を差し押さえて社員を退社させた場合
・持分会社の継続に同意しなかった社員が持分会社が継続することになった日において退社する場合

このような場合、当該持分会社の定款の規定のうち、退社することとなった社員に関する定款の規定は、退社の時点において廃止されたものとみなされる。
第611条 【退社に伴う持分の払戻し】

 @ 退社した社員は、その出資の種類を問わず、その持分の払戻しを受けることができる。ただし、第六百八条第一項及び第二項の規定により当該社員の一般承継人が社員となった場合は、この限りでない。

 A 退社した社員と持分会社との間の計算は、退社の時における持分会社の財産の状況に従ってしなければならない。

 B 退社した社員の持分は、その出資の種類を問わず、金銭で払い戻すことができる。

 C 退社の時にまだ完了していない事項については、その完了後に計算をすることができる。

 D 社員が除名により退社した場合における第二項及び前項の規定の適用については、これらの規定中「退社の時」とあるのは、「除名の訴えを提起した時」とする。

 E 前項に規定する場合には、持分会社は、除名の訴えを提起した日後の年六分の利率により算定した利息をも支払わなければならない。

 F 社員の持分の差押えは、持分の払戻しを請求する権利に対しても、その効力を有する。
持分会社は、人的結合要素が強いため、社員でいるうちは他の社員の意思に反して自分の出資した持分を勝手に処分することはできない。しかし、退社した場合は、自分の出資した持分の払い戻しを受けることができる。ただし、一般承継人が持分を承継して社員となった場合は別である(第1項)。

払い戻しは、社員が退社する時点の会社の財産状況に従って行われる(第2項)。また、出資が株券や建物などの金銭ではなかった場合であっても、金銭で払い戻すことができる(第3項)。

除名により社員が退社した場合、当該社員に対して持分の払い戻しをしなければならない(第4項)。計算は、除名の訴えを提起した時の持分会社の財産状況に従って行われる(第5項)。この場合、除名の訴えを提起した時から持分の払い戻しが完了するまで、持分額に対して年利6%の利息も支払わなければならない(第6項)。

社員の債権者が、社員の持分を差し押さえた場合、差し押さえの効力は会社が有している持分額だけではなく、社員が持分を払い戻す権利に対しても及ぶ(第7項)。
第612条 【退社した社員の責任】

 @ 退社した社員は、その登記をする前に生じた持分会社の債務について、従前の責任の範囲内でこれを弁済する責任を負う。

 A 前項の責任は、同項の登記後二年以内に請求又は請求の予告をしない持分会社の債権者に対しては、当該登記後二年を経過した時に消滅する。
持分会社を退社した社員は、退社したという登記をする前に生じた債務について、社員であったときと同様の範囲内で責任を負う(第1項)。登記がなければ、債権者などにはその事実がわからないためである。

第1項の責任については、退社したという登記をした後2年以内に、債権者が請求・請求の予告をしない場合には、2年経過後に消滅する(第2項)。
第613条 【商号変更の請求】

 持分会社がその商号中に退社した社員の氏若しくは氏名又は名称を用いているときは、当該退社した社員は、当該持分会社に対し、その氏若しくは氏名又は名称の使用をやめることを請求することができる。
例えば、持分会社が、Aの名前を使い、A社となっていた場合において、Aが退社したとする。この場合、Aは持分会社に対して、A社という名前をやめるように請求することができる。