会社法 条文 会社法 解説
第3編 持分会社

第5章 計算等

第7節 合同会社の計算等に関する特則
第1款 計算書類の閲覧に関する特則

第625条 【会社債権者の書類閲覧等請求権】


 合同会社の債権者は、当該合同会社の営業時間内は、いつでも、その計算書類(作成した日から五年以内のものに限る。)について第六百十八条第一項各号に掲げる請求をすることができる。
合同会社は有限責任社員のみからなるため、債権者は会社財産の状況について常に把握しておく必要がある。本条の規定により、合同会社の債権者は、営業時間であればいつでも、計算書類の閲覧ができる。
第2款 資本金の額の減少に関する特則

第626条 【出資の払戻し又は持分の払戻しを行う場合の資本金の額の減少】

 @ 合同会社は、第六百二十条第一項の場合のほか、出資の払戻し又は持分の払戻しのために、その資本金の額を減少することができる。

 A 前項の規定により出資の払戻しのために減少する資本金の額は、第六百三十二条第二項に規定する出資払戻額から出資の払戻しをする日における剰余金額を控除して得た額を超えてはならない。

 B 第一項の規定により持分の払戻しのために減少する資本金の額は、第六百三十五条第一項に規定する持分払戻額から持分の払戻しをする日における剰余金額を控除して得た額を超えてはならない。

 C 前二項に規定する「剰余金額」とは、第一号に掲げる額から第二号から第四号までに掲げる額の合計額を減じて得た額をいう(第四款及び第五款において同じ。)。

 1 資産の額

 2 負債の額

 3 資本金の額

 4 前二号に掲げるもののほか、法務省令で定める各勘定科目に計上した額の合計額
合同会社は、損失の穴埋めのために資本金を減らすことができる(第620条第1項)。また、社員に対して、出資の払戻しをするために、資本金を減らすことができる(本条第1項)。

しかし、合同会社は有限責任社員のみから構成されるため、会社債権者保護のために、減少させることができる資本金に限度が設けられている(本条第2項から第4項、第632条)。
第627条 【債権者の異議】

 @ 合同会社が資本金の額を減少する場合には、当該合同会社の債権者は、当該合同会社に対し、資本金の額の減少について異議を述べることができる。

 A 前項に規定する場合には、合同会社は、次に掲げる事項を官報に公告し、かつ、知れている債権者には、各別にこれを催告しなければならない。ただし、第二号の期間は、一箇月を下ることができない。

 1 当該資本金の額の減少の内容

 2 債権者が一定の期間内に異議を述べることができる旨

 B 前項の規定にかかわらず、合同会社が同項の規定による公告を、官報のほか、第九百三十九条第一項の規定による定款の定めに従い、同項第二号又は第三号に掲げる公告方法によりするときは、前項の規定による各別の催告は、することを要しない。

 C 債権者が第二項第二号の期間内に異議を述べなかったときは、当該債権者は、当該資本金の額の減少について承認をしたものとみなす。

 D 債権者が第二項第二号の期間内に異議を述べたときは、合同会社は、当該債権者に対し、弁済し、若しくは相当の担保を提供し、又は当該債権者に弁済を受けさせることを目的として信託会社等に相当の財産を信託しなければならない。ただし、当該資本金の額の減少をしても当該債権者を害するおそれがないときは、この限りでない。

 E 資本金の額の減少は、前各項の手続が終了した日に、その効力を生ずる。
合同会社は、有限責任社員のみから構成される。そのため、会社債権者があてにできるのは、会社財産のみとなる。

本条は、会社債権者保護のため、資本金の減少においての手続き面での制約を課している。

資本金を減少させる合同会社は、資本金を減少させることの内容を官報に公告し、一ヶ月以上の期間をおいて債権者に異議を述べる機会を与えなければならない。また、把握している債権者には、各別にこれを催告しなければならない。

ただし、定款において、日刊新聞やインターネット等で公告すると規定している場合は、定款で規定された方法で公告をすれば、債権者に対する催告を行う必要はない。

債権者が、異議を述べられる期間内に異議を述べなかったときは、資本金の減少を承諾したものとみなす。逆に、債権者が異議を述べたときは、合同会社は当該債権者に対して、担保を提供するなどの措置をとならなければならない。

これらの手続きの終了により、資本金の減少は法的効力を有することとなる。
第3款 利益の配当に関する特則

第628条 【利益の配当の制限】

 合同会社は、利益の配当により社員に対して交付する金銭等の帳簿価額(以下この款において「配当額」という。)が当該利益の配当をする日における利益額を超える場合には、当該利益の配当をすることができない。この場合においては、合同会社は、第六百二十一条第一項の規定による請求を拒むことができる。
社員に対して分配する配当金が、配当する日の合同会社の利益額を超えるときは、そのような配当をすることができない。また、社員から、利益配当の要求があったとしても、拒否することができる。配当は、利益の中から行わなければならないということである。

これは、会社債権者保護のためである。
第629条 【利益の配当に関する責任】

 @ 合同会社が前条の規定に違反して利益の配当をした場合には、当該利益の配当に関する業務を執行した社員は、当該合同会社に対し、当該利益の配当を受けた社員と連帯して、当該配当額に相当する金銭を支払う義務を負う。ただし、当該業務を執行した社員がその職務を行うについて注意を怠らなかったことを証明した場合は、この限りでない。

 A 前項の義務は、免除することができない。ただし、利益の配当をした日における利益額を限度として当該義務を免除することについて総社員の同意がある場合は、この限りでない。
本条は、第628条の規定に違反して、合同会社が社員に対して会社の利益以上の配当を行った場合において、そのような配当を行った社員と、配当を受けた社員の責任についてを定めた規定である。

このような場合、配当業務を行った社員と配当を受けた社員は、合同会社に対して配当額相当の金銭を支払う連帯責任を負う。ただし、その業務を執行した社員がその職務を行うについて、注意を怠らなかったことを証明した場合は、この責任は免れる(第1項)。

また、合同会社は、社員に対する第1項の責任を免除することはできない。第1項の責任は、合同会社の債権者保護のための規定だからである。ただし、利益の配当をした日の会社の利益額の範囲において免除を行う場合は、債権者の利益を不当に害することはないので、総社員の同意があれば免除することができる(第2項)。
第630条 【社員に対する求償権の制限等】

 @ 前条第一項に規定する場合において、利益の配当を受けた社員は、配当額が利益の配当をした日における利益額を超えることにつき善意であるときは、当該配当額について、当該利益の配当に関する業務を執行した社員からの求償の請求に応ずる義務を負わない。

 A 前条第一項に規定する場合には、合同会社の債権者は、利益の配当を受けた社員に対し、配当額(当該配当額が当該債権者の合同会社に対して有する債権額を超える場合にあっては、当該債権額)に相当する金銭を支払わせることができる。

 B 第六百二十三条第二項の規定は、合同会社の社員については、適用しない。
本条は、第628条の規定に違反して、合同会社が社員に対して会社の利益以上の配当を行った場合において、そのような配当を行った社員と、配当を受けた社員との間の責任分担についてを定めた規定である。

配当を受けた社員は、配当額が配当日において利益額を超えることについて善意(知らなかった)であった場合には、配当業務を執行した社員からの求償(返還請求)に応じる必要はない(第1項)。

しかし、利益の配当を受けた社員は、合同会社の債権者から配当額に相当する金銭を支払うよう請求された場合は、配当額が配当日において利益額を超えることについて善意(知らなかった)であったとしても、支払わなければならない(第2項)。

合同会社の社員は、本条の責任を会社債権者に対して負うため、第623条第2項の規定は、適用されない(第3項)。
第631条 【欠損が生じた場合の責任】

 @ 合同会社が利益の配当をした場合において、当該利益の配当をした日の属する事業年度の末日に欠損額(合同会社の欠損の額として法務省令で定める方法により算定される額をいう。以下この項において同じ。)が生じたときは、当該利益の配当に関する業務を執行した社員は、当該合同会社に対し、当該利益の配当を受けた社員と連帯して、その欠損額(当該欠損額が配当額を超えるときは、当該配当額)を支払う義務を負う。ただし、当該業務を執行した社員がその職務を行うについて注意を怠らなかったことを証明した場合は、この限りでない。

 A 前項の義務は、総社員の同意がなければ、免除することができない。
本条は、配当をした後に、会社に欠損が生じた場合の処理と責任についての規定である。

利益配当がなされた事業年度の末日に会社会計に欠損が生じた場合、配当業務を執行した社員と、配当を受けた社員は連帯して会社に対して欠損額を支払う義務を負う。ただし、配当業務を執行した社員が、その業務執行について注意を怠らなかったことを証明した場合は、この責任を免れる(第1項)。

また、合同会社は、第1項の責任を、総社員の同意があった場合に限り免除できる(第2項)。
第4款 出資の払戻しに関する特則

第632条 【出資の払戻しの制限】

 @ 第六百二十四条第一項の規定にかかわらず、合同会社の社員は、定款を変更してその出資の価額を減少する場合を除き、同項前段の規定による請求をすることができない。

 A 合同会社が出資の払戻しにより社員に対して交付する金銭等の帳簿価額(以下この款において「出資払戻額」という。)が、第六百二十四条第一項前段の規定による請求をした日における剰余金額(第六百二十六条第一項の資本金の額の減少をした場合にあっては、その減少をした後の剰余金額。以下この款において同じ。)又は前項の出資の価額を減少した額のいずれか少ない額を超える場合には、当該出資の払戻しをすることができない。この場合においては、合同会社は、第六百二十四条第一項前段の規定による請求を拒むことができる。
原則として、持分会社の社員は出資額の払戻しを請求できるが、合同会社は有限責任社員のみから構成されるため、払戻しにより会社財産が少なくなると、会社債権者があてにできる唯一の財産が失われることになる場合もある。そのため、合同会社については、定款を変更して出資額を減らす場合についてのみ、社員に対して出資財産の払戻しを行うことができる(第1項)。

また、定款を変更した上で払戻しをする場合であっても、払戻す額が請求の行われた日における会社の剰余金額と定款変更により出資を減少させた額のうち、いずれか少ない方を超過する場合は、合同会社が出資の払戻しを行うことはできない。この場合、社員から請求されも会社は拒否することができる(第1項)。
第633条 【出資の払戻しに関する社員の責任】

 @ 合同会社が前条の規定に違反して出資の払戻しをした場合には、当該出資の払戻しに関する業務を執行した社員は、当該合同会社に対し、当該出資の払戻しを受けた社員と連帯して、当該出資払戻額に相当する金銭を支払う義務を負う。ただし、当該業務を執行した社員がその職務を行うについて注意を怠らなかったことを証明した場合は、この限りでない。

 A 前項の義務は、免除することができない。ただし、出資の払戻しをした日における剰余金額を限度として当該義務を免除することについて総社員の同意がある場合は、この限りでない。
本条は、第632条の規定に違反して、合同会社が出資の払戻しを行った場合において、出資の払戻しを行った業務執行社員と払戻しを受けた社員の責任についてを規定したものである。

合同会社が利益額を超える配当を行った場合(第629条)と同様に、両者が連帯して合同会社に対して責任を負わなければならない。

つまり、払戻しを行った業務執行社員がその職務を行うについて注意を怠らなかったことを証明しない限り、業務執行社員と払戻しを受けた社員は、払戻し額に相当する金銭を合同会社に対して支払わなければならない(第1項)。

また、この責任は免除することができない。ただし、総社員の同意があれば、出資の払戻し日における剰余金額を限度に、免除することができる(第2項)。
第634条 【社員に対する求償権の制限等】

 @ 前条第一項に規定する場合において、出資の払戻しを受けた社員は、出資払戻額が出資の払戻しをした日における剰余金額を超えることにつき善意であるときは、当該出資払戻額について、当該出資の払戻しに関する業務を執行した社員からの求償の請求に応ずる義務を負わない。

 A 前条第一項に規定する場合には、合同会社の債権者は、出資の払戻しを受けた社員に対し、出資払戻額(当該出資払戻額が当該債権者の合同会社に対して有する債権額を超える場合にあっては、当該債権額)に相当する金銭を支払わせることができる。
出資の払戻しを受けた社員が、当該払戻し額が会社の剰余金額を超過することについて善意(知らなかった)であった場合には、出資の払戻しを行った業務執行社員が第633条第1項に規定された責任として金銭を合同会社に支払ったとしても、その業務執行社員からの求償請求(第633条第1項は連帯債務であるため)に応じる必要はない(第1項)。

しかし、出資の払戻しを受けた社員が合同会社の債権者から、剰余金額以上の不当な出資払戻し分について支払うようにと請求された場合、当該社員がその出資が会社の剰余金額を超過するものであることについて善意(知らなかった)であっても、支払わなければならない(第2項)。
第5款 退社に伴う持分の払戻しに関する特則

第635条 【債権者の異議】

 @ 合同会社が持分の払戻しにより社員に対して交付する金銭等の帳簿価額(以下この款において「持分払戻額」という。)が当該持分の払戻しをする日における剰余金額を超える場合には、当該合同会社の債権者は、当該合同会社に対し、持分の払戻しについて異議を述べることができる。

 A 前項に規定する場合には、合同会社は、次に掲げる事項を官報に公告し、かつ、知れている債権者には、各別にこれを催告しなければならない。ただし、第二号の期間は、一箇月(持分払戻額が当該合同会社の純資産額として法務省令で定める方法により算定される額を超える場合にあっては、二箇月)を下ることができない。

 1 当該剰余金額を超える持分の払戻しの内容

 2 債権者が一定の期間内に異議を述べることができる旨

 B 前項の規定にかかわらず、合同会社が同項の規定による公告を、官報のほか、第九百三十九条第一項の規定による定款の定めに従い、同項第二号又は第三号に掲げる公告方法によりするときは、前項の規定による各別の催告は、することを要しない。ただし、持分払戻額が当該合同会社の純資産額として法務省令で定める方法により算定される額を超える場合は、この限りでない。

 C 債権者が第二項第二号の期間内に異議を述べなかったときは、当該債権者は、当該持分の払戻しについて承認をしたものとみなす。

 D 債権者が第二項第二号の期間内に異議を述べたときは、合同会社は、当該債権者に対し、弁済し、若しくは相当の担保を提供し、又は当該債権者に弁済を受けさせることを目的として信託会社等に相当の財産を信託しなければならない。ただし、持分払戻額が当該合同会社の純資産額として法務省令で定める方法により算定される額を超えない場合において、当該持分の払戻しをしても当該債権者を害するおそれがないときは、この限りでない。
本条は、合同会社社員の退社に伴う剰余金額を超過する持分の払戻しについて、会社債権者保護の観点から、会社債権者に告知と異議申し立ての機会を与えるべき旨について規定している。

合同会社は、剰余金額を超過する持分の払戻しを行う場合、払戻しの内容と一ヶ月以上の間をおいた異議申し立て期間を官報で公告し、会社がわかっている債権者には各別に催告しなければならない(定款で、日刊新聞やインターネットによる公告が規定されている場合は、その方法でもかまわない)。異議申し立て期間内で、異議がない場合は、債権者が当該払戻しを承認したものとみなす。逆に、異議があった場合には、合同会社は原則としてその債権者に弁済するか、担保を提供する等の措置をとらなければならない。
第636条 【業務を執行する社員の責任】

 @ 合同会社が前条の規定に違反して持分の払戻しをした場合には、当該持分の払戻しに関する業務を執行した社員は、当該合同会社に対し、当該持分の払戻しを受けた社員と連帯して、当該持分払戻額に相当する金銭を支払う義務を負う。ただし、持分の払戻しに関する業務を執行した社員がその職務を行うについて注意を怠らなかったことを証明した場合は、この限りでない。

 A 前項の義務は、免除することができない。ただし、持分の払戻しをした時における剰余金額を限度として当該義務を免除することについて総社員の同意がある場合は、この限りでない。
本条は、第635条の規定に違反して、合同会社が社員の退社による剰余金額を超過する持分払戻しに際して、会社債権者に告知と異議申し立ての機会を与えずに持分の払戻しを行った場合の社員の責任について規定したものである。

この場合、持分の払戻しを行った業務執行社員が、当該払戻しについて注意を怠らなかったことを証明しない限り、その業務執行社員は払戻しを受けた社員と連帯して、当該持分払戻し額に相当する金銭を支払い義務を負う(第1項)。

また、この責任は免除することができない。ただし、総社員の同意があれば、持分を払い戻した時における剰余金額を限度として、免除することができる(第2項)。