会社法 条文 会社法 解説
第4編 社債

第1章 総則
第676条 【募集社債に関する事項の決定】

 会社は、その発行する社債を引き受ける者の募集をしようとするときは、その都度、募集社債(当該募集に応じて当該社債の引受けの申込みをした者に対して割り当てる社債をいう。以下この編において同じ。)について次に掲げる事項を定めなければならない。

 1 募集社債の総額

 2 各募集社債の金額

 3 募集社債の利率

 4 募集社債の償還の方法及び期限

 5 利息支払の方法及び期限

 6 社債券を発行するときは、その旨

 7 社債権者が第六百九十八条の規定による請求の全部又は一部をすることができないこととするときは、その旨

 8 社債管理者が社債権者集会の決議によらずに第七百六条第一項第二号に掲げる行為をすることができることとするときは、その旨

 9 各募集社債の払込金額(各募集社債と引換えに払い込む金銭の額をいう。以下この章において同じ。)若しくはその最低金額又はこれらの算定方法

 10 募集社債と引換えにする金銭の払込みの期日

 11 一定の日までに募集社債の総額について割当てを受ける者を定めていない場合において、募集社債の全部を発行しないこととするときは、その旨及びその一定の日

 12 前各号に掲げるもののほか、法務省令で定める事項
社債とは、会社の資金調達の手段である。通常、多額で長期の資金を確保するために発行される。

会社が社債を発行する場合、本条第1号から第12号までの事項と法務省令で規定されている事項を定めなければならない。

具体的には、「第○○回○○会社社債募集、募集総額○○億円、利率年○分、償還期間○年○月○日までの○年間」といった風に募集される。
第677条 【募集社債の申込み】

 @ 会社は、前条の募集に応じて募集社債の引受けの申込みをしようとする者に対し、次に掲げる事項を通知しなければならない。

 1 会社の商号

 2 当該募集に係る前条各号に掲げる事項

 3 前二号に掲げるもののほか、法務省令で定める事項

 A 前条の募集に応じて募集社債の引受けの申込みをする者は、次に掲げる事項を記載した書面を会社に交付しなければならない。

 1 申込みをする者の氏名又は名称及び住所

 2 引き受けようとする募集社債の金額及び金額ごとの数

 3 会社が前条第九号の最低金額を定めたときは、希望する払込金額

 B 前項の申込みをする者は、同項の書面の交付に代えて、政令で定めるところにより、会社の承諾を得て、同項の書面に記載すべき事項を電磁的方法により提供することができる。この場合において、当該申込みをした者は、同項の書面を交付したものとみなす。

 C 第一項の規定は、会社が同項各号に掲げる事項を記載した金融商品取引法第二条第十項に規定する目論見書を第一項の申込みをしようとする者に対して交付している場合その他募集社債の引受けの申込みをしようとする者の保護に欠けるおそれがないものとして法務省令で定める場合には、適用しない。

 D 会社は、第一項各号に掲げる事項について変更があったときは、直ちに、その旨及び当該変更があった事項を第二項の申込みをした者(以下この章において「申込者」という。)に通知しなければならない。

 E 会社が申込者に対してする通知又は催告は、第二項第一号の住所(当該申込者が別に通知又は催告を受ける場所又は連絡先を当該会社に通知した場合にあっては、その場所又は連絡先)にあてて発すれば足りる。

 F 前項の通知又は催告は、その通知又は催告が通常到達すべきであった時に、到達したものとみなす。
会社は、社債の募集に応じようとする者に対して、第676条各号に規定されている募集条件、商号、法務省令で規定された事項を告知しなければならない(第1項、第4項)。これに対して、募集に応じようとする者は、氏名や住所などを記載した書面を会社に提出(これは電磁的方法によることもできる)しなければならない(第2項、第3項)。

会社は第1項各号の事項に変更があった場合は、すぐに募集に応じようとする者に対して通知しなければならない(第5項)。会社は、通知や催告を第2項第1号の住所にすればよく、通常到達すべきであったときに到達したものとみなす(第6項、第7項)。
第678条 【募集社債の割当て】

 @ 会社は、申込者の中から募集社債の割当てを受ける者を定め、かつ、その者に割り当てる募集社債の金額及び金額ごとの数を定めなければならない。この場合において、会社は、当該申込者に割り当てる募集社債の金額ごとの数を、前条第二項第二号の数よりも減少することができる。

 A 会社は、第六百七十六条第十号の期日の前日までに、申込者に対し、当該申込者に割り当てる募集社債の金額及び金額ごとの数を通知しなければならない。
会社は、募集社債に申し込んだ者の中から社債を割り当てる者を選び、かつ、割り当てる募集社債の金額と数を決めなければならない。この場合、割り当てる金額ごとの数を申込者の希望よりも減少して割り当てることができる(第1項)。

また、会社は金銭払い込みの前日までに、申込者に対して、割り当てる募集社債の金額と金額ごとの数を通知しなければならない(第2項)。
第679条 【募集社債の申込み及び割当てに関する特則】

 前二条の規定は、募集社債を引き受けようとする者がその総額の引受けを行う契約を締結する場合には、適用しない。
会社が募集社債の全額を引き受けようとする者に対して社債を発行する場合、第677条と第678条の規定は適用しない。

第677条と第678条は、会社の募集に応じようとする公衆を保護するための規定であり、一人の者だけが社債の全額を引き受ける場合には不適当だからである。
第680条 【募集社債の社債権者】

 次の各号に掲げる者は、当該各号に定める募集社債の社債権者となる。

 1 申込者 会社の割り当てた募集社債

 2 前条の契約により募集社債の総額を引き受けた者 その者が引き受けた募集社債
次の者は、募集社債の社債権者となる。

・申込者(会社が割り当てた募集社債について)
・募集社債の全額を引き受けた者(その社債発行回において募集した社債全てについて)
第681条 【社債原簿】

 会社は、社債を発行した日以後遅滞なく、社債原簿を作成し、これに次に掲げる事項(以下この章において「社債原簿記載事項」という。)を記載し、又は記録しなければならない。

 1 第六百七十六条第三号から第八号までに掲げる事項その他の社債の内容を特定するものとして法務省令で定める事項(以下この編において「種類」という。)

 2 種類ごとの社債の総額及び各社債の金額

 3 各社債と引換えに払い込まれた金銭の額及び払込みの日

 4 社債権者(無記名社債(無記名式の社債券が発行されている社債をいう。以下この編において同じ。)の社債権者を除く。)の氏名又は名称及び住所

 5 前号の社債権者が各社債を取得した日

 6 社債券を発行したときは、社債券の番号、発行の日、社債券が記名式か、又は無記名式かの別及び無記名式の社債券の数

 7 前各号に掲げるもののほか、法務省令で定める事項
社債原簿とは、氏名・名称・住所など債権者に関する情報や、社債に関する総発行高や払い込み期限、社債券を発行する場合においてはそれについての情報を記録し、会社に備え置かなければならない帳簿のことである。

会社は、本条に規定された事項に加え、法務省令で定められた情報を社債原簿に記載しなければならない。これは、電磁的方法によって行うこともできる。
第682条 【社債原簿記載事項を記載した書面の交付等】

 @ 社債権者(無記名社債の社債権者を除く。)は、社債を発行した会社(以下この編において「社債発行会社」という。)に対し、当該社債権者についての社債原簿に記載され、若しくは記録された社債原簿記載事項を記載した書面の交付又は当該社債原簿記載事項を記録した電磁的記録の提供を請求することができる。

 A 前項の書面には、社債発行会社の代表者が署名し、又は記名押印しなければならない。

 B 第一項の電磁的記録には、社債発行会社の代表者が法務省令で定める署名又は記名押印に代わる措置をとらなければならない。

 C 前三項の規定は、当該社債について社債券を発行する旨の定めがある場合には、適用しない。
会社が記名社債を発行する場合でその社債につき社債券を発行しないときは、社債権者に当該社債の社債原簿に記載された事項を記録した書面を交付しなければならない(電磁的記録によることもできる)。この書面には、発行会社の代表者の署名または記名押印が必要である(電磁的記録の場合は会社代表者の電子署名)。
第683条 【社債原簿管理人】

 会社は、社債原簿管理人(会社に代わって社債原簿の作成及び備置きその他の社債原簿に関する事務を行う者をいう。以下同じ。)を定め、当該事務を行うことを委託することができる。
社債原簿は、基本的には、取締役など会社代表者が作成し、保管するべき義務を負う。しかし、社債発行会社は社債原簿を管理する者を指定して、その者に社債原簿を管理してもらうことができる。これは、委任契約関係に基づくものとなる。
第684条 【社債原簿の備置き及び閲覧等】

 @ 社債発行会社は、社債原簿をその本店(社債原簿管理人がある場合にあっては、その営業所)に備え置かなければならない。

 A 社債権者その他の法務省令で定める者は、社債発行会社の営業時間内は、いつでも、次に掲げる請求をすることができる。この場合においては、当該請求の理由を明らかにしてしなければならない。

 1 社債原簿が書面をもって作成されているときは、当該書面の閲覧又は謄写の請求

 2 社債原簿が電磁的記録をもって作成されているときは、当該電磁的記録に記録された事項を法務省令で定める方法により表示したものの閲覧又は謄写の請求

 B 社債発行会社は、前項の請求があったときは、次のいずれかに該当する場合を除き、これを拒むことができない。

 1 当該請求を行う者がその権利の確保又は行使に関する調査以外の目的で請求を行ったとき。

 2 当該請求を行う者が社債原簿の閲覧又は謄写によって知り得た事実を利益を得て第三者に通報するため請求を行ったとき。

 3 当該請求を行う者が、過去二年以内において、社債原簿の閲覧又は謄写によって知り得た事実を利益を得て第三者に通報したことがあるものであるとき。

 C 社債発行会社が株式会社である場合には、当該社債発行会社の親会社社員は、その権利を行使するため必要があるときは、裁判所の許可を得て、当該社債発行会社の社債原簿について第二項各号に掲げる請求をすることができる。この場合においては、当該請求の理由を明らかにしてしなければならない。

 D 前項の親会社社員について第三項各号のいずれかに規定する事由があるときは、裁判所は、前項の許可をすることができない。
社債発行会社は、社債原簿を本店に備え置き、社債権者など利害関係人に対して、営業時間内はいつでも、閲覧・謄写させなければならない。ただし、請求者が社債に関する正当な権利行使とは違う目的で請求を行った場合など第3項各号に該当する場合、会社は請求を拒否することができる。
第685条 【社債権者に対する通知等】

 @ 社債発行会社が社債権者に対してする通知又は催告は、社債原簿に記載し、又は記録した当該社債権者の住所(当該社債権者が別に通知又は催告を受ける場所又は連絡先を当該社債発行会社に通知した場合にあっては、その場所又は連絡先)にあてて発すれば足りる。

 A 前項の通知又は催告は、その通知又は催告が通常到達すべきであった時に、到達したものとみなす。

 B 社債が二以上の者の共有に属するときは、共有者は、社債発行会社が社債権者に対してする通知又は催告を受領する者一人を定め、当該社債発行会社に対し、その者の氏名又は名称を通知しなければならない。この場合においては、その者を社債権者とみなして、前二項の規定を適用する。

 C 前項の規定による共有者の通知がない場合には、社債発行会社が社債の共有者に対してする通知又は催告は、そのうちの一人に対してすれば足りる。

 D 前各項の規定は、第七百二十条第一項の通知に際して社債権者に書面を交付し、又は当該書面に記載すべき事項を電磁的方法により提供する場合について準用する。この場合において、第二項中「到達したもの」とあるのは、「当該書面の交付又は当該事項の電磁的方法による提供があったもの」と読み替えるものとする。
社債発行会社が社債権者に対してする通知・催告は、社債原簿に記載・記録した社債権者の住所にあててすればよい(第1項)。この通知・催告は通常到達すべきであった時に、到達したものとみなす(第2項)。

社債が二人以上の者の共有である場合、共有者はそのうちの誰が通知・催告を受ける者かを決めて、社債発行会社に対してその者の氏名・名称を通知しなければならない(第3項)。この通知がない場合、社債発行会社は共有者の誰か一人に対して通知・催告をすればよい(第4項)。
第686条 【共有者による権利の行使】

 社債が二以上の者の共有に属するときは、共有者は、当該社債についての権利を行使する者一人を定め、会社に対し、その者の氏名又は名称を通知しなければ、当該社債についての権利を行使することができない。ただし、会社が当該権利を行使することに同意した場合は、この限りでない。
社債を二人以上の者が共有している場合は、共有者同士で社債についての権利行使をする者を決めて、会社に対してその者の氏名または名称を通知しなければ、社債についての権利行使をすることができない。ただし、会社の同意があれば別である。
第687条 【社債券を発行する場合の社債の譲渡】

 社債券を発行する旨の定めがある社債の譲渡は、当該社債に係る社債券を交付しなければ、その効力を生じない。
社債券を発行する場合の社債の譲渡は、当事者の合意に加えて社債券も一緒に引き渡さないと、その効力は生じない。

民法の原則では、動産の譲渡は当事者間の意思表示があれば法的効力が発生する。しかし、社債券が発行されている場合は、意思表示に加えて、社債券も必要である。
第688条 【社債の譲渡の対抗要件】

 @ 社債の譲渡は、その社債を取得した者の氏名又は名称及び住所を社債原簿に記載し、又は記録しなければ、社債発行会社その他の第三者に対抗することができない。

 A 当該社債について社債券を発行する旨の定めがある場合における前項の規定の適用については、同項中「社債発行会社その他の第三者」とあるのは、「社債発行会社」とする。

 B 前二項の規定は、無記名社債については、適用しない。
社債の譲渡は、社債を取得した者の氏名・名称と住所を社債原簿に記載・記録したなければ、社債発行会社・その他の第三者に主張することはできない。ただし、無記名社債の場合は別である。
第689条 【権利の推定等】

 @ 社債券の占有者は、当該社債券に係る社債についての権利を適法に有するものと推定する。

 A 社債券の交付を受けた者は、当該社債券に係る社債についての権利を取得する。ただし、その者に悪意又は重大な過失があるときは、この限りでない。
社債券の占有者は、その社債について正当な権利があるものと推定される(第1項)。これは、推定であって、反証があれば覆すことができる。

社債券を交付された者は、その社債についての権利を獲得する。ただし、その者に悪意または重大な過失があるときは、社債についての権利を獲得できない(第2項)。
第690条 【社債権者の請求によらない社債原簿記載事項の記載又は記録】

 @ 社債発行会社は、次の各号に掲げる場合には、当該各号の社債の社債権者に係る社債原簿記載事項を社債原簿に記載し、又は記録しなければならない。

 1 当該社債発行会社の社債を取得した場合

 2 当該社債発行会社が有する自己の社債を処分した場合

 A 前項の規定は、無記名社債については、適用しない。
本条第1項各号の場合は、社債発行会社が社債権者の請求を待たずに社債原簿へ記入を行わなければならない。ただし、無記名社債については別である。
第691条 【社債権者の請求による社債原簿記載事項の記載又は記録】

 @ 社債を社債発行会社以外の者から取得した者(当該社債発行会社を除く。)は、当該社債発行会社に対し、当該社債に係る社債原簿記載事項を社債原簿に記載し、又は記録することを請求することができる。

 A 前項の規定による請求は、利害関係人の利益を害するおそれがないものとして法務省令で定める場合を除き、その取得した社債の社債権者として社債原簿に記載され、若しくは記録された者又はその相続人その他の一般承継人と共同してしなければならない。

 B 前二項の規定は、無記名社債については、適用しない。
社債を社債発行会社以外の者から取得した者は、社債発行会社に対して社債に係る社債原簿記載事項を社債原簿に記載・記録するよう請求することができる(第1項)。この場合、法務省令で定められた例外の場合を除き、社債原簿に社債権者として記録してある者等と共同で変更請求をしなければならない(第2項)。

無記名社債については、第1項と第2項については適用しない(第3項)。
第692条 【社債券を発行する場合の社債の質入れ】

 社債券を発行する旨の定めがある社債の質入れは、当該社債に係る社債券を交付しなければ、その効力を生じない。
社債券を発行する旨の定めがある社債に質権を設定する場合は、その社債券を質権者に交付しなければ効力を生じない。

質権者とは債権者のことである。質権を設定する質権設定者は債務者のことである。
第693条 【社債の質入れの対抗要件】

 @ 社債の質入れは、その質権者の氏名又は名称及び住所を社債原簿に記載し、又は記録しなければ、社債発行会社その他の第三者に対抗することができない。

 A 前項の規定にかかわらず、社債券を発行する旨の定めがある社債の質権者は、継続して当該社債に係る社債券を占有しなければ、その質権をもって社債発行会社その他の第三者に対抗することができない。
社債の質権設定の第三者への対抗要件は、社債原簿に質権者の氏名・名称と住所を記載・記録することである(第1項)。

また、社債券が発行されている社債については、社債券の占有が第三者への対抗要件となる(第2項)。
第694条 【質権に関する社債原簿の記載等】

 @ 社債に質権を設定した者は、社債発行会社に対し、次に掲げる事項を社債原簿に記載し、又は記録することを請求することができる。

 1 質権者の氏名又は名称及び住所

 2 質権の目的である社債

 A 前項の規定は、社債券を発行する旨の定めがある場合には、適用しない。
質権の第三者対抗要件は、社債原簿への質権者に関する記載である(第693条)。

質権設定者は、社債発行会社に対して、質権者の氏名・名称と住所、質権の目的である社債を、記載・記録するよう請求することができる(第1項)。

ただし、社債券を発行する社債については、質権の第三者対抗要件は社債券の占有であるため、本条は適用されない(第2項)。
第695条 【質権に関する社債原簿の記載事項を記載した書面の交付等】

 @ 前条第一項各号に掲げる事項が社債原簿に記載され、又は記録された質権者は、社債発行会社に対し、当該質権者についての社債原簿に記載され、若しくは記録された同項各号に掲げる事項を記載した書面の交付又は当該事項を記録した電磁的記録の提供を請求することができる。

 A 前項の書面には、社債発行会社の代表者が署名し、又は記名押印しなければならない。

 B 第一項の電磁的記録には、社債発行会社の代表者が法務省令で定める署名又は記名押印に代わる措置をとらなければならない。
本条は、第694条の規定により質権者の情報が当該社債の社債原簿に記載された場合においての質権者の権利についての規定である。

質権者は、社債原簿に自分の氏名・名称と住所、質権の目的である社債が記載されているかについて重大な利害を有している。そのため、質権者は社債発行会社に対して、社債原簿に記載されているこれらの事項を記載した書面の交付または記録した電磁的記録を提供するよう請求することができる(第1項)。

第1項の書面には、社債発行会社の代表者が署名・記名押印しなければならない(第2項)。

第1項の電磁的記録には、社債発行会社の代表者が法務省令で規定された方法による電子署名をしなければならない(第3項)。
第695条の2 【信託財産に属する社債についての対抗要件等】

 @ 社債については、当該社債が信託財産に属する旨を社債原簿に記載し、又は記録しなければ、当該社債が信託財産に属することを株式会社その他の第三者に対抗することができない。

 A 第六百八十一条第四号の社債権者は、その有する社債が信託財産に属するときは、株式会社に対し、その旨を社債原簿に記載し、又は記録することを請求することができる。

 B 社債原簿に前項の規定による記載又は記録がされた場合における第六百八十二条第一項及び第六百九十条第一項の規定の適用については、第六百八十二条第一項中「記録された社債原簿記載事項」とあるのは「記録された社債原簿記載事項(当該社債権者の有する社債が信託財産に属する旨を含む。)」と、第六百九十条第一項中「社債原簿記載事項」とあるのは「社債原簿記載事項(当該社債権者の有する社債が信託財産に属する旨を含む。)」とする。

 C 前三項の規定は、社債券を発行する旨の定めがある社債については、適用しない。
本条は、信託法(平成18年法律第108号)の制定に伴い新設された条文である。

信託財産に属する社債は、そのことを社債原簿に記載・記録しなければ会社や第三者に主張できない。ただし、社債券を発行するという定めがある社債は別である。
第696条 【社債券の発行】

 社債発行会社は、社債券を発行する旨の定めがある社債を発行した日以後遅滞なく、当該社債に係る社債券を発行しなければならない。
社債発行会社は、社債券を発行すると決めた社債を発行した日以後、すぐに、社債券を発行しなければならない。
第697条 【社債券の記載事項】

 @ 社債券には、次に掲げる事項及びその番号を記載し、社債発行会社の代表者がこれに署名し、又は記名押印しなければならない。

 1 社債発行会社の商号

 2 当該社債券に係る社債の金額

 3 当該社債券に係る社債の種類

 A 社債券には、利札を付することができる。
社債券の券面には、商号・社債の金額・社債の種類を記した上で、発行会社の代表者が署名または記名押印しなければならない(第1項)。

社債券には利札を付して、その利札と引き換えに当該社債の利息を支払うという扱いにすることができる(第2項)。
第698条 【記名式と無記名式との間の転換】

 社債券が発行されている社債の社債権者は、第六百七十六条第七号に掲げる事項についての定めによりすることができないこととされている場合を除き、いつでも、その記名式の社債券を無記名式とし、又はその無記名式の社債券を記名式とすることを請求することができる。
社債券には、記名式社債券(券面に社債権者の氏名が記載されている)と、無記名式社債券(券面に社債権者の氏名が記載されていない)がある。

社債発行会社は、社債発行のときに、発行社債の社債券の種類を変更できない旨を定めることができる(第676条第7号)。しかし、このようなことが決められていない場合は、社債権者はいつでも社債券の種類の変更を発行会社に対して請求することができる(本条)。
第699条 【社債券の喪失】

 @ 社債券は、非訟事件手続法第百四十二条に規定する公示催告手続によって無効とすることができる。

 A 社債券を喪失した者は、非訟事件手続法第百四十八条第一項に規定する除権決定を得た後でなければ、その再発行を請求することができない。
本条は、裁判所が公示催告手続により社債券を無効とする手続きについて規定している。公示催告手続とは、裁判所が公示により権利者に届出を促して、その届出がない場合にはその権利を無効とする手続きのことである。

また、社債券を失った者が会社にその再発行を申請する場合には、除権決定により事前にその失われた社債券を無効としておかなければ、新たにその社債についての社債券を再発行してもらうことはできない。
第700条 【利札が欠けている場合における社債の償還】

 @ 社債発行会社は、社債券が発行されている社債をその償還の期限前に償還する場合において、これに付された利札が欠けているときは、当該利札に表示される社債の利息の請求権の額を償還額から控除しなければならない。ただし、当該請求権が弁済期にある場合は、この限りでない。

 A 前項の利札の所持人は、いつでも、社債発行会社に対し、これと引換えに同項の規定により控除しなければならない額の支払を請求することができる。
利息の二重払いを防ぐため、利札が欠けている場合においては、外された利札分の利息を引いて社債の買戻し金額を設定しなければならない(第1項)。そして、引かれた分の金額は、利札を持っている人がいれば、その人に支払われることになる(第2項)。
第701条 【社債の償還請求権等の消滅時効】

 @ 社債の償還請求権は、十年間行使しないときは、時効によって消滅する。

 A 社債の利息の請求権及び前条第二項の規定による請求権は、五年間行使しないときは、時効によって消滅する。
社債の償還請求権(社債権者が会社に対して、社債を買い戻すよう請求できる権利)は、償還請求権を行使できる時から10年間行使しなかったら時効により消滅する(第1項)。

また、社債の利息請求権や利息分に該当する金額の請求権は、行使できる時から5年間行使しなかったら時効により消滅する(第2項)。これらの権利については、派生的な権利であることと金額が社債より少ないため、期間が短い。