会社法 条文 会社法 解説
第4編 社債

第2章 社債管理者
第702条 【社債管理者の設置】

 会社は、社債を発行する場合には、社債管理者を定め、社債権者のために、弁済の受領、債権の保全その他の社債の管理を行うことを委託しなければならない。ただし、各社債の金額が一億円以上である場合その他社債権者の保護に欠けるおそれがないものとして法務省令で定める場合は、この限りでない。
社債を発行する場合には、社債管理者を決めて、その者に社債の管理を委託しなければならない。元利金の支払いを確実にし、一般の人が安心して社債を買うことができるようにするためである。ただし、各社債の金額が1億円以上である場合やその他債権者の保護の点で心配がないものと法務省令で定める場合については、社債管理者をおく必要はない。
第703条 【社債管理者の資格】

 社債管理者は、次に掲げる者でなければならない。

 1 銀行

 2 信託会社

 3 前二号に掲げるもののほか、これらに準ずるものとして法務省令で定める者
社債管理者になる資格がある者は以下である。

・銀行
・信託会社
・法務省令で定める者
第704条 【社債管理者の義務】

 @ 社債管理者は、社債権者のために、公平かつ誠実に社債の管理を行わなければならない。

 A 社債管理者は、社債権者に対し、善良な管理者の注意をもって社債の管理を行わなければならない。
社債管理者は社債権者に対して、公平誠実義務と善管注意義務を負う(第1項、第2項)。
第705条 【社債管理者の権限等】

 @ 社債管理者は、社債権者のために社債に係る債権の弁済を受け、又は社債に係る債権の実現を保全するために必要な一切の裁判上又は裁判外の行為をする権限を有する。

 A 社債管理者が前項の弁済を受けた場合には、社債権者は、その社債管理者に対し、社債の償還額及び利息の支払を請求することができる。この場合において、社債券を発行する旨の定めがあるときは、社債権者は、社債券と引換えに当該償還額の支払を、利札と引換えに当該利息の支払を請求しなければならない。

 B 前項前段の規定による請求権は、十年間行使しないときは、時効によって消滅する。

 C 社債管理者は、その管理の委託を受けた社債につき第一項の行為をするために必要があるときは、裁判所の許可を得て、社債発行会社の業務及び財産の状況を調査することができる。
社債管理者は、社債権者のために債権の弁済を受けたり、裁判上または裁判外の行為をする権限を有する(第1項)。

社債管理者が第1項の権限に基づき、社債の償還額や利息の支払いを受けたとき、社債権者は社債管理者に対してそれらを自分に渡すよう請求することができる(第2項)。この請求権は10年間行使しないと時効により消滅する(第3項)。
第706条 【社債管理者の権限等 その2】

 @ 社債管理者は、社債権者集会の決議によらなければ、次に掲げる行為をしてはならない。ただし、第二号に掲げる行為については、第六百七十六条第八号に掲げる事項についての定めがあるときは、この限りでない。

 1 当該社債の全部についてするその支払の猶予、その債務の不履行によって生じた責任の免除又は和解(次号に掲げる行為を除く。)

 2 当該社債の全部についてする訴訟行為又は破産手続、再生手続、更生手続若しくは特別清算に関する手続に属する行為(前条第一項の行為を除く。)

 A 社債管理者は、前項ただし書の規定により社債権者集会の決議によらずに同項第二号に掲げる行為をしたときは、遅滞なく、その旨を公告し、かつ、知れている社債権者には、各別にこれを通知しなければならない。

 B 前項の規定による公告は、社債発行会社における公告の方法によりしなければならない。ただし、その方法が電子公告であるときは、その公告は、官報に掲載する方法でしなければならない。

 C 社債管理者は、その管理の委託を受けた社債につき第一項各号に掲げる行為をするために必要があるときは、裁判所の許可を得て、社債発行会社の業務及び財産の状況を調査することができる。
社債管理者は、社債に関して非常に幅広い行為を行う権限が与えられており、原則的には、社債管理者は自分の判断においてこれらの権限を行使することができる(第705条)。

しかし、社債の全部について支払いを猶予する行為や訴訟行為や破産手続など第1項各号の行為については、社債権者に重大な不利益となることがある。そのため、これらの行為については、例外的に社債権者集会の決議が必要である(第1項)。ただし、倒産手続に関する行為については、募集社債の決定事項として定めていれば(第676条第8号)、決議がなくても行うことができる。
第707条 【特別代理人の選任】

 社債権者と社債管理者との利益が相反する場合において、社債権者のために裁判上又は裁判外の行為をする必要があるときは、裁判所は、社債権者集会の申立てにより、特別代理人を選任しなければならない。
社債権者と社債管理者との間で利害が対立する場合で、社債権者のために裁判上または裁判外の行為をする必要があるときは、裁判所は社債権者集会の申し立てにより、特別代理人を選任しなければならない。
第708条 【社債管理者等の行為の方式】

 社債管理者又は前条の特別代理人が社債権者のために裁判上又は裁判外の行為をするときは、個別の社債権者を表示することを要しない。
社債管理者や第707条の特別代理人は、法的な地位は社債権者の代理人である。

民法の原則では、代理人が本人に代わり何らかの行為をする場合は、本人の名前を表示する必要がある(民法第99条第1項)。しかし、本条の規定により、社債管理者と特別代理人は、社債権者のために裁判上または裁判外の行為をするときは、社債権者の名前を表示する必要はない。
第709条 【二以上の社債管理者がある場合の特則】

 @ 二以上の社債管理者があるときは、これらの者が共同してその権限に属する行為をしなければならない。

 A 前項に規定する場合において、社債管理者が第七百五条第一項の弁済を受けたときは、社債管理者は、社債権者に対し、連帯して、当該弁済の額を支払う義務を負う。
複数の社債管理者がいるとき、これらの者はその権限に属する行為をするときは共同でしなければならない。
第710条 【社債管理者の責任】

 @ 社債管理者は、この法律又は社債権者集会の決議に違反する行為をしたときは、社債権者に対し、連帯して、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

 A 社債管理者は、社債発行会社が社債の償還若しくは利息の支払を怠り、若しくは社債発行会社について支払の停止があった後又はその前三箇月以内に、次に掲げる行為をしたときは、社債権者に対し、損害を賠償する責任を負う。ただし、当該社債管理者が誠実にすべき社債の管理を怠らなかったこと又は当該損害が当該行為によって生じたものでないことを証明したときは、この限りでない。

 1 当該社債管理者の債権に係る債務について社債発行会社から担保の供与又は債務の消滅に関する行為を受けること。

 2 当該社債管理者と法務省令で定める特別の関係がある者に対して当該社債管理者の債権を譲り渡すこと(当該特別の関係がある者が当該債権に係る債務について社債発行会社から担保の供与又は債務の消滅に関する行為を受けた場合に限る。)。

 3 当該社債管理者が社債発行会社に対する債権を有する場合において、契約によって負担する債務を専ら当該債権をもってする相殺に供する目的で社債発行会社の財産の処分を内容とする契約を社債発行会社との間で締結し、又は社債発行会社に対して債務を負担する者の債務を引き受けることを内容とする契約を締結し、かつ、これにより社債発行会社に対し負担した債務と当該債権とを相殺すること。

 4 当該社債管理者が社債発行会社に対して債務を負担する場合において、社債発行会社に対する債権を譲り受け、かつ、当該債務と当該債権とを相殺すること。
社債管理者は、会社法と社債権者集会の決議に従い、社債権者のために活動しなければならない。この義務に違反した場合は、それにより生じた損害を賠償しなければならない(第1項)。

また、社債管理者は、社債発行会社が社債の償還もしくは利息の支払いを怠り、もしくは社債発行会社について支払いの停止があった後またはその前3ヶ月以内に、第2項各号の行為をしたときは、社債権者に損害賠償責任を負う(第2項)。

第1項については、社債権者が社債管理者の義務違反を証明しなければならない。第2項については、社債管理者は社債の管理を怠らなかったことを証明した場合、または損害の発生原因が他にあることを証明すれば、責任を免れることができる。
第711条 【社債管理者の辞任】

 @ 社債管理者は、社債発行会社及び社債権者集会の同意を得て辞任することができる。この場合において、他に社債管理者がないときは、当該社債管理者は、あらかじめ、事務を承継する社債管理者を定めなければならない。

 A 前項の規定にかかわらず、社債管理者は、第七百二条の規定による委託に係る契約に定めた事由があるときは、辞任することができる。ただし、当該契約に事務を承継する社債管理者に関する定めがないときは、この限りでない。

 B 第一項の規定にかかわらず、社債管理者は、やむを得ない事由があるときは、裁判所の許可を得て、辞任することができる。
社債管理者は、社債発行会社と委託契約を結んで社債を管理する者である。そのため、契約の相手である社債発行会社と、利益を保護される社債権者集会の同意があれば、社債管理者は辞任することができる(第1項)。

委託契約であらかじめ取り決めておいた条件がそろった場合も、社債管理者は辞任することができる(第2項)。

また、社債発行会社と社債権者の同意がない場合であっても、社債管理者はやむを得ない事由があれば、裁判所の許可を得た上で辞任することができる(第3項)。
第712条 【社債管理者が辞任した場合の責任】

 第七百十条第二項の規定は、社債発行会社が社債の償還若しくは利息の支払を怠り、若しくは社債発行会社について支払の停止があった後又はその前三箇月以内に前条第二項の規定により辞任した社債管理者について準用する。
本条はつまり、社債発行会社の財務状況が悪化してから辞任をした社債管理者にも、第710条第2項の規定が適用されるということである。責任逃れ防止のためである。
第713条 【社債管理者の解任】

 裁判所は、社債管理者がその義務に違反したとき、その事務処理に不適任であるときその他正当な理由があるときは、社債発行会社又は社債権者集会の申立てにより、当該社債管理者を解任することができる。
社債管理者は、重要な職務があるため、基本的に自由に辞任することはできない。しかし、裁判所は、社債発行会社や社債権者の申し立てにより社債管理者を解任することができる。
第714条 【社債管理者の事務の承継】

 @ 社債管理者が次のいずれかに該当することとなった場合において、他に社債管理者がないときは、社債発行会社は、事務を承継する社債管理者を定め、社債権者のために、社債の管理を行うことを委託しなければならない。この場合においては、社債発行会社は、社債権者集会の同意を得るため、遅滞なく、これを招集し、かつ、その同意を得ることができなかったときは、その同意に代わる裁判所の許可の申立てをしなければならない。

 1 第七百三条各号に掲げる者でなくなったとき。

 2 第七百十一条第三項の規定により辞任したとき。

 3 前条の規定により解任されたとき。

 4 解散したとき。

 A 社債発行会社は、前項前段に規定する場合において、同項各号のいずれかに該当することとなった日後二箇月以内に、同項後段の規定による招集をせず、又は同項後段の申立てをしなかったときは、当該社債の総額について期限の利益を喪失する。

 B 第一項前段に規定する場合において、やむを得ない事由があるときは、利害関係人は、裁判所に対し、事務を承継する社債管理者の選任の申立てをすることができる。

 C 社債発行会社は、第一項前段の規定により事務を承継する社債管理者を定めた場合(社債権者集会の同意を得た場合を除く。)又は前項の規定による事務を承継する社債管理者の選任があった場合には、遅滞なく、その旨を公告し、かつ、知れている社債権者には、各別にこれを通知しなければならない。
社債管理者が第1項各号に該当することになった場合、他に社債管理者がいなければ、社債発行会社は2ヶ月以内に事務を引き継ぐ後任を決める手続きをとらなければならない。この手続きを怠ると、当該社債の総額について期限の利益を喪失する(第1項、第2項)。これは、すぐに社債の償還請求に応じなければならなくなるということである。

後任の社債管理者が決まったときは、新聞などに公告し、さらに社債発行会社に知れている社債権者に対しては個別に知らせなければならない(第4項)。