会社法 条文 会社法 解説
第5編 組織変更、合併、会社分割、株式交換及び株式移転

第3章 会社分割

第2節 新設分割
第1款 通則

第762条 【新設分割計画の作成】


 @ 一又は二以上の株式会社又は合同会社は、新設分割をすることができる。この場合においては、新設分割計画を作成しなければならない。

 A 二以上の株式会社又は合同会社が共同して新設分割をする場合には、当該二以上の株式会社又は合同会社は、共同して新設分割計画を作成しなければならない。
新設分割とは、会社分割により新しい会社(これを新設分割設立会社という)を作り、その新しい会社に事業の全部または一部を引き継がせることをいう。多角経営をしている会社が、各営業部門を独立させて経営の効率化を図る場合などによく使われる方法である。

新設分割を行う場合は、新設分割計画を作らなければならない(第1項)。新設分割は一つの会社だけで行うこともできるが、二つ以上の会社が共同して行う場合は、新設分割計画も共同で作らなければならない(第2項)。
第2款 株式会社を設立する新設分割

第763条 【株式会社を設立する新設分割計画】


 一又は二以上の株式会社又は合同会社が新設分割をする場合において、新設分割により設立する会社(以下この編において「新設分割設立会社」という。)が株式会社であるときは、新設分割計画において、次に掲げる事項を定めなければならない。

 1 株式会社である新設分割設立会社(以下この編において「新設分割設立株式会社」という。)の目的、商号、本店の所在地及び発行可能株式総数

 2 前号に掲げるもののほか、新設分割設立株式会社の定款で定める事項

 3 新設分割設立株式会社の設立時取締役の氏名

 4 次のイからハまでに掲げる場合の区分に応じ、当該イからハまでに定める事項

  イ 新設分割設立株式会社が会計参与設置会社である場合 新設分割設立株式会社の設立時会計参与の氏名又は名称

  ロ 新設分割設立株式会社が監査役設置会社(監査役の監査の範囲を会計に関するものに限定する旨の定款の定めがある株式会社を含む。)である場合 新設分割設立株式会社の設立時監査役の氏名

  ハ 新設分割設立株式会社が会計監査人設置会社である場合 新設分割設立株式会社の設立時会計監査人の氏名又は名称

 5 新設分割設立株式会社が新設分割により新設分割をする会社(以下この編において「新設分割会社」という。)から承継する資産、債務、雇用契約その他の権利義務(株式会社である新設分割会社(以下この編において「新設分割株式会社」という。)の株式及び新株予約権に係る義務を除く。)に関する事項

 6 新設分割設立株式会社が新設分割に際して新設分割会社に対して交付するその事業に関する権利義務の全部又は一部に代わる当該新設分割設立株式会社の株式の数(種類株式発行会社にあっては、株式の種類及び種類ごとの数)又はその数の算定方法並びに当該新設分割設立株式会社の資本金及び準備金の額に関する事項

 7 二以上の株式会社又は合同会社が共同して新設分割をするときは、新設分割会社に対する前号の株式の割当てに関する事項

 8 新設分割設立株式会社が新設分割に際して新設分割会社に対してその事業に関する権利義務の全部又は一部に代わる当該新設分割設立株式会社の社債等を交付するときは、当該社債等についての次に掲げる事項

  イ 当該社債等が新設分割設立株式会社の社債(新株予約権付社債についてのものを除く。)であるときは、当該社債の種類及び種類ごとの各社債の金額の合計額又はその算定方法

  ロ 当該社債等が新設分割設立株式会社の新株予約権(新株予約権付社債に付されたものを除く。)であるときは、当該新株予約権の内容及び数又はその算定方法

  ハ 当該社債等が新設分割設立株式会社の新株予約権付社債であるときは、当該新株予約権付社債についてのイに規定する事項及び当該新株予約権付社債に付された新株予約権についてのロに規定する事項

 9 前号に規定する場合において、二以上の株式会社又は合同会社が共同して新設分割をするときは、新設分割会社に対する同号の社債等の割当てに関する事項

 10 新設分割設立株式会社が新設分割に際して新設分割株式会社の新株予約権の新株予約権者に対して当該新株予約権に代わる当該新設分割設立株式会社の新株予約権を交付するときは、当該新株予約権についての次に掲げる事項

  イ 当該新設分割設立株式会社の新株予約権の交付を受ける新設分割株式会社の新株予約権の新株予約権者の有する新株予約権(以下この編において「新設分割計画新株予約権」という。)の内容

  ロ 新設分割計画新株予約権の新株予約権者に対して交付する新設分割設立株式会社の新株予約権の内容及び数又はその算定方法

  ハ 新設分割計画新株予約権が新株予約権付社債に付された新株予約権であるときは、新設分割設立株式会社が当該新株予約権付社債についての社債に係る債務を承継する旨並びにその承継に係る社債の種類及び種類ごとの各社債の金額の合計額又はその算定方法

 11 前号に規定する場合には、新設分割計画新株予約権の新株予約権者に対する同号の新設分割設立株式会社の新株予約権の割当てに関する事項

 12 新設分割株式会社が新設分割設立株式会社の成立の日に次に掲げる行為をするときは、その旨

  イ 第百七十一条第一項の規定による株式の取得(同項第一号に規定する取得対価が新設分割設立株式会社の株式(これに準ずるものとして法務省令で定めるものを含む。ロにおいて同じ。)のみであるものに限る。)

  ロ 剰余金の配当(配当財産が新設分割設立株式会社の株式のみであるものに限る。)
本条は、新設分割により設立される会社が株式会社である場合において、新設分割計画で決めなければならない事項についての規定である。

新しい会社が設立されるため、まず、その会社の目的・商号・本店の所在地・発行可能株式総数(第37条参照)を決めなければならない(第1号)。

また、新設分割設立株式会社の定款で決める事項についても決めなければならない(第2号)。

新設分割設立会社が株式会社である場合、事業の全部または一部を引き継ぐ代わりに分割される会社に対して、新設分割設立会社が発行する株式を譲ることとなる。譲る株式の数、資本金、準備金の額は、新設分割設立会社の財産的基礎を決めるのに非常に重要な事柄であるため、新設分割計画で決めなければならない(第6号)。
第764条 【株式会社を設立する新設分割の効力の発生等】

 @ 新設分割設立株式会社は、その成立の日に、新設分割計画の定めに従い、新設分割会社の権利義務を承継する。

 A 前項の規定にかかわらず、第八百十条第一項第二号(第八百十三条第二項において準用する場合を含む。次項において同じ。)の規定により異議を述べることができる新設分割会社の債権者(第八百十条第二項(第三号を除き、第八百十三条第二項において準用する場合を含む。以下この項及び次項において同じ。)の各別の催告をしなければならないものに限る。次項において同じ。)が第八百十条第二項の各別の催告を受けなかった場合には、当該債権者は、新設分割計画において新設分割後に新設分割会社に対して債務の履行を請求することができないものとされているときであっても、新設分割会社に対して、新設分割会社が新設分割設立株式会社の成立の日に有していた財産の価額を限度として、当該債務の履行を請求することができる。

 B 第一項の規定にかかわらず、第八百十条第一項第二号の規定により異議を述べることができる新設分割会社の債権者が同条第二項の各別の催告を受けなかった場合には、当該債権者は、新設分割計画において新設分割後に新設分割設立株式会社に対して債務の履行を請求することができないものとされているときであっても、新設分割設立株式会社に対して、承継した財産の価額を限度として、当該債務の履行を請求することができる。

 C 前条に規定する場合には、新設分割会社は、新設分割設立株式会社の成立の日に、新設分割計画の定めに従い、同条第六号の株式の株主となる。

 D 次の各号に掲げる場合には、新設分割会社は、新設分割設立株式会社の成立の日に、新設分割計画の定めに従い、当該各号に定める者となる。

 1 前条第八号イに掲げる事項についての定めがある場合 同号イの社債の社債権者

 2 前条第八号ロに掲げる事項についての定めがある場合 同号ロの新株予約権の新株予約権者

 3 前条第八号ハに掲げる事項についての定めがある場合 同号ハの新株予約権付社債についての社債の社債権者及び当該新株予約権付社債に付された新株予約権の新株予約権者

 E 二以上の株式会社又は合同会社が共同して新設分割をする場合における前二項の規定の適用については、第四項中「新設分割計画の定め」とあるのは「同条第七号に掲げる事項についての定め」と、前項中「新設分割計画の定め」とあるのは「前条第九号に掲げる事項についての定め」とする。

 F 前条第十号に規定する場合には、新設分割設立株式会社の成立の日に、新設分割計画新株予約権は、消滅し、当該新設分割計画新株予約権の新株予約権者は、同条第十一号に掲げる事項についての定めに従い、同条第十号ロの新設分割設立株式会社の新株予約権の新株予約権者となる。
本条は、新設分割により設立される会社が株式会社である場合において、新設分割の効力についての規定である。

新設分割の効力が法律上認められるのは、新設分割設立会社の成立日である(第1号)。株式会社は、本店の所在地において設立登記をすることによって成立するため(第49条)、設立登記をした日に新設分割の効力が認められることになる。

新設分割については、分割会社の債権者のうち一定の者に、異議を述べる権利が認められている(第810条第1項第2号)。新設分割計画では、新設分割会社の債権者は新設分割後は新設分割会社に債務の履行を請求できないとか、または、新設分割後は新設分割設立会社には債務の履行を請求できないと決めることができる。しかし、異議を言う機会が与えられるべきであったにもかかわらず、与えられなかった債権者は、新設分割会社または新設分割設立会社に対して、債務の履行を請求することができる(第2項、第3項)。
第3款 持分会社を設立する新設分割

第765条 【持分会社を設立する新設分割計画】


 @ 一又は二以上の株式会社又は合同会社が新設分割をする場合において、新設分割設立会社が持分会社であるときは、新設分割計画において、次に掲げる事項を定めなければならない。

 1 持分会社である新設分割設立会社(以下この編において「新設分割設立持分会社」という。)が合名会社、合資会社又は合同会社のいずれであるかの別

 2 新設分割設立持分会社の目的、商号及び本店の所在地

 3 新設分割設立持分会社の社員についての次に掲げる事項

  イ 当該社員の名称及び住所

  ロ 当該社員が無限責任社員又は有限責任社員のいずれであるかの別

  ハ 当該社員の出資の価額

 4 前二号に掲げるもののほか、新設分割設立持分会社の定款で定める事項

 5 新設分割設立持分会社が新設分割により新設分割会社から承継する資産、債務、雇用契約その他の権利義務(新設分割株式会社の株式及び新株予約権に係る義務を除く。)に関する事項

 6 新設分割設立持分会社が新設分割に際して新設分割会社に対してその事業に関する権利義務の全部又は一部に代わる当該新設分割設立持分会社の社債を交付するときは、当該社債の種類及び種類ごとの各社債の金額の合計額又はその算定方法

 7 前号に規定する場合において、二以上の株式会社又は合同会社が共同して新設分割をするときは、新設分割会社に対する同号の社債の割当てに関する事項

 8 新設分割株式会社が新設分割設立持分会社の成立の日に次に掲げる行為をするときは、その旨

  イ 第百七十一条第一項の規定による株式の取得(同項第一号に規定する取得対価が新設分割設立持分会社の持分(これに準ずるものとして法務省令で定めるものを含む。ロにおいて同じ。)のみであるものに限る。)

  ロ 剰余金の配当(配当財産が新設分割設立持分会社の持分のみであるものに限る。)

 A 新設分割設立持分会社が合名会社であるときは、前項第三号ロに掲げる事項として、その社員の全部を無限責任社員とする旨を定めなければならない。

 B 新設分割設立持分会社が合資会社であるときは、第一項第三号ロに掲げる事項として、その社員の一部を無限責任社員とし、その他の社員を有限責任社員とする旨を定めなければならない。

 C 新設分割設立持分会社が合同会社であるときは、第一項第三号ロに掲げる事項として、その社員の全部を有限責任社員とする旨を定めなければならない。
本条は、新設分割設立会社が持分会社である場合において、新設分割計画で決めなければならない事項についての規定である。

持分会社において、新設分割をすることができるのは合同会社だけであるが、新設分割設立会社は合名会社、合資会社、合同会社のいずれであってもよい。

新設分割計画では、新設分割設立会社がどの種類の持分会社なのかを決めなければならない(第1項第1号)。また、持分会社の種類に応じて、社員の名称と住所、無限責任社員なのか有限責任社員なのかを決めなければならない(第1項第3号、第2項、第3項、第4項)。

また、新設分割設立会社の定款で定める事項について、あらかじめ新設分割計画決めておかなければならない(第1項第4号)。
第766条 【持分会社を設立する新設分割の効力の発生等】

 @ 新設分割設立持分会社は、その成立の日に、新設分割計画の定めに従い、新設分割会社の権利義務を承継する。

 A 前項の規定にかかわらず、第八百十条第一項第二号(第八百十三条第二項において準用する場合を含む。次項において同じ。)の規定により異議を述べることができる新設分割会社の債権者(第八百十条第二項(第三号を除き、第八百十三条第二項において準用する場合を含む。以下この項及び次項において同じ。)の各別の催告をしなければならないものに限る。次項において同じ。)が第八百十条第二項の各別の催告を受けなかった場合には、当該債権者は、新設分割計画において新設分割後に新設分割会社に対して債務の履行を請求することができないものとされているときであっても、新設分割会社に対して、新設分割会社が新設分割設立持分会社の成立の日に有していた財産の価額を限度として、当該債務の履行を請求することができる。

 B 第一項の規定にかかわらず、第八百十条第一項第二号の規定により異議を述べることができる新設分割会社の債権者が同条第二項の各別の催告を受けなかった場合には、当該債権者は、新設分割計画において新設分割後に新設分割設立持分会社に対して債務の履行を請求することができないものとされているときであっても、新設分割設立持分会社に対して、承継した財産の価額を限度として、当該債務の履行を請求することができる。

 C 前条第一項に規定する場合には、新設分割会社は、新設分割設立持分会社の成立の日に、同項第三号に掲げる事項についての定めに従い、当該新設分割設立持分会社の社員となる。

 D 前条第一項第六号に掲げる事項についての定めがある場合には、新設分割会社は、新設分割設立持分会社の成立の日に、新設分割計画の定めに従い、同号の社債の社債権者となる。

 E 二以上の株式会社又は合同会社が共同して新設分割をする場合における前項の規定の適用については、同項中「新設分割計画の定めに従い、同号」とあるのは、「同項第七号に掲げる事項についての定めに従い、同項第六号」とする。
本条は、親切分割設立会社が持分会社である場合において、新設分割の効力について規定している。

新設分割の効力が法律上認められるのは、新設分割設立会社の成立日である(第1号)。つまり、新設分割設立持分会社が本店所在地で設立登記をした日に新設分割の効力が認められることになる。

この成立日に、分割会社の事業の全部または一部が親切分割設立持分会社に引き継がれる(第1項)。

新設分割については、分割会社の債権者のうち一定の者に、異議を述べる権利が認められている(第810条第1項第2号)。新設分割計画では、新設分割会社の債権者は新設分割後は新設分割会社に債務の履行を請求できないとか、または、新設分割後は新設分割設立持分会社には債務の履行を請求できないと決めることができる。しかし、異議を言う機会が与えられるべきであったにもかかわらず、与えられなかった債権者は、新設分割会社または新設分割設立持分会社に対して、債務の履行を請求することができる(第2項、第3項)。