会社法 条文 会社法 解説
第5編 組織変更、合併、会社分割、株式交換及び株式移転

第4章 株式交換及び株式移転

第2節 株式移転
第772条 【株式移転計画の作成】

 @ 一又は二以上の株式会社は、株式移転をすることができる。この場合においては、株式移転計画を作成しなければならない。

 A 二以上の株式会社が共同して株式移転をする場合には、当該二以上の株式会社は、共同して株式移転計画を作成しなければならない。
株式移転とは、A株式会社(株式移転完全子会社)の発行している全株式を、新たに設立されたB株式会社(株式移転設立完全親会社)に取得させることである(第2条第32号)。新たに設立されたB株式会社は、A株式会社の全株式を持つため、完全親会社となる。逆に、A株式会社は、全株式をB株式会社に持たれるため、完全子会社となる。

このように、株式移転は、完全親会社と完全子会社を作るための一つの方法である。もう一つの方法は、第1節の株式交換である。

名前 条文 概要 違い その1 違い その2
株式交換 第767条

第771条
完全親会社と完全子会社を作る。 元からある会社に株式を取得させる。 株式を取得するのは、株式会社か合同会社である。
株式移転 第772条

第774条
新しく設立した会社に株式を取得させる。 株式を取得するのは、株式会社だけである。
※株式交換も株式移転も、株式を取得される側は株式会社だけである。

株式移転をする場合、株式移転計画を作成しなければならない(第1項)。また、株式移転完全子会社は複数でもよいが、その場合は共同で株式移転計画を作らなければならない(第2項)。
第773条 【株式移転計画】

 @ 一又は二以上の株式会社が株式移転をする場合には、株式移転計画において、次に掲げる事項を定めなければならない。

 1 株式移転により設立する株式会社(以下この編において「株式移転設立完全親会社」という。)の目的、商号、本店の所在地及び発行可能株式総数

 2 前号に掲げるもののほか、株式移転設立完全親会社の定款で定める事項

 3 株式移転設立完全親会社の設立時取締役の氏名

 4 次のイからハまでに掲げる場合の区分に応じ、当該イからハまでに定める事項

  イ 株式移転設立完全親会社が会計参与設置会社である場合 株式移転設立完全親会社の設立時会計参与の氏名又は名称

  ロ 株式移転設立完全親会社が監査役設置会社(監査役の監査の範囲を会計に関するものに限定する旨の定款の定めがある株式会社を含む。)である場合 株式移転設立完全親会社の設立時監査役の氏名

  ハ 株式移転設立完全親会社が会計監査人設置会社である場合 株式移転設立完全親会社の設立時会計監査人の氏名又は名称

 5 株式移転設立完全親会社が株式移転に際して株式移転をする株式会社(以下この編において「株式移転完全子会社」という。)の株主に対して交付するその株式に代わる当該株式移転設立完全親会社の株式の数(種類株式発行会社にあっては、株式の種類及び種類ごとの数)又はその数の算定方法並びに当該株式移転設立完全親会社の資本金及び準備金の額に関する事項

 6 株式移転完全子会社の株主に対する前号の株式の割当てに関する事項

 7 株式移転設立完全親会社が株式移転に際して株式移転完全子会社の株主に対してその株式に代わる当該株式移転設立完全親会社の社債等を交付するときは、当該社債等についての次に掲げる事項

  イ 当該社債等が株式移転設立完全親会社の社債(新株予約権付社債についてのものを除く。)であるときは、当該社債の種類及び種類ごとの各社債の金額の合計額又はその算定方法

  ロ 当該社債等が株式移転設立完全親会社の新株予約権(新株予約権付社債に付されたものを除く。)であるときは、当該新株予約権の内容及び数又はその算定方法

  ハ 当該社債等が株式移転設立完全親会社の新株予約権付社債であるときは、当該新株予約権付社債についてのイに規定する事項及び当該新株予約権付社債に付された新株予約権についてのロに規定する事項

 8 前号に規定する場合には、株式移転完全子会社の株主に対する同号の社債等の割当てに関する事項

 9 株式移転設立完全親会社が株式移転に際して株式移転完全子会社の新株予約権の新株予約権者に対して当該新株予約権に代わる当該株式移転設立完全親会社の新株予約権を交付するときは、当該新株予約権についての次に掲げる事項

  イ 当該株式移転設立完全親会社の新株予約権の交付を受ける株式移転完全子会社の新株予約権の新株予約権者の有する新株予約権(以下この編において「株式移転計画新株予約権」という。)の内容

  ロ 株式移転計画新株予約権の新株予約権者に対して交付する株式移転設立完全親会社の新株予約権の内容及び数又はその算定方法

  ハ 株式移転計画新株予約権が新株予約権付社債に付された新株予約権であるときは、株式移転設立完全親会社が当該新株予約権付社債についての社債に係る債務を承継する旨並びにその承継に係る社債の種類及び種類ごとの各社債の金額の合計額又はその算定方法

 10 前号に規定する場合には、株式移転計画新株予約権の新株予約権者に対する同号の株式移転設立完全親会社の新株予約権の割当てに関する事項

 A 前項に規定する場合において、株式移転完全子会社が種類株式発行会社であるときは、株式移転完全子会社は、その発行する種類の株式の内容に応じ、同項第六号に掲げる事項として次に掲げる事項を定めることができる。

 1 ある種類の株式の株主に対して株式移転設立完全親会社の株式の割当てをしないこととするときは、その旨及び当該株式の種類

 2 前号に掲げる事項のほか、株式移転設立完全親会社の株式の割当てについて株式の種類ごとに異なる取扱いを行うこととするときは、その旨及び当該異なる取扱いの内容

 B 第一項に規定する場合には、同項第六号に掲げる事項についての定めは、株式移転完全子会社の株主(前項第一号の種類の株式の株主を除く。)の有する株式の数(前項第二号に掲げる事項についての定めがある場合にあっては、各種類の株式の数)に応じて株式移転設立完全親会社の株式を交付することを内容とするものでなければならない。

 C 前二項の規定は、第一項第八号に掲げる事項について準用する。この場合において、前二項中「株式移転設立完全親会社の株式」とあるのは、「株式移転設立完全親会社の社債等」と読み替えるものとする。
本条は、株式移転計画で決めなければならない事項についての規定である。

株式移転は、新しく株式会社を設立してその会社に株式移転完全子会社となる株式会社の全株式を取得させるものである。そのため、新しく設立する会社の商号・本店所在地・発行可能株式総数など、株式会社を設立するのに必要な事項を計画で決めなければならない。

また、株式移転をするときに、株式移転完全子会社の株主に対して、株式移転設立完全親会社の株式を割り当てることになる(第1項第6号)。ただし、株式移転完全子会社が種類株式を発行している株式会社である場合、ある種類の株式を持っている株主には株式移転設立完全親会社の株式を割り当てないと決めることも可能である(第2項)。

第774条 【株式移転の効力の発生等】

 @ 株式移転設立完全親会社は、その成立の日に、株式移転完全子会社の発行済株式の全部を取得する。

 A 株式移転完全子会社の株主は、株式移転設立完全親会社の成立の日に、前条第一項第六号に掲げる事項についての定めに従い、同項第五号の株式の株主となる。

 B 次の各号に掲げる場合には、株式移転完全子会社の株主は、株式移転設立完全親会社の成立の日に、前条第一項第八号に掲げる事項についての定めに従い、当該各号に定める者となる。

 1 前条第一項第七号イに掲げる事項についての定めがある場合 同号イの社債の社債権者

 2 前条第一項第七号ロに掲げる事項についての定めがある場合 同号ロの新株予約権の新株予約権者

 3 前条第一項第七号ハに掲げる事項についての定めがある場合 同号ハの新株予約権付社債についての社債の社債権者及び当該新株予約権付社債に付された新株予約権の新株予約権者

 C 前条第一項第九号に規定する場合には、株式移転設立完全親会社の成立の日に、株式移転計画新株予約権は、消滅し、当該株式移転計画新株予約権の新株予約権者は、同項第十号に掲げる事項についての定めに従い、同項第九号ロの株式移転設立完全親会社の新株予約権の新株予約権者となる。

 D 前条第一項第九号ハに規定する場合には、株式移転設立完全親会社は、その成立の日に、同号ハの新株予約権付社債についての社債に係る債務を承継する。
本条は、株式移転の効力についての規定である。

株式移転の効力は、株式移転設立完全親会社の成立日、つまり本店所在地において設立登記がされた日に生じる(第1項)。最も基本的な効力は、株式移転完全子会社の全株式が、株式移転設立完全親会社に取得されるということである。

また、株式移転において、株式移転設立完全親会社が発行する株式が、株式移転完全子会社になる株式会社の株主に、株式移転計画で決めた割合に従い割り当てられる。つまり、株式移転設立完全親会社の成立日から、株式移転完全子会社の株主は、株式移転設立完全親会社の株主になるということである(第2項)。