会社法 条文 会社法 解説
第5編 組織変更、合併、会社分割、株式交換及び株式移転

第5章 組織変更、合併、会社分割、株式交換及び株式移転の手続

第1節 組織変更の手続
第1款 株式会社の手続

第775条 【組織変更計画に関する書面等の備置き及び閲覧等】


 @ 組織変更をする株式会社は、組織変更計画備置開始日から組織変更がその効力を生ずる日(以下この節において「効力発生日」という。)までの間、組織変更計画の内容その他法務省令で定める事項を記載し、又は記録した書面又は電磁的記録をその本店に備え置かなければならない。

 A 前項に規定する「組織変更計画備置開始日」とは、次に掲げる日のいずれか早い日をいう。

 1 組織変更計画について組織変更をする株式会社の総株主の同意を得た日

 2 組織変更をする株式会社が新株予約権を発行しているときは、第七百七十七条第三項の規定による通知の日又は同条第四項の公告の日のいずれか早い日

 3 第七百七十九条第二項の規定による公告の日又は同項の規定による催告の日のいずれか早い日

 B 組織変更をする株式会社の株主及び債権者は、当該株式会社に対して、その営業時間内は、いつでも、次に掲げる請求をすることができる。ただし、第二号又は第四号に掲げる請求をするには、当該株式会社の定めた費用を支払わなければならない。

 1 第一項の書面の閲覧の請求

 2 第一項の書面の謄本又は抄本の交付の請求

 3 第一項の電磁的記録に記録された事項を法務省令で定める方法により表示したものの閲覧の請求

 4 第一項の電磁的記録に記録された事項を電磁的方法であって株式会社の定めたものにより提供することの請求又はその事項を記載した書面の交付の請求
会社の組織変更については、第743条から第747条において規定がある。本節からは、組織変更の具体的な手続きについての規定である。

第775条から第780条までは、株式会社が組織変更をして持分会社になる場合の手続きについての規定である。

組織変更をする株式会社は、第775条第2項で決められた日から第744条第1項第9号で決めた効力発生日までの間、組織変更計画の内容などを記載した書面または電磁的記録を、本店に備え置かなければならない(本条第1項)。

組織変更する株式会社の株主と債権者は、営業時間内であればいつでも、書面や電磁的記録の閲覧・謄写を請求することができる(第3項)。株主や債権者が組織変更に対して、同意するか異議を述べるかを判断するために必要だからである。
第776条 【株式会社の組織変更計画の承認等】

 @ 組織変更をする株式会社は、効力発生日の前日までに、組織変更計画について当該株式会社の総株主の同意を得なければならない。

 A 組織変更をする株式会社は、効力発生日の二十日前までに、その登録株式質権者及び登録新株予約権質権者に対し、組織変更をする旨を通知しなければならない。

 B 前項の規定による通知は、公告をもってこれに代えることができる。
組織変更は、会社の性質を変える重大事項である。そのため組織変更計画については総株主の同意を得なければならない(第1項)。これは、株主総会の決議ではなく、総株主の承認が必要であるということである。

組織変更をする株式会社は、組織変更計画で決めた効力発生日の20日前までに、登録株式質権者と登録新株予約権質権者に対して、組織変更をするということを通知するか公告をしなければならない(第2項、第3項)。登録株式質権者と登録新株予約権質権者は、質権が実行されれば、株主または新株予約権者になるため、あらかじめ知らせておかなければならない。

第777条 【新株予約権買取請求】

 @ 株式会社が組織変更をする場合には、組織変更をする株式会社の新株予約権の新株予約権者は、当該株式会社に対し、自己の有する新株予約権を公正な価格で買い取ることを請求することができる。

 A 新株予約権付社債に付された新株予約権の新株予約権者は、前項の規定による請求(以下この款において「新株予約権買取請求」という。)をするときは、併せて、新株予約権付社債についての社債を買い取ることを請求しなければならない。ただし、当該新株予約権付社債に付された新株予約権について別段の定めがある場合は、この限りでない。

 B 組織変更をしようとする株式会社は、効力発生日の二十日前までに、その新株予約権の新株予約権者に対し、組織変更をする旨を通知しなければならない。

 C 前項の規定による通知は、公告をもってこれに代えることができる。

 D 新株予約権買取請求は、効力発生日の二十日前の日から効力発生日の前日までの間に、その新株予約権買取請求に係る新株予約権の内容及び数を明らかにしてしなければならない。

 E 新株予約権買取請求をした新株予約権者は、組織変更をする株式会社の承諾を得た場合に限り、その新株予約権買取請求を撤回することができる。

 F 組織変更を中止したときは、新株予約権買取請求は、その効力を失う。
株式会社が組織変更をすれば株式会社ではなくなるため、発行されていた新株予約権は消滅する(第745条第5項)。そこで、新株予約権者は組織変更をする株式会社に対して、自分の新株予約権を公正な価格で買い取るよう請求することができる(本条第1項)。

新株予約権者が第1項の買取請求を行使できるように、組織変更をする株式会社は、効力発生日から20日前までに、新株予約権者に対して、組織変更をすることを通知または公告しなければならない(第3項、第4項)。

新株予約権者は、通知または公告を受けた後、効力発生日の前日までに、買い取ってほしい新株予約権の内容と数を明らかにし、買取請求権を行使することができる(第4項、第5項)。
第778条 【新株予約権の価格の決定等】

 @ 新株予約権買取請求があった場合において、新株予約権(当該新株予約権が新株予約権付社債に付されたものである場合において、当該新株予約権付社債についての社債の買取りの請求があったときは、当該社債を含む。以下この条において同じ。)の価格の決定について、新株予約権者と組織変更をする株式会社(効力発生日後にあっては、組織変更後持分会社。以下この条において同じ。)との間に協議が調ったときは、当該株式会社は、効力発生日から六十日以内にその支払をしなければならない。

 A 新株予約権の価格の決定について、効力発生日から三十日以内に協議が調わないときは、新株予約権者又は組織変更後持分会社は、その期間の満了の日後三十日以内に、裁判所に対し、価格の決定の申立てをすることができる。

 B 前条第六項の規定にかかわらず、前項に規定する場合において、効力発生日から六十日以内に同項の申立てがないときは、その期間の満了後は、新株予約権者は、いつでも、新株予約権買取請求を撤回することができる。

 C 組織変更後持分会社は、裁判所の決定した価格に対する第一項の期間の満了の日後の年六分の利率により算定した利息をも支払わなければならない。

 D 新株予約権買取請求に係る新株予約権の買取りは、効力発生日に、その効力を生ずる。

 E 組織変更をする株式会社は、新株予約権証券が発行されている新株予約権について新株予約権買取請求があったときは、新株予約権証券と引換えに、その新株予約権買取請求に係る新株予約権の代金を支払わなければならない。

 F 組織変更をする株式会社は、新株予約権付社債券が発行されている新株予約権付社債に付された新株予約権について新株予約権買取請求があったときは、新株予約権付社債券と引換えに、その新株予約権買取請求に係る新株予約権の代金を支払わなければならない。
組織変更をする株式会社の新株予約権者は、会社に対して新株予約権を公正価格で買い取るよう請求することができる(第777条第1項)。この場合、公正価格を具体的にいくらにするかは、まず会社と新株予約権者の協議で決める必要がある。この協議において公正価格が決まった場合は、会社は組織変更の効力発生日から60日以内に、支払いをしなければならない(第1項)。

しかし、効力発生日から30日以内に、会社と新株予約権者の協議により公正価格が決まらなかった場合は、会社と新株予約権者のどちらかは、30日以内に、裁判所に公正価格の決定の申し立てをすることができる(第2項)。

会社と新株予約権者のどちらもから、裁判所に対して申し立てがない場合は、効力発生日から60日が経過したときに、新株予約権者は買い取り請求を撤回することができる(第3項)。

新株予約権買取請求がされた場合、効力発生日に買取の効力が当然に発生する(第5項)。会社には請求を拒否する自由はなく、請求権が行使されれば、買取をしなければならない(第6項、第7項)。
第779条 【債権者の異議】

 @ 組織変更をする株式会社の債権者は、当該株式会社に対し、組織変更について異議を述べることができる。

 A 組織変更をする株式会社は、次に掲げる事項を官報に公告し、かつ、知れている債権者には、各別にこれを催告しなければならない。ただし、第三号の期間は、一箇月を下ることができない。

 1 組織変更をする旨

 2 組織変更をする株式会社の計算書類(第四百三十五条第二項に規定する計算書類をいう。以下この章において同じ。)に関する事項として法務省令で定めるもの

 3 債権者が一定の期間内に異議を述べることができる旨

 B 前項の規定にかかわらず、組織変更をする株式会社が同項の規定による公告を、官報のほか、第九百三十九条第一項の規定による定款の定めに従い、同項第二号又は第三号に掲げる公告方法によりするときは、前項の規定による各別の催告は、することを要しない。

 C 債権者が第二項第三号の期間内に異議を述べなかったときは、当該債権者は、当該組織変更について承認をしたものとみなす。

 D 債権者が第二項第三号の期間内に異議を述べたときは、組織変更をする株式会社は、当該債権者に対し、弁済し、若しくは相当の担保を提供し、又は当該債権者に弁済を受けさせることを目的として信託会社等に相当の財産を信託しなければならない。ただし、当該組織変更をしても当該債権者を害するおそれがないときは、この限りでない。
本条は、組織変更をする会社の債権者保護のための規定である。

組織変更前の会社の債務は、組織変更後の会社が負う。しかし、例えば株式会社が合名会社に組織変更をする場合であれば、合名会社の社員になる者があまり財産を持っていなかった場合、債権者は組織変更に反対したくなる可能性がある(合名会社は無限責任社員だけからなる)。

本条では、債権者保護のため、本条第2項各号の事項を官報に公告し、知れている債権者には各別に催告しなければならないとしている(第2項)。

そして、情報を得た債権者は、一定期間内であれば異議を述べることができる(第1項)。

債権者が異議を述べた場合、会社はその債権者に対して債務を十分に弁済できる場合を除いて、弁済または担保の提供をしなければならない(第5項)。逆に、債権者が異議を述べなかった場合は、組織変更を承認したものをみなされる(第4項)。
第780条 【組織変更の効力発生日の変更】

 @ 組織変更をする株式会社は、効力発生日を変更することができる。

 A 前項の場合には、組織変更をする株式会社は、変更前の効力発生日(変更後の効力発生日が変更前の効力発生日前の日である場合にあっては、当該変更後の効力発生日)の前日までに、変更後の効力発生日を公告しなければならない。

 B 第一項の規定により効力発生日を変更したときは、変更後の効力発生日を効力発生日とみなして、この款及び第七百四十五条の規定を適用する。
組織変更計画では、効力発生日を決めなければならない(第744条第1項第9号)。しかし、その後、効力発生日を変更することができる(第1項)。ただし、効力発生日は重要な日であるため、変更する場合は、変更後の効力発生日を公告しなければならない(第2項)。
第2款 持分会社の手続

第781条 【持分会社の手続】


 @ 組織変更をする持分会社は、効力発生日の前日までに、組織変更計画について当該持分会社の総社員の同意を得なければならない。ただし、定款に別段の定めがある場合は、この限りでない。

 A 第七百七十九条(第二項第二号を除く。)及び前条の規定は、組織変更をする持分会社について準用する。この場合において、第七百七十九条第三項中「組織変更をする株式会社」とあるのは「組織変更をする持分会社(合同会社に限る。)」と、前条第三項中「及び第七百四十五条」とあるのは「並びに第七百四十七条及び次条第一項」と読み替えるものとする。
本条は、持分会社が組織変更をして株式会社になる場合の手続きについての規定である。

持分会社が組織変更をする場合、原則的に、総社員の同意が必要である。ただし、定款において別の定めをした場合は、その定めに従う(第1項)。

株式会社が組織変更をする場合についての規定である第779条と第780条は、持分会社が組織変更をする場合について準用される(第2項)。