会社法 条文 会社法 解説
第5編 組織変更、合併、会社分割、株式交換及び株式移転

第5章 組織変更、合併、会社分割、株式交換及び株式移転の手続

第2節 吸収合併等の手続
第1款 吸収合併消滅会社、吸収分割会社及び株式交換完全子会社の手続

第1目 株式会社の手続

第782条 【吸収合併契約等に関する書面等の備置き及び閲覧等】


 @ 次の各号に掲げる株式会社(以下この目において「消滅株式会社等」という。)は、吸収合併契約等備置開始日から吸収合併、吸収分割又は株式交換(以下この節において「吸収合併等」という。)がその効力を生ずる日(以下この節において「効力発生日」という。)後六箇月を経過する日(吸収合併消滅株式会社にあっては、効力発生日)までの間、当該各号に定めるもの(以下この節において「吸収合併契約等」という。)の内容その他法務省令で定める事項を記載し、又は記録した書面又は電磁的記録をその本店に備え置かなければならない。

 1 吸収合併消滅株式会社 吸収合併契約

 2 吸収分割株式会社 吸収分割契約

 3 株式交換完全子会社 株式交換契約

 A 前項に規定する「吸収合併契約等備置開始日」とは、次に掲げる日のいずれか早い日をいう。

 1 吸収合併契約等について株主総会(種類株主総会を含む。)の決議によってその承認を受けなければならないときは、当該株主総会の日の二週間前の日(第三百十九条第一項の場合にあっては、同項の提案があった日)

 2 第七百八十五条第三項の規定による通知を受けるべき株主があるときは、同項の規定による通知の日又は同条第四項の公告の日のいずれか早い日

 3 第七百八十七条第三項の規定による通知を受けるべき新株予約権者があるときは、同項の規定による通知の日又は同条第四項の公告の日のいずれか早い日

 4 第七百八十九条の規定による手続をしなければならないときは、同条第二項の規定による公告の日又は同項の規定による催告の日のいずれか早い日

 5 前各号に規定する場合以外の場合には、吸収分割契約又は株式交換契約の締結の日から二週間を経過した日

 B 消滅株式会社等の株主及び債権者(株式交換完全子会社にあっては、株主及び新株予約権者)は、消滅株式会社等に対して、その営業時間内は、いつでも、次に掲げる請求をすることができる。ただし、第二号又は第四号に掲げる請求をするには、当該消滅株式会社等の定めた費用を支払わなければならない。

 1 第一項の書面の閲覧の請求

 2 第一項の書面の謄本又は抄本の交付の請求

 3 第一項の電磁的記録に記録された事項を法務省令で定める方法により表示したものの閲覧の請求

 4 第一項の電磁的記録に記録された事項を電磁的方法であって消滅株式会社等の定めたものにより提供することの請求又はその事項を記載した書面の交付の請求
本条から第793条までは、消滅株式会社等(株式会社である吸収合併消滅会社、株式会社である吸収分割会社、株式交換完全子会社)がとらなければならない手続きについての規定である。

消滅株式会社等は、経営権が別の会社に移ると言う点で共通し(以下の表参照)、必要な手続きも似ているため本条にまとめられている。

名前 経営権が移行する会社
株式会社である吸収合併消滅会社 吸収合併存続会社
株式会社である吸収分割会社 吸収分割承継会社
株式交換完全子会社 株式交換完全親会社
※吸収合併存続会社、吸収分割承継会社、株式交換完全親会社がとるべき手続きについては、第794条から第802条までに規定されている。


消滅株式会社等は、本条第2項で決められた日から吸収合併契約等(吸収合併契約、吸収分割契約、株式交換契約)で決めた効力発生日までの間、吸収合併契約等の内容などを記載した書面または電磁的記録を、本店に備え置かなければならない(第1項)。

消滅株式会社等の株主と債権者は、営業時間内であればいつでも、書面や電磁的記録を閲覧・謄写の請求をすることができる(第3項)。効力発生日前において、株主は吸収合併等(吸収合併、吸収分割、株式交換)に同意するかどうか、債権者は異議を述べるかどうか、株式交換完全子会社の新株予約権者は新株予約権の買取請求をするかどうかを、判断するための情報を得る必要があるためである。効力発生日後において、吸収合併等に問題があり、無効の訴え(第828条)を起こす必要がないかを判断するためである。
第783条 【吸収合併契約等の承認等】

 @ 消滅株式会社等は、効力発生日の前日までに、株主総会の決議によって、吸収合併契約等の承認を受けなければならない。

 A 前項の規定にかかわらず、吸収合併消滅株式会社又は株式交換完全子会社が種類株式発行会社でない場合において、吸収合併消滅株式会社又は株式交換完全子会社の株主に対して交付する金銭等(以下この条において「合併対価等」という。)の全部又は一部が持分等(持分会社の持分その他これに準ずるものとして法務省令で定めるものをいう。以下この条において同じ。)であるときは、吸収合併契約又は株式交換契約について吸収合併消滅株式会社又は株式交換完全子会社の総株主の同意を得なければならない。

 B 吸収合併消滅株式会社又は株式交換完全子会社が種類株式発行会社である場合において、合併対価等の全部又は一部が譲渡制限株式等(譲渡制限株式その他これに準ずるものとして法務省令で定めるものをいう。以下この章において同じ。)であるときは、吸収合併又は株式交換は、当該譲渡制限株式等の割当てを受ける種類の株式(譲渡制限株式を除く。)の種類株主を構成員とする種類株主総会(当該種類株主に係る株式の種類が二以上ある場合にあっては、当該二以上の株式の種類別に区分された種類株主を構成員とする各種類株主総会)の決議がなければ、その効力を生じない。ただし、当該種類株主総会において議決権を行使することができる株主が存しない場合は、この限りでない。

 C 吸収合併消滅株式会社又は株式交換完全子会社が種類株式発行会社である場合において、合併対価等の全部又は一部が持分等であるときは、吸収合併又は株式交換は、当該持分等の割当てを受ける種類の株主の全員の同意がなければ、その効力を生じない。

 D 消滅株式会社等は、効力発生日の二十日前までに、その登録株式質権者(次条第三項に規定する場合における登録株式質権者を除く。)及び第七百八十七条第三項各号に定める新株予約権の登録新株予約権質権者に対し、吸収合併等をする旨を通知しなければならない。

 E 前項の規定による通知は、公告をもってこれに代えることができる。
吸収合併等は、特に消滅株式会社等に重大な影響を与える。そのため、消滅株式会社等は、事前に株主総会の決議で、吸収合併契約等の承認を受けなければならない(第1項)。

また、吸収合併消滅会社や株式移転完全子会社の株主に対して、吸収合併や株式移転の対価として割り当てられるものが金銭ではなく、吸収合併存続会社や株式移転完全親会社の持分であるときは、株主の利害により大きな利害が出るため、総株主の同意が必要などさらに厳しい条件を満たす必要がある(第2項、第3項、第4項)。
第784条 【吸収合併契約等の承認を要しない場合】

 @ 前条第一項の規定は、吸収合併存続会社、吸収分割承継会社又は株式交換完全親会社(以下この目において「存続会社等」という。)が消滅株式会社等の特別支配会社である場合には、適用しない。ただし、吸収合併又は株式交換における合併対価等の全部又は一部が譲渡制限株式等である場合であって、消滅株式会社等が公開会社であり、かつ、種類株式発行会社でないときは、この限りでない。

 A 前項本文に規定する場合において、次に掲げる場合であって、消滅株式会社等の株主が不利益を受けるおそれがあるときは、消滅株式会社等の株主は、消滅株式会社等に対し、吸収合併等をやめることを請求することができる。

 1 当該吸収合併等が法令又は定款に違反する場合

 2 第七百四十九条第一項第二号若しくは第三号、第七百五十一条第一項第三号若しくは第四号、第七百五十八条第四号、第七百六十条第四号若しくは第五号、第七百六十八条第一項第二号若しくは第三号又は第七百七十条第一項第三号若しくは第四号に掲げる事項が消滅株式会社等又は存続会社等の財産の状況その他の事情に照らして著しく不当である場合

 B 前条及び前項の規定は、吸収分割により吸収分割承継会社に承継させる資産の帳簿価額の合計額が吸収分割株式会社の総資産額として法務省令で定める方法により算定される額の五分の一(これを下回る割合を吸収分割株式会社の定款で定めた場合にあっては、その割合)を超えない場合には、適用しない。
A株式会社の総株主の議決数の90%以上をB会社とB会社の完全子会社等が保有している場合、B会社をA株式会社の特別支配会社という(第468条第1項)。

吸収合併等を行う場合、消滅株式会社等は株主総会において吸収合併契約等の承認を受けなければならない(第783条第1項)。しかし、存続会社等(吸収合併存続会社、吸収分割承継会社、株式交換完全親会社)が消滅株式会社等の特別支配会社である場合は、株主総会での承認は必要ない(本条第1項)。特別支配会社は、総株主の議決数の90%以上を持っているため、あらためて株主総会での承認をとる手続きは必要ないと考えられるためである。ただし、この場合であっても、消滅株式会社等の株主(特に、特別支配会社以外の少数株主が考えられる)は、本条第2項各号に該当するような場合は、消滅株式会社等に対して、吸収合併等をやめるよう請求することができる(本条第2項)。

吸収分割については、吸収分割により吸収分割会社から吸収分割承継会社に引き継がれる資産の帳簿価額が、吸収分割会社の総資産額の5分の1以下である場合は、吸収分割承継会社が吸収分割会社の特別支配会社でなくても、吸収分割会社での株主総会の承認決議は不要である(本条第3項)。吸収分割会社から出る資産が少ない場合は、株主の利益にそれほど影響を与えないと考えられるためである。
第785条 【反対株主の株式買取請求】

 @ 吸収合併等をする場合(次に掲げる場合を除く。)には、反対株主は、消滅株式会社等に対し、自己の有する株式を公正な価格で買い取ることを請求することができる。

 1 第七百八十三条第二項に規定する場合

 2 前条第三項に規定する場合

 A 前項に規定する「反対株主」とは、次の各号に掲げる場合における当該各号に定める株主(第七百八十三条第四項に規定する場合における同項に規定する持分等の割当てを受ける株主を除く。)をいう。

 1 吸収合併等をするために株主総会(種類株主総会を含む。)の決議を要する場合 次に掲げる株主

  イ 当該株主総会に先立って当該吸収合併等に反対する旨を当該消滅株式会社等に対し通知し、かつ、当該株主総会において当該吸収合併等に反対した株主(当該株主総会において議決権を行使することができるものに限る。)

  ロ 当該株主総会において議決権を行使することができない株主

 2 前号に規定する場合以外の場合 すべての株主

 B 消滅株式会社等は、効力発生日の二十日前までに、その株主(第七百八十三条第四項に規定する場合における同項に規定する持分等の割当てを受ける株主を除く。)に対し、吸収合併等をする旨並びに存続会社等の商号及び住所を通知しなければならない。ただし、第一項各号に掲げる場合は、この限りでない。

 C 次に掲げる場合には、前項の規定による通知は、公告をもってこれに代えることができる。

 1 消滅株式会社等が公開会社である場合

 2 消滅株式会社等が第七百八十三条第一項の株主総会の決議によって吸収合併契約等の承認を受けた場合

 D 第一項の規定による請求(以下この目において「株式買取請求」という。)は、効力発生日の二十日前の日から効力発生日の前日までの間に、その株式買取請求に係る株式の数(種類株式発行会社にあっては、株式の種類及び種類ごとの数)を明らかにしてしなければならない。

 E 株式買取請求をした株主は、消滅株式会社等の承諾を得た場合に限り、その株式買取請求を撤回することができる。

 F 吸収合併等を中止したときは、株式買取請求は、その効力を失う。
吸収合併等が行われる場合、株主総会で吸収合併等に反対した株主や、株主総会で議決権を行使できない株主などは、消滅株式会社等に対して、自分が持つ消滅株式会社等の株式を、公正な価格で買い取るように請求する(株式買取請求権)ことができる(第1項)。

消滅株式会社等は、反対株主が株式買取請求権を行使できるように、吸収合併等の効力発生日の20日前までに、株主に吸収合併等をするということと存続会社等の商号・住所を通知しなければならない(第3項)。
第786条 【株式の価格の決定等】

 @ 株式買取請求があった場合において、株式の価格の決定について、株主と消滅株式会社等(吸収合併をする場合における効力発生日後にあっては、吸収合併存続会社。以下この条において同じ。)との間に協議が調ったときは、消滅株式会社等は、効力発生日から六十日以内にその支払をしなければならない。

 A 株式の価格の決定について、効力発生日から三十日以内に協議が調わないときは、株主又は消滅株式会社等は、その期間の満了の日後三十日以内に、裁判所に対し、価格の決定の申立てをすることができる。

 B 前条第六項の規定にかかわらず、前項に規定する場合において、効力発生日から六十日以内に同項の申立てがないときは、その期間の満了後は、株主は、いつでも、株式買取請求を撤回することができる。

 C 消滅株式会社等は、裁判所の決定した価格に対する第一項の期間の満了の日後の年六分の利率により算定した利息をも支払わなければならない。

 D 株式買取請求に係る株式の買取りは、効力発生日(吸収分割をする場合にあっては、当該株式の代金の支払の時)に、その効力を生ずる。

 E 株券発行会社は、株券が発行されている株式について株式買取請求があったときは、株券と引換えに、その株式買取請求に係る株式の代金を支払わなければならない。
吸収合併等に反対する株主は、消滅株式会社等に対して、自分が持つ株式を公正な価格で買い取るように請求することができる(第785条第1項)。

本条は、この公正な価格の決め方と支払い方法について規定している。

公正な価格の決め方は、まず、買取請求をした反対株主と消滅株式会社等の協議により行う(第1項)。しかし、吸収合併等の効力発生日から30日以内に決まらない場合は、反対株主または消滅株式会社等は、裁判所に価格を決めてもらうように申し立てることができる(第2項)。裁判所により価格が決定した場合で、効力発生日から60日を超えていたときは、消滅株式会社等はその超えた日数分について年6%の利息を追加で支払わなければならない(第4項)。

価格が効力発生日以降に決まった場合でも、法律上、株式買取は効力発生日にされたものとみなす(第5項)。
第787条 【新株予約権買取請求】

 @ 次の各号に掲げる行為をする場合には、当該各号に定める消滅株式会社等の新株予約権の新株予約権者は、消滅株式会社等に対し、自己の有する新株予約権を公正な価格で買い取ることを請求することができる。

 1 吸収合併 第七百四十九条第一項第四号又は第五号に掲げる事項についての定めが第二百三十六条第一項第八号の条件(同号イに関するものに限る。)に合致する新株予約権以外の新株予約権

 2 吸収分割(吸収分割承継会社が株式会社である場合に限る。) 次に掲げる新株予約権のうち、第七百五十八条第五号又は第六号に掲げる事項についての定めが第二百三十六条第一項第八号の条件(同号ロに関するものに限る。)に合致する新株予約権以外の新株予約権

  イ 吸収分割契約新株予約権

  ロ 吸収分割契約新株予約権以外の新株予約権であって、吸収分割をする場合において当該新株予約権の新株予約権者に吸収分割承継株式会社の新株予約権を交付することとする旨の定めがあるもの

 3 株式交換(株式交換完全親会社が株式会社である場合に限る。) 次に掲げる新株予約権のうち、第七百六十八条第一項第四号又は第五号に掲げる事項についての定めが第二百三十六条第一項第八号の条件(同号ニに関するものに限る。)に合致する新株予約権以外の新株予約権

  イ 株式交換契約新株予約権

  ロ 株式交換契約新株予約権以外の新株予約権であって、株式交換をする場合において当該新株予約権の新株予約権者に株式交換完全親株式会社の新株予約権を交付することとする旨の定めがあるもの

 A 新株予約権付社債に付された新株予約権の新株予約権者は、前項の規定による請求(以下この目において「新株予約権買取請求」という。)をするときは、併せて、新株予約権付社債についての社債を買い取ることを請求しなければならない。ただし、当該新株予約権付社債に付された新株予約権について別段の定めがある場合は、この限りでない。

 B 次の各号に掲げる消滅株式会社等は、効力発生日の二十日前までに、当該各号に定める新株予約権の新株予約権者に対し、吸収合併等をする旨並びに存続会社等の商号及び住所を通知しなければならない。

 1 吸収合併消滅株式会社 全部の新株予約権

 2 吸収分割承継会社が株式会社である場合における吸収分割株式会社 次に掲げる新株予約権

  イ 吸収分割契約新株予約権

  ロ 吸収分割契約新株予約権以外の新株予約権であって、吸収分割をする場合において当該新株予約権の新株予約権者に吸収分割承継株式会社の新株予約権を交付することとする旨の定めがあるもの

 3 株式交換完全親会社が株式会社である場合における株式交換完全子会社 次に掲げる新株予約権

  イ 株式交換契約新株予約権

  ロ 株式交換契約新株予約権以外の新株予約権であって、株式交換をする場合において当該新株予約権の新株予約権者に株式交換完全親株式会社の新株予約権を交付することとする旨の定めがあるもの

 C 前項の規定による通知は、公告をもってこれに代えることができる。

 D 新株予約権買取請求は、効力発生日の二十日前の日から効力発生日の前日までの間に、その新株予約権買取請求に係る新株予約権の内容及び数を明らかにしてしなければならない。

 E 新株予約権買取請求をした新株予約権者は、消滅株式会社等の承諾を得た場合に限り、その新株予約権買取請求を撤回することができる。

 F 吸収合併等を中止したときは、新株予約権買取請求は、その効力を失う。
消滅株式会社等が本条第1項各号の行為をする場合、消滅株式会社等の新株予約権者は、消滅株式会社等に新株予約権の買取請求をすることができる(第1項)。これは、これらの行為に反対する新株予約権者を保護するためである。つまり、最初から吸収合併等が行われるときには存続会社等が発行する新株予約権を代わりに割り当てる約束になっていた場合(第236条第1項第8号)には、この買取請求権は認められていない。

新株予約権付社債の新株予約権者は、原則として、新株予約権と社債をまとめて買取請求しなければならない(第2項)。ただし、別の定めがある場合はそれに従う。
第788条 【新株予約権の価格の決定等】

 @ 新株予約権買取請求があった場合において、新株予約権(当該新株予約権が新株予約権付社債に付されたものである場合において、当該新株予約権付社債についての社債の買取りの請求があったときは、当該社債を含む。以下この条において同じ。)の価格の決定について、新株予約権者と消滅株式会社等(吸収合併をする場合における効力発生日後にあっては、吸収合併存続会社。以下この条において同じ。)との間に協議が調ったときは、消滅株式会社等は、効力発生日から六十日以内にその支払をしなければならない。

 A 新株予約権の価格の決定について、効力発生日から三十日以内に協議が調わないときは、新株予約権者又は消滅株式会社等は、その期間の満了の日後三十日以内に、裁判所に対し、価格の決定の申立てをすることができる。

 B 前条第六項の規定にかかわらず、前項に規定する場合において、効力発生日から六十日以内に同項の申立てがないときは、その期間の満了後は、新株予約権者は、いつでも、新株予約権買取請求を撤回することができる。

 C 消滅株式会社等は、裁判所の決定した価格に対する第一項の期間の満了の日後の年六分の利率により算定した利息をも支払わなければならない。

 D 新株予約権買取請求に係る新株予約権の買取りは、次の各号に掲げる新株予約権の区分に応じ、当該各号に定める時に、その効力を生ずる。

 1 前条第一項第一号に定める新株予約権 効力発生日

 2 前条第一項第二号イに掲げる新株予約権 効力発生日

 3 前条第一項第二号ロに掲げる新株予約権 当該新株予約権の代金の支払の時

 4 前条第一項第三号イに掲げる新株予約権 効力発生日

 5 前条第一項第三号ロに掲げる新株予約権 当該新株予約権の代金の支払の時

 E 消滅株式会社等は、新株予約権証券が発行されている新株予約権について新株予約権買取請求があったときは、新株予約権証券と引換えに、その新株予約権買取請求に係る新株予約権の代金を支払わなければならない。

 F 消滅株式会社等は、新株予約権付社債券が発行されている新株予約権付社債に付された新株予約権について新株予約権買取請求があったときは、新株予約権付社債券と引換えに、その新株予約権買取請求に係る新株予約権の代金を支払わなければならない。
消滅株式会社等の新株予約権者は、吸収合併等が行われるときには存続会社等の発行する新株予約権を代わりに割り当てる決まりになっていた場合を除き、消滅株式会社等に対して新株予約権を公正な価格で買い取るように請求することができる(第787条第1項、第2項)。

本条は、この公正な価格の決め方と支払い方法について規定している。

公正な価格の決め方は、まず、買取請求をした新株予約権者と消滅株式会社等との協議により決める(第1項)。しかし、吸収合併等の効力発生日から30日以内に決まらない場合は、裁判所に価格の決定を申し立てることができる(第2項)。

なお、新株予約権の買取請求の場合、法律上の効力は、新株予約権の種類により認められる時点が異なる(第5項各号)。
第789条 【債権者の異議】

 @ 次の各号に掲げる場合には、当該各号に定める債権者は、消滅株式会社等に対し、吸収合併等について異議を述べることができる。

 1 吸収合併をする場合 吸収合併消滅株式会社の債権者

 2 吸収分割をする場合 吸収分割後吸収分割株式会社に対して債務の履行(当該債務の保証人として吸収分割承継会社と連帯して負担する保証債務の履行を含む。)を請求することができない吸収分割株式会社の債権者(第七百五十八条第八号又は第七百六十条第七号に掲げる事項についての定めがある場合にあっては、吸収分割株式会社の債権者)

 3 株式交換契約新株予約権が新株予約権付社債に付された新株予約権である場合 当該新株予約権付社債についての社債権者

 A 前項の規定により消滅株式会社等の債権者の全部又は一部が異議を述べることができる場合には、消滅株式会社等は、次に掲げる事項を官報に公告し、かつ、知れている債権者(同項の規定により異議を述べることができるものに限る。)には、各別にこれを催告しなければならない。ただし、第四号の期間は、一箇月を下ることができない。

 1 吸収合併等をする旨

 2 存続会社等の商号及び住所

 3 消滅株式会社等及び存続会社等(株式会社に限る。)の計算書類に関する事項として法務省令で定めるもの

 4 債権者が一定の期間内に異議を述べることができる旨

 B 前項の規定にかかわらず、消滅株式会社等が同項の規定による公告を、官報のほか、第九百三十九条第一項の規定による定款の定めに従い、同項第二号又は第三号に掲げる公告方法によりするときは、前項の規定による各別の催告(吸収分割をする場合における不法行為によって生じた吸収分割株式会社の債務の債権者に対するものを除く。)は、することを要しない。

 C 債権者が第二項第四号の期間内に異議を述べなかったときは、当該債権者は、当該吸収合併等について承認をしたものとみなす。

 D 債権者が第二項第四号の期間内に異議を述べたときは、消滅株式会社等は、当該債権者に対し、弁済し、若しくは相当の担保を提供し、又は当該債権者に弁済を受けさせることを目的として信託会社等に相当の財産を信託しなければならない。ただし、当該吸収合併等をしても当該債権者を害するおそれがないときは、この限りでない。
吸収合併が行われると、吸収合併消滅会社の債務は、吸収合併存続会社に引き継がれる。そして、吸収合併消滅会社の債権者は、吸収合併存続会社に債務の履行を請求していくことになる。

吸収分割が行われると、吸収分割契約での取り決めによっては、吸収分割会社の債権者は、吸収分割会社ではなく、吸収分割承継会社に債務の履行を請求することになる。

株式交換契約新株予約権が社債についている場合、社債権者は株式交換完全親会社の社債権者となる。

これらの債権者は、吸収合併等により債務者が代わるため、異議を述べる権利が認められている。

消滅株式会社等は、吸収合併等を行うということを、これらの債権者に知らせ、一定の期間内に異議を述べるように催告しなければならない(第2項)。その期間内に、債権者が異議を述べた場合、吸収合併等を行ってもその債権者に対して十分な弁済ができる場合を除いて、その債権者に消滅株式会社等が債務を弁済しなければならない(第5項)。
第790条 【吸収合併等の効力発生日の変更】

 @ 消滅株式会社等は、存続会社等との合意により、効力発生日を変更することができる。

 A 前項の場合には、消滅株式会社等は、変更前の効力発生日(変更後の効力発生日が変更前の効力発生日前の日である場合にあっては、当該変更後の効力発生日)の前日までに、変更後の効力発生日を公告しなければならない。

 B 第一項の規定により効力発生日を変更したときは、変更後の効力発生日を効力発生日とみなして、この節並びに第七百五十条、第七百五十二条、第七百五十九条、第七百六十一条、第七百六十九条及び第七百七十一条の規定を適用する。
吸収合併等においても、効力発生日を変更することができる。ただし、存続会社等の同意を得なければならない(第1項)。また、変更前の効力発生日の前日までに、変更後の効力発生日を公告しなければならない(第2項)。
第791条 【吸収分割又は株式交換に関する書面等の備置き及び閲覧等】

 @ 吸収分割株式会社又は株式交換完全子会社は、効力発生日後遅滞なく、吸収分割承継会社又は株式交換完全親会社と共同して、次の各号に掲げる区分に応じ、当該各号に定めるものを作成しなければならない。

 1 吸収分割株式会社 吸収分割により吸収分割承継会社が承継した吸収分割株式会社の権利義務その他の吸収分割に関する事項として法務省令で定める事項を記載し、又は記録した書面又は電磁的記録

 2 株式交換完全子会社 株式交換により株式交換完全親会社が取得した株式交換完全子会社の株式の数その他の株式交換に関する事項として法務省令で定める事項を記載し、又は記録した書面又は電磁的記録

 A 吸収分割株式会社又は株式交換完全子会社は、効力発生日から六箇月間、前項各号の書面又は電磁的記録をその本店に備え置かなければならない。

 B 吸収分割株式会社の株主、債権者その他の利害関係人は、吸収分割株式会社に対して、その営業時間内は、いつでも、次に掲げる請求をすることができる。ただし、第二号又は第四号に掲げる請求をするには、当該吸収分割株式会社の定めた費用を支払わなければならない。

 1 前項の書面の閲覧の請求

 2 前項の書面の謄本又は抄本の交付の請求

 3 前項の電磁的記録に記録された事項を法務省令で定める方法により表示したものの閲覧の請求

 4 前項の電磁的記録に記録された事項を電磁的方法であって吸収分割株式会社の定めたものにより提供することの請求又はその事項を記載した書面の交付の請求

 C 前項の規定は、株式交換完全子会社について準用する。この場合において、同項中「吸収分割株式会社の株主、債権者その他の利害関係人」とあるのは、「効力発生日に株式交換完全子会社の株主又は新株予約権者であった者」と読み替えるものとする。
吸収分割と株式交換の効力発生日が到来した場合、吸収分割株式会社と株式交換完全子会社は、吸収分割承継会社に承継された権利義務の内容等、あるいは株式交換完全親会社に取得された株式の数等を書いた書面または電磁的記録を作成しなければならない(第1項)。

第1項の規定により作成した書面または電磁的記録は、効力発生日から6ヶ月間、本店に備え置かなければならない(第2項)。そして、吸収分割株式会社の株主・債権者・その他の利害関係人は、営業時間内であればいつでも、閲覧・謄写の請求をすることができる(第3項)。これは、事後的に吸収分割や株式交換の適法性を検査し、問題があれば無効の訴え(第828条第1項第9号、第11号)を起こすことができるようにするためである。

なお、吸収合併消滅会社は、効力発生により消滅するため、本条の規定は適用されていない。
第792条 【剰余金の配当等に関する特則】

 第四百五十八条及び第二編第五章第六節の規定は、次に掲げる行為については、適用しない。

 1 第七百五十八条第八号イ又は第七百六十条第七号イの株式の取得

 2 第七百五十八条第八号ロ又は第七百六十条第七号ロの剰余金の配当
吸収分割株式会社は、吸収分割契約において、吸収分割の効力発生日に、全部取得条項付種類株式を取得したり、剰余金の配当を行うことを決めることができる(第758条第8号イ・ロ、第760条第8号イ・ロ)。

この場合は、第458条の例外として、吸収分割株式会社の資産が300万円未満であっても、第453条から第457条が適用される。しかし、剰余金配当等の責任について規定した第461条から第465条までは適用されない。
第2目 持分会社の手続

第793条 【持分会社の手続】


 @ 次に掲げる行為をする持分会社は、効力発生日の前日までに、吸収合併契約等について当該持分会社の総社員の同意を得なければならない。ただし、定款に別段の定めがある場合は、この限りでない。

 1 吸収合併(吸収合併により当該持分会社が消滅する場合に限る。)

 2 吸収分割(当該持分会社(合同会社に限る。)がその事業に関して有する権利義務の全部を他の会社に承継させる場合に限る。)

 A 第七百八十九条(第一項第三号及び第二項第三号を除く。)及び第七百九十条の規定は、吸収合併消滅持分会社又は合同会社である吸収分割会社(以下この節において「吸収分割合同会社」という。)について準用する。この場合において、第七百八十九条第一項第二号中「債権者(第七百五十八条第八号又は第七百六十条第七号に掲げる事項についての定めがある場合にあっては、吸収分割株式会社の債権者)」とあるのは「債権者」と、同条第三項中「消滅株式会社等」とあるのは「吸収合併消滅持分会社(吸収合併存続会社が株式会社又は合同会社である場合にあっては、合同会社に限る。)又は吸収分割合同会社」と読み替えるものとする。
本条は、持分会社が吸収合併消滅会社・吸収分割会社となる場合(株式交換完全子会社にはなれない)の手続きについて規定している。

持分会社が、吸収合併消滅会社となる場合、吸収合併契約等について持分会社の総社員の同意が必要である。ただし、定款で別の定めをした場合はそれに従う(第1項)。株式会社が吸収合併消滅会社になる場合は、株主総会の決議でよかったが(第783条第1項)、持分会社の場合は規模が小さく社員間の人間関係がより重要であるため、総社員の同意が必要とされている。

また、吸収分割会社である合同会社(合名会社と合資会社は吸収分割できない。第757条)が、その事業を全部、吸収分割承継会社に引き継がせる場合も、総社員の同意が必要である。

吸収合併消滅会社等が株式会社である場合においての、債権者の異議を述べる権利などについて規定している第789条と第790条については、吸収合併消滅会社または吸収分割会社が持分会社である場合にも準用される(第2項)。
第2款 吸収合併存続会社、吸収分割承継会社及び株式交換完全親会社の手続

第1目 株式会社の手続

第794条 【吸収合併契約等に関する書面等の備置き及び閲覧等】


 @ 吸収合併存続株式会社、吸収分割承継株式会社又は株式交換完全親株式会社(以下この目において「存続株式会社等」という。)は、吸収合併契約等備置開始日から効力発生日後六箇月を経過する日までの間、吸収合併契約等の内容その他法務省令で定める事項を記載し、又は記録した書面又は電磁的記録をその本店に備え置かなければならない。

 A 前項に規定する「吸収合併契約等備置開始日」とは、次に掲げる日のいずれか早い日をいう。

 1 吸収合併契約等について株主総会(種類株主総会を含む。)の決議によってその承認を受けなければならないときは、当該株主総会の日の二週間前の日(第三百十九条第一項の場合にあっては、同項の提案があった日)

 2 第七百九十七条第三項の規定による通知の日又は同条第四項の公告の日のいずれか早い日

 3 第七百九十九条の規定による手続をしなければならないときは、同条第二項の規定による公告の日又は同項の規定による催告の日のいずれか早い日

 B 存続株式会社等の株主及び債権者(株式交換完全子会社の株主に対して交付する金銭等が株式交換完全親株式会社の株式その他これに準ずるものとして法務省令で定めるもののみである場合(第七百六十八条第一項第四号ハに規定する場合を除く。)にあっては、株主)は、存続株式会社等に対して、その営業時間内は、いつでも、次に掲げる請求をすることができる。ただし、第二号又は第四号に掲げる請求をするには、当該存続株式会社等の定めた費用を支払わなければならない。

 1 第一項の書面の閲覧の請求

 2 第一項の書面の謄本又は抄本の交付の請求

 3 第一項の電磁的記録に記録された事項を法務省令で定める方法により表示したものの閲覧の請求

 4 第一項の電磁的記録に記録された事項を電磁的方法であって存続株式会社等の定めたものにより提供することの請求又はその事項を記載した書面の交付の請求
本条から第801条までは、吸収合併存続会社・吸収分割承継会社が株式会社である場合と株式交換完全親会社がとらなければならない手続きについて規定している。

吸収合併存続株式会社等は、本条第2項で決められた日から吸収合併契約、吸収合併契約等(吸収合併契約、吸収分割契約、株式移転契約)で決めた効力発生日までの間、吸収合併契約等の内容などを記載した書面または電磁的記録を、本店に供え置かなければならない(第1項)。

吸収合併存続株式会社等の株主・債権者は、営業時間内であればいつでも、書面または電磁的記録を閲覧・謄写の請求することができる(第3項)。

第795条 【吸収合併契約等の承認等】

 @ 存続株式会社等は、効力発生日の前日までに、株主総会の決議によって、吸収合併契約等の承認を受けなければならない。

 A 次に掲げる場合には、取締役は、前項の株主総会において、その旨を説明しなければならない。

 1 吸収合併存続株式会社又は吸収分割承継株式会社が承継する吸収合併消滅会社又は吸収分割会社の債務の額として法務省令で定める額(次号において「承継債務額」という。)が吸収合併存続株式会社又は吸収分割承継株式会社が承継する吸収合併消滅会社又は吸収分割会社の資産の額として法務省令で定める額(同号において「承継資産額」という。)を超える場合

 2 吸収合併存続株式会社又は吸収分割承継株式会社が吸収合併消滅株式会社の株主、吸収合併消滅持分会社の社員又は吸収分割会社に対して交付する金銭等(吸収合併存続株式会社又は吸収分割承継株式会社の株式等を除く。)の帳簿価額が承継資産額から承継債務額を控除して得た額を超える場合

 3 株式交換完全親株式会社が株式交換完全子会社の株主に対して交付する金銭等(株式交換完全親株式会社の株式等を除く。)の帳簿価額が株式交換完全親株式会社が取得する株式交換完全子会社の株式の額として法務省令で定める額を超える場合

 B 承継する吸収合併消滅会社又は吸収分割会社の資産に吸収合併存続株式会社又は吸収分割承継株式会社の株式が含まれる場合には、取締役は、第一項の株主総会において、当該株式に関する事項を説明しなければならない。

 C 存続株式会社等が種類株式発行会社である場合において、次の各号に掲げる場合には、吸収合併等は、当該各号に定める種類の株式(譲渡制限株式であって、第百九十九条第四項の定款の定めがないものに限る。)の種類株主を構成員とする種類株主総会(当該種類株主に係る株式の種類が二以上ある場合にあっては、当該二以上の株式の種類別に区分された種類株主を構成員とする各種類株主総会)の決議がなければ、その効力を生じない。ただし、当該種類株主総会において議決権を行使することができる株主が存しない場合は、この限りでない。

 1 吸収合併消滅株式会社の株主又は吸収合併消滅持分会社の社員に対して交付する金銭等が吸収合併存続株式会社の株式である場合 第七百四十九条第一項第二号イの種類の株式

 2 吸収分割会社に対して交付する金銭等が吸収分割承継株式会社の株式である場合 第七百五十八条第四号イの種類の株式

 3 株式交換完全子会社の株主に対して交付する金銭等が株式交換完全親株式会社の株式である場合 第七百六十八条第一項第二号イの種類の株式
吸収合併等を行う場合、吸収合併契約等について株主総会で承認を得なければならない(第1項)。

そして、吸収分割承継会社が吸収分割会社から引き継ぐ債務や、吸収合併消滅会社・吸収分割会社の株主・社員に割り当てる財産などが一定の基準を超えるときは、存続株式会社等の財政に大きな負担を与えるため、株主総会においてその点を説明しなければならない(第2項)。株主はその説明を聞いた上で、吸収合併契約等について承認をするかどうかを判断することとなる。
第796条 【吸収合併契約等の承認を要しない場合等】

 @ 前条第一項から第三項までの規定は、吸収合併消滅会社、吸収分割会社又は株式交換完全子会社(以下この目において「消滅会社等」という。)が存続株式会社等の特別支配会社である場合には、適用しない。ただし、吸収合併消滅株式会社若しくは株式交換完全子会社の株主、吸収合併消滅持分会社の社員又は吸収分割会社に対して交付する金銭等の全部又は一部が存続株式会社等の譲渡制限株式である場合であって、存続株式会社等が公開会社でないときは、この限りでない。

 A 前項本文に規定する場合において、次に掲げる場合であって、存続株式会社等の株主が不利益を受けるおそれがあるときは、存続株式会社等の株主は、存続株式会社等に対し、吸収合併等をやめることを請求することができる。

 1 当該吸収合併等が法令又は定款に違反する場合

 2 第七百四十九条第一項第二号若しくは第三号、第七百五十八条第四号又は第七百六十八条第一項第二号若しくは第三号に掲げる事項が存続株式会社等又は消滅会社等の財産の状況その他の事情に照らして著しく不当である場合

 B 前条第一項から第三項までの規定は、第一号に掲げる額の第二号に掲げる額に対する割合が五分の一(これを下回る割合を存続株式会社等の定款で定めた場合にあっては、その割合)を超えない場合には、適用しない。ただし、同条第二項各号に掲げる場合又は第一項ただし書に規定する場合は、この限りでない。

 1 次に掲げる額の合計額

  イ 吸収合併消滅株式会社若しくは株式交換完全子会社の株主、吸収合併消滅持分会社の社員又は吸収分割会社(以下この号において「消滅会社等の株主等」という。)に対して交付する存続株式会社等の株式の数に一株当たり純資産額を乗じて得た額

  ロ 消滅会社等の株主等に対して交付する存続株式会社等の社債、新株予約権又は新株予約権付社債の帳簿価額の合計額

  ハ 消滅会社等の株主等に対して交付する存続株式会社等の株式等以外の財産の帳簿価額の合計額

 2 存続株式会社等の純資産額として法務省令で定める方法により算定される額

 C 前項本文に規定する場合において、法務省令で定める数の株式(前条第一項の株主総会において議決権を行使することができるものに限る。)を有する株主が次条第三項の規定による通知又は同条第四項の公告の日から二週間以内に吸収合併等に反対する旨を存続株式会社等に対し通知したときは、当該存続株式会社等は、効力発生日の前日までに、株主総会の決議によって、吸収合併契約等の承認を受けなければならない。
A株式会社の総株主の議決数の90%以上をB会社とB会社の完全子会社等が保有している場合、B会社をA株式会社の特別支配会社という(第468条第1項)。

吸収合併等を行う場合、原則的に、消滅会社等(吸収合併消滅会社・吸収分割会社・株式交換完全子会社)と存続株式会社等は、株主総会で吸収合併契約等の承認が必要である(第783条第1項、第795条第1項)。しかし、消滅会社等が存続株式会社等の特別支配会社である場合は、消滅会社等の株主総会での承認が不要である(第784条第1項)のと同じように、存続株式会社等の株主総会での承認も不要となる(本条第1項)。特別支配会社は、総株主の議決数の90%以上を持っているため、あらためて株主総会での承認をとる手続きは必要ないと考えられるためである。ただし、この場合であっても、存続株式会社等の株主(特に、特別支配会社以外の少数株主が考えられる)は、本条第2項各号に該当するような場合は、存続株式会社等に対して、吸収合併等をやめるよう請求することができる(本条第2項)。

また、吸収合併等が存続株式会社等の財産状況に与える影響が少ない場合にも、株主総会の承認は不要となる(本条第3項)。
第797条 【反対株主の株式買取請求】

 @ 吸収合併等をする場合には、反対株主は、存続株式会社等に対し、自己の有する株式を公正な価格で買い取ることを請求することができる。

 A 前項に規定する「反対株主」とは、次の各号に掲げる場合における当該各号に定める株主をいう。

 1 吸収合併等をするために株主総会(種類株主総会を含む。)の決議を要する場合 次に掲げる株主

  イ 当該株主総会に先立って当該吸収合併等に反対する旨を当該存続株式会社等に対し通知し、かつ、当該株主総会において当該吸収合併等に反対した株主(当該株主総会において議決権を行使することができるものに限る。)

  ロ 当該株主総会において議決権を行使することができない株主

 2 前号に規定する場合以外の場合 すべての株主

 B 存続株式会社等は、効力発生日の二十日前までに、その株主に対し、吸収合併等をする旨並びに消滅会社等の商号及び住所(第七百九十五条第三項に規定する場合にあっては、吸収合併等をする旨、消滅会社等の商号及び住所並びに同項の株式に関する事項)を通知しなければならない。

 C 次に掲げる場合には、前項の規定による通知は、公告をもってこれに代えることができる。

 1 存続株式会社等が公開会社である場合

 2 存続株式会社等が第七百九十五条第一項の株主総会の決議によって吸収合併契約等の承認を受けた場合

 D 第一項の規定による請求(以下この目において「株式買取請求」という。)は、効力発生日の二十日前の日から効力発生日の前日までの間に、その株式買取請求に係る株式の数(種類株式発行会社にあっては、株式の種類及び種類ごとの数)を明らかにしてしなければならない。

 E 株式買取請求をした株主は、存続株式会社等の承諾を得た場合に限り、その株式買取請求を撤回することができる。

 F 吸収合併等を中止したときは、株式買取請求は、その効力を失う。
吸収合併等が行われる場合、株主総会で吸収合併等に反対した株主や、株主総会で議決権を行使できない株主などは、存続株式会社等に対して、自分が持つ存続株式会社等の株式を、公正な価格で買い取るように請求する(株式買取請求権)ことができる(第1項)。

存続株式会社等は、反対株主が株式買取請求権を行使できるように、吸収合併等の効力発生日の20日前までに、全ての株主に吸収合併等をするということと吸収合併の相手方の商号・住所を通知しなければならない(第3項)。
第798条 【株式の価格の決定等】

 @ 株式買取請求があった場合において、株式の価格の決定について、株主と存続株式会社等との間に協議が調ったときは、存続株式会社等は、効力発生日から六十日以内にその支払をしなければならない。

 A 株式の価格の決定について、効力発生日から三十日以内に協議が調わないときは、株主又は存続株式会社等は、その期間の満了の日後三十日以内に、裁判所に対し、価格の決定の申立てをすることができる。

 B 前条第六項の規定にかかわらず、前項に規定する場合において、効力発生日から六十日以内に同項の申立てがないときは、その期間の満了後は、株主は、いつでも、株式買取請求を撤回することができる。

 C 存続株式会社等は、裁判所の決定した価格に対する第一項の期間の満了の日後の年六分の利率により算定した利息をも支払わなければならない。

 D 株式買取請求に係る株式の買取りは、当該株式の代金の支払の時に、その効力を生ずる。

 E 株券発行会社は、株券が発行されている株式について株式買取請求があったときは、株券と引換えに、その株式買取請求に係る株式の代金を支払わなければならない。
本条は、吸収合併等に反対する株主の存続株式会社等に対する買取請求権と買い取り価格についての規定である。

価格の決め方と支払い方法は、第786条が規定する消滅会社等の株主が買取請求をした場合と同じである。

しかし、効力発生の時点は異なり、存続株式会社等の株主による買取請求は、実際に代金が支払われた時において効力が生じる(本条第5項)。消滅会社等の株主による買取請求の場合は、吸収合併等の効力発生日において効力が生じる(第786条第5項)。
第799条 【債権者の異議】

 @ 次の各号に掲げる場合には、当該各号に定める債権者は、存続株式会社等に対し、吸収合併等について異議を述べることができる。

 1 吸収合併をする場合 吸収合併存続株式会社の債権者

 2 吸収分割をする場合 吸収分割承継株式会社の債権者

 3 株式交換をする場合において、株式交換完全子会社の株主に対して交付する金銭等が株式交換完全親株式会社の株式その他これに準ずるものとして法務省令で定めるもののみである場合以外の場合又は第七百六十八条第一項第四号ハに規定する場合 株式交換完全親株式会社の債権者

 A 前項の規定により存続株式会社等の債権者が異議を述べることができる場合には、存続株式会社等は、次に掲げる事項を官報に公告し、かつ、知れている債権者には、各別にこれを催告しなければならない。ただし、第四号の期間は、一箇月を下ることができない。

 1 吸収合併等をする旨

 2 消滅会社等の商号及び住所

 3 存続株式会社等及び消滅会社等(株式会社に限る。)の計算書類に関する事項として法務省令で定めるもの

 4 債権者が一定の期間内に異議を述べることができる旨

 B 前項の規定にかかわらず、存続株式会社等が同項の規定による公告を、官報のほか、第九百三十九条第一項の規定による定款の定めに従い、同項第二号又は第三号に掲げる公告方法によりするときは、前項の規定による各別の催告は、することを要しない。

 C 債権者が第二項第四号の期間内に異議を述べなかったときは、当該債権者は、当該吸収合併等について承認をしたものとみなす。

 D 債権者が第二項第四号の期間内に異議を述べたときは、存続株式会社等は、当該債権者に対し、弁済し、若しくは相当の担保を提供し、又は当該債権者に弁済を受けさせることを目的として信託会社等に相当の財産を信託しなければならない。ただし、当該吸収合併等をしても当該債権者を害するおそれがないときは、この限りでない。
存続株式会社等の債権者は、存続株式会社等に対して異議を述べることができる(第1項)。

存続株式会社等の債権者は、吸収合併等により債務者が変るということはないが、存続株式会社等の財産状況が悪化するということはありうる。

存続株式会社等は、吸収合併等を行うということを債権者に知らせ、一定の期間内に異議を述べるよう催告しなければならない(第2項)。その期間内に、債権者が異議を述べた場合は、吸収合併等をしてもその債権者に十分弁済できる場合を除き、その債権者に弁済期前であっても、債務を弁済するか、担保を提供するか、信託会社等に信託しなければならない(第5項)。

第800条 【消滅会社等の株主等に対して交付する金銭等が存続株式会社等の親会社株式である場合の特則】

 @ 第百三十五条第一項の規定にかかわらず、吸収合併消滅株式会社若しくは株式交換完全子会社の株主、吸収合併消滅持分会社の社員又は吸収分割会社(以下この項において「消滅会社等の株主等」という。)に対して交付する金銭等の全部又は一部が存続株式会社等の親会社株式(同条第一項に規定する親会社株式をいう。以下この条において同じ。)である場合には、当該存続株式会社等は、吸収合併等に際して消滅会社等の株主等に対して交付する当該親会社株式の総数を超えない範囲において当該親会社株式を取得することができる。

 A 第百三十五条第三項の規定にかかわらず、前項の存続株式会社等は、効力発生日までの間は、存続株式会社等の親会社株式を保有することができる。ただし、吸収合併等を中止したときは、この限りでない。
原則的に、子会社は親会社の株式を取得できない(第135条第1項)。これは、以下の理由からである。

・会社支配の歪曲化:親会社は子会社に対して強い支配力を有している。親会社の経営者が子会社に対して、株式の取得を強要し、その他の株主の影響を減少させることにより、自己保身を図る可能性があること。

・資本の空洞化:親会社と子会社は実質的には同一の経済体であり、子会社が親会社株式を取得したとしても、見かけ上資本金が増加するだけで、実際は自分で自分の株式を買っているのと同じことである。


吸収合併等を行う場合は、存続株式会社等は、親会社にあたる株式会社が発行している株式を、消滅会社等の株主や社員に割り当てることができる(第749条第1項第1号ホ)。この場合は、例外的に、子会社(存続株式会社等)が親会社の株式を取得することが認められている(本条第1項)。

また、子会社は親会社の株式を保有できないのが原則である(第135条第3項)。しかし、効力発生日までであれば、例外的に子会社(存続株式会社等)が親会社の株式を保有することが認められている(本条第2項)。
第801条 【吸収合併等に関する書面等の備置き及び閲覧等】

 @ 吸収合併存続株式会社は、効力発生日後遅滞なく、吸収合併により吸収合併存続株式会社が承継した吸収合併消滅会社の権利義務その他の吸収合併に関する事項として法務省令で定める事項を記載し、又は記録した書面又は電磁的記録を作成しなければならない。

 A 吸収分割承継株式会社(合同会社が吸収分割をする場合における当該吸収分割承継株式会社に限る。)は、効力発生日後遅滞なく、吸収分割合同会社と共同して、吸収分割により吸収分割承継株式会社が承継した吸収分割合同会社の権利義務その他の吸収分割に関する事項として法務省令で定める事項を記載し、又は記録した書面又は電磁的記録を作成しなければならない。

 B 次の各号に掲げる存続株式会社等は、効力発生日から六箇月間、当該各号に定めるものをその本店に備え置かなければならない。

 1 吸収合併存続株式会社 第一項の書面又は電磁的記録

 2 吸収分割承継株式会社 前項又は第七百九十一条第一項第一号の書面又は電磁的記録

 3 株式交換完全親株式会社 第七百九十一条第一項第二号の書面又は電磁的記録

 C 吸収合併存続株式会社の株主及び債権者は、吸収合併存続株式会社に対して、その営業時間内は、いつでも、次に掲げる請求をすることができる。ただし、第二号又は第四号に掲げる請求をするには、当該吸収合併存続株式会社の定めた費用を支払わなければならない。

 1 前項第一号の書面の閲覧の請求

 2 前項第一号の書面の謄本又は抄本の交付の請求

 3 前項第一号の電磁的記録に記録された事項を法務省令で定める方法により表示したものの閲覧の請求

 4 前項第一号の電磁的記録に記録された事項を電磁的方法であって吸収合併存続株式会社の定めたものにより提供することの請求又はその事項を記載した書面の交付の請求

 D 前項の規定は、吸収分割承継株式会社について準用する。この場合において、同項中「株主及び債権者」とあるのは「株主、債権者その他の利害関係人」と、同項各号中「前項第一号」とあるのは「前項第二号」と読み替えるものとする。

 E 第四項の規定は、株式交換完全親株式会社について準用する。この場合において、同項中「株主及び債権者」とあるのは「株主及び債権者(株式交換完全子会社の株主に対して交付する金銭等が株式交換完全親株式会社の株式その他これに準ずるものとして法務省令で定めるもののみである場合(第七百六十八条第一項第四号ハに規定する場合を除く。)にあっては、株式交換完全親株式会社の株主)」と、同項各号中「前項第一号」とあるのは「前項第三号」と読み替えるものとする。
吸収合併等の効力発生日が到来した場合、存続株式会社等はそれぞれ、消滅会社等から引き継いだ権利義務の内容、株式交換完全親会社が取得した株式数等を書いた書面または電磁的記録を作成しなければならない。そして、それを効力発生日から6ヶ月間、本店に備え置かなければならない(第1項、第2項、第3項)。吸収合併存続株式会社の株主・債権者は、営業時間内であればいつでも、書面または電磁的記録の閲覧・謄写の請求をすることができる(第4項)。
第2目 持分会社の手続

第802条 【持分会社の手続】


 @ 次の各号に掲げる行為をする持分会社(以下この条において「存続持分会社等」という。)は、当該各号に定める場合には、効力発生日の前日までに、吸収合併契約等について存続持分会社等の総社員の同意を得なければならない。ただし、定款に別段の定めがある場合は、この限りでない。

 1 吸収合併(吸収合併により当該持分会社が存続する場合に限る。) 第七百五十一条第一項第二号に規定する場合

 2 吸収分割による他の会社がその事業に関して有する権利義務の全部又は一部の承継 第七百六十条第四号に規定する場合

 3 株式交換による株式会社の発行済株式の全部の取得 第七百七十条第一項第二号に規定する場合

 A 第七百九十九条(第二項第三号を除く。)及び第八百条の規定は、存続持分会社等について準用する。この場合において、第七百九十九条第一項第三号中「株式交換完全親株式会社の株式」とあるのは「株式交換完全親合同会社の持分」と、「場合又は第七百六十八条第一項第四号ハに規定する場合」とあるのは「場合」と読み替えるものとする。
本条は、存続持分会社等(吸収合併存続会社・吸収分割承継会社が持分会社である場合と株式交換完全親会社が合同会社である場合)がとらなければならない手続きについての規定である。

存続持分会社等は、吸収合併等により、吸収合併消滅会社や吸収分割会社や株式交換完全子会社から新たに存続持分会社等の社員になる者がいる場合にだけ、吸収合併契約等について社員全員の同意を得ればよい(本条第1項)。

また、存続持分会社等の債権者に対する手続きなどについては、存続株式会社等についての規定である第799条と第800条が準用される(本条第2項)。