会社法 条文 会社法 解説
第5編 組織変更、合併、会社分割、株式交換及び株式移転

第5章 組織変更、合併、会社分割、株式交換及び株式移転の手続

第3節 新設合併等の手続
第1款 新設合併消滅会社、新設分割会社及び株式移転完全子会社の手続

第1目 株式会社の手続

第803条 【新設合併契約等に関する書面等の備置き及び閲覧等】


 @ 次の各号に掲げる株式会社(以下この目において「消滅株式会社等」という。)は、新設合併契約等備置開始日から新設合併設立会社、新設分割設立会社又は株式移転設立完全親会社(以下この目において「設立会社」という。)の成立の日後六箇月を経過する日(新設合併消滅株式会社にあっては、新設合併設立会社の成立の日)までの間、当該各号に定めるもの(以下この節において「新設合併契約等」という。)の内容その他法務省令で定める事項を記載し、又は記録した書面又は電磁的記録をその本店に備え置かなければならない。

 1 新設合併消滅株式会社 新設合併契約

 2 新設分割株式会社 新設分割計画

 3 株式移転完全子会社 株式移転計画

 A 前項に規定する「新設合併契約等備置開始日」とは、次に掲げる日のいずれか早い日をいう。

 1 新設合併契約等について株主総会(種類株主総会を含む。)の決議によってその承認を受けなければならないときは、当該株主総会の日の二週間前の日(第三百十九条第一項の場合にあっては、同項の提案があった日)

 2 第八百六条第三項の規定による通知を受けるべき株主があるときは、同項の規定による通知の日又は同条第四項の公告の日のいずれか早い日

 3 第八百八条第三項の規定による通知を受けるべき新株予約権者があるときは、同項の規定による通知の日又は同条第四項の公告の日のいずれか早い日

 4 第八百十条の規定による手続をしなければならないときは、同条第二項の規定による公告の日又は同項の規定による催告の日のいずれか早い日

 5 前各号に規定する場合以外の場合には、新設分割計画の作成の日から二週間を経過した日

 B 消滅株式会社等の株主及び債権者(株式移転完全子会社にあっては、株主及び新株予約権者)は、消滅株式会社等に対して、その営業時間内は、いつでも、次に掲げる請求をすることができる。ただし、第二号又は第四号に掲げる請求をするには、当該消滅株式会社等の定めた費用を支払わなければならない。

 1 第一項の書面の閲覧の請求

 2 第一項の書面の謄本又は抄本の交付の請求

 3 第一項の電磁的記録に記録された事項を法務省令で定める方法により表示したものの閲覧の請求

 4 第一項の電磁的記録に記録された事項を電磁的方法であって消滅株式会社等の定めたものにより提供することの請求又はその事項を記載した書面の交付の請求
本条から第812条までは、消滅株式会社等(株式会社である新設合併消滅会社、株式会社である新設分割会社、株式移転完全子会社)がとらなければならない手続きについての規定である。

消滅株式会社等は、本条第2項で決められた日から新設合併契約等(新設合併契約、新設分割契約、株式移転契約)で決めた効力発生日までの間、新設合併契約等の内容などを記載した書面または電磁的記録を、本店に備え置かなければならない(本条第1項)。

消滅株式会社等の株主と債権者は、営業時間内であればいつでも、書面や電磁的記録の閲覧・謄写の請求をすることができる(本条第3項)。
第804条 【新設合併契約等の承認】

 @ 消滅株式会社等は、株主総会の決議によって、新設合併契約等の承認を受けなければならない。

 A 前項の規定にかかわらず、新設合併設立会社が持分会社である場合には、新設合併契約について新設合併消滅株式会社の総株主の同意を得なければならない。

 B 新設合併消滅株式会社又は株式移転完全子会社が種類株式発行会社である場合において、新設合併消滅株式会社又は株式移転完全子会社の株主に対して交付する新設合併設立株式会社又は株式移転設立完全親株式会社の株式等の全部又は一部が譲渡制限株式等であるときは、当該新設合併又は株式移転は、当該譲渡制限株式等の割当てを受ける種類の株式(譲渡制限株式を除く。)の種類株主を構成員とする種類株主総会(当該種類株主に係る株式の種類が二以上ある場合にあっては、当該二以上の株式の種類別に区分された種類株主を構成員とする各種類株主総会)の決議がなければ、その効力を生じない。ただし、当該種類株主総会において議決権を行使することができる株主が存しない場合は、この限りでない。

 C 消滅株式会社等は、第一項の株主総会の決議の日(第二項に規定する場合にあっては、同項の総株主の同意を得た日)から二週間以内に、その登録株式質権者(次条に規定する場合における登録株式質権者を除く。)及び第八百八条第三項各号に定める新株予約権の登録新株予約権質権者に対し、新設合併、新設分割又は株式移転(以下この節において「新設合併等」という。)をする旨を通知しなければならない。

 D 前項の規定による通知は、公告をもってこれに代えることができる。
新設合併等は、消滅株式会社等にとっては、会社の経営や会社の存在自体を左右するものであるため、消滅株式会社等は株主総会決議により、新設合併契約等の承認を得なければならない(第1項)。

また、新設合併設立会社が持分会社である場合は、新設合併消滅株式会社の総株主の同意が必要である(第2項)。これは、消滅株式会社等の株主は、新設合併により当然に持分会社の社員になるというリスクを負うためである。
第805条 【新設分割計画の承認を要しない場合】

 前条第一項の規定は、新設分割により新設分割設立会社に承継させる資産の帳簿価額の合計額が新設分割株式会社の総資産額として法務省令で定める方法により算定される額の五分の一(これを下回る割合を新設分割株式会社の定款で定めた場合にあっては、その割合)を超えない場合には、適用しない。
新設合併等を行う場合、原則として、消滅株式会社等は株主総会決議で、合併契約等の承認を得なければならない(第804条第1項)。

しかし、新設分割の場合、新設分割株式会社から新設分割設立会社は引き継がれる資産の帳簿価額が、新設分割株式会社の総資産の5分の1以下であるときは、例外的に、株主総会決議での合併契約の承認は不要となる。

このような場合は、新設分割が新設分割株式会社に与える影響が小さいためである。
第806条 【反対株主の株式買取請求】

 @ 新設合併等をする場合(次に掲げる場合を除く。)には、反対株主は、消滅株式会社等に対し、自己の有する株式を公正な価格で買い取ることを請求することができる。

 1 第八百四条第二項に規定する場合

 2 前条に規定する場合

 A 前項に規定する「反対株主」とは、次に掲げる株主をいう。

 1 第八百四条第一項の株主総会(新設合併等をするために種類株主総会の決議を要する場合にあっては、当該種類株主総会を含む。)に先立って当該新設合併等に反対する旨を当該消滅株式会社等に対し通知し、かつ、当該株主総会において当該新設合併等に反対した株主(当該株主総会において議決権を行使することができるものに限る。)

 2 当該株主総会において議決権を行使することができない株主

 B 消滅株式会社等は、第八百四条第一項の株主総会の決議の日から二週間以内に、その株主に対し、新設合併等をする旨並びに他の新設合併消滅会社、新設分割会社又は株式移転完全子会社(以下この節において「消滅会社等」という。)及び設立会社の商号及び住所を通知しなければならない。ただし、第一項各号に掲げる場合は、この限りでない。

 C 前項の規定による通知は、公告をもってこれに代えることができる。

 D 第一項の規定による請求(以下この目において「株式買取請求」という。)は、第三項の規定による通知又は前項の公告をした日から二十日以内に、その株式買取請求に係る株式の数(種類株式発行会社にあっては、株式の種類及び種類ごとの数)を明らかにしてしなければならない。

 E 株式買取請求をした株主は、消滅株式会社等の承諾を得た場合に限り、その株式買取請求を撤回することができる。

 F 新設合併等を中止したときは、株式買取請求は、その効力を失う。
新設合併等において、消滅株式会社等の反対株主には、株式買取請求権が認められている(第1項)。会社の経営や存続そのものを変える行為について、反対する株主は出資分の払い戻しを受けて会社への投資を撤退する機会を与える趣旨である。

この株式買取請求は、買取を請求する株式数を明らかにしなければならない。また、一度請求した場合、会社側の承諾がなければ請求を撤回することができない(第6項)。合併等が中止になった場合は、請求も失効する(第7項)。この辺りについてはいずれも、吸収合併等における株式買取請求の規定についてと同じ部分が多い。
第807条 【株式の価格の決定等】

 @ 株式買取請求があった場合において、株式の価格の決定について、株主と消滅株式会社等(新設合併をする場合における新設合併設立会社の成立の日後にあっては、新設合併設立会社。以下この条において同じ。)との間に協議が調ったときは、消滅株式会社等は、設立会社の成立の日から六十日以内にその支払をしなければならない。

 A 株式の価格の決定について、設立会社の成立の日から三十日以内に協議が調わないときは、株主又は消滅株式会社等は、その期間の満了の日後三十日以内に、裁判所に対し、価格の決定の申立てをすることができる。

 B 前条第六項の規定にかかわらず、前項に規定する場合において、設立会社の成立の日から六十日以内に同項の申立てがないときは、その期間の満了後は、株主は、いつでも、株式買取請求を撤回することができる。

 C 消滅株式会社等は、裁判所の決定した価格に対する第一項の期間の満了の日後の年六分の利率により算定した利息をも支払わなければならない。

 D 株式買取請求に係る株式の買取りは、設立会社の成立の日(新設分割をする場合にあっては、当該株式の代金の支払の時)に、その効力を生ずる。

 E 株券発行会社は、株券が発行されている株式について株式買取請求があったときは、株券と引換えに、その株式買取請求に係る株式の代金を支払わなければならない。
新設合併等に反対する株主は、消滅株式会社等に対して、自分が保有している消滅株式会社等の株式を公正な価格で買い取るよう請求することができる(第806条)。

本条は、この公正な価格の決め方などについての規定である。ほとんどの部分において、吸収合併等における株式買取請求の場合(第786条、第798条)と同じである。

まず、買取請求をした株主と消滅株式会社等の間で、公正な価格について協議する(第1項)。設立会社の成立日から30日以内に協議がうまくいかなかった場合、裁判所に公正な価格の決定を申し立てることができる(第2項)。

買取の効力が法律上認められるのは、新設合併と株式移転の場合には新設合併設立会社・株式移転完全親会社が成立した日である。新設分割の場合には新設分割設立会社が代金を支払った時である(第5項)。
第808条 【新株予約権買取請求】

 @ 次の各号に掲げる行為をする場合には、当該各号に定める消滅株式会社等の新株予約権の新株予約権者は、消滅株式会社等に対し、自己の有する新株予約権を公正な価格で買い取ることを請求することができる。

 1 新設合併 第七百五十三条第一項第十号又は第十一号に掲げる事項についての定めが第二百三十六条第一項第八号の条件(同号イに関するものに限る。)に合致する新株予約権以外の新株予約権

 2 新設分割(新設分割設立会社が株式会社である場合に限る。) 次に掲げる新株予約権のうち、第七百六十三条第十号又は第十一号に掲げる事項についての定めが第二百三十六条第一項第八号の条件(同号ハに関するものに限る。)に合致する新株予約権以外の新株予約権

  イ 新設分割計画新株予約権

  ロ 新設分割計画新株予約権以外の新株予約権であって、新設分割をする場合において当該新株予約権の新株予約権者に新設分割設立株式会社の新株予約権を交付することとする旨の定めがあるもの

 3 株式移転 次に掲げる新株予約権のうち、第七百七十三条第一項第九号又は第十号に掲げる事項についての定めが第二百三十六条第一項第八号の条件(同号ホに関するものに限る。)に合致する新株予約権以外の新株予約権

  イ 株式移転計画新株予約権

  ロ 株式移転計画新株予約権以外の新株予約権であって、株式移転をする場合において当該新株予約権の新株予約権者に株式移転設立完全親会社の新株予約権を交付することとする旨の定めがあるもの

 A 新株予約権付社債に付された新株予約権の新株予約権者は、前項の規定による請求(以下この目において「新株予約権買取請求」という。)をするときは、併せて、新株予約権付社債についての社債を買い取ることを請求しなければならない。ただし、当該新株予約権付社債に付された新株予約権について別段の定めがある場合は、この限りでない。

 B 次の各号に掲げる消滅株式会社等は、第八百四条第一項の株主総会の決議の日(同条第二項に規定する場合にあっては同項の総株主の同意を得た日、第八百五条に規定する場合にあっては新設分割計画の作成の日)から二週間以内に、当該各号に定める新株予約権の新株予約権者に対し、新設合併等をする旨並びに他の消滅会社等及び設立会社の商号及び住所を通知しなければならない。

 1 新設合併消滅株式会社 全部の新株予約権

 2 新設分割設立会社が株式会社である場合における新設分割株式会社 次に掲げる新株予約権

  イ 新設分割計画新株予約権

  ロ 新設分割計画新株予約権以外の新株予約権であって、新設分割をする場合において当該新株予約権の新株予約権者に新設分割設立株式会社の新株予約権を交付することとする旨の定めがあるもの

 3 株式移転完全子会社 次に掲げる新株予約権

  イ 株式移転計画新株予約権

  ロ 株式移転計画新株予約権以外の新株予約権であって、株式移転をする場合において当該新株予約権の新株予約権者に株式移転設立完全親会社の新株予約権を交付することとする旨の定めがあるもの

 C 前項の規定による通知は、公告をもってこれに代えることができる。

 D 新株予約権買取請求は、第三項の規定による通知又は前項の公告をした日から二十日以内に、その新株予約権買取請求に係る新株予約権の内容及び数を明らかにしてしなければならない。

 E 新株予約権買取請求をした新株予約権者は、消滅株式会社等の承諾を得た場合に限り、その新株予約権買取請求を撤回することができる。

 F 新設合併等を中止したときは、新株予約権買取請求は、その効力を失う。
新設合併等を行う場合、消滅株式会社等の新株予約権者の新株予約権買取請求権が認められている(第1項)。これは、新設合併等に反対する新株予約権者を保護するためである。ただし、新設合併等が行われる場合には存続会社等が発行する新株予約権を代わりに割り当てる決まりになっていた場合(第236条第1項第8号)には、この買取請求権は認められていない。

新株予約権付社債の場合は、原則的に、新株予約権と社債をまとめて買取請求しなければならない(第2項)。

消滅株式会社等は、新株予約権者に対して、新設合併等を行うということ、他に消滅会社等がある場合はその会社と、設立会社の商号と住所を通知しなければならない(第3項、第4項)。これは、新株予約権者が買取請求を行使することができるようにするためである。
第809条 【新株予約権の価格の決定等】

 @ 新株予約権買取請求があった場合において、新株予約権(当該新株予約権が新株予約権付社債に付されたものである場合において、当該新株予約権付社債についての社債の買取りの請求があったときは、当該社債を含む。以下この条において同じ。)の価格の決定について、新株予約権者と消滅株式会社等(新設合併をする場合における新設合併設立会社の成立の日後にあっては、新設合併設立会社。以下この条において同じ。)との間に協議が調ったときは、消滅株式会社等は、設立会社の成立の日から六十日以内にその支払をしなければならない。

 A 新株予約権の価格の決定について、設立会社の成立の日から三十日以内に協議が調わないときは、新株予約権者又は消滅株式会社等は、その期間の満了の日後三十日以内に、裁判所に対し、価格の決定の申立てをすることができる。

 B 前条第六項の規定にかかわらず、前項に規定する場合において、設立会社の成立の日から六十日以内に同項の申立てがないときは、その期間の満了後は、新株予約権者は、いつでも、新株予約権買取請求を撤回することができる。

 C 消滅株式会社等は、裁判所の決定した価格に対する第一項の期間の満了の日後の年六分の利率により算定した利息をも支払わなければならない。

 D 新株予約権買取請求に係る新株予約権の買取りは、次の各号に掲げる新株予約権の区分に応じ、当該各号に定める時に、その効力を生ずる。

 1 前条第一項第一号に定める新株予約権 新設合併設立会社の成立の日

 2 前条第一項第二号イに掲げる新株予約権 新設分割設立会社の成立の日

 3 前条第一項第二号ロに掲げる新株予約権 当該新株予約権の代金の支払の時

 4 前条第一項第三号イに掲げる新株予約権 株式移転設立完全親会社の成立の日

 5 前条第一項第三号ロに掲げる新株予約権 当該新株予約権の代金の支払の時

 E 消滅株式会社等は、新株予約権証券が発行されている新株予約権について新株予約権買取請求があったときは、新株予約権証券と引換えに、その新株予約権買取請求に係る新株予約権の代金を支払わなければならない。

 F 消滅株式会社等は、新株予約権付社債券が発行されている新株予約権付社債に付された新株予約権について新株予約権買取請求があったときは、新株予約権付社債券と引換えに、その新株予約権買取請求に係る新株予約権の代金を支払わなければならない。
新設合併等が行われる場合は、消滅株式会社等の新株予約権者は、消滅株式会社等に対して、新株予約権を公正な価格で買い取るよう請求することができる(第808条)。

本条は、この公正な価格の決め方などについての規定である。

まず、買取請求をした新株予約権者と消滅株式会社等の間で、公正な価格について協議する(第1項)。協議がうまくいかなかった場合は、裁判所に価格決定の申し立てをすることができる(第2項)。

買取の法律上の効果が認められる日は、新株予約権の種類によって、新しく設立される会社の成立日か、実際に代金が支払われる日のどちらかになる(第5項)。
第810条 【債権者の異議】

 @ 次の各号に掲げる場合には、当該各号に定める債権者は、消滅株式会社等に対し、新設合併等について異議を述べることができる。

 1 新設合併をする場合 新設合併消滅株式会社の債権者

 2 新設分割をする場合 新設分割後新設分割株式会社に対して債務の履行(当該債務の保証人として新設分割設立会社と連帯して負担する保証債務の履行を含む。)を請求することができない新設分割株式会社の債権者(第七百六十三条第十二号又は第七百六十五条第一項第八号に掲げる事項についての定めがある場合にあっては、新設分割株式会社の債権者)

 3 株式移転計画新株予約権が新株予約権付社債に付された新株予約権である場合 当該新株予約権付社債についての社債権者

 A 前項の規定により消滅株式会社等の債権者の全部又は一部が異議を述べることができる場合には、消滅株式会社等は、次に掲げる事項を官報に公告し、かつ、知れている債権者(同項の規定により異議を述べることができるものに限る。)には、各別にこれを催告しなければならない。ただし、第四号の期間は、一箇月を下ることができない。

 1 新設合併等をする旨

 2 他の消滅会社等及び設立会社の商号及び住所

 3 消滅株式会社等の計算書類に関する事項として法務省令で定めるもの

 4 債権者が一定の期間内に異議を述べることができる旨

 B 前項の規定にかかわらず、消滅株式会社等が同項の規定による公告を、官報のほか、第九百三十九条第一項の規定による定款の定めに従い、同項第二号又は第三号に掲げる公告方法によりするときは、前項の規定による各別の催告(新設分割をする場合における不法行為によって生じた新設分割株式会社の債務の債権者に対するものを除く。)は、することを要しない。

 C 債権者が第二項第四号の期間内に異議を述べなかったときは、当該債権者は、当該新設合併等について承認をしたものとみなす。

 D 債権者が第二項第四号の期間内に異議を述べたときは、消滅株式会社等は、当該債権者に対し、弁済し、若しくは相当の担保を提供し、又は当該債権者に弁済を受けさせることを目的として信託会社等に相当の財産を信託しなければならない。ただし、当該新設合併等をしても当該債権者を害するおそれがないときは、この限りでない。
新設合併をする場合において新設合併消滅会社の債権者や、新設分割をする場合において新設分割計画で新設分割後は新設分割会社には債務の履行を請求できないことが決められているときの新設分割会社の債権者は、新設合併等において債務者が新設される会社に代わる。

これらの債権者のなかには、新設合併等が行われる場合、債務をすぐに弁済してもらいたいと考える者もいる。そこで、これらの債権者には、新設合併等に対して一定の期間内に異議を述べる権利が認められている(第1項、第2項)。そして、債権者が異議を述べた場合、消滅株式会社等は新設合併等をしても異議を述べた債権者に十分に弁済ができる場合を除いて、債務を弁済しなければならない(第5項)。
第811条 【新設分割又は株式移転に関する書面等の備置き及び閲覧等】

 @ 新設分割株式会社又は株式移転完全子会社は、新設分割設立会社又は株式移転設立完全親会社の成立の日後遅滞なく、新設分割設立会社又は株式移転設立完全親会社と共同して、次の各号に掲げる区分に応じ、当該各号に定めるものを作成しなければならない。

 1 新設分割株式会社 新設分割により新設分割設立会社が承継した新設分割株式会社の権利義務その他の新設分割に関する事項として法務省令で定める事項を記載し、又は記録した書面又は電磁的記録

 2 株式移転完全子会社 株式移転により株式移転設立完全親会社が取得した株式移転完全子会社の株式の数その他の株式移転に関する事項として法務省令で定める事項を記載し、又は記録した書面又は電磁的記録

 A 新設分割株式会社又は株式移転完全子会社は、新設分割設立会社又は株式移転設立完全親会社の成立の日から六箇月間、前項各号の書面又は電磁的記録をその本店に備え置かなければならない。

 B 新設分割株式会社の株主、債権者その他の利害関係人は、新設分割株式会社に対して、その営業時間内は、いつでも、次に掲げる請求をすることができる。ただし、第二号又は第四号に掲げる請求をするには、当該新設分割株式会社の定めた費用を支払わなければならない。

 1 前項の書面の閲覧の請求

 2 前項の書面の謄本又は抄本の交付の請求

 3 前項の電磁的記録に記録された事項を法務省令で定める方法により表示したものの閲覧の請求

 4 前項の電磁的記録に記録された事項を電磁的方法であって新設分割株式会社の定めたものにより提供することの請求又はその事項を記載した書面の交付の請求

 C 前項の規定は、株式移転完全子会社について準用する。この場合において、同項中「新設分割株式会社の株主、債権者その他の利害関係人」とあるのは、「株式移転設立完全親会社の成立の日に株式移転完全子会社の株主又は新株予約権者であった者」と読み替えるものとする。
新設分割をした場合には新設分割会社と新設分割設立会社、株式移転をした場合には株式移転完全子会社と株式移転設立完全親会社が、それぞれ協力して、新設分割設立会社が新設分割会社から承継した権利義務など法令で決められた事項を記載・記録した書面または電磁的記録を作成し、成立日から6ヶ月間本店に備え置かなければならない(第1項、第2項)。株主や債権者は、営業時間内であればいつでも、これらの書面または電磁的記録の閲覧・謄写の請求をすることができる(第3項、第4項)。
第812条 【剰余金の配当等に関する特則】

 第四百五十八条及び第二編第五章第六節の規定は、次に掲げる行為については、適用しない。

 1 第七百六十三条第十二号イ又は第七百六十五条第一項第八号イの株式の取得

 2 第七百六十三条第十二号ロ又は第七百六十五条第一項第八号ロの剰余金の配当
新設分割契約では、新設分割の効力発生日(新設分割設立会社の成立日)に、全部取得条項付種類株式を取得したり、剰余金の配当を決めることができる(第763条第12号イ・ロ、第765条第1項第8号イ・ロ)。

この場合、第458条の規定は適用されず、新設分割株式会社の資産が300万円未満であったとしても、第453条から第457条が適用される。また、剰余金配当等の責任について規定している第461条から第465条は適用されない。
第2目 持分会社の手続

第813条 【持分会社の手続】


 @ 次に掲げる行為をする持分会社は、新設合併契約等について当該持分会社の総社員の同意を得なければならない。ただし、定款に別段の定めがある場合は、この限りでない。

 1 新設合併

 2 新設分割(当該持分会社(合同会社に限る。)がその事業に関して有する権利義務の全部を他の会社に承継させる場合に限る。)

 A 第八百十条(第一項第三号及び第二項第三号を除く。)の規定は、新設合併消滅持分会社又は合同会社である新設分割会社(以下この節において「新設分割合同会社」という。)について準用する。この場合において、同条第一項第二号中「債権者(第七百六十三条第十二号又は第七百六十五条第一項第八号に掲げる事項についての定めがある場合にあっては、新設分割株式会社の債権者)」とあるのは「債権者」と、同条第三項中「消滅株式会社等」とあるのは「新設合併消滅持分会社(新設合併設立会社が株式会社又は合同会社である場合にあっては、合同会社に限る。)又は新設分割合同会社」と読み替えるものとする。
本条は、持分会社が新設合併または新設分割をする場合の手続きについての規定である。

持分会社が新設合併または新設分割をする場合、総社員の同意が必要である(第1項)。

持分会社には、株主はおらず、新株予約権もない。そのため、反対株主の株式買取請求権や新株予約権買取請求の規定(第806条〜第809条)は準用されない。しかし、持分会社にも債権者はいるため、債権者の異議に関する規定(第810条)が準用される(第2項)。
第2款 新設合併設立会社、新設分割設立会社及び株式移転設立完全親会社の手続

第1目 株式会社の手続

第814条 【株式会社の設立の特則】

 @ 第二編第一章(第二十七条(第四号及び第五号を除く。)、第二十九条、第三十一条、第三十九条、第六節及び第四十九条を除く。)の規定は、新設合併設立株式会社、新設分割設立株式会社又は株式移転設立完全親会社(以下この目において「設立株式会社」という。)の設立については、適用しない。

 A 設立株式会社の定款は、消滅会社等が作成する。
本条から第816条までは、新設合併等(新設合併、新設分割、株式移転)を行う場合において、設立株式会社(新設合併設立会社、新設分割設立会社、株式移転設立完全親会社)がとらなければならない手続きについての規定である。

新設合併等による会社の設立は、会社の設立の一種であるが、既にある会社が、特別な関係にある別の会社を新しく設立するという点で特殊である。そのため、会社の設立に関して規定している会社法第2編第1章は、以下の条文を除いて設立株式会社の設立には適用しない。

適用される 適用されない
第27条第1号から第3号 定款の必要的記載事項 第2編第1章
(ただし、左の適用される条文は除く)
第29条 定款の必要的記載事項
第31条 定款の備え置き及び閲覧
第39条 設立時役員等の選任 その2
第47条(第6節) 設立時代表取締役の選定等
第48条(第6節) 設立時委員の選定等
第49条 株式会社の成立


新設合併等においての設立株式会社も、定款を作成しなければならない。通常、会社を設立する場合は発起人が定款を作成する(第26条)。しかし、新設合併等の場合は発起人がいないため、消滅会社等が設立株式会社の定款を作成することとなる(本条第2項)。
第815条 【新設合併契約等に関する書面等の備置き及び閲覧等】

 @ 新設合併設立株式会社は、その成立の日後遅滞なく、新設合併により新設合併設立株式会社が承継した新設合併消滅会社の権利義務その他の新設合併に関する事項として法務省令で定める事項を記載し、又は記録した書面又は電磁的記録を作成しなければならない。

 A 新設分割設立株式会社(一又は二以上の合同会社のみが新設分割をする場合における当該新設分割設立株式会社に限る。)は、その成立の日後遅滞なく、新設分割合同会社と共同して、新設分割により新設分割設立株式会社が承継した新設分割合同会社の権利義務その他の新設分割に関する事項として法務省令で定める事項を記載し、又は記録した書面又は電磁的記録を作成しなければならない。

 B 次の各号に掲げる設立株式会社は、その成立の日から六箇月間、当該各号に定めるものをその本店に備え置かなければならない。

 1 新設合併設立株式会社 第一項の書面又は電磁的記録及び新設合併契約の内容その他法務省令で定める事項を記載し、又は記録した書面又は電磁的記録

 2 新設分割設立株式会社 前項又は第八百十一条第一項第一号の書面又は電磁的記録

 3 株式移転設立完全親会社 第八百十一条第一項第二号の書面又は電磁的記録

 C 新設合併設立株式会社の株主及び債権者は、新設合併設立株式会社に対して、その営業時間内は、いつでも、次に掲げる請求をすることができる。ただし、第二号又は第四号に掲げる請求をするには、当該新設合併設立株式会社の定めた費用を支払わなければならない。

 1 前項第一号の書面の閲覧の請求

 2 前項第一号の書面の謄本又は抄本の交付の請求

 3 前項第一号の電磁的記録に記録された事項を法務省令で定める方法により表示したものの閲覧の請求

 4 前項第一号の電磁的記録に記録された事項を電磁的方法であって新設合併設立株式会社の定めたものにより提供することの請求又はその事項を記載した書面の交付の請求

 D 前項の規定は、新設分割設立株式会社について準用する。この場合において、同項中「株主及び債権者」とあるのは「株主、債権者その他の利害関係人」と、同項各号中「前項第一号」とあるのは「前項第二号」と読み替えるものとする。

 E 第四項の規定は、株式移転設立完全親会社について準用する。この場合において、同項中「株主及び債権者」とあるのは「株主及び新株予約権者」と、同項各号中「前項第一号」とあるのは「前項第三号」と読み替えるものとする。
新設合併設立株式会社は、成立日後すぐに、新設合併消滅会社から承継した権利義務その他の新設合併に関する事項として法務省令で定める事項を記載・記録した書面または電磁的記録を作成し、成立日から6ヶ月間本店に備え置かなければならない(第1項、第3項)。

合同会社が新設分割会社である場合の新設分割設立株式会社は、新設分割合同会社から承継した権利義務その他の新設分割に関する事項として法務省令で定める事項を記載・記録した書面または電磁的記録を作成し、成立日から6ヶ月間本店に備え置かなければならない(第2項、第3項)。

株式移転設立完全親会社は、株式移転によって取得した株式移転完全子会社の株式数など法令で決められた事項を記載した書面または電磁的記録(第811条第1項第2号)を、成立日から6ヶ月間本店に備え置かなければならない(第3項)。

新設合併設立株式会社の株主と債権者は、営業時間内であればいつでも、これらの書面または電磁的記録の閲覧・謄写の請求をすることができる(第4項、第5項、第6項)。
第2目 持分会社の手続

第816条 【持分会社の設立の特則】

 @ 第五百七十五条及び第五百七十八条の規定は、新設合併設立持分会社又は新設分割設立持分会社(次項において「設立持分会社」という。)の設立については、適用しない。

 A 設立持分会社の定款は、消滅会社等が作成する。
本条は、新設合併において持分会社を設立持分会社(新設合併設立持分会社、新設分割設立持分会社)にする場合についての規定である。

持分会社の設立については、第575条から第579条で規定されているが、設立持分会社の設立については、社員になろうとする者の定款作成義務について規定している第575条と、合同会社を設立する時の出資の履行について規定している第578条は適用されない(本条第1項)。言い換えると、第576条と第577条と第579条は適用されるということである。

設立持分会社の定款は、社員になろうとする者はいないため、消滅会社等が作成する(本条第2項)。