会社法 条文 会社法 解説
第7編 雑則

第2章 訴訟

第1節 会社の組織に関する訴え
第828条 【会社の組織に関する行為の無効の訴え】

 @ 次の各号に掲げる行為の無効は、当該各号に定める期間に、訴えをもってのみ主張することができる。

 1 会社の設立 会社の成立の日から二年以内

 2 株式会社の成立後における株式の発行 株式の発行の効力が生じた日から六箇月以内(公開会社でない株式会社にあっては、株式の発行の効力が生じた日から一年以内)

 3 自己株式の処分 自己株式の処分の効力が生じた日から六箇月以内(公開会社でない株式会社にあっては、自己株式の処分の効力が生じた日から一年以内)

 4 新株予約権(当該新株予約権が新株予約権付社債に付されたものである場合にあっては、当該新株予約権付社債についての社債を含む。以下この章において同じ。)の発行 新株予約権の発行の効力が生じた日から六箇月以内(公開会社でない株式会社にあっては、新株予約権の発行の効力が生じた日から一年以内)

 5 株式会社における資本金の額の減少 資本金の額の減少の効力が生じた日から六箇月以内

 6 会社の組織変更 組織変更の効力が生じた日から六箇月以内

 7  会社の吸収合併 吸収合併の効力が生じた日から六箇月以内

 8 会社の新設合併 新設合併の効力が生じた日から六箇月以内

 9 会社の吸収分割 吸収分割の効力が生じた日から六箇月以内

 10 会社の新設分割 新設分割の効力が生じた日から六箇月以内

 11 株式会社の株式交換 株式交換の効力が生じた日から六箇月以内

 12 株式会社の株式移転 株式移転の効力が生じた日から六箇月以内

 A 次の各号に掲げる行為の無効の訴えは、当該各号に定める者に限り、提起することができる。

 1 前項第一号に掲げる行為 設立する株式会社の株主等(株主、取締役又は清算人(監査役設置会社にあっては株主、取締役、監査役又は清算人、委員会設置会社にあっては株主、取締役、執行役又は清算人)をいう。以下この節において同じ。)又は設立する持分会社の社員等(社員又は清算人をいう。以下この項において同じ。)

 2 前項第二号に掲げる行為 当該株式会社の株主等

 3 前項第三号に掲げる行為 当該株式会社の株主等

 4 前項第四号に掲げる行為 当該株式会社の株主等又は新株予約権者

 5 前項第五号に掲げる行為 当該株式会社の株主等、破産管財人又は資本金の額の減少について承認をしなかった債権者

 6 前項第六号に掲げる行為 当該行為の効力が生じた日において組織変更をする会社の株主等若しくは社員等であった者又は組織変更後の会社の株主等、社員等、破産管財人若しくは組織変更について承認をしなかった債権者

 7 前項第七号に掲げる行為 当該行為の効力が生じた日において吸収合併をする会社の株主等若しくは社員等であった者又は吸収合併後存続する会社の株主等、社員等、破産管財人若しくは吸収合併について承認をしなかった債権者

 8 前項第八号に掲げる行為 当該行為の効力が生じた日において新設合併をする会社の株主等若しくは社員等であった者又は新設合併により設立する会社の株主等、社員等、破産管財人若しくは新設合併について承認をしなかった債権者

 9 前項第九号に掲げる行為 当該行為の効力が生じた日において吸収分割契約をした会社の株主等若しくは社員等であった者又は吸収分割契約をした会社の株主等、社員等、破産管財人若しくは吸収分割について承認をしなかった債権者

 10 前項第十号に掲げる行為 当該行為の効力が生じた日において新設分割をする会社の株主等若しくは社員等であった者又は新設分割をする会社若しくは新設分割により設立する会社の株主等、社員等、破産管財人若しくは新設分割について承認をしなかった債権者

 11 前項第十一号に掲げる行為 当該行為の効力が生じた日において株式交換契約をした会社の株主等若しくは社員等であった者又は株式交換契約をした会社の株主等、社員等、破産管財人若しくは株式交換について承認をしなかった債権者

 12 前項第十二号に掲げる行為 当該行為の効力が生じた日において株式移転をする株式会社の株主等であった者又は株式移転により設立する株式会社の株主等
本来、法律上の行為が無効であるという場合、誰でも、いつでも、無効であるということを主張できるはずである。しかし、会社の場合、株主・社員・債権者など、利害関係人が多数存在するため、誰でも、いつでも、会社の法律上の行為が無効であると主張できると、頻繁に利害が衝突してしまう可能性がある。

そのため、会社法では、会社の法律上の行為については、無効になった場合の影響力の大きさに準じて、無効であると主張できる資格や期間や方法が規定されている。

本条は、会社組織に関する法律行為(会社の設立、減資、合併、吸収など)の無効を主張する場合について規定されている。本条第2項に規定されている者だけが、本条第1項で規定されている期間内に、裁判所に対して訴える方法でだけ、無効を主張することができる。

例えば、会社の吸収合併が行われた場合において、それが無効だと考える場合、本条第2項第7号に規定されている者だけが、本条第1項第7号の期間内に、裁判所に無効を訴えることができる。そして、裁判所が無効だと判断した場合は、無効となる。逆に言えば、本条第2項第7号以外の者の多くが問題がある合併だと思っても、法律上は有効であるということである。
第829条 【新株発行等の不存在の確認の訴え】

 次に掲げる行為については、当該行為が存在しないことの確認を、訴えをもって請求することができる。

 1 株式会社の成立後における株式の発行

 2 自己株式の処分

 3 新株予約権の発行
本条は、不存在の確認の訴えについての規定である。本条が規定するような行為は、第828条の無効の訴えの対象にもなっているが、両者では違いもある。

・第828条の無効の訴え:一応ある行為が存在しているという外形は整っている場合
・第829条の不存在の確認の訴え:外形すら整っていない場合

新株予約権の場合で例えると、新株予約権の発行に必要な募集事項が株主総会で決議された(外形)が、株主総会の招集手続きに重大な問題があったというような場合は、無効の訴えとなる。一方、決議がされたという外形すらない場合は、本条の不存在の確認の訴えとなる。
第830条 【株主総会等の決議の不存在又は無効の確認の訴え】

 @ 株主総会若しくは種類株主総会又は創立総会若しくは種類創立総会(以下この節及び第九百三十七条第一項第一号トにおいて「株主総会等」という。)の決議については、決議が存在しないことの確認を、訴えをもって請求することができる。

 A 株主総会等の決議については、決議の内容が法令に違反することを理由として、決議が無効であることの確認を、訴えをもって請求することができる。
本条と第831条は、株主総会等の決議に法律的な問題がある場合についての規定である。

会社法では、株主総会等の決議について問題があった場合、その程度に応じて、3つの主張方法が決められている(本条ではそのうち2つについて規定している)。

主張方法 第830条
不存在確認の訴え 第1項 実際、株主総会が開かれていない、代表取締役が、総会議事録を作成したような場合。一番問題が大きい場合である。
無効確認の訴え 第2項 株主総会での決議内容が法令に違反していたような場合。二番目に問題が大きい場合である。
第831条 【株主総会等の決議の取消しの訴え】

 @ 次の各号に掲げる場合には、株主等(当該各号の株主総会等が創立総会又は種類創立総会である場合にあっては、株主等、設立時株主、設立時取締役又は設立時監査役)は、株主総会等の決議の日から三箇月以内に、訴えをもって当該決議の取消しを請求することができる。当該決議の取消しにより取締役、監査役又は清算人(当該決議が株主総会又は種類株主総会の決議である場合にあっては第三百四十六条第一項(第四百七十九条第四項において準用する場合を含む。)の規定により取締役、監査役又は清算人としての権利義務を有する者を含み、当該決議が創立総会又は種類創立総会の決議である場合にあっては設立時取締役又は設立時監査役を含む。)となる者も、同様とする。

 1 株主総会等の招集の手続又は決議の方法が法令若しくは定款に違反し、又は著しく不公正なとき。

 2 株主総会等の決議の内容が定款に違反するとき。

 3 株主総会等の決議について特別の利害関係を有する者が議決権を行使したことによって、著しく不当な決議がされたとき。

 A 前項の訴えの提起があった場合において、株主総会等の招集の手続又は決議の方法が法令又は定款に違反するときであっても、裁判所は、その違反する事実が重大でなく、かつ、決議に影響を及ぼさないものであると認めるときは、同項の規定による請求を棄却することができる。
本条と第831条は、株主総会等の決議に法律的な問題がある場合についての規定である。

会社法では、株主総会等の決議について問題があった場合、その程度に応じて、3つの主張方法が決められている(本条ではそのうちの3番目に程度が軽い場合についての規定である)。

本条第1項各号は、招集手続きや決議方法に問題があった場合などについての規定である。以下を参照。

・第1号:招集手続きや決議方法に問題がある場合
・第2号:株主総会等の決議内容が法令ではなく定款に違反している場合(法令に違反していた場合は、第830条第2項を参照)
・第3号:特別の利害関係を有する者が議決権を行使したことによって、著しく不当な決議がされたとき

これらの場合、その決議の取り消しの訴えという形で、問題があったことを主張していくことになる。


ただし、これらの問題があった場合でも、決議自体に与える影響が非常に小さいため、裁判所が決議を取り消す必要がないと認めるときは、裁判所は請求を棄却することができる。例えば、一部の株主に招集通知がなされなかった場合、問題があると言えるが、それが決議自体には影響を及ぼさなかったと考えられる場合は、裁判所は決議の取り消しの訴えの請求を棄却することができる。
第832条 【持分会社の設立の取消しの訴え】

 次の各号に掲げる場合には、当該各号に定める者は、持分会社の成立の日から二年以内に、訴えをもって持分会社の設立の取消しを請求することができる。

 1 社員が民法その他の法律の規定により設立に係る意思表示を取り消すことができるとき 当該社員

 2 社員がその債権者を害することを知って持分会社を設立したとき 当該債権者
本条は、持分会社の設立に問題がある場合についての規定である。

株式会社の設立に問題がある場合は、第828条第1項第1号が規定する無効の訴えでしか主張できないとされている。株式会社は比較的規模が大きい場合が多いため、設立についてはできるだけ有効なものとして取り扱ったほうがよいと考えられているためである。

一方、持分会社の設立に問題がある場合は、本条各号で規定されている場合に、取り消しの訴えという形で主張することができる。持分会社は株式会社と比較して規模が小さい場合が多いため、設立を取り消しとしても、影響は少なくてすむと考えられているためである。

本条第1号は、社員が詐欺(民法第96条)によりだまされて出資してしまったような場合のことである。本条第2号は、社員が出資してしまうと債権者に返すお金がなくなってしまうことがわかっていてわざと出資したような場合のことである。
第833条 【会社の解散の訴え】

 @ 次に掲げる場合において、やむを得ない事由があるときは、総株主(株主総会において決議をすることができる事項の全部につき議決権を行使することができない株主を除く。)の議決権の十分の一(これを下回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)以上の議決権を有する株主又は発行済株式(自己株式を除く。)の十分の一(これを下回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)以上の数の株式を有する株主は、訴えをもって株式会社の解散を請求することができる。

 1 株式会社が業務の執行において著しく困難な状況に至り、当該株式会社に回復することができない損害が生じ、又は生ずるおそれがあるとき。

 2 株式会社の財産の管理又は処分が著しく失当で、当該株式会社の存立を危うくするとき。

 A やむを得ない事由がある場合には、持分会社の社員は、訴えをもって持分会社の解散を請求することができる。
本条は、会社の解散の訴えについての規定である。一定の場合には、会社の解散の訴えを請求することで、会社を解散させることができる。

株式会社の場合は、一定数以上の株式を保有している株主に限り、本条第1項第1号または第2号と、やむを得ない事由の二点があれば、会社の解散の訴えを請求することができる。

持分会社の場合は、やむを得ない事由があれば、持分会社の社員は会社の解散の訴えを請求することができる。


このように、株式会社の場合のほうがハードルが高くなっている。
第834条 【被告】

 次の各号に掲げる訴え(以下この節において「会社の組織に関する訴え」と総称する。)については、当該各号に定める者を被告とする。

 1 会社の設立の無効の訴え 設立する会社

 2 株式会社の成立後における株式の発行の無効の訴え(第八百四十条第一項において「新株発行の無効の訴え」という。) 株式の発行をした株式会社

 3 自己株式の処分の無効の訴え 自己株式の処分をした株式会社

 4 新株予約権の発行の無効の訴え 新株予約権の発行をした株式会社

 5 株式会社における資本金の額の減少の無効の訴え 当該株式会社

 6 会社の組織変更の無効の訴え 組織変更後の会社

 7 会社の吸収合併の無効の訴え 吸収合併後存続する会社

 8 会社の新設合併の無効の訴え 新設合併により設立する会社

 9 会社の吸収分割の無効の訴え 吸収分割契約をした会社

 10 会社の新設分割の無効の訴え 新設分割をする会社及び新設分割により設立する会社

 11 株式会社の株式交換の無効の訴え 株式交換契約をした会社

 12 株式会社の株式移転の無効の訴え 株式移転をする株式会社及び株式移転により設立する株式会社

 13 株式会社の成立後における株式の発行が存在しないことの確認の訴え 株式の発行をした株式会社

 14 自己株式の処分が存在しないことの確認の訴え 自己株式の処分をした株式会社

 15 新株予約権の発行が存在しないことの確認の訴え 新株予約権の発行をした株式会社

 16 株主総会等の決議が存在しないこと又は株主総会等の決議の内容が法令に違反することを理由として当該決議が無効であることの確認の訴え 当該株式会社

 17 株主総会等の決議の取消しの訴え 当該株式会社

 18 第八百三十二条第一号の規定による持分会社の設立の取消しの訴え 当該持分会社

 19 第八百三十二条第二号の規定による持分会社の設立の取消しの訴え 当該持分会社及び同号の社員

 20 株式会社の解散の訴え 当該株式会社

 21 持分会社の解散の訴え 当該持分会社
本条は、第828条から第833条までの規定による訴えの被告について規定している。

被告になるのは、不存在確認の訴え、無効確認の訴え、取り消しの訴えなどの対象となる行為をした会社とされている。会社組織を被告とすることで、利害関係人の意見を広く反映するためである。ただし、実際の訴訟は、会社の代表取締役や業務執行社員や会社の代理となる弁護士などが進めることとなる。
第835条 【訴えの管轄及び移送】

 @ 会社の組織に関する訴えは、被告となる会社の本店の所在地を管轄する地方裁判所の管轄に専属する。

 A 前条第九号から第十二号までの規定により二以上の地方裁判所が管轄権を有するときは、当該各号に掲げる訴えは、先に訴えの提起があった地方裁判所が管轄する。

 B 前項の場合には、裁判所は、当該訴えに係る訴訟がその管轄に属する場合においても、著しい損害又は遅滞を避けるため必要があると認めるときは、申立てにより又は職権で、訴訟を他の管轄裁判所に移送することができる。
本条は、第828条から第833条までに規定されている会社組織に関する訴えの管轄(日本の裁判所の中で、どこの裁判所が訴訟を行うかの基準)についての規定である。

会社の組織に関する訴えについては、被告となる会社(第834条)の本店所在地にある地方裁判所の管轄に専属する(第1項)。専属するとは、原告と被告が合意して勝手に訴訟をする裁判所を変えることはできないという意味である。

分割・株式交換・株式移転などでは必ず二つ以上の会社が存在することになるため、第834条第9号から第12号の規定によっても、二つ以上の会社が被告になる場合があり得る。この場合、原則的に、先に訴えが起こされた地方裁判所で訴訟が行われることになる(第2項)。
第836条 【担保提供命令】

 @ 会社の組織に関する訴えであって、株主又は設立時株主が提起することができるものについては、裁判所は、被告の申立てにより、当該会社の組織に関する訴えを提起した株主又は設立時株主に対し、相当の担保を立てるべきことを命ずることができる。ただし、当該株主が取締役、監査役、執行役若しくは清算人であるとき、又は当該設立時株主が設立時取締役若しくは設立時監査役であるときは、この限りでない。

 A 前項の規定は、会社の組織に関する訴えであって、債権者が提起することができるものについて準用する。

 B 被告は、第一項(前項において準用する場合を含む。)の申立てをするには、原告の訴えの提起が悪意によるものであることを疎明しなければならない。
会社の組織に関する訴えは、会社の設立や経営に大きな問題がある場合に、株主や債権者などを救済するための制度である。しかし、訴えを起こされた会社はこれにより、費用がかかったり、信用を損なう可能性がある。

本条では、訴えの被告となる会社(第834条)から、原告である株主や債権者などが悪意(訴えの請求が認められる理由が存在しないことをわかっていること)でその訴えを起こしたことが疎明(訴訟法上、当事者が確からしいという推測を裁判官に生じさせること。または、これに基づいて裁判官が一応の推測を得た状態)された場合には、裁判所は原告に対して相当の担保を提供するように命じることができる。

この場合、原告が担保を提供しないときは、訴えは却下されることになる。
第837条 【弁論等の必要的併合】

 同一の請求を目的とする会社の組織に関する訴えに係る訴訟が数個同時に係属するときは、その弁論及び裁判は、併合してしなければならない。
株主や債権者は多数いるのが通常である。そのため、同時に同じ訴えが別々に起こされる場合がある。

この場合、同じ訴えを別々に審理し、裁判をすると、一方は認められ、もう一方は認められないという結果が出て、混乱が生じる場合がある。

このようなことがないように、同じ訴えが同時になされた場合は、まとめて裁判しなければならない。
第838条 【認容判決の効力が及ぶ者の範囲】

 会社の組織に関する訴えに係る請求を認容する確定判決は、第三者に対してもその効力を有する。
本条から第845条までは、会社の組織に関する訴えに対して、原告(株主や債権者)の無効の訴えが認められ、被告(会社)が敗訴した場合においての効力についての規定である。

民事訴訟法上においては、原則的に、判決の効力は原告と被告との間でだけ発生するとされている(民事訴訟法第115条第1号)。

しかし、会社の組織に関する訴えの場合、民事訴訟法の原則通りに従うと、ある株主と会社との間でだけはその会社が設立されなかったことになるが、他の株主と会社との間ではその会社は設立されていることとなり、大きな混乱が生じることになる。

このようなことにならないように、本条において、会社の組織に関する訴えに対する認容判決は、全ての人に対して効力が生じると規定している。
第839条 【無効又は取消しの判決の効力】

 会社の組織に関する訴え(第八百三十四条第一号から第十二号まで、第十八号及び第十九号に掲げる訴えに限る。)に係る請求を認容する判決が確定したときは、当該判決において無効とされ、又は取り消された行為(当該行為によって会社が設立された場合にあっては当該設立を含み、当該行為に際して株式又は新株予約権が交付された場合にあっては当該株式又は新株予約権を含む。)は、将来に向かってその効力を失う。
本条は、会社の組織に関する訴えに対して、それを認容する判決が出た場合(つまり、無効判決)、会社の行為がいつから無効または取り消しになるのかを規定している。

民法においては、無効な行為はその行為がなされた時から無効、取り消された行為も最初にさかのぼり無効なものとして扱うとされている(民法第119条、第121条)。
第4節 無効及び取消し 第119条〜第126条

しかし、会社の組織に関する行為は、最初から無効として扱うと、その会社がそれまでしてきた取引なども無効となり、様々な問題が生じることになる。

そのため、本条において、会社の組織に関する行為について、無効や取り消しの認容判決の効力は、将来に向かってだけ生じるとしている(最初から無効になるのではなく、判決が確定した時から無効なものとして扱うということである)。

ただし、第834条第13号から第17号と第20号から第21号については、本条は適用されない。そのため、民法の原則通り、最初から無効なものとして取り扱われる。
第840条 【新株発行の無効判決の効力】

 @ 新株発行の無効の訴えに係る請求を認容する判決が確定したときは、当該株式会社は、当該判決の確定時における当該株式に係る株主に対し、払込みを受けた金額又は給付を受けた財産の給付の時における価額に相当する金銭を支払わなければならない。この場合において、当該株式会社が株券発行会社であるときは、当該株式会社は、当該株主に対し、当該金銭の支払をするのと引換えに、当該株式に係る旧株券(前条の規定により効力を失った株式に係る株券をいう。以下この節において同じ。)を返還することを請求することができる。

 A 前項の金銭の金額が同項の判決が確定した時における会社財産の状況に照らして著しく不相当であるときは、裁判所は、同項前段の株式会社又は株主の申立てにより、当該金額の増減を命ずることができる。

 B 前項の申立ては、同項の判決が確定した日から六箇月以内にしなければならない。

 C 第一項前段に規定する場合には、同項前段の株式を目的とする質権は、同項の金銭について存在する。

 D 第一項前段に規定する場合には、前項の質権の登録株式質権者は、第一項前段の株式会社から同項の金銭を受領し、他の債権者に先立って自己の債権の弁済に充てることができる。

 E 前項の債権の弁済期が到来していないときは、同項の登録株式質権者は、第一項前段の株式会社に同項の金銭に相当する金額を供託させることができる。この場合において、質権は、その供託金について存在する。
本条は、新株発行の無効判決が確定した場合において、会社がとらなければならない手続きについての規定である。

新株発行の無効判決が確定した場合、その新株発行はその時から、無効となる(第839条)。そのため、会社は新株発行により調達したお金を返さなければならなくなる。返さなければならない金額は、原則として、新株の払込価額をそのまま返すこととなる。しかし、払込価額をそのまま返したのでは、無効判決が確定した時の会社の財産状況から適当ではないと考えられるときは、裁判所に申し立てることにより、裁判所の判断で金額を増減することができる。また、お金を返すときには、それと引き換えに株券を会社に返してもらうよう請求することができる。
第841条 【自己株式の処分の無効判決の効力】

 @ 自己株式の処分の無効の訴えに係る請求を認容する判決が確定したときは、当該株式会社は、当該判決の確定時における当該自己株式に係る株主に対し、払込みを受けた金額又は給付を受けた財産の給付の時における価額に相当する金銭を支払わなければならない。この場合において、当該株式会社が株券発行会社であるときは、当該株式会社は、当該株主に対し、当該金銭の支払をするのと引換えに、当該自己株式に係る旧株券を返還することを請求することができる。

 A 前条第二項から第六項までの規定は、前項の場合について準用する。この場合において、同条第四項中「株式」とあるのは、「自己株式」と読み替えるものとする。
自己株式の処分が無効であるという判決が確定した場合、その株式会社は、処分する際に会社が受け取ったお金を返さなければならない。この場合、返さなければならない金額や返し方は、第840条に規定されている新株発行の無効判決が確定した場合とほぼ同じ手続きをとることになる。
第842条 【新株予約権発行の無効判決の効力】

 @ 新株予約権の発行の無効の訴えに係る請求を認容する判決が確定したときは、当該株式会社は、当該判決の確定時における当該新株予約権に係る新株予約権者に対し、払込みを受けた金額又は給付を受けた財産の給付の時における価額に相当する金銭を支払わなければならない。この場合において、当該新株予約権に係る新株予約権証券(当該新株予約権が新株予約権付社債に付されたものである場合にあっては、当該新株予約権付社債に係る新株予約権付社債券。以下この項において同じ。)を発行しているときは、当該株式会社は、当該新株予約権者に対し、当該金銭の支払をするのと引換えに、第八百三十九条の規定により効力を失った新株予約権に係る新株予約権証券を返還することを請求することができる。

 A 第八百四十条第二項から第六項までの規定は、前項の場合について準用する。この場合において、同条第二項中「株主」とあるのは「新株予約権者」と、同条第四項中「株式」とあるのは「新株予約権」と、同条第五項及び第六項中「登録株式質権者」とあるのは「登録新株予約権質権者」と読み替えるものとする。
新株予約権の発行が無効であるという判決が確定した場合、会社は新株予約権者に対して、受け取ったお金を返さなければならない。本条は、そのときの金額や返し方について規定している。

原則として、返さなければならない金額は払い込まれた金額となる。また、新株予約権証券を発行していた場合は、その証券と引き換えに金銭を返すことが認められている。

これらの手続きについては、ほとんど新株発行について無効の判決が出た場合(第840条)と同じである。
第843条 【合併又は会社分割の無効判決の効力】

 @ 次の各号に掲げる行為の無効の訴えに係る請求を認容する判決が確定したときは、当該行為をした会社は、当該行為の効力が生じた日後に当該各号に定める会社が負担した債務について、連帯して弁済する責任を負う。

 1 会社の吸収合併 吸収合併後存続する会社

 2 会社の新設合併 新設合併により設立する会社

 3 会社の吸収分割 吸収分割をする会社がその事業に関して有する権利義務の全部又は一部を当該会社から承継する会社

 4 会社の新設分割 新設分割により設立する会社

 A 前項に規定する場合には、同項各号に掲げる行為の効力が生じた日後に当該各号に定める会社が取得した財産は、当該行為をした会社の共有に属する。ただし、同項第四号に掲げる行為を一の会社がした場合には、同号に定める会社が取得した財産は、当該行為をした一の会社に属する。

 B 第一項及び前項本文に規定する場合には、各会社の第一項の債務の負担部分及び前項本文の財産の共有持分は、各会社の協議によって定める。

 C 各会社の第一項の債務の負担部分又は第二項本文の財産の共有持分について、前項の協議が調わないときは、裁判所は、各会社の申立てにより、第一項各号に掲げる行為の効力が生じた時における各会社の財産の額その他一切の事情を考慮して、これを定める。
会社の合併または分割が無効であるという判決が確定した場合、合併や分割は判決が確定した時から無効なものとして取り扱われる(第839条)。そのため、実際に合併または分割がなされた時から無効の判決が確定するまでの間において、会社が負担した債務などの取り扱い方が問題となるが、本条ではそれらについて規定している。

合併や分割により設立されたり、他の会社を吸収して存続していた会社などが負担していた債務は、合併や分割をした会社が連帯して弁済しなければならない(第1項)。

逆に、それらの会社が持っていた財産については、合併や分割をした会社が共有することになる(第2項)。

債務の負担割合や財産の持分については、複数の会社の間で協議して決める(第3項)。もし、協議により決まらない場合は、裁判所が決めることになる(第4項)。
第844条 【株式交換又は株式移転の無効判決の効力】

 @ 株式会社の株式交換又は株式移転の無効の訴えに係る請求を認容する判決が確定した場合において、株式交換又は株式移転をする株式会社(以下この条において「旧完全子会社」という。)の発行済株式の全部を取得する株式会社(以下この条において「旧完全親会社」という。)が当該株式交換又は株式移転に際して当該旧完全親会社の株式(以下この条において「旧完全親会社株式」という。)を交付したときは、当該旧完全親会社は、当該判決の確定時における当該旧完全親会社株式に係る株主に対し、当該株式交換又は株式移転の際に当該旧完全親会社株式の交付を受けた者が有していた旧完全子会社の株式(以下この条において「旧完全子会社株式」という。)を交付しなければならない。この場合において、旧完全親会社が株券発行会社であるときは、当該旧完全親会社は、当該株主に対し、当該旧完全子会社株式を交付するのと引換えに、当該旧完全親会社株式に係る旧株券を返還することを請求することができる。

 A 前項前段に規定する場合には、旧完全親会社株式を目的とする質権は、旧完全子会社株式について存在する。

 B 前項の質権の質権者が登録株式質権者であるときは、旧完全親会社は、第一項の判決の確定後遅滞なく、旧完全子会社に対し、当該登録株式質権者についての第百四十八条各号に掲げる事項を通知しなければならない。

 C 前項の規定による通知を受けた旧完全子会社は、その株主名簿に同項の登録株式質権者の質権の目的である株式に係る株主名簿記載事項を記載し、又は記録した場合には、直ちに、当該株主名簿に当該登録株式質権者についての第百四十八条各号に掲げる事項を記載し、又は記録しなければならない。

 D 第三項に規定する場合において、同項の旧完全子会社が株券発行会社であるときは、旧完全親会社は、登録株式質権者に対し、第二項の旧完全子会社株式に係る株券を引き渡さなければならない。ただし、第一項前段の株主が旧完全子会社株式の交付を受けるために旧完全親会社株式に係る旧株券を提出しなければならない場合において、旧株券の提出があるまでの間は、この限りでない。
本条は、株式移転または株式交換が、無効であるという判決が確定した場合についての規定である。

株式移転や株式交換を行うとき、完全親会社となる会社の株式を完全子会社となる株式の代わりに交付することがある。この場合において、株式移転や株式交換が無効であるとされた場合、旧完全親会社は、旧完全子会社から取得した株式を、元に返さなければならない(第1項)。

また、旧完全親会社の株式についての質権は、旧完全子会社の株式の質権として扱われることになる(第2項)。
第845条 【持分会社の設立の無効又は取消しの判決の効力】

 持分会社の設立の無効又は取消しの訴えに係る請求を認容する判決が確定した場合において、その無効又は取消しの原因が一部の社員のみにあるときは、他の社員の全員の同意によって、当該持分会社を継続することができる。この場合においては、当該原因がある社員は、退社したものとみなす。
持分会社の設立に問題がある場合、取り消しの訴えが認められており、株式会社の場合より広く訴えることができる(第832条)。

設立に問題があったとしても、その問題が一部の社員についてだけであった場合には、他の社員全員の同意があれば持分会社を継続することができる。この場合、問題があった社員は退社したものとみなされる。
第846条 【原告が敗訴した場合の損害賠償責任】

 会社の組織に関する訴えを提起した原告が敗訴した場合において、原告に悪意又は重大な過失があったときは、原告は、被告に対し、連帯して損害を賠償する責任を負う。
会社組織に関する訴えは、会社組織が適正・適法に活動していくために必要なものであるが、濫用されてしまうと会社の世間的信用が低下してしまうおそれがある。

会社法では、原告が悪意(問題がないのを知っていながら訴えを提起したようなとき)の場合、裁判所は原告に担保提供命令を出すことができる(第836条)。また、本条において、原告が敗訴した場合で、原告に悪意または重過失(悪意と同程度の不注意)があれば、原告は会社に対する損害賠償責任を負わなければならないと規定している。

これらの規定により、嫌がらせやいい加減な訴えを防止している。