会社法 条文 会社法 解説
第7編 雑則

第2章 訴訟

第2節 株式会社における責任追及等の訴え
第847条 【責任追及等の訴え】

 @ 六箇月(これを下回る期間を定款で定めた場合にあっては、その期間)前から引き続き株式を有する株主(第百八十九条第二項の定款の定めによりその権利を行使することができない単元未満株主を除く。)は、株式会社に対し、書面その他の法務省令で定める方法により、発起人、設立時取締役、設立時監査役、役員等(第四百二十三条第一項に規定する役員等をいう。以下この条において同じ。)若しくは清算人の責任を追及する訴え、第百二十条第三項の利益の返還を求める訴え又は第二百十二条第一項若しくは第二百八十五条第一項の規定による支払を求める訴え(以下この節において「責任追及等の訴え」という。)の提起を請求することができる。ただし、責任追及等の訴えが当該株主若しくは第三者の不正な利益を図り又は当該株式会社に損害を加えることを目的とする場合は、この限りでない。

 A 公開会社でない株式会社における前項の規定の適用については、同項中「六箇月(これを下回る期間を定款で定めた場合にあっては、その期間)前から引き続き株式を有する株主」とあるのは、「株主」とする。

 B 株式会社が第一項の規定による請求の日から六十日以内に責任追及等の訴えを提起しないときは、当該請求をした株主は、株式会社のために、責任追及等の訴えを提起することができる。

 C 株式会社は、第一項の規定による請求の日から六十日以内に責任追及等の訴えを提起しない場合において、当該請求をした株主又は同項の発起人、設立時取締役、設立時監査役、役員等若しくは清算人から請求を受けたときは、当該請求をした者に対し、遅滞なく、責任追及等の訴えを提起しない理由を書面その他の法務省令で定める方法により通知しなければならない。

 D 第一項及び第三項の規定にかかわらず、同項の期間の経過により株式会社に回復することができない損害が生ずるおそれがある場合には、第一項の株主は、株式会社のために、直ちに責任追及等の訴えを提起することができる。ただし、同項ただし書に規定する場合は、この限りでない。

 E 第三項又は前項の責任追及等の訴えは、訴訟の目的の価額の算定については、財産権上の請求でない請求に係る訴えとみなす。

 F 株主が責任追及等の訴えを提起したときは、裁判所は、被告の申立てにより、当該株主に対し、相当の担保を立てるべきことを命ずることができる。

 G 被告が前項の申立てをするには、責任追及等の訴えの提起が悪意によるものであることを疎明しなければならない。
本条は、株主代表訴訟についての規定である。

会社の役員(取締役、会計参与、監査役など)には、会社経営について大きな権限が認められているが、不注意により会社に損害を与えたり、会社の利益を犠牲に自分の利益を図る行為をするといった危険がある。会社法では、役員等の不正な行為や不適切な行為により会社が損害を受けたり、役員や第三者が不正な利益を得た場合には、役員等に対して損害賠償責任を負わせたり(第423条)、第三者に不正な利益の返還義務を負わせたり(第120条第3項)する規定がある。本来、これらの責任追及については、役員等が会社を代表して行うものだが、不正をした本人に責任追及を任せることになったり、役員同士の馴れ合いにより責任追及を怠るような場合が考えられる。そこで、株主による株主代表訴訟が認められている。

責任追及の主体はあくまで会社であるため、はじめに株主が訴訟を起こすという形はとられておらず、6ヶ月以上引き続き株式を持っている株主は、会社に対して役員等に対する責任追及などの訴えを提起するように求めることができる。しかし、求めた日から60日経過しても会社が訴えを起こさないときに初めて、株主が会社に代わり責任を追及するなどの訴え(これを株主代表訴訟という)を起こすことができる。
第848条 【訴えの管轄】

 責任追及等の訴えは、株式会社の本店の所在地を管轄する地方裁判所の管轄に専属する。
役員等の責任追及等の訴え(第847条)は、株式会社の本店所在地を管轄する地方裁判所で裁判を行う。
第849条 【訴訟参加】

 @ 株主又は株式会社は、共同訴訟人として、又は当事者の一方を補助するため、責任追及等の訴えに係る訴訟に参加することができる。ただし、不当に訴訟手続を遅延させることとなるとき、又は裁判所に対し過大な事務負担を及ぼすこととなるときは、この限りでない。

 A 株式会社が、取締役(監査委員を除く。)、執行役及び清算人並びにこれらの者であった者を補助するため、責任追及等の訴えに係る訴訟に参加するには、次の各号に掲げる株式会社の区分に応じ、当該各号に定める者の同意を得なければならない。

 1 監査役設置会社 監査役(監査役が二人以上ある場合にあっては、各監査役)

 2 委員会設置会社 各監査委員

 B 株主は、責任追及等の訴えを提起したときは、遅滞なく、株式会社に対し、訴訟告知をしなければならない。

 C 株式会社は、責任追及等の訴えを提起したとき、又は前項の訴訟告知を受けたときは、遅滞なく、その旨を公告し、又は株主に通知しなければならない。

 D 公開会社でない株式会社における前項の規定の適用については、同項中「公告し、又は株主に通知し」とあるのは、「株主に通知し」とする。
本条は、第847条の訴えが起こされた場合に、株主や株式会社がその裁判に参加できることを定めた規定である。

参加する形式は、原告になる場合と、補助する場合(原告や被告にはならずに、そのどちらかを助ける場合)の二通りがある(第1項)。

また、株主代表訴訟があった場合、株式会社が役員等を助けるために役員側につくことができる。この場合は、株式会社が不当に役員等の肩をもつことがないように、監査役または監査委員の同意が必要である(第2項)。

株主代表訴訟を起こした場合、株式会社が何らかの形でそれに参加できるよう、株主はすぐに株式会社に対して訴訟を起こしたことを告知しなければならない(第3項)。逆に、株式会社が訴えを起こした場合や第3項の告知を受けた場合は、すぐにそのことを公告するか株主に通知しなければならない(第4項)。
第850条 【和解】

 @ 民事訴訟法第二百六十七条の規定は、株式会社が責任追及等の訴えに係る訴訟における和解の当事者でない場合には、当該訴訟における訴訟の目的については、適用しない。ただし、当該株式会社の承認がある場合は、この限りでない。

 A 前項に規定する場合において、裁判所は、株式会社に対し、和解の内容を通知し、かつ、当該和解に異議があるときは二週間以内に異議を述べるべき旨を催告しなければならない。

 B 株式会社が前項の期間内に書面により異議を述べなかったときは、同項の規定による通知の内容で株主が和解をすることを承認したものとみなす。

 C 第五十五条、第百二十条第五項、第四百二十四条(第四百八十六条第四項において準用する場合を含む。)、第四百六十二条第三項(同項ただし書に規定する分配可能額を超えない部分について負う義務に係る部分に限る。)、第四百六十四条第二項及び第四百六十五条第二項の規定は、責任追及等の訴えに係る訴訟における和解をする場合には、適用しない。
訴訟で和解が成立した場合、原則的に、確定判決と同じ効力が認められる(民事訴訟法第267条)。会社が原告となり役員等の責任追及をする訴えを起こし、和解が成立した場合は、この民事訴訟法の原則が適用される。

しかし、株主が起こした訴えの場合で、和解が成立したとき、一部の株主が決めた和解で会社全体が拘束されてしまうことになり不合理である。そのため、本条により、会社がその和解を承認しない限り、民事訴訟法の原則は適用されないと規定している(第1項)。裁判所は、株主が和解をした場合は、その内容と、異議がある場合は二週間以内に申し出るよう会社に通知しなければならない(第2項)。二週間以内に会社が異議を述べない場合は、和解を承認したものとして扱うこととなる(第3項)。
第851条 【株主でなくなった者の訴訟追行】

 @ 責任追及等の訴えを提起した株主又は第八百四十九条第一項の規定により共同訴訟人として当該責任追及等の訴えに係る訴訟に参加した株主が当該訴訟の係属中に株主でなくなった場合であっても、次に掲げるときは、その者が、訴訟を追行することができる。

 1 その者が当該株式会社の株式交換又は株式移転により当該株式会社の完全親会社(特定の株式会社の発行済株式の全部を有する株式会社その他これと同等のものとして法務省令で定める株式会社をいう。以下この条において同じ。)の株式を取得したとき。

 2 その者が当該株式会社が合併により消滅する会社となる合併により、合併により設立する株式会社又は合併後存続する株式会社若しくはその完全親会社の株式を取得したとき。

 A 前項の規定は、同項第一号(この項又は次項において準用する場合を含む。)に掲げる場合において、前項の株主が同項の訴訟の係属中に当該株式会社の完全親会社の株式の株主でなくなったときについて準用する。この場合において、同項(この項又は次項において準用する場合を含む。)中「当該株式会社」とあるのは、「当該完全親会社」と読み替えるものとする。

 B 第一項の規定は、同項第二号(前項又はこの項において準用する場合を含む。)に掲げる場合において、第一項の株主が同項の訴訟の係属中に合併により設立する株式会社又は合併後存続する株式会社若しくはその完全親会社の株式の株主でなくなったときについて準用する。この場合において、同項(前項又はこの項において準用する場合を含む。)中「当該株式会社」とあるのは、「合併により設立する株式会社又は合併後存続する株式会社若しくはその完全親会社」と読み替えるものとする。
第847条や第849条の規定により、株主は自らが原告となり、株式会社の役員の責任を追及する訴えを起こすことができる。株主は会社の経営について重大な利害関係を持っているためである。

そのため、訴えを起こした株主が、その訴えの途中で株主ではなくなった場合は、原則的に、その訴えからは外れることとなる。もはや、その会社に重大な利害関係があるとは言えないためである。

しかし、本条第1項各号に規定されている場合は、自分の意思で株主ではなくなったわけではないし、その会社の株主ではなくなった後も完全親会社の株主となりその会社の経営について重大な利害関係を持っているため、例外的に、その訴えを行い続けることができる。
第852条 【費用等の請求】

 @ 責任追及等の訴えを提起した株主が勝訴(一部勝訴を含む。)した場合において、当該責任追及等の訴えに係る訴訟に関し、必要な費用(訴訟費用を除く。)を支出したとき又は弁護士若しくは弁護士法人に報酬を支払うべきときは、当該株式会社に対し、その費用の額の範囲内又はその報酬額の範囲内で相当と認められる額の支払を請求することができる。

 A 責任追及等の訴えを提起した株主が敗訴した場合であっても、悪意があったときを除き、当該株主は、当該株式会社に対し、これによって生じた損害を賠償する義務を負わない。

 B 前二項の規定は、第八百四十九条第一項の規定により同項の訴訟に参加した株主について準用する。
本条は、株主代表訴訟(第847条)、会社の起こした訴訟に株主が参加した場合(第849条)においての費用等についての規定である。

本条では、株主が費用の面で株主代表訴訟を起こすのを躊躇したりすることがないように、また、訴訟が濫用されないように配慮されている。

訴えを起こした株主が勝訴した場合、必要な費用や弁護士費用は、相当と認められる範囲内であれば、会社に支払いを請求することができる(第1項)。相当と認められる範囲を超えた部分についても訴えを起こした株主が負担するということである。

株主が敗訴した場合は、必要な費用などは株主が負担することになる。また、この場合において、会社に損害が生じる可能性も考えられるが、原則としてこの損害については株主は負担する必要はない。ただし、はじめから役員の行為に問題がないことを知っていながら訴えを起こし、敗訴した場合には、訴えを起こした株主は会社に生じた損害を賠償しなければならない(第2項)。
第853条 【再審の訴え】

 @ 責任追及等の訴えが提起された場合において、原告及び被告が共謀して責任追及等の訴えに係る訴訟の目的である株式会社の権利を害する目的をもって判決をさせたときは、株式会社又は株主は、確定した終局判決に対し、再審の訴えをもって、不服を申し立てることができる。

 A 前条の規定は、前項の再審の訴えについて準用する。
本条は、責任追及等の訴えについて、再審の訴えの規定である。

再審の訴えとは、判決確定後に、もう一度審理してくれるよう求めることである(例外的なものである)。会社法では、本条第1項に規定されている場合に、再審の訴えを起こすことができるとしている。このように、再審の訴えを起こすことができる場合は限られている。