会社法 条文 会社法 解説
第7編 雑則

第3章 非訟

第1節 総則
第868条 【非訟事件の管轄】

 @ この法律の規定による非訟事件(次項から第五項までに規定する事件を除く。)は、会社の本店の所在地を管轄する地方裁判所の管轄に属する。

 A 親会社社員(会社である親会社の株主又は社員に限る。)によるこの法律の規定により株式会社が作成し、又は備え置いた書面又は電磁的記録についての次に掲げる閲覧等(閲覧、謄写、謄本若しくは抄本の交付、事項の提供又は事項を記載した書面の交付をいう。第八百七十条第一号において同じ。)の許可の申立てに係る事件は、当該株式会社の本店の所在地を管轄する地方裁判所の管轄に属する。

 1 当該書面の閲覧若しくは謄写又はその謄本若しくは抄本の交付

 2 当該電磁的記録に記録された事項を表示したものの閲覧若しくは謄写又は電磁的方法による当該事項の提供若しくは当該事項を記載した書面の交付

 B 第七百五条第四項、第七百六条第四項、第七百七条、第七百十一条第三項、第七百十三条、第七百十四条第一項及び第三項、第七百十八条第三項、第七百三十二条、第七百四十条第一項並びに第七百四十一条第一項の規定による裁判の申立てに係る事件は、社債を発行した会社の本店の所在地を管轄する地方裁判所の管轄に属する。

 C 第八百二十二条第一項の規定による外国会社の清算に係る事件並びに第八百二十七条第一項の規定による裁判及び同条第二項において準用する第八百二十五条第一項の規定による保全処分に係る事件は、当該外国会社の日本における営業所の所在地(日本に営業所を設けていない場合にあっては、日本における代表者の住所地)を管轄する地方裁判所の管轄に属する。

 D 第八百四十三条第四項の申立てに係る事件は、同条第一項各号に掲げる行為の無効の訴えの第一審の受訴裁判所の管轄に属する。
非訟事件とは、裁判所で取り扱う事件ではあるが、通常の民事訴訟とは取り扱いが異なる事件のことである。具体的には、裁判所が職権で証拠調べをすること、審理は公開されないこと、手続きが簡潔である、といった点で通常の民事訴訟とは異なるものとなっている。非訟事件は、非訟事件手続法において詳しい手続きなどの規定がある。

会社法の規定に基づく非訟事件は、原則的に、会社の本店所在地を管轄する地方裁判所で裁判を行う(第1項)。
第869条 【疎明】

 この法律の規定による許可の申立てをする場合には、その原因となる事実を疎明しなければならない。
会社法の規定による許可の申し立てをする場合、その理由を疎明(裁判官に一応確からしいと思わせること)しなければならない。
第870条 【陳述の聴取】

 裁判所は、この法律の規定(第二編第九章第二節を除く。)による非訟事件についての裁判のうち、次の各号に掲げる裁判をする場合には、当該各号に定める者(第四号及び第六号にあっては、申立人を除く。)の陳述を聴かなければならない。

 1 この法律の規定により株式会社が作成し、又は備え置いた書面又は電磁的記録についての閲覧等の許可の申立てについての裁判 当該株式会社

 2 第三百四十六条第二項、第三百五十一条第二項若しくは第四百一条第三項(第四百三条第三項及び第四百二十条第三項において準用する場合を含む。)の規定により選任された一時取締役、会計参与、監査役、代表取締役、委員、執行役若しくは代表執行役の職務を行うべき者、清算人、第四百七十九条第四項において準用する第三百四十六条第二項若しくは第四百八十三条第六項において準用する第三百五十一条第二項の規定により選任された一時清算人若しくは代表清算人の職務を行うべき者、検査役又は第八百二十五条第二項(第八百二十七条第二項において準用する場合を含む。)の管理人の報酬の額の決定 当該会社及び報酬を受ける者

 3 清算人又は社債管理者の解任についての裁判 当該清算人又は社債管理者

 4 第百十七条第二項、第百十九条第二項、第百七十二条第一項、第百九十三条第二項(第百九十四条第四項において準用する場合を含む。)、第四百七十条第二項、第七百七十八条第二項、第七百八十六条第二項、第七百八十八条第二項、第七百九十八条第二項、第八百七条第二項又は第八百九条第二項の規定による株式又は新株予約権(当該新株予約権が新株予約権付社債に付されたものである場合において、当該新株予約権付社債についての社債の買取りの請求があったときは、当該社債を含む。)の価格の決定 価格の決定の申立てをすることができる者

 5 第三十三条第七項の規定による裁判 設立時取締役、第二十八条第一号の金銭以外の財産を出資する者及び同条第二号の譲渡人

 6 第百四十四条第二項(同条第七項において準用する場合を含む。)又は第百七十七条第二項の規定による株式の売買価格の決定 売買価格の決定の申立てをすることができる者(第百四十条第四項に規定する指定買取人がある場合にあっては、当該指定買取人を含む。)

 7 第二百七条第七項又は第二百八十四条第七項の規定による裁判 当該株式会社及び第百九十九条第一項第三号又は第二百三十六条第一項第三号の規定により金銭以外の財産を出資する者

 8 第四百五十五条第二項第二号又は第五百五条第三項第二号の規定による裁判 当該株主

 9 第四百五十六条又は第五百六条の規定による裁判 当該株主

 10 第七百三十二条の規定による裁判 利害関係人

 11 第七百四十条第一項の規定による申立てを認容する裁判 社債を発行した会社

 12 第七百四十一条第一項の許可の申立てについての裁判 社債を発行した会社

 13 第八百二十四条第一項の規定による裁判 当該会社

 14 第八百二十七条第一項の規定による裁判 当該外国会社

 15 第八百四十三条第四項の申立てについての裁判 同項に規定する行為をした会社
会社法の規定に基づく非訟事件については、本条各号の規定に従い、一定の利害関係人の陳述をきかなければ裁判をすることができない。非訟事件について、利害関係を持つ人や会社に、意見や弁解を述べる機会を与えるためである。
第871条 【理由の付記】

 この法律の規定による非訟事件についての裁判には、理由を付さなければならない。ただし、次に掲げる裁判については、この限りでない。

 1 前条第二号に掲げる裁判

 2 第八百七十四条各号に掲げる裁判
普通の非訟事件の裁判であれば、理由を明らかにする必要はない。しかし、会社法の規定に基づく非訟事件の場合、原則として、裁判所は判断理由などを明らかにしなければならない。

ただし、以下については、理由を明らかにする必要はない。
・第870条第2号(一時取締役や会計参与などの報酬額の決定)
・第874条各号(不服がある場合でも、上訴できない場合)
第872条 【即時抗告】

 次の各号に掲げる裁判に対しては、当該各号に定める者は、即時抗告をすることができる。

 1 第六百九条第三項又は第八百二十五条第一項(第八百二十七条第二項において準用する場合を含む。)の規定による保全処分についての裁判 利害関係人

 2 第八百四十条第二項(第八百四十一条第二項において準用する場合を含む。)の規定による申立てについての裁判 申立人、株主及び株式会社

 3 第八百四十二条第二項において準用する第八百四十条第二項の規定による申立てについての裁判 申立人、新株予約権者及び株式会社

 4 第八百七十条各号に掲げる裁判 申立人及び当該各号に定める者(同条第二号、第五号及び第七号に掲げる裁判にあっては、当該各号に定める者)
会社法の規定にもとづく非訟事件のうち本条各号に規定されている裁判については、上級審に不服を申し立てることができる(本条)。

即時抗告とは、決定が出された日から1週間以内に申し立てる必要があるが、即時抗告がなされた日から一時的に決定の効力が停止されるというものである。
第873条 【原裁判の執行停止】

 前条の即時抗告は、執行停止の効力を有する。ただし、次に掲げる裁判に対するものについては、この限りでない。

 1 第八百七十条第二号に掲げる裁判

 2 第八百七十条第三号に掲げる裁判

 3 第八百七十条第五号及び第七号に掲げる裁判

 4 第八百七十条第十一号に掲げる裁判
第872条に規定されている裁判に対しては、即時抗告を行うことができる。そして、この即時抗告には、以下の場合を除いて裁判の決定の執行を停止する効力が認められている。

・第870条第2号
・第870条第3号
・第870条第5号
・第870条第7号
・第870条第11号
第874条 【不服申立ての制限】

 次に掲げる裁判に対しては、不服を申し立てることができない。

 1 第八百七十条第二号に規定する一時取締役、会計参与、監査役、代表取締役、委員、執行役若しくは代表執行役の職務を行うべき者、清算人、代表清算人、清算持分会社を代表する清算人、同号に規定する一時清算人若しくは代表清算人の職務を行うべき者、検査役、第五百一条第一項(第八百二十二条第三項において準用する場合を含む。)若しくは第六百六十二条第一項の鑑定人、第五百八条第二項(第八百二十二条第三項において準用する場合を含む。)若しくは第六百七十二条第三項の帳簿資料の保存をする者、社債管理者の特別代理人又は第七百十四条第三項の事務を承継する社債管理者の選任又は選定の裁判

 2 第八百二十五条第二項(第八百二十七条第二項において準用する場合を含む。)の管理人の選任又は解任についての裁判

 3 第八百二十五条第六項(第八百二十七条第二項において準用する場合を含む。)の規定による裁判

 4 この法律の規定による許可の申立てを認容する裁判(第八百七十条第一号及び第十二号に掲げる裁判を除く。)
非訟事件に対する裁判については、抗告または即時抗告という形で不服を申し立てることができる。抗告または即時抗告に対する裁判についても不服がある場合は、再抗告をすることができる。

しかし、本条各号に規定されている事項については、不服を申し立てることができない。本条各号については、法律関係を早く安定させるほうが良いと考えられているためである。
第875条 【非訟事件手続法の規定の適用除外】

 この法律の規定による非訟事件については、非訟事件手続法第十五条の規定は、適用しない。
非訟事件手続法第15条では、公益の代弁者としての検察官に意見を述べる権利などが認められている。しかし、会社法の規定に基づく非訟事件については、この規定は適用されない。
第876条 【最高裁判所規則】

 この法律に定めるもののほか、この法律の規定による非訟事件の手続に関し必要な事項は、最高裁判所規則で定める。
会社法の規定による非訟事件の手続きについては、会社法第868条から第906条までの規定以外にも、最高裁判所の規則でも定めることとしている。