憲法 条文 憲法 解説
第10章 最高法規(Chapter 10:)
第97条

 この憲法が日本国民に保障する基本的人権は、人類の多年にわたる自由獲得の努力の成果であつて、これらの権利は、過去幾多の試錬に堪へ、現在及び将来の国民に対し、侵すことのできない永久の権利として信託されたものである。
本条は、基本的人権が権力政治の下で数多くの試練を経て歴史的に確立されたということを、簡明に述べている。基本的人権は、日本国憲法の核心部分であり、憲法の実質的な最高法規の内容であることを述べている。

最高法規については、憲法優位説と条約優位説がある。順序は、以下である。
憲法優位説 条約優位説
憲法 条約
条約 憲法
法律 法律
命令 命令
規則 規則


本条については、第11条の「国民は、すべての基本的人権の享有を妨げられない。この憲法が国民に保障する基本的人権は、侵すことのできない永久の権利として、現在及び将来の国民に与へられる。」という部分と重複しているという指摘がある。
Article 97

 The fundamental human rights by this Constitution guaranteed to the people of Japan are fruits of the age-old struggle of man to be free; they have survived the many exacting tests for durability and are conferred upon this and future generations in trust, to be held for all time inviolate.
第98条

 @ この憲法は、国の最高法規であつて、その条規に反する法律、命令、詔勅及び国務に関するその他の行為の全部又は一部は、その効力を有しない。

 A 日本国が締結した条約及び確立された国際法規は、これを誠実に遵守することを必要とする。
憲法は、日本の法律の中で最高に地位にある。憲法に反する、法律・命令・詔勅・国務に関するその他の行為は、効力を有しない。

名前 説明
法律 国会の議決により成立する成文法のことである。
命令 内閣が発する政令、各省大臣が発する省令などがある。
詔勅 天皇の発する公文書であり、以下の種類がある。

・勅書 特定の人に対するもので、一般には公示されない

・詔書 一般人を対象とし、公示される
国務に関するその他の行為 裁判所の判決、行政処分、訓令・通達などのことである。


条約とは、文書による国家相互の権利義務の創設、変更、消滅に関する国家間の合意のことであり、協約・取決め・議定書・宣言・憲章なども含まれる。そのため、「条約」だけに限らない。

条約は国際法に属し、主権国家の独立と平等の原則が基礎にある。

条約の締結は内閣の権限である(第73条第3号)。しかし、事前または事後に国会の承認が必要であり、承認には予算と同じ手続きが必要である(第60条、第61条)。

憲法と条約については、どちらのほうが優位にあるかは、意見がわかれているため、はっきりとはしていない。
Article 98

1) This Constitution shall be the supreme law of the nation and no law, ordinance, imperial rescript or other act of government, or part thereof, contrary to the provisions heeof, shall have legal force or validity.

2) The treaties concluded by Japan and established laws of nations shall be faithfully observed.
第99条

 天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ。
憲法の本質は、国民の基本的人権の擁護にあり、そのために様々な方法を講じている。その一つに、国家権力の抑制と監視制度としての権力分立がある。過去の歴史において、国家権力こそが基本的人権を侵害する元凶であったためである。

現在の憲法では、国の政治は国民の信託を基盤にし、国家機関を担当し直接・間接に憲法を運用する公務員の選定・罷免は国民固有の権利であり、公務員は全体の奉仕者とされている。しかし、本条によりさらに、天皇・摂政・国務大臣・国会議員・裁判官・その他の公務員に憲法尊重擁護義務を負わせているのは、最高法規である憲法が侵害されれば、その下に成立している他の法秩序が破壊され、国民に対する人権侵害が行われる可能性があるため、これがなされないようにとの趣旨である。

注意しなければならないのが、本条には「国民」という言葉がないということである。この点については、憲法制定時においても問題だと指摘されていたが、そもそも憲法とは国民自らが定めたものであり、それを自ら破壊するということは考えられず、また、国民にとっては憲法を尊重擁護することが利益となるため、あえて国民という言葉を入れる必要性はないといえる。また、現在の憲法の前の大日本帝国憲法の上諭には、「朕カ現在及将来ノ臣民ハ此ノ憲法ニ対シ永遠ニ従順ノ義務ヲ負フヘシ」と規定されていたが、現在の憲法は大日本帝国憲法とは本質がまったく異なるということを明示するためだとも考えられている。

結局のところ、誰もが憲法を尊重し擁護する義務があるということである。
Article 99

 The Emperor or the Regent as well as Ministers of State, members of the Diet, judges, and all other public officials have the obligation to respect and uphold this Constitution.
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