憲法 条文 憲法 解説
第3章 国民の権利及び義務(Chapter 3:)
第10条

 日本国民たる要件は、法律でこれを定める。
本条は、日本国民であるために必要な条件を、法律で定めるということを規定している(これは、法律以外の命令などで定めることを禁止するということをも含んでいる)。

日本国民とは、日本の構成員の総称であり、日本国籍を有する者のことである。この日本国民を広く解釈すると、以下になる。
名前 説明 法律
天皇 皇籍に属する 皇室典範
皇族
一般国民 一般民籍に属する 国籍法


一般国民については、国籍法に規定されている。ある個人が日本国籍を有するということは、日本の国民としてあらゆる国家権力との関係において服従関係に立つということを意味する。そのため、日本国民が世界のどの国にあっても、つねに日本の主権に服従すべき関係を有するということである。

日本の国籍法には、国籍の取得方法に以下の二種類を規定している。
名前 説明
先天的取得 日本で生まれることにより、自然的に日本国籍を取得することである。
後天的取得 外国人が日本人になる(これを帰化という)ことにより、日本国籍を取得することである。


先天的取得については、二つの考え方がある。
名前 説明
・血統主義

・属人主義
人が生まれるということは、その子供と父母の間に血縁関係が生じる
・土地主義

・属地主義
生まれた子供と出生地の間に地縁関係が生じる
※日本では、血統主義が原則である。例外的に、土地主義である。どちらか一方だけをとると、無国籍者が生じるためである。

先天的取得についての条文は、以下である。
条文 内容
国籍法第2条 子は、次の場合には、日本国民とする。

1 出生の時に父又は母が日本国民であるとき。
2 出生前に死亡した父が死亡の時に日本国民であつたとき。
3 日本で生まれた場合において、父母がともに知れないとき、又は国籍を有しないとき。
※国籍法第2条第3号が、土地主義である。


帰化には、以下の3種類がある。
名前 条文
普通帰化 国籍法第4条 @ 日本国民でない者(以下「外国人」という。)は、帰化によつて、日本の国籍を取得することができる。

A 帰化をするには、法務大臣の許可を得なければならない。
国籍法第5条 @ 法務大臣は、次の条件を備える外国人でなければ、その帰化を許可することができない。

1 引き続き五年以上日本に住所を有すること。
2 二十歳以上で本国法によつて行為能力を有すること。
3 素行が善良であること。
4 自己又は生計を一にする配偶者その他の親族の資産又は技能によつて生計を営むことができること。
5 国籍を有せず、又は日本の国籍の取得によつてその国籍を失うべきこと。
6 日本国憲法施行の日以後において、日本国憲法又はその下に成立した政府を暴力で破壊することを企て、若しくは主張し、又はこれを企て、若しくは主張する政党その他の団体を結成し、若しくはこれに加入したことがないこと。

A 法務大臣は、外国人がその意思にかかわらずその国籍を失うことができない場合において、日本国民との親族関係又は境遇につき特別の事情があると認めるときは、その者が前項第五号に掲げる条件を備えないときでも、帰化を許可することができる。
特別帰化 国籍法第6条 次の各号の一に該当する外国人で現に日本に住所を有するものについては、法務大臣は、その者が前条第一項第一号に掲げる条件を備えないときでも、帰化を許可することができる。

1 日本国民であつた者の子(養子を除く。)で引き続き三年以上日本に住所又は居所を有するもの
2 日本で生まれた者で引き続き三年以上日本に住所若しくは居所を有し、又はその父若しくは母(養父母を除く。)が日本で生まれたもの
3 引き続き十年以上日本に居所を有する者
国籍法第7条 日本国民の配偶者たる外国人で引き続き三年以上日本に住所又は居所を有し、かつ、現に日本に住所を有するものについては、法務大臣は、その者が第五条第一項第一号及び第二号の条件を備えないときでも、帰化を許可することができる。日本国民の配偶者たる外国人で婚姻の日から三年を経過し、かつ、引き続き一年以上日本に住所を有するものについても、同様とする。
国籍法第8条 次の各号の一に該当する外国人については、法務大臣は、その者が第五条第一項第一号、第二号及び第四号の条件を備えないときでも、帰化を許可することができる。

1 日本国民の子(養子を除く。)で日本に住所を有するもの
2 日本国民の養子で引き続き一年以上日本に住所を有し、かつ、縁組の時本国法により未成年であつたもの
3 日本の国籍を失つた者(日本に帰化した後日本の国籍を失つた者を除く。)で日本に住所を有するもの
4 日本で生まれ、かつ、出生の時から国籍を有しない者でその時から引き続き三年以上日本に住所を有するもの
大帰化 国籍法第9条 日本に特別の功労のある外国人については、法務大臣は、第五条第一項の規定にかかわらず、国会の承認を得て、その帰化を許可することができる。
※普通帰化、特別帰化、大帰化のいずれについても、法務大臣の許可が必要である。



なお、日本国籍の喪失については、国籍法第11条から第13条に規定されている。
Article 10

 The conditions necessary for being a Japanese national shall be determined by law.
第11条

 国民は、すべての基本的人権の享有を妨げられない。この憲法が国民に保障する基本的人権は、侵すことのできない永久の権利として、現在及び将来の国民に与へられる。
本条は、第12条・第13条・第97条とともに、基本的人権全体に及ぶ基本原則を規定したものである。基本的人権とは、人間が人間らしく、平和に幸福に生活する上で必要な、生まれながらにして当然もっていると考えられる基本的権利のことである。

本条の基本的人権には、以下の四つの性格がある。
名前 説明
普遍的 人種・性別・身分などの区別がなく、全ての人間に与えられた権利である。
固有的 基本的人権は、人間が生まれながらにして持っている権利である(憲法や国家が授けたものではないし、憲法や国家より以前に存在するものである。憲法や国家は、基本的人権を確認し保障するにすぎない。)。

また、人間は基本的人権を他人に譲り渡すことはできない。
不可侵的 行政権、立法権、司法権など、いかなる国家権力をもってしても、基本的人権を侵すことはできない。また、その他のいかなる手段をもってしても、基本的人権を侵すことはできない。
永久的 基本的人権は、現在の国民だけでなく、将来の国民にも永久の権利として認められ、将来永久に奪われるべきものでない権利である。
※基本的な精神は、個人の尊重ということである。
Article 11

 The people shall not be prevented from enjoying any of the fundamental human rights. These fundamental human rights guaranteed to the people by this Constitution shall be conferred upon the people of this and future generations as eternal and inviolate rights.
第12条

 この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力によつて、これを保持しなければならない。又、国民は、これを濫用してはならないのであつて、常に公共の福祉のためにこれを利用する責任を負ふ。
現在の憲法は、個人の尊重を重視し数多くの権利と自由を認めている。しかし、そこには義務と責任がある。本条は、それらを規定している。

国民は、憲法が保障している自由と権利について、常にこれらを保持するよう努力しなければならない。また、国民はこれらを濫用してはならないし、常に公共の福祉のためにこれらを利用しなければならない。

第97条にあるように、基本的人権は人間が生まれながらにして持っている権利であるが、決して何らの努力なく保持できたものではない。人類の多年の努力と犠牲があって、獲得できたものである。

また、本条が規定する義務は、道徳方針を指す倫理的義務である。そのため、直接明確な法的効果があるわけでなく、国民が自由と権利を放棄したり、これらを濫用したとしても直ちに刑罰の対象となるわけではない。
Article 12

 The freedoms and rights guaranteed to the people by this Constitution shall be maintained by the constant endeavor of the people, who shall refrain from any abuse of these freedoms and rights and shall always be responsible for utilizing them for the public welfare.
第13条

 すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。
本条は、個人の人格の尊重と幸福追求権について規定している。民主主義の発展には、個人の人格の尊重が不可欠である。

社会の複雑化に伴い、従来では予測のつかなかった分野において、人権が侵害される状況が起きている。これに対応していくため、憲法上の規定に不在の人権侵害に対して、本条の幸福追求権の規定を包括人権としてとらえ、人権侵害の救済条項としてとらえていこうとする状況が増えている。例えば、プライバシーの権利、肖像権などである。また、第25条と関連して、環境権などもある。
Article 13

 All of the people shall be respected as individuals. Their right to life, liberty, and the pursuit of happiness shall, to the extent that it does not interfere with the public welfare, be the supreme consideration in legislation and in order governmemental affairs.
第14条

 @ すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。

 A 華族その他の貴族の制度は、これを認めない。

 B 栄誉、勲章その他の栄典の授与は、いかなる特権も伴はない。栄典の授与は、現にこれを有し、又は将来これを受ける者の一代に限り、その効力を有する。
本条は、法の下の平等について規定している。日本では、明治維新の時に、士農工商の階級制度を廃止して、四民平等の原則が採用された。しかし、これは不徹底なものであり、華族制度や男女差別などが当然とされていた。

本条では、国民はみな法の下に平等であって、以下のことにより、政治的・経済的・社会的な面において差別されないとしている。
・人種
・信条
・性別
・社会的身分
・門地

つまり、生まれや育ちや考え方などで、差別されることはないということであり、形式的な平等について規定している。しかし、国民は各々において、年齢・能力などにおいて差があるため、一人一人の自由を尊重すれば実際的には不平等が生じることもある。

そこで平等とは、形式的な平等ではなく、実質的な平等でなければならない。そのためには、当然差別しなければならない面も出てくるが、許される差別と許されない差別については、以下を参照。
名前 種類 内容
反民主的差別
(許されない差別)
うまれによる差別 ・人種
・性別
・家柄
・社会的身分
・華族や貴族の制度等
信条による差別 ・宗教的信仰
・人生観
・主義
・世界観
民主主義と両立する差別
(許される差別)
栄典 ・世襲と特権のない栄誉
・勲章その他の栄典
合理的差別 ・条例による差別
・選挙犯の選挙権等の停止
・公務員の政治的行為の禁止
・業務上犯罪の加重規定
Article 14

1) All of the people are equal under the law and there shall be no discrimination in political, economic or social relations because of race, creed, sex, social status or family origin.

2) Peers and peerage shall not be recognized.

3) No privilege shall accompany any award of honor, decoration or any distinction, nor shall any such award be valid beyond the lifetime of the individual who now holds or hereafter may receive it.
第15条

 @ 公務員を選定し、及びこれを罷免することは、国民固有の権利である。

 A すべて公務員は、全体の奉仕者であつて、一部の奉仕者ではない。

 B 公務員の選挙については、成年者による普通選挙を保障する。

 C すべて選挙における投票の秘密は、これを侵してはならない。選挙人は、その選択に関し公的にも私的にも責任を問はれない。
本条が規定する公務員とは、国家公務員法や地方公務員法の規定する一般職や特別職の公務員以外に、日本銀行や都市整備公団や国民金融公庫などの公共企業体や公法人に勤務する職員なども含まれる。

第1項において、公務員の選定と罷免は、国民固有の権利であると規定されている。これは、国民が現実に、そして直接に公務員を選挙し、免職するという意味ではなく、一般的・抽象的に国民の参政権の一側面を明らかにしたものである。したがって、公務員の選定と罷免の権利は、最終的に主権者である国民の意思に基づくとしたものである。しかし、この第1項の趣旨を具体的に反映させたものもいくつかある。例えば、国会議員・地方公共団体の長・地方議員の選挙や、最高裁判所裁判官の国民審査などである。

第2項では、公務員は国民全体の利益のために職務を行わなければならず、一部の者の利益また自分の利益のために職務を行ってはいけないと規定している。そのため、公務員の政治活動や労働者としてのストライキなどに一定の制限が課せられている。ただし、公務員の職務内容によっては、制限の程度が異なっている(例えば、議員などには政治活動の制限はない。)。

第3項と第4項では、普通選挙の保障について規程されている。選挙は、公務員を選ぶ重要な一方法である。普通選挙の4大原則は以下である。
名前 説明
普通選挙 家柄、教育、納税額などを資格制限としない選挙のことである。これらを資格条件とする場合を、制限選挙という。
平等選挙 国民一人一人の選挙権の効果が、全て平等であることである。納税額などで、一票の効果が異なったりする場合を、不平等選挙という。
直接選挙 国民が直接、候補者に対して投票するものであり、中に中間選挙人などを置かない選挙のことである。中間選挙人をおく場合を、間接選挙という。
秘密選挙 国民が誰に投票したのか、どんな投票をしたのかの秘密が守られるよう配慮された選挙のことである。配慮されない選挙のことを、公開選挙という。
※日本の選挙制度では、これらの4つが全て保障されている。本条では、特に普通選挙と秘密選挙についてが規定されている。
Article 15

1) The people have the inalienable right to choose their public officials and to dismiss them.

2) All public officials are servants of the whole community and not of any group thereof.

3) Universal adult suffrage is guaranteed with regard to the election of public officials.

4) In all elections, secrecy of the ballot shall not be violated. A voter shall not be answerable, publicly or privately, for the choice he has made.
第16条

 何人も、損害の救済、公務員の罷免、法律、命令又は規則の制定、廃止又は改正その他の事項に関し、平穏に請願する権利を有し、何人も、かかる請願をしたためにいかなる差別待遇も受けない。
請願権の歴史は古い。イギリスでは、1689年に権利章典で確認されている。日本では、江戸時代に目安箱というものがあったし、大日本帝国憲法では、第30条に「日本臣民ハ相当ノ敬礼ヲ守リ別ニ定ムル所ノ規程ニ従ヒ請願ヲ為スコトヲ得」、第50条に「両議院ハ臣民ヨリ呈出スル請願書ヲ受クルコトヲ得」、と規定されていた。

現在の憲法では、国民主権を基本原則とし、請願権を人が生まれながらにしてもつ基本的人権の一つとして保障している。関連する法律などは、以下である。

法律 説明
請願法 請願に関する一般規定であり、全部で6条である。
国会法第79条から第82条 国会各議院に対する請願についての規定である。
衆議院規則第171条から第180条
参議院規則第162条から第173条
地方自治法第124条と第125条 地方議会に対する請願についての規定である。


請願手続きなどは、以下である。
名前 説明
請願を行える者 ・日本国民

・外国人(外国人により参議院に提出された請願が受理された例がある)

・法人
提出先など ・一般の官公署に対する請願(請願者の氏名・住所を記載した文書で、請願事項を所管する官公署に提出する。)

・天皇に対する請願(内閣に提出する。ただし、天皇は国政についてほとんど権限がないため、請願をしても意味がないといわれている。)

・国会各議院に対する請願(議員の紹介により請願書を提出する。そして、委員会の審査を経たあと、議決される。内閣で処理したほうがよい場合は、内閣に送付する。)

・地方議会に対する請願(議員の紹介により請願書を提出する。)
※官公署に対する請願について、官公署は請願の受理を拒否できない。また、誠実に処理しなければならない。

※国会各議院に対する請願は、陳情とは別のものである。

※請願は、平穏にされなければならない。平穏の意味は、暴力や脅迫などを用いて行ってはいけないということである。そのため、デモ行進を背景とする請願などは平穏を欠くとは言えない。
Article 16

 Every person shall have the right of peaceful petition for the redress of damage, for the removal of public officials, for the enactiment, repeal or amendment of laws, ordinances or regulations and for other matters; nor shall any person be in any way discriminated against for sponsoring such a petition.
第17条

 何人も、公務員の不法行為により、損害を受けたときは、法律の定めるところにより、国又は公共団体に、その賠償を求めることができる。
国や公共団体(公共団体には、都道府県・市町村など以外にも、土地改良区や水害予防組合などの公共組合や公団や公庫なども含まれる)の活動は、現実的には公務員により行われている。公務員は、人間であるため、適法な行為以外の違法な行為などを行うことがありえる。

このような場合、損害を受けた者が、損害の全てをその公務員に支払ってもらおうとしても無理なことがあったり、公務員のほうとしても損害賠償を負うかもしれないとすると通常の活動に影響が出る可能性もある。

そこで憲法では、公務員の職務上の不法行為により損害を受けた場合は、国か公共団体がその損害賠償の責任を負うと規定している。大日本帝国憲法には本条の規定はなく、公務員の行為を権力的と非権力的に分け、権力的なものによって加えられた損害については、国や公共団体は責任を負わないとしていた。現在の憲法では、このような区別をしてはいけないことになっている。

本条の規定を受けて、国家賠償法という法律が定められている。第1条では、次のように規定されている。「国又は公共団体の公権力の行使に当る公務員が、その職務を行うについて、故意又は過失によつて違法に他人に損害を加えたときは、国又は公共団体が、これを賠償する責に任ずる。」。

本条では、故意とか過失などを問題とはしていないが、国家賠償法では故意や過失が要件とされている。これは、民法(第44条や第715条)の規定が、故意と過失を要件としていることとの釣り合いのためである。

また、本条では、何人(誰でも)も賠償請求ができるとされているが、国家賠償法第6条では、「この法律は、外国人が被害者である場合には、相互の保証があるときに限り、これを適用する。」と規定されている。


本条で注意しなければならないのが、損害を受けた者は、国か公共団体に損害賠償請求ができるという点である。つまり、その原因を作った公務員に対しては、損害賠償請求をできないということである。ここで問題となるのは、公務員は何をしても損害を賠償しなくても良いのかということである。国家賠償法の第1条第2項では、「前項の場合において、公務員に故意又は重大な過失があつたときは、国又は公共団体は、その公務員に対して求償権を有する。」、と規定されている。

つまり、公務員の故意や、その地位にある公務員として著しく不注意であった場合に限って、国や公共団体がその公務員に対して賠償を弁済するよう請求することができるということである(これを国や公共団体の求償権という)。国や公共団体が請求できるのであり、損害を受けた者が公務員に対して請求できないのは同じである。


また、本条では、国や公共団体が設置したり管理している道路や河川や建物などについて何も規定していないが、国家賠償法第2条では、「道路、河川その他の公の営造物の設置又は管理に瑕疵があつたために他人に損害を生じたときは、国又は公共団体は、これを賠償する責に任ずる。前項の場合において、他に損害の原因について責に任ずべき者があるときは、国又は公共団体は、これに対して求償権を有する。」、と規定している。
Article 17

 Every person may sue for redress as provided by law from the State or a public entity, in case he has suffered damage through illegal act of any public official.
第18条

 何人も、いかなる奴隷的拘束も受けない。又、犯罪に因る処罰の場合を除いては、その意に反する苦役に服させられない。
本条は、自由権的基本権に属する人身の自由を保障する刑事司法の根本原則について規定している。

人身の自由とは、身体に対する一切の不当な束縛を受けない自由のことである。思想及び良心の自由とともに自由権の中で、最も原初的で基礎的なものである。

人身の自由は、私人間(国民と国民)においての拘禁からの自由も含まれるし、国家権力からの自由も含まれる。

本条の奴隷的拘束とは、奴隷に類すると考えられるような自由の束縛や人格を無視したような束縛のことである。例えば、強制労働、監獄部屋、人身売買などが考えられる。また、私人間における奴隷的束縛を内容とする契約は、公序良俗に反するものとして無効である(民法第90条)。また、刑罰の対象となる。

本条後半の意に反する苦役とは、普通人がいくらかでも苦痛を伴う程度の役務のことである(奴隷的拘束には至らない程度)。したがって、徴兵制度や国民徴用などは、原罪の憲法では許されないことになる。これは、国と国民の間だけではなく、私人間でも同様である。労働基準法では、以下のように規定されている。

名前 条文
労働基準法

第5条
使用者は、暴行、脅迫、監禁その他精神又は身体の自由を不当に拘束する手段によつて、労働者の意思に反して労働を強制してはならない。
労働基準法

第117条
第五条の規定に違反した者は、これを一年以上十年以下の懲役又は二十万円以上三百万円以下の罰金に処する。
職業安定法

第63条
次の各号のいずれかに該当する者は、これを一年以上十年以下の懲役又は二十万円以上三百万円以下の罰金に処する。

1 暴行、脅迫、監禁その他精神又は身体の自由を不当に拘束する手段によつて、職業紹介、労働者の募集若しくは労働者の供給を行つた者又はこれらに従事した者

2 公衆衛生又は公衆道徳上有害な業務に就かせる目的で、職業紹介、労働者の募集若しくは労働者の供給を行つた者又はこれらに従事した者


ただし、意に反する苦役については、犯罪による処罰の場合は、例外として許されている。刑罰は、もともと本人の意思に反するものであるため、当然といえる。しかし、この場合であっても、意に反する苦役が、奴隷的拘束であったり残虐なものである場合は、絶対に許されない。
Article 18

 No person shall be held in bondage of any kind. Involuntary servitude, except as punishment for crime, is prohibited.
第19条

 思想及び良心の自由は、これを侵してはならない。
思想及び良心とは、内心におけるものの見方や考え方(世界観、人生観、主義、信条)などのことである。判例では、思想の自由は、人が内心に抱く考え方の自由が外部の強制・圧迫・差別待遇により妨げられないこと、つまり、人の精神活動の自由が外部の力から保障されている状態のことである。そして、この自由は、民主主義の根底をなす信教の自由、表現の自由、学問の自由などの源泉となるものである。

良心とは、思想の中の多少とも道徳的な側面を取り上げたにすぎず、良心の自由は広い意味における思想の自由に含まれる。

思想及び良心の自由には、自分の思想及び良心について、沈黙する自由を含むのかどうかという問題がある。以下参照。

・裁判などで、証人または鑑定人に対して証言や鑑定をする義務を課している(刑事訴訟法第146条以下、第165条以下、民事訴訟法第280条以下など)

・新聞記者がニュースソースについて証人としての宣誓を拒否した事件においては、取材源を隠すことは、表現の自由を保障した憲法第21条によって保障されるものではないとしている(最高裁判例昭和27年8月6日)

・新聞などに謝罪広告を出すよう強制する裁判の判決については、謝罪広告は屈辱的もしくは苦役的労苦を科したり、または個人の倫理的思想、良心の自由を侵害することを要求するものではないとしている(最高裁判例昭和31年7月4日)。ただし、国が裁判という権力作用で、自分の行為が誤りであったということを公に表現することを命じることは、良心の自由を侵すという意見も多い。また、他の先進国では、名誉回復のために損害賠償を命じる判決を下しても、原則として謝罪広告を命じる判決を下すことは認められていない。
Article 19

 Freedom of thought and conscience shall not be violated.
第20条

 @ 信教の自由は、何人に対してもこれを保障する。いかなる宗教団体も、国から特権を受け、又は政治上の権力を行使してはならない。

 A 何人も、宗教上の行為、祝典、儀式又は行事に参加することを強制されない。

 B 国及びその機関は、宗教教育その他いかなる宗教的活動もしてはならない。
信教の自由は、各国の人権宣言で規定されている。日本でも、明治政府が誕生した当時は、江戸時代以来のキリスト教禁制が続いていたが、外国からの圧力がありこの禁止が解かれた。戦前の憲法第28条には、「日本臣民ハ安寧秩序ヲ妨ケス及臣民タルノ義務ニ背カサル限ニ於テ信教ノ自由ヲ有ス」という規定があったが、この憲法の根本部分は神権天皇制であり、天皇の祖先を神々として崇めるという考えを、その他の宗教と同列に扱うことはできなかった。

つまり、天皇崇拝の精神的基礎を固めるために、天皇の神格の根拠としての神社に対して国教的性格が与えられていた。例えば、神宮や神社には公法人の地位、神官や神職には官吏の地位が与えられていた。神社は内務省神社局(後の神祇院)の所管であったが、その他の宗教に関する行政は文部省の所管であった。また、一般国民は神社参拝が強制されていたし、公務員に対しては公の儀式として行われる神社の儀式に参列する義務があった。

このように信教の自由とは矛盾した面があったが、当時の政府は、「神社は宗教にあらず」としていたため、信教の自由には反しないとされていた。また、条文中に、「臣民タルノ義務ニ背カサル限ニ於テ」と書かれており、神社の信教は国民の義務に属するため、憲法には違反しないという考え方もされていた。

つまり、戦前の日本の信教の自由は、神社の国教的地位が前提にあり、これに背かない範囲内で認められていたということである。


こうした状態は、敗戦により終止符が打たれることとなり、昭和20年12月15日に、国家神道の禁止に関する指令により、神社の国家的な地位は廃止された。また、翌年の1月1日、天皇は自ら、「天皇の人間宣言」をした。


本条が規定する信教の自由とは、以下のような意味である。

・内心における宗教上の信仰の自由のことである。これは、思想及び良心の自由の一部をなすものである。ある特定の宗教を信じるまたは信じない自由のことである。さらに、自分の信じる宗教について、沈黙を守る自由も含まれる。

・宗教上の信仰を外部に発表したり、その宗教を宣伝する自由のことである。これは、表現の自由の一部をなすものである。

・宗教的行為の自由のことである。これは、集会し、結社する自由の一部をなすものである。


これらの自由を完全に保障するためには、政教分離の原則が不可欠であり、宗教団体は国から特権を受けないことになっている。

宗教法人は、法人税法第7条において、「内国法人である公益法人等又は人格のない社団等の各事業年度の所得のうち収益事業から生じた所得以外の所得及び清算所得については、第五条(内国法人の課税所得の範囲)の規定にかかわらず、それぞれ各事業年度の所得に対する法人税及び清算所得に対する法人税を課さない。」と規定されており、公益法人や学校法人などと並んで、法人税が課されないことになっている。これについては、一般に各種の非営利的な法人の一定の所得に対して免税しようとした結果、宗教法人もその恩典に浴したに過ぎないため、特権を受けたことにはならないと考えられている。
Article 20

1) Freedom of religion is guaranteed to all. No religious organization shall receive any privileges from the State, nor exercise any political authority.

2) No person shall be compelled to take part in any religious act, celebration, rite or practice.

3) The State and its organs shall refrain from religious education or any other religious activity.
第21条

 @ 集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。

 A 検閲は、これをしてはならない。通信の秘密は、これを侵してはならない。
集会・結社・表現の自由は、民主国家にとって欠くことのできないものである。思想・良心の自由は内心の自由であるが、集会・結社・表現の自由は内心で形成されたものを外に向かって表出する行為である。


集会と結社の違いについては、以下を参照。
名前 説明
集会 一定の共同目的を持った一時的な多数人の集団のことである。一定の目的を持っているため、群集とは異なる。
結社 集会の継続的な状態のことである。政治結社、宗教結社、学術結社などがある。宗教結社については、信教の自由の一つとして保障されている。


表現の自由とは、あらゆる手段による発表の自由のことである。戦前の憲法でも保障されていたが、「法律の範囲内でのみ認める」という制限があった。そのため、実際は、治安維持法や新聞法などにより厳しい制限がされていた。現在の憲法では、表現の自由は無条件に保障されており、「公共の福祉」に反するという理由で制限されることも許されない。ただし、その表現が猥褻であったり、他人の名誉を傷つけるような場合は、社会法益や個人法益を侵すことになり当然制限される。


検閲とは、国家によって外部に発表されようとする思想の内容をあらかじめ審査し、場合によりその発表を禁止することである。現在の憲法では、検閲は一切認められない。

善良の風俗に反する映画や猥褻本などが上映・発行されようとしても、上映・発行以前に行政機関により禁止することはできない。しかし、上映・発行後に法的措置をとることは検閲とは別問題であるためできる。映画倫理協会による自らの統制は、国家が統制しているものではないため、検閲ではない。

通信の秘密は、個人生活の秘密の保障、さらに思想・表現の自由保障などに不可欠であるため、憲法で保障されている。この通信の秘密は、信書の秘密よりもさらに広い意味である。信書は封書とか葉書などであるが、通信は信書のほかに電信・電話なども含む。本条に基づき、郵便法第8条では、「会社の取扱中に係る信書の秘密は、これを侵してはならない。」と規定されている。

ただし、犯罪捜査の令状による通信物の捜査・押収、監獄法に基づき囚人の封書を開封することは、特殊の目的のため行われるもので、認められている。
Article 21

1) Freedom of assembly and association as well as speech, press and all other forms of expression are guaranteed.

2) No censorship shall be maintained, nor shall the secrecy of any means of communication be violated.
第22条

 @ 何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する。

 A 何人も、外国に移住し、又は国籍を離脱する自由を侵されない。
居住・移転の自由とは、どんな場所へでも自由に住所を定め、移住できる自由のことである。住所を定めることには、積極的に自らが居住を決定することと同時に、自分の意に反して居住地を移されないという意味がある。ただし、これらは公共の福祉に反しない限りという条件がつく。例えば、伝染病にかかった人などを強制隔離するとか、都市計画法などに基づいて必要かつ最小限度の制約をするなどがある。また、親権者である親が子の居住を指定することや、夫婦が同居することなど、民法上の義務は本条に違反しない。

職業選択の自由とは、自分の望むところに従って、どのような職業につくことも自由であり、営業も自由に行うことができるという意味である。ただし、公共の福祉に反することはできない。外国人などは、水先人(水先法第5条)や公証人(公証人法第12条)になることはできないなど、制約がある。衛生・古物・風俗営業などは、警察的な面から許可制となっているし、医者や弁護士や薬剤師などは資格が必要である。

外国移住の自由とは、住所を外国に置いたり、旅行により外国へ行く自由のことである。逆に、日本人が外国から日本へ帰る自由も含まれる。旅券法第13条では、「外務大臣又は領事官は、一般旅券の発給又は渡航先の追加を受けようとする者が次の各号のいずれかに該当する場合には、一般旅券の発給又は渡航先の追加をしないことができる。」 、と規定し、一定の場合には旅券の発給を拒否できるとしている。

国籍を離れる自由は、自分の希望で国籍を離れることである。しかし、国籍を離れて無国籍となる自由は含まれない。
Article 22

1) Every person shall have freedom to choose and change his residence and to choose his occupation to the extent that it dose not interfere with the public welfare.

2) Freedom of all persons to move to a foreign country and divest themselves of thier nationality shall be involate.
第23条

 学問の自由は、これを保障する。
学問の研究は、常に従来の考え方を批判して、新しいものを創造しようとする努力であるため、高度の自由が要求される。戦前においては、旧大学令第1条に、「帝國大學ハ國家ノ須要ニ應スル學術技藝ヲヘ授シ及其蘊奧ヲ改究スルヲ以テ目的トス」と規定されていた(これは帝国大学に関してであるが)ことからもわかるように、国家のための学問という観念が強かった。

具体的に、学問の自由とは、以下のような内容のことである。

・研究者は、学問的研究に基づいて、どのような学説を抱いてもよい。この自由は、思想および良心の自由に含まれるものである。
・研究者は、学説を発表する自由がある。この自由は、表現の自由に含まれるものである。
・研究者は、学説を教授する自由がある。教授する場所は、主として大学となる。
Article 23

 Academic freedom is guaranteed.
第24条

 @ 婚姻は、両性の合意のみに基いて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない。

 A 配偶者の選択、財産権、相続、住居の選定、離婚並びに婚姻及び家族に関するその他の事項に関しては、法律は、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して、制定されなければならない。
民主社会は、人間の尊重と平等を根本として成立する。この二つが保障されてこそ、真の民主社会と言える。日本国憲法では、第13条で個人の尊重、第14条で平等の原則が規定されているが、この二つの原則にたって男女の平等、家族の生活を考えたのが本条である(人間を封建的な家族制度から解放するためである。)。

戦前までは、家を中心とした封建的な家族制度があった。この制度は、戸主権をもつ戸主、夫権をもつ夫、親権を持つ親があり、他の者に対して身分的な優越が認められていた(戸主の住所指定権、家族の者の婚姻同意権、全財産の管理権や収益権などがあった。)。また、家督制度というものもあり、長男が戸主の地位と家の財産を全て一人で相続していた。

現在では、婚姻は男女の自由な意思の合致により成立し、夫婦は同権であり、夫婦の愛情を中心とした協力により家族が維持されていくのが基本である。婚姻には親の同意は不要であるが、未成年者の場合だけは、父母のどちらかの同意が必要である(民法第737条)。男は18歳、女は16歳にならないと結婚できない(これは優生学的立場である。)。重婚は禁止されている(民法第732条)。
Article 24

1) Marriage shall be based only on the mutual consent of both sexes and it shall be maintained through mutual cooperation with the equal rights of husband and wife as a basis.

2) With regard to choice of spouse, property rights, inheritance, choice of domicile, divorce and other matters pertaining to marriage and the family, laws shall be enacted from the standpoint of individual dignity and the essential equality of the sexes.
第25条

 @ すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。

 A 国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。
本条は、日本の憲法がいわゆる社会国家(積極国家)的理念に立つことを明らかにした条文である。

「健康で文化的な最低限度の生活」という部分は、「人間の尊厳にふさわしい生活(世界人権宣言第23条第3項)」や「人間に値する生存(ワイマール憲法)」などと同じ意味である。

しかし、本条は、国は国民に対して一般的に健康で文化的な最低限度の生活を保障する責務を負い、このことは国政上の任務であるが、本条によって直接に国民は国家に対して具体的・現実的な権利を持つわけではない。いわゆるプログラム規定である。

本条が規定する社会福祉の向上と増進に努めるために制定された法律には、以下のようなものがある。
・生活保護法
・母体保護法
・児童福祉法
・知的障害者福祉法
・身体障害者福祉法
・各種健康保険法
・感染症予防法
・医療法
Article 25

1) All people shall have the right to maintain the minimum standards of wholesome and cultured living.

2) In all spheres of life, the State shall use its endeavors for the promotion and extension of social welfare and security, and of public health.
第26条

 @ すべて国民は、法律の定めるところにより、その能力に応じて、ひとしく教育を受ける権利を有する。

 A すべて国民は、法律の定めるところにより、その保護する子女に普通教育を受けさせる義務を負ふ。義務教育は、これを無償とする。
本条は、国民が全て等しく教育を受ける権利があることを規定している。これは、個人の尊厳と法の下の平等を基礎とし、国民は、人種・信条・性別・社会的身分・経済的地位・門地等を理由として、教育上差別を受けないということである。

本条の語句については、以下を参照。
名前 説明
教育 主として、学校教育のことを意味する。しかし、これ以外の教育についても同じ趣旨が認められるべきであり、一般人が図書館等で費用をかけずに勉強する機会を確保することは、本条の趣旨に一致する。
法律の定めるところにより 法律で本条の趣旨を実現するために、必要な措置をとるべきであるという意味である。具体的には、教育基本法が制定されている。
普通教育 国民一般にとって、必要な教育のことである(専門の学術・技術のことではない。)。
義務を負う 子供に対して親権を行う者または後見人などは、その子供を就学させる義務を負う(学校教育法第22条)。また、民法第820条は、子供の監護及び教育をすることは、親の権利であり義務であると規定している。
義務教育はこれを無償とする 普通教育のことである。現在は、9年である(教育基本法第4条第1項)。教育は義務であるため、当然無償である。教育基本法第4条第2項では、義務教育において授業料は徴収しないと規定している。
Article 26

1) All people shall have the right to receive an equal education correspondent to their ability, as provided by law.

2) All people shall be obligated to have all boys and girls under their protection receive ordinary education as provided for by law. Such compulsory education shall be free.
第27条

 @ すべて国民は、勤労の権利を有し、義務を負ふ。

 A 賃金、就業時間、休息その他の勤労条件に関する基準は、法律でこれを定める。

 B 児童は、これを酷使してはならない。
本条は、勤労の権利についての規定である。勤労とは労働のことであり、勤労者とは労働者のことである。

勤労の権利という観念は、以下の二つの意味を持っている。
意味 説明
労働能力を持つ者が、国家に対して、労働の機会の提供を要求できる権利 社会主義や共産主義の国家においてのみ法律上の権利としての意味を持つ。
労働能力を持つ者が、企業に就業できることを理想とし、できない場合は国家に対して労働の機会の提供を要求できる権利。これらが不可能な場合は、それに代わる相当の保護を要求できる権利。 資本主義の国家においては、私有財産が保障されているため、こちらのほうが意味を持つ。


本条は、第25条と同じく、いわゆる生存権的基本権である。つまり、具体的な法律上の権利ではない。本条を根拠として、国民が国家に対してすぐに職を与えるように要求できる具体的・現実的な権利ではない。

本条により、具体化された法律は以下である。
・労働基準法
・最低賃金法
・船員法
・児童福祉法
・職業安定法
・職業訓練法
・雇用対策法
・船員職業安定法
・雇用保険法
・緊急失業対策法
・船員保険法


また、国民の勤労の義務についても、具体的な法律上の義務はない(旧ソ連憲法第12条には、「働かざるものは食うべからず」というような労働の義務があったが、このような義務はない。)。日本の場合、国家が国民を強制的に働かせることはできないとされている。

本条第2項には、賃金・就業時間などについては、以下に規定されている。
名前 内容や条文など
賃金 労働基準法第3章
就業時間 労働基準法第4章
休息
その他の勤労条件 ・安全
・衛生設備
・災害補償(労働者災害補償保険法)


本条第3項では、児童の酷使を禁止している。これは、世界各国で、児童の虐待や酷使の例が多いためである。本条の規定は、第18条の苦役の禁止とも相通ずる意味を持つ。

児童とは、何歳までの者をいうかについて、労働基準法では、以下のように規定している。
条文 内容
労働基準法第56条 @ 使用者は、児童が満十五歳に達した日以後の最初の三月三十一日が終了するまで、これを使用してはならない。

A 前項の規定にかかわらず、別表第一第一号から第五号までに掲げる事業以外の事業に係る職業で、児童の健康及び福祉に有害でなく、かつ、その労働が軽易なものについては、行政官庁の許可を受けて、満十三歳以上の児童をその者の修学時間外に使用することができる。映画の製作又は演劇の事業については、満十三歳に満たない児童についても、同様とする。
※労働基準法第6章には、年少者の規定がある。
Article 27

1) All people shall have the right and the obligation to work.

2) Standards for wages, hours, rest and other working conditions shall be fixed by law.

3) Children shall not be exploited.
第28条

 勤労者の団結する権利及び団体交渉その他の団体行動をする権利は、これを保障する。
本条は、勤労者の団結権や団体行動権についての規定である。勤労とは労働のことであり、勤労者とは労働者のことである。

労働者とは、精神的・肉体的労働を他人に提供することにより、対価として賃金・報酬などを得て生活する者のことである。労働組合法、労働基準法では、以下のように規定されている。
条文 内容
労働組合法第3条 この法律で「労働者」とは、職業の種類を問わず、賃金、給料その他これに準ずる収入によつて生活する者をいう。
労働基準法第9条 この法律で「労働者」とは、職業の種類を問わず、事業又は事務所(以下「事業」という。)に使用される者で、賃金を支払われる者をいう。
※本条の勤労者とは、つまり、自己の労働力を売って対価を得る者のことである。そのため、自営業者・農民・漁民・小商工業者などは一般に勤労者には含まれない。

※本条の勤労者とは、主に一般企業で働く労働者を指している。公務員は、その従事する公務の性質が許す限り同様の権利が認められている。


本条の三つの権利は、第25条と同じように生存権的基本権の中心をなすものである。これは、資本主義社会の発展の必然の結果として、使用者に対して経済的に弱い立場である労働者が団結して交渉する権利を与えられることによって、労使間の労働契約を結ぶ際の不平等をなくし、実質的に対等の関係を確保できるようにするためである。

三つの権利については、以下を参照。
名前 説明
団体行動権 労働者が使用者と対等の立場において団体交渉を行う目的を持って団体を組織する権利である。つまり、労働組合を組織したり、労働組合に加入する権利のことである。
団体交渉権 労働組合が自ら選んだ代表者によって、労働条件について使用者と交渉する権利のことである。これにより労使間で結ばれた労働協約は、規範的効力をもち、これで定められた労働条件に違反する労働契約の部分は無効とされる。
争議権 条文中では、その他の団体行動をする権利と規定されている部分である。労働条件を維持・改善するために行う行動のことである。一般的には、ストライキ等と呼ばれている行動のことである。
※正当な団体行動として行われた行為は、刑事上または民事上、違法性をもたないとされている(あくまでも、正当な範囲内においてである。正当な範囲を超えた場合は問題となる。)。ただし、どんな場合であっても、暴力の行使は認められない(労働組合法第1条、第8条)。



本条に関係する労働組合法の規定は、以下である。
労働組合法 内容
第1条
(労働組合法の目的など)
@ この法律は、労働者が使用者との交渉において対等の立場に立つことを促進することにより労働者の地位を向上させること、労働者がその労働条件について交渉するために自ら代表者を選出することその他の団体行動を行うために自主的に労働組合を組織し、団結することを擁護すること並びに使用者と労働者との関係を規制する労働協約を締結するための団体交渉をすること及びその手続を助成することを目的とする。

A 刑法(明治40年法律第45号)第35条の規定は、労働組合の団体交渉その他の行為であつて前項に掲げる目的を達成するためにした正当なものについて適用があるものとする。但し、いかなる場合においても、暴力の行使は、労働組合の正当な行為と解釈されてはならない。
第2条
(労働組合について)
この法律で「労働組合」とは、労働者が主体となつて自主的に労働条件の維持改善その他経済的地位の向上を図ることを主たる目的として組織する団体又はその連合団体をいう。但し、左の各号の一に該当するものは、この限りでない。

1 役員、雇入解雇昇進又は異動に関して直接の権限を持つ監督的地位にある労働者、使用者の労働関係についての計画と方針とに関する機密の事項に接し、そのためにその職務上の義務と責任とが当該労働組合の組合員としての誠意と責任とに直接にてい触する監督的地位にある労働者その他使用者の利益を代表する者の参加を許すもの
2 団体の運営のための経費の支出につき使用者の経理上の援助を受けるもの。但し、労働者が労働時間中に時間又は賃金を失うことなく使用者と協議し、又は交渉することを使用者が許すことを妨げるものではなく、且つ、厚生資金又は経済上の不幸若しくは災厄を防止し、若しくは救済するための支出に実際に用いられる福利その他の基金に対する使用者の寄附及び最小限の広さの事務所の供与を除くものとする。
3 共済事業その他福利事業のみを目的とするもの。
4 主として政治運動又は社会運動を目的とするもの。
第3条
(労働者とは)
この法律で「労働者」とは、職業の種類を問わず、賃金、給料その他これに準ずる収入によつて生活する者をいう。
第6条
(団体交渉について)
労働組合の代表者又は労働組合の委任を受けた者は、労働組合又は組合員のために使用者又はその団体と労働協約の締結その他の事項に関して交渉する権限を有する。
第8条
(損害賠償について)
使用者は、同盟罷業その他の争議行為であつて正当なものによつて損害を受けたことの故をもつて、労働組合又はその組合員に対し賠償を請求することができない。
第16条
(労働協約の効力について)
労働協約に定める労働条件その他の労働者の待遇に関する基準に違反する労働契約の部分は、無効とする。この場合において無効となつた部分は、基準の定めるところによる。労働契約に定がない部分についても、同様とする。
Article 28

 The right of workers to organize and to bargain and act collectively is guaranteed.
第29条

 @ 財産権は、これを侵してはならない。

 A 財産権の内容は、公共の福祉に適合するやうに、法律でこれを定める。

 B 私有財産は、正当な補償の下に、これを公共のために用ひることができる。
本条は、財産権の不可侵の原則と、私有財産を公共のために使用することについてを規定している。

財産権とは、一切の財産的権利のことである。つまり、物権や債権や営業権、河川利用権のような公法的な権利、著作権や特許権などの無体財産権なども含まれる。中でも一番代表的なのが、土地所有権である。

本条の規定において、財産権は侵害してはならないものである。ただし、これは原則的なものであり、国は公共の福祉のためであれば、正当な保障の下に国民の財産権を使用することができる。

第3項による一般法には、土地収用法などがある。
Article 29

1) The right to own or to hold property is inviolable.

2) Property rights shall be defined by law, in conformity with the public welfare.

3) Private property may be taken for public use upon just compensation therefor.
第30条

 国民は、法律の定めるところにより、納税の義務を負ふ
本条は、国民の納税義務についての規定である。

本条が規定する納税(租税)については、手数料などとは違うものである。以下を参照。
名前 説明
租税 国や地方公共団体の活動に必要な費用にあてるための資金として、国民や住民に負担してもらう金銭のことである。国や地方公共団体は、納税をした者に対して、個別的に何らかの見返りを与えることはない(この部分が手数料などとの大きな違いである。)。
手数料や使用料 国や地方公共団体が、国民や住民に対して何らかの仕事などをした場合に、負担してもらう金銭のことである。


納税については、第84条において、「あらたに租税を課し、又は現行の租税を変更するには、法律又は法律の定める条件によることを必要とする。」、と規定されている。つまり、国民は法律によって定められている納税だけ行えばよいということである(逆に言えば、法律に定められていない納税はしなくてもよいということである。)。これを、租税法律主義の原則という。


条文中の「国民」の中には、日本国民以外にも、外国人や企業などの法人も含まれている。


本条の納税義務について注意しなければならないことがある。それは、納税は、国民の経済的能力に応じた負担でなければならないということである。
Article 30

 The people shall be liable to taxation as provided by law.
第31条

 何人も、法律の定める手続によらなければ、その生命若しくは自由を奪はれ、又はその他の刑罰を科せられない。
本条は、誰でも、法律の定める適正な手続きによらなければ、その生命や自由を奪われたり、その他の刑罰を科せられたりすることはないと規定している。

様々ある自由の中で、人身にかかわる自由は最も重要で基礎的な自由である。

本条は、第32条から第40条において規定されている人身の自由の具体的保障の総則的地位にあり、全ての権利の手続的保障の基本的地位でもある。
Article 31

 No person shall be deprived of life or liberty, nor shall any other criminal penalty be imposed, except according to procedure established by law.
第32条

 何人も、裁判所において裁判を受ける権利を奪はれない。
裁判とは、対立する当事者間の具体的な法的紛争を司法機関である裁判所が、訴訟法の手続きに従って、法的判断をすることにより解決する作用のことである。

裁判所とは、以下の裁判所のことである。
名前 構成 備考
最高裁判所 ・長官
・14名の裁判官
・上告事件
・特別抗告事件
・違憲立法審査権
高等裁判所 ・長官
・判事
・控訴事件
・抗告事件
地方裁判所 ・判事
・判事補
・民事・刑事・行政事件の第一審
家庭裁判所 ・判事
・判事補
・家庭事件の審判・調停
・少年保護事件の審判
簡易裁判所 ・簡易裁判所判事 ・少額民事事件の
・軽微の刑事事件


裁判を受ける権利は、独立した司法権の下での、法のあらかじめ定める組織、権限、手続きに基づく公正な裁判所において、平等な裁判をあらゆる人々に保障することにより、人権保障を担うものである。

本条が裁判を受ける権利を規定するのは、誰でも自ら裁判所へ訴訟を提起し、救済を求めることができるという、裁判請求権を明らかにすることにより、人権を不断の努力により保持し利用する責任を有すること(第12条)のさらなる自覚を促すためである。人権は、ただ与えられたものではなく、個人個人が自覚的に活用していくべきものである(人権が侵害された場合は、侵害されたと抗議しなければならない。しかし、日本では昔から、人権は私利であるとして拒絶されてきたきらいがある。)。

裁判所が審理できるのは、法律上の争訟であるため、具体的な権利保護の利益がない場合は、裁判を受ける権利の請求は保障されない。適法な訴訟でなければ、本条が規定する裁判を受ける権利は、保障されない。

また、とくに刑事事件においては、裁判所以外の機関で裁判を受け、刑罰を科せられることがない。この点についても、本条が規定する裁判を受ける権利に含まれる。第37条第1項は、この点についてをさらに強調して規定した条文である。

本条の例外には、以下のものがある。
・議員の資格争訟(第55条)
・裁判官の弾劾裁判(第64条)
・行政裁判の前審裁判(第76条第2項)

Article 32

 No person shall be denied the right of access to the courts.
第33条

 何人も、現行犯として逮捕される場合を除いては、権限を有する司法官憲が発し、且つ理由となつてゐる犯罪を明示する令状によらなければ、逮捕されない。
本条は、逮捕については必ず令状が必要であるという原則を規定している。人身の自由を保障するためである。

本条が逮捕の場合に必要だと規定しているのは、以下の三つである。
・あらかじめ発せられた令状が必要である。
・令状は、司法官憲が発したものでなければならない。
・令状は、理由となっている犯罪事実が明らかにされていなければならない。

条文の語句については、以下を参照。
名前 説明
現行犯 以下参照。
逮捕 主なものは、刑事訴訟法による被疑者の逮捕のことである。これ以外には、勾引(被告人等の住居が定まっていないとか、正当な理由がないのに呼び出しに応じないようなときに、裁判所が24時間留置すること)、勾留(罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由がある場合で、住所不定、証拠を隠したり逃亡する可能性があるときに拘束すること)なども、本条の逮捕に含まれる。
令状 主なものは、刑事訴訟法による逮捕状のことである。これ以外には、勾引状や勾留状も含まれる。
司法官憲 裁判所や裁判官のことである。注意しなければならないのが、司法官憲には、検察官や警察官などは含まれないということである。本条の趣旨は、捜査機関等による被告人等に対する、不当な拘束を防ぐための条文だからである。
理由となっている犯罪を明示 逮捕の理由となっている犯罪の罪名をあげるだけでなく、その被疑事実の要旨をも書かなければならない。


本条の規定により、逮捕には原則的に令状が必要であるが、例外もある(令状による逮捕を通常逮捕という。)。以下を参照。
名前 説明
現行犯逮捕 現行犯とは、現に罪を行い、または現に罪を行い終わったことをいう。逮捕された者が犯人であることが明らかであり、逮捕の必要性が大きいため、令状による逮捕の原則の例外とされている。

また、刑事訴訟法第212条には、準現行犯の規定があり、罪を行い終わってから間がないと明らかに認められる者も現行犯とみなしている。
緊急逮捕 緊急逮捕とは、急を要するため、逮捕状を求めることができない場合に、まず被疑者を逮捕し、その後に逮捕状を請求する逮捕のことである。

逮捕後に、令状が発せられなかった場合は、人身の自由が侵されたことになるため、違憲だとする主張する人も多い(最高裁は合憲としている。)。

緊急逮捕には、通常逮捕の例外であるため、厳格な要件が求められる(刑事訴訟法第210条)。

もし、逮捕後に、令状が発せられなかった場合は、すぐに被疑者を釈放しなければならない。
別件逮捕 別件逮捕とは、本命の犯罪容疑については、逮捕状を請求するだけの証拠がないため、他の軽い犯罪を理由に容疑者を逮捕し、本命の犯罪について取調べをすることである。

別件逮捕は、多くの有識者が違憲違法だと考えており、問題のある逮捕だといえる(最高裁の判断はまだない。)。


本条に関係する刑事訴訟法の条文は以下である。
刑事訴訟法 条文
第199条 @ 検察官、検察事務官又は司法警察職員は、被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があるときは、裁判官のあらかじめ発する逮捕状により、これを逮捕することができる。ただし、三十万円(刑法、暴力行為等処罰に関する法律及び経済関係罰則の整備に関する法律の罪以外の罪については、当分の間、二万円)以下の罰金、拘留又は科料に当たる罪については、被疑者が定まつた住居を有しない場合又は正当な理由がなく前条の規定による出頭の求めに応じない場合に限る。

A 裁判官は、被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があると認めるときは、検察官又は司法警察員(警察官たる司法警察員については、国家公安委員会又は都道府県公安委員会が指定する警部以上の者に限る。以下本条において同じ。)の請求により、前項の逮捕状を発する。但し、明らかに逮捕の必要がないと認めるときは、この限りでない。

B 検察官又は司法警察員は、第一項の逮捕状を請求する場合において、同一の犯罪事実についてその被疑者に対し前に逮捕状の請求又はその発付があつたときは、その旨を裁判所に通知しなければならない。
第200条 @ 逮捕状には、被疑者の氏名及び住居、罪名、被疑事実の要旨、引致すべき官公署その他の場所、有効期間及びその期間経過後は逮捕をすることができず令状はこれを返還しなければならない旨並びに発付の年月日その他裁判所の規則で定める事項を記載し、裁判官が、これに記名押印しなければならない。

A 第六十四条第二項及び第三項の規定は、逮捕状についてこれを準用する。
第201条 @ 逮捕状により被疑者を逮捕するには、逮捕状を被疑者に示さなければならない。

A 第七十三条第三項の規定は、逮捕状により被疑者を逮捕する場合にこれを準用する。
第210条 @ 検察官、検察事務官又は司法警察職員は、死刑又は無期若しくは長期三年以上の懲役若しくは禁錮にあたる罪を犯したことを疑うに足りる充分な理由がある場合で、急速を要し、裁判官の逮捕状を求めることができないときは、その理由を告げて被疑者を逮捕することができる。この場合には、直ちに裁判官の逮捕状を求める手続をしなければならない。逮捕状が発せられないときは、直ちに被疑者を釈放しなければならない。

A 第二百条の規定は、前項の逮捕状についてこれを準用する。
第212条 @ 現に罪を行い、又は現に罪を行い終つた者を現行犯人とする。

A 左の各号の一にあたる者が、罪を行い終つてから間がないと明らかに認められるときは、これを現行犯人とみなす。

1 犯人として追呼されているとき。
2 贓物又は明らかに犯罪の用に供したと思われる兇器その他の物を所持しているとき。
3 身体又は被服に犯罪の顕著な証跡があるとき。
4 誰何されて逃走しようとするとき。
第213条 現行犯人は、何人でも、逮捕状なくしてこれを逮捕することができる。
Article 33

 No person shall be apprehended except upon warrant issued by a competent judicial officer which specifies the offense with which the person is charged, unless he is apprehended, the offense being committed.
第34条

 何人も、理由を直ちに告げられ、且つ、直ちに弁護人に依頼する権利を与へられなければ、抑留又は拘禁されない。又、何人も、正当な理由がなければ、拘禁されず、要求があれば、その理由は、直ちに本人及びその弁護人の出席する公開の法廷で示されなければならない。
本条は、抑留と拘禁についての規定である。

名前 説明
抑留 逮捕に引き続く身柄の拘束で、比較的短期のもの。
拘禁 逮捕に引き続く身柄の拘束で、継続的で長期のもの。


抑留または拘禁する場合については、以下のことをしなければならない。
しなければならないこと 説明
・理由を告げなければならない 嫌疑となっている犯罪の名前だけでは不十分である。抑留または拘禁する根拠となった詳しい犯罪事実を示さなければならない。
・弁護人に依頼する権利を与えなければならない 弁護人を選任する権利を行使できる機会を保障しなければならない(刑事訴訟法第76条以下、第203条以下)。

ただし、第37条の刑事被告人の場合とは異なり、国は国選弁護人をつける必要まではないと考えられている。


弁護人の接見交通権(弁護人等と会って打ち合わせをしたり、書類などの受け渡しができる権利)は認められている。
※拘禁の場合は、拘束される期間が長いため、上記に加えて以下が必要である。

・拘禁する理由は、正当なものでなければならない。
・拘禁する理由は、要求があれば、本人とその弁護人が出席する公開の法廷で示されなければならない。

刑事訴訟法においては、拘禁とは勾留にあたる。刑事訴訟法第82条以下には、勾留理由の開示の制度が設けられている(英米法のヘビアス・コーパスの制度に似ている)。また、人身保護法にも関係する条文がある。
Article 34

 No person shall be arrested or detained without being at once informed of the charges against him or without the immediate privilege of counsel; nor shall be he be detained without adequte cause; and upon demand of any person such cause must be immediately shown in open court in his presence and the presence of his counsel.
第35条

 @ 何人も、その住居、書類及び所持品について、侵入、捜索及び押収を受けることのない権利は、第33条の場合を除いては、正当な理由に基いて発せられ、且つ捜索する場所及び押収する物を明示する令状がなければ、侵されない。

 A 捜索又は押収は、権限を有する司法官憲が発する各別の令状により、これを行ふ。
条文中の語句などについては、以下を参照。

名前 説明
住居 私生活が営まれる場所としての住まいっという意味である。普通の住宅、ホテルの客室、寮、会社、学校などが含まれる。
侵入 住居内に管理者の同意なしに入ることである。
書類及び所持品 現に身に着けているものだけではなく、自分のために事実上支配している一切の物が含まれる。書類も所持品の一つにあたるが、重要なため別に書かれている。また、郵便物は手元にあるものだけではなく、郵便局にあるものも含まれる(通信の秘密の保障を規定している第21条第2項)。ただし、刑事訴訟法では、「被告人から発し、又は被告人に対して発した」ものであれば、差し押さえができるとしている(刑事訴訟法第100条)。
捜索及び押収 捜索及び押収には、正当な理由に基づいて発せられた令状が必要である。
令状 令状は、正当な理由があれば発せられるが、その場合、捜索する場所と押収する物が明らかにされていなければならない(これらが明らかにされていない一般令状は禁じられている)。

一つの捜索または押収ごとに、それぞれ別の令状が必要である。ただし、一つの場所にある数個の物を一括してまとめることはできる。また、一つの事件で、同じ場所で一時に捜索し、そこにある物を押収しようとするときには、それらの場所と物が特定されているならば、「捜索押収令状」という一通の令状を作っても、違憲ではないとされている。

通常であれば令状が必要であるが、第33条の場合は例外である。
第33条の場合 第33条の場合とは、現行犯による逮捕と令状による逮捕のことである。このような憲法にそった逮捕の場合は、逮捕に関連しての捜索や押収も私生活の自由に対する不当な侵害とはいえず、捜査上の必要性も考えられるからである。
※本条は、主に刑事手続きについての規定であるが、行政手続きについても適用すべきだという意見が強い。
Article 35

1) The right of all persons to be secure in their homes, papers and effects against entries, searches and seizures shall not be impaired except upon warrant issued for adequate cause and particulary describing the place to be searched and things to be seized, or except as provided by Article 33.

2) Each search or seizure shall be made upon separate warrant issued by a competent judicial officer.
第36条

 公務員による拷問及び残虐な刑罰は、絶対にこれを禁ずる。
本条は、公務員(特に、裁判・検察・警察関係の公務員を指す)による拷問(被疑者や被告人に自白をさせるために暴行を加えるなどのことである)や残虐な刑罰を禁じる条文である。

拷問は、犯罪の決め手となる自白を得る有効手段として、各国で長く使われていたが、後に廃止する国が増えた。日本では、明治初めに、拷問は公には廃止されたことになっていたが、公務員による拷問は公然の秘密として行われていたといわれている。

このような過去の反省を踏まえ、憲法において、拷問の絶対禁止を規定している。当然、拷問により得られた自白には証拠能力はない。

残虐な刑罰とは、精神的・肉体的に無用な苦痛を与え、残酷な印象を与えるような刑罰のことである。どの程度あれば、残虐な刑罰と言えるかは、時代や状況により異なる。ここで問題となるのが、死刑についてである。最高裁判所は、第13条と第31条により、死刑は合憲であるとしている。ただし、死刑の方法が、火あぶり、はりつけ等のものであれば、残虐な刑罰になるとしている。また、死刑判決が下ってから、死刑が行われることなく30年以上拘禁されていたとしても、残虐な刑罰には該当しないとしている。

また、行われた犯罪に対して非常に重い判決が下った場合や、軽い犯罪に対して重い刑罰を定めておくことは、残虐な刑罰になるのかという問題がある。本条が規定する残虐な刑罰は、刑罰の種類や性質についてのものであるため、問題とはならない(これについては、犯罪と刑罰は釣り合ったものでなければならないとする罪刑法定主義の問題と関係する。)。
Article 36

 The infliction of torture by any public officer and cruel punishments are absolutely forbidden.
第37条

 @ すべて刑事事件においては、被告人は、公平な裁判所の迅速な公開裁判を受ける権利を有する。

 A 刑事被告人は、すべての証人に対して審問する機会を充分に与へられ、又、公費で自己のために強制的手続により証人を求める権利を有する。

 B 刑事被告人は、いかなる場合にも、資格を有する弁護人を依頼することができる。被告人が自らこれを依頼することができないときは、国でこれを附する。
本条は、第38条と並んで、現在の刑事訴訟法の基本的な考え方に大きな影響を与えており、被告人の権利について規定している。

本条があげている被告人の権利は、以下である。
本条 被告人の権利 説明
第1項 ・公平な裁判所の迅速な公開裁判を受ける権利 公平な裁判所とは、構成などの点において、当事者の一方に対して不利だったり、有利だったりするようなことがない裁判所のことである。

刑事訴訟法や刑事訴訟規則では、裁判の公平を得るために、裁判所職員について、除斥・忌避・回避の制度を設けている。これらの制度により、被告人などと利害関係にある者や、その事件について検察官の職務をした者などは、裁判官や書記官から除かれることになっている。

刑事訴訟法では、裁判は検察官の起訴状の提出により開始され、起訴状には裁判官に予断を抱かせるようなことは、書いてはいけないという、起訴状一本主義が採用されている(刑事訴訟法第256条)。


裁判は、迅速に行わなければならない。刑事裁判の場合、長期化するほど被告人に与える不安や不利益は増大する。どの程度が迅速であるかは、一概には言えず、事件の性質などによって判断される。また、裁判が不当に遅れた場合について、被告人を救済する方法などについては、憲法にも刑事訴訟法にも規定がない。最高裁判所は、裁判が著しく遅れた場合は、審理を打ち切るという非常救済手段がとられるべきであり、免訴の言い渡しをするのが相当であるとしている。


裁判は、公開でなければならない。これは、対審と判決が公開法廷で行われることをいう。大日本帝国憲法下では、予審判事がおり、検事の請求があれば、被告人をあらかじめ取り調べておき、被告人は、公開法廷では予審判事の前で述べたことをそのまま認めなければならないという制度があった。もしこのような制度が現在あれば、本条に違反することになる。
第2項 ・すべての証人に対して審問する機会を充分に与へられ、又、公費で自己のために強制的手続により証人を求める権利 鑑定人や参考人などを広く含む全ての証人に対して、反対尋問する権利が認められている。審問なしに、証言が証拠にならないように保障されている。この結果、被告人の反対尋問にさらされない証人の証言や供述調書などの供述証拠は、証拠にならない(これを伝聞証拠禁止の原則という。刑事訴訟法第320条。)。ただし、この原則には一部の例外もある(刑事訴訟法第321条参照)。


逆に、被告人は、公費で、自分に対して有利な証言をする証人を求める権利がある(ただし、被告人が申請する全ての証人を喚問しなければならないということではない。)。
第3項 ・弁護人を依頼する権利(被告人が依頼しない場合は、国が弁護人をつける) 被告人に対しても、被疑者と同じように、弁護人を依頼する権利が認められている(第34条、刑事訴訟法第30条第1項)。

弁護人とは、弁護士法に規定されている弁護士のことである。弁護士ではない特別弁護人を依頼するためには、裁判所の許可が必要である(刑事訴訟法第31条)。

また、被告人が経済的理由やその他の理由などにより、弁護人を依頼できないときは、被告人からの請求があれば、国は弁護人をつけなければならない(国選弁護人制度)。ただし、死刑・無期・3年を超える懲役や禁錮にあたるような事件の場合には、被告人からの請求がなくても、国は弁護人をつけなければならない(必要的弁護)。

つまり、必要的弁護の場合を除いて、被告人からの請求がなければ、被告人に弁護人がいないまま裁判が行われても、違憲とはならない。

過去に、裁判所が国選弁護人の再任を拒否して、弁護士不在のまま審理が行われ判決があった事件があった。最高裁判所は、被告人が正当な防御活動を行う意思がないことを自らの行動により表明していた場合には、被告人の国選弁護人の再選任請求に対して、裁判所が応じる義務はないとした。
Article 37

1) In all criminal cases the accused shall enjoy the right to a speedy and public trial by an impartial tribunal.

2) He shall be permitted full opportunity to examine all witnesses, and he shall have the right of compulsory process for obtaining witnesses on his behalf at public expense.

3) At all times the accused shall have the assistance of competent counsel who shall, if the accused is unable to secure the same by his own efforts, be assigned to his use by the State.
第38条

 @ 何人も、自己に不利益な供述を強要されない。

 A 強制、拷問若しくは脅迫による自白又は不当に長く抑留若しくは拘禁された後の自白は、これを証拠とすることができない。

 B 何人も、自己に不利益な唯一の証拠が本人の自白である場合には、有罪とされ、又は刑罰を科せられない。
本条は、黙秘権と自白についての規定である。

戦前は、「自白は証拠の王である」と言われたほど、自白が証拠として偏重され、処罰の根拠とされた。拷問などを行い、自白させることもあったと言われている。

このようなことの反省の上に、本条が規定されている。

条文 説明
第1項 ・自己に不利益な供述を強要されない 自己に不利益な供述とは、刑罰を科せられるような事実の告白のことである。本条を受けて、刑事訴訟法では、被疑者・被告人に黙秘権を保障している(刑事訴訟法第198条、第291条、第311条)。また、証人は、不利益な事実を述べない自由は、刑事訴訟の場合以外にも認められている(民事訴訟法第196条、議院証言法第4条など)。

この黙秘権については、かつて、自分の氏名を言わないことについても認められるのかどうか争われたことがある。最高裁判所は、「氏名などは、原則として、刑事上の責任を問われるおそれのあるような不利益には該当しない」、としている。
第2項 強制、拷問若しくは脅迫による自白又は不当に長く抑留若しくは拘禁された後の自白は、これを証拠とすることができない。 肉体的・精神的・その他の方法により自由な意思決定を妨げその結果得られた自白や、不当に長く拘束した後の自白は、証拠とすることができない。

なぜこれらの自白が、証拠とすることができないかといえば、「任意になされなかった供述」だからである(刑事訴訟法第319条第1項など)。

しかし、最近では、自白を得る手段やその過程が違法なものであれば、その結果得られた自白も当然違法なものとなるため、証拠として扱うことはできないという考え方が一般的である。
第3項 自己に不利益な唯一の証拠が本人の自白である場合には、有罪とされ、又は刑罰を科せられない。 本人の自白以外に証拠がないときは、有罪とされることがない。自白の強要を防ぐためである。

公判廷における自白は、本人の自白に該当するのかどうかという問題について、最高裁判所は、「強制が加わる余地がない」ことや、「被告人が虚偽の自白をしても弁護人が訂正できる」ことなどを理由に、本人の自白には該当しないとしている(この最高裁判所の判例に対しては、心理的な強制を受けることもありえるし、弁護人が必ず訂正できるとは限らないとして、反対の意見が強い。)。また、刑事訴訟法第319条第2項では、「公判廷における自白であると否とを問わず、その自白が自己に不利益な唯一の証拠である場合には、有罪とされない」、としている。、
Article 38

1) No person shall be compelled to testify against himself.

2) Confession made under compulsion, torture or threat, or after prolonged arrest or detention shall not be admitted in evidence.

3) No person shall be convicted or punished in cases where the only proof against him is his own confession.
第39条

 何人も、実行の時に適法であつた行為又は既に無罪とされた行為については、刑事上の責任を問はれない。又、同一の犯罪について、重ねて刑事上の責任を問はれない。
本条は、国民が以下のような場合には、罰せられることがないことを規定している。

条文中 名前 説明
・実行のときに適法であった行為 遡及処罰の禁止 行為をした当時は適法であったが、後からこの行為を違法とするような法律ができたため、遡って過去の行為を違法とするようなことはできない。

遡及処罰の禁止には、以下のような場合の全てが該当する。

・実行時に適法だった行為について、後からその行為を違法とする法律を作り、罰すること

・実行時に既に違法とされていたが、罰則がなかった行為について、新たに罰則を設けて罰すること

・実行時に定められていた罰則よりも、重い罰則を定めて、罰すること
・無罪とされた行為 一事不再理 すでに無罪という判決が確定した行為について、それを覆して再び罰することはできない。

ただし、下級審が下した判決等に対して、検察官が上訴するような場合は、該当しない。
・同一の犯罪について 二重処罰の禁止 ある犯罪を罰した後で、同じ犯罪について、さらに別の罪で罰することはできない。
※一事不再理と二重処罰の禁止については、過去に多くの事件においてこれらの原則に反するとして争いがある。しかし、最高裁判決においては、原則に反するとされたケースはない。例えば、刑法第56条と第57条の再犯者に対する刑の加重などは、二重処罰ではないとされている。また、弁護士法上の懲戒処分(これは刑罰ではない)と刑罰をあわせて科しても、二重処罰ではないとしている。
Article 39

 No person shall be held criminally liable for an act which was lawful at the time it was committed, or of which he has been acquitted, nor shall he be placed in double jeopardy.
第40条

 何人も、抑留又は拘禁された後、無罪の裁判を受けたときは、法律の定めるところにより、国にその補償を求めることができる。
本条は、抑留または拘禁された後に、無罪の裁判を受けた場合、被疑者や被告人とされた者(被害者)は、多大な精神的・肉体的・経済的な苦渋を受けた可能性が高いため、国家が償うことを規定した条文である。被害者は、国家に対して、その補償を請求する権利(刑事補償請求権)を有する。

本条の規定を受けて、刑事補償法という法律が定められている。また、法廷等の秩序維持に関する法律第8条には、監置後、監置の制裁を取り消す裁判があった場合の補償請求権を認め、刑事補償法を準用すると規定している。この他、「日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約第六条に基づく施設及び区域並びに日本国における合衆国軍隊の地位に関する協定の実施に伴う刑事特別法」では、合衆国軍事裁判所または合衆国軍隊による拘留または拘禁を、刑事訴訟法による抑留または拘禁とみなすと規定している。

補償請求ができるための要件は、以下である。
要件 説明
その1:抑留または拘禁されたこと 未決の抑留、拘禁、刑の執行、拘置などのことである。
その2:その1の後に、無罪の裁判を受けたとき 被告事件が罪とならないときのことである。また、刑事補償法第25条第1項では、「刑事訴訟法 の規定による免訴又は公訴棄却の裁判を受けた者は、もし免訴又は公訴棄却の裁判をすべき事由がなかつたならば無罪の裁判を受けるべきものと認められる充分な事由があるときは、国に対して、抑留若しくは拘禁による補償又は刑の執行若しくは拘置による補償を請求することができる。」、と規定している。


補償の内容については、刑事補償法第4条などに規定されている。以下を参照。
条文 内容
刑事補償法第4条 @ 抑留又は拘禁による補償においては、前条及び次条第二項に規定する場合を除いては、その日数に応じて、一日千円以上一万二千五百円以下の割合による額の補償金を交付する。懲役、禁錮若しくは拘留の執行又は拘置による補償においても、同様である。

A 裁判所は、前項の補償金の額を定めるには、拘束の種類及びその期間の長短、本人が受けた財産上の損失、得るはずであつた利益の喪失、精神上の苦痛及び身体上の損傷並びに警察、検察及び裁判の各機関の故意過失の有無その他一切の事情を考慮しなければならない。

B 死刑の執行による補償においては、三千万円以内で裁判所の相当と認める額の補償金を交付する。ただし、本人の死亡によつて生じた財産上の損失額が証明された場合には、補償金の額は、その損失額に三千万円を加算した額の範囲内とする。

C 裁判所は、前項の補償金の額を定めるには、同項但書の証明された損失額の外、本人の年齢、健康状態、収入能力その他の事情を考慮しなければならない。

D 罰金又は科料の執行による補償においては、すでに徴収した罰金又は科料の額に、これに対する徴収の日の翌日から補償の決定の日までの期間に応じ年五分の割合による金額を加算した額に等しい補償金を交付する。労役場留置の執行をしたときは、第一項の規定を準用する。

E 没収の執行による補償においては、没収物がまだ処分されていないときは、その物を返付し、すでに処分されているときは、その物の時価に等しい額の補償金を交付し、又、徴収した追徴金についてはその額にこれに対する徴収の日の翌日から補償の決定の日までの期間に応じ年五分の割合による金額を加算した額に等しい補償金を交付する。
刑事補償法第24条 @ 裁判所は、補償の決定が確定したときは、その決定を受けた者の申立により、すみやかに決定の要旨を、官報及び申立人の選択する三種以内の新聞紙に各一回以上掲載して公示しなければならない。

A 前項の申立は、補償の決定が確定した後二箇月以内にしなければならない。

B 第一項の公示があつたときは、さらに同項の申立をすることはできない。

C 前三項の規定は、第五条第二項前段に規定する理由による補償の請求を棄却する決定が確定した場合に準用する。
Article 40

 Any person, in case he is acquitted after he has been arrested or detained, may sue the State for redress as provided by law.
トップへ戻る