憲法 条文 憲法 解説
第5章 内閣(Chapter 5:THE CABINET)
第65条

 行政権は、内閣に属する。
国を治める力を統治権または主権といい、以下の三つから構成される。

名前 機関 説明
立法権 国会 法律を作る権力のことである(第41条)。
司法権 裁判所 裁判をする権力のことである(第76条)。
行政権 内閣 統治権から立法権と司法権を除いた残りの全てのことである(消極説・控除説)。
※この三つの権力が、互いに独立し異なった機関により担当されることを、三権分立という。
※行政権の内容は複雑であり、分類も数多くあるため、上記のような説明となる。


本条は、内閣は、国の最高中央行政官庁であり、行政権について国の最高責任機関であるという規定である。大日本帝国憲法においては、内閣は、天皇を輔弼する(助ける)協賛機関であり、官庁という性格はほとんど認められていなかった(現在の憲法では、この関係が逆になり、天皇の国事行為について助言と承認を行い、また、行政官庁となっている。)。


行政権は内閣に属するが、行政を行う権限全てについて、内閣が行うということではない。例えば、国会は実質的に予算の議決や国政を調査するし、最高裁判所は裁判所の予算や人事に関する事務を行う。しかし、逆に、内閣は政令を作ることができ、また、特許審判や海難審判を行うことができる(つまり、立法権や司法権がある。)。


内閣は、最高行政機関であるため、内閣に対して、まったく独立した地位のある他の行政機関は認められない(ただし、会計検査院は、憲法の規定により、認められている。)。憲法は、全て行政権の行使については、国会に対して内閣に共同責任を負わしているためである(第66条)。つまり、行政権を国会を通して国民による民主的なコントロールの下に置くためである。



Article 65

 Executive power shall be vested in the Cabinet.
第66条

 @ 内閣は、法律の定めるところにより、その首長たる内閣総理大臣及びその他の国務大臣でこれを組織する。

 A 内閣総理大臣その他の国務大臣は、文民でなければならない。

 B 内閣は、行政権の行使について、国会に対し連帯して責任を負ふ。
内閣は、内閣総理大臣と20人以内の国務大臣で構成される合議機関である。内閣が何か仕事を行う場合は、閣議(内閣総理大臣が議長となり、指揮監督する)によって決定する。

内閣総理大臣は、国務大臣を任命し(第68条)、各省大臣は、国務大臣の中から、内閣総理大臣がこれを命ずる(国家行政組織法第5条)。行政大臣とは、内閣府と各省の長のことをいい、これらが主任の大臣として、それぞれ自分の職域に関する行政事務を分担し管理する。ただし、行政事務を分担し管理しない大臣もいる(これを無任所大臣という)。

内閣総理大臣は、広義の国務大臣だが、首長という特別の地位が与えられており、その他の国務大臣よりも上位にあり、内閣を代表し、国務大臣の任免権などがある(第68条、第72条)。大日本帝国憲法においては、内閣総理大臣は、天皇により任命され、その他の国務大臣と同列であった(当然、その他の国務大臣の任免権などはなかった)。

内閣総理大臣とその他の国務大臣は、文民でなければならない。この場合、文民の定義については、以下のような考え方がある。
・その1:現在と過去において、職業軍人(自衛官も含む)としての経歴がない者である。
・その2:強い軍国主義思想を持たない者
・その3:現在においてだけ軍人でない者

一般的には、その1の考え方が、文民の定義となっている。

内閣は、行政権の行使について、国会に対して連帯して責任を負う。国会に対して責任を負うため、最終的には、つまり国民に対して責任を負うということである。この責任は、内閣が行った行政権の行使についてであるため、個々の国務大臣に関するものなどは、その国務大臣が個別的に責任を負うこととなる。

国会が内閣の責任を追及する場合は、以下のような手段がある。
・質疑
・質問
・国政調査
・衆議院の内閣不信任案の可決(これが一番強力である)
Article 66

1) The Cabinet shall consist of the Prime Minister, who shall be its head, and other Ministers of State, as provided for by law.

2) The Prime Minister and other Ministers of State must be civilians.

3) The Cabinet, in the exercise of executive power, shall be collectively responsible to the Diet.
第67条

 @ 内閣総理大臣は、国会議員の中から国会の議決で、これを指名する。この指名は、他のすべての案件に先だつて、これを行ふ。

 A 衆議院と参議院とが異なつた指名の議決をした場合に、法律の定めるところにより、両議院の協議会を開いても意見が一致しないとき、又は衆議院が指名の議決をした後、国会休会中の期間を除いて十日以内に、参議院が、指名の議決をしないときは、衆議院の議決を国会の議決とする。
内閣総理大臣(首相)は、国会議員でなければならない(在職中は、常に国会議員でなければならない。)。従って、指名就任後、内閣総理大臣が議員辞職した場合、議院により除名された場合(第58条)、その他当選訴訟・資格訴訟(第55条)により議員資格を失った場合は、内閣総理大臣はその地位を失う(第70条)。

内閣総理大臣の指名方法は、衆議院規則と参議院規則の定めるところによる。以下を参照。
名前 条文
衆議院規則 第18条 @ 内閣総理大臣の指名については、記名投票で指名される者を定める。

A 投票の過半数を得た者を指名される者とし、その者について指名の議決があつたものとする。

B 投票の過半数を得た者がないときは、第八条第二項の規定を準用して指名される者を定め、その者について指名の議決があつたものとする。

C 議院は、投票によらないで、動議その他の方法により、指名することができる。
参議院規則 第20条 @ 内閣総理大臣の指名は、単記記名投票でこれを行う。

A 投票の過半数を得た者を指名された者とする。

B 投票の過半数を得た者がないときは、投票の最多数を得た者二人について決選投票を行い、多数を得た者を指名された者とする。但し、得票数が同じときは、決選投票を行わなければならない二人又は指名される者を、くじで定める。

C 議院は、投票によらないで、動議その他の方法により指名することができる。
※指名は、他の全ての案件に先立って行わなければならないが、議会が指名しうる状態にあることが前提である。従って、議席の指定、議長・副議長などの役員選挙、会期の決定などは、指名に先立って行っても良いということである。
※指名は、議会が開催中であれば直ちに行わなければならない。休会中であれば、議長が直ちに緊急の必要があるものとして会議を開きその指名を行う。閉会中であれば、内閣が直ちに臨時会を招集し、指名の手続きを行う。


指名から成立するまでの過程は、以下を参照。
衆議院または参議院で指名 衆議院で指名
もう一方の議院に通知 参議院に通知
指名の一致 指名の不一致 10日以内に、
参議院が、
指名せず
両院協議会
指名一致 指名不一致
10日以内に、
一致した指名を
衆議院と
参議院で
別々に議決
参議院が否決 参議院が可決
衆議院が否決
初めの衆議院の指名
成立
※両院協議会(第59条)は、参議院から求めなければならない(国会法第86条)。そして、衆議院はこれを拒むことはできない(国会法第88条)。この部分については、法律制定の手続きとは違うため、注意する必要がある。
※両院協議会で意見が一致したとしても、それを衆議院と参議院でまた別々に議決しなければならない。また、この期間は、10日以内である。
Article 67

1) The Prime Minister shall be designated from among the members of the Diet by a resolution of the Diet. This designation shall precede all other business.

2) If the House of Representatives and the House of Councillors disagree and if no agreement can be reached even through a joint comittee of both Houses, provided for by law, or the House of Councillors fails to make designation within ten (10) days, exclusive of the period of recess, after the House of Reperesentatives has made designation, the decision of the House of Representatives shall be the decision of the Diet.
第68条

 @ 内閣総理大臣は、国務大臣を任命する。但し、その過半数は、国会議員の中から選ばれなければならない。

 A 内閣総理大臣は、任意に国務大臣を罷免することができる。
内閣総理大臣は、国務大臣を任命する。任命された国務大臣は、別に法律の定めるところにより各省大臣として行政の事務を分担する(内閣法第3条、国家行政組織法第5条)。

国務大臣の過半数は、国会議員の中から選ばなければならない。これは、内閣と国会との関係を密接にし(議院内閣制)、間接的に国民の批判を受けることとしたためである。国務大臣の人数が全体で20人だとすると、最低でも11人は国会議員でなければならないということである。「国会議員の中から」というのは、在任要件ではなく、選任要件であると考えられている。つまり、国会議員である国務大臣が、国会議員としての資格を失ったからといって、当然に国務大臣の地位も失うことはない。また、当然、辞職しなければならないということでもない。ただし、全国務大臣の過半数は、国会議員である必要がある(本条)。

国務大臣の任命には、天皇の認証が必要である(第7条第5号)。この認証には、事の性質上、内閣の助言と承認は必要でない(第3条、第7条)。


内閣法第9条には、「内閣総理大臣に事故のあるとき、又は内閣総理大臣が欠けたときは、その予め指定する国務大臣が、臨時に、内閣総理大臣の職務を行う」、と規定されている(いわゆる副総理)。この場合、総理大臣に代わって、国務大臣を任命したり罷免することはできない。


また、内閣総理大臣は、自由に、国務大臣を免職させることができる。この場合、閣議にかける必要などはなく、内閣総理大臣が独断で決めることができる。
Article 68

1) The Prime Minister shall appoint the Ministers of State. However, a majority of their number must be chosen from among the members of the Diet.

2) The Prime Minister may remove the Ministers of state as he chooses.
第69条

 内閣は、衆議院で不信任の決議案を可決し、又は信任の決議案を否決したときは、十日以内に衆議院が解散されない限り、総辞職をしなければならない。
衆議院が、内閣を信任しないと決議したとき(不信任決議案の可決と信任決議案の否決は、どちらも、信任しないという意味である。)は、内閣は、10日以内に衆議院を解散するか、総辞職するか、どちらかを選ばなければならない。

名前 説明
信任決議案 衆議院の与党側から提出される場合が多い。
不信任決議案 衆議院の野党側から提出される場合が多い。
※信任決議案と不信任決議案は、参議院には認められていない権限である(参議院にも、内閣に対する不信任決議をすることは可能であるが、内閣は総辞職をする義務などは負わない。)。

※衆議院は、内閣に対してではなく、個々の国務大臣に対しても不信任決議を可決することができる(第66条)。しかし、これは、本条の性質とは異なるものである。


衆議院の解散とは、衆議院議員の任期満了前に、議員全員に対して、その議員の資格を失わしめることである。この趣旨は、政治上の問題を国民の客観的な判断により決めようとするものである。10日以内に、解散しなかった場合は、内閣が必ず総辞職しなければならない(解散もせず、総辞職もせずということはできない。)。なお、本条の10日以内というのは、当日から起算される(国会法第133条)。


衆議院が内閣を信任しないというのは、衆議院と内閣の意見が悉く対立しているような場合に起きることである。このような場合には、最終的に国民に判断を仰がなければならない。内閣が衆議院を解散するということは、衆議院の意見が国民の世論を代表しているのかどうかを、確かめるために行うのである。そして、総選挙後に開かれる国会の召集があったとき、内閣は総辞職しなければならない(内閣は、結局のところ、総辞職する。)。


衆議院の解散は、本条の場合にだけ行われるのではなく、内閣の自由な判断により行うことができる。もし、衆議院の意見が国民の世論を反映しているかどうか疑わしいようなときに、衆議院が内閣を不信任しないとすれば、解散も総辞職もできなければ、国民の世論をかえりみることのない政治が行われることになる。このようなことがないように、内閣は、自由な判断により、国民の世論をきくために、衆議院を解散することができる。


なお、内閣ではなく、衆議院が自律的に衆議院を解散することができるかについては、争いがある。

また、衆議院の解散が憲法に違反して行われた場合について(衆議院の解散は本条の場合に限り行うことができるという意見もあり、この意見に従えば本条以外の理由により解散する場合は違憲となる。)、その解散無効確認の訴えが許されるかどうかについては、苫米地訴訟というものがある。この訴訟においては、一審と二審で、本条以外による解散も許されるとされたが、最高裁では統治行為(高度な政治問題)の理論をとり、裁判所の審査権にはなじまない(審査できない)という判決が下された(昭和35年6月8日)。
Article 69

 If the House of Representatives passes a non-confidence resolution, or rejects a confidence resolution, the Cabinet shall resignen masse, unless the House of Representatives is dissolved within ten (10) days.
第70条

 内閣総理大臣が欠けたとき、又は衆議院議員総選挙の後に初めて国会の召集があつたときは、内閣は、総辞職をしなければならない。
内閣が、総辞職しなければならないときは、以下のような場合である。

・内閣総理大臣が、欠けたとき(死亡したとき、裁判により公職につくことを禁じられた場合、資格争訟により資格を失ったとき(第55条)、除名されたとき(第58条)、国外亡命したとき、日本国籍を失ったときなど)
・衆議院総選挙(任期満了、衆議院解散による)の後に初めて国会の召集があったとき
・衆議院が内閣不信任を決議したとき(第69条)
・内閣が閣内の統一を保つことができないとき(この場合は、総辞職することができる)
・内閣が内閣の方針を遂行することができないとき(この場合は、総辞職することができる)


内閣総理大臣は、国務大臣を任命したり、行政各部を指揮監督する強い権限が認められているため、内閣総理大臣が欠けたときは、必ず内閣は総辞職しなければならない。この場合、あらかじめ指定された国務大臣が、臨時に内閣総理大臣の職務を行う(内閣法第9条)。そして、総辞職すれば、国会は、他の案件に先立って、新たな内閣総理大臣を指名しなければならない(第67条)。


衆議院解散のときは、解散日から40日以内に総選挙、総選挙の日から30日以内に国会の召集を行わなければならない(第54条)。これらの期間中であっても、内閣は次の内閣総理大臣が任命されるまで、職務を行わなければならない(第71条)。
Article 70

 When there is a vacancy in the post of Prime Minister, or upon the first convocation of the Diet after a general election of members of the House of Representatives, the Cabinet shall resign enmasse.
第71条

 前二条の場合には、内閣は、あらたに内閣総理大臣が任命されるまで引き続きその職務を行ふ。
前二条の場合とは、内閣が総辞職した場合ということである。条文中は、前二条の場合と限定されているが、前二条により総辞職した場合に限らず、一切の総辞職についての規定であると解したほうが良い。内閣が総辞職した場合、国の行政を担当するものが一時的にでも欠けていたのでは、国の政治が円滑に実施されないためである。

条文中の、「あらたに内閣総理大臣が任命されるまで」は、新内閣が成立するまで、という意味である。そうでないと、新内閣総理大臣一人で内閣を組織し、一人で行政を担当するという矛盾が生じるためである。内閣は、行政権の担当者として合議制の機関である。


昭和22年5月24日、内閣総理大臣に片山哲が任命されたが、他の国務大臣を任命するまで9日間、一人で臨時に行政大臣の職務を行ったことがあった。これは、合議制の内閣の趣旨に反するものであった。

現在では、新内閣総理大臣が国会で指名された後は、すぐに国務大臣を任命し、内閣総理大臣と各国務大臣の任命が同日に行われるようになっている。


新内閣の成立までは、以下のように行う。
総辞職の決定
両議院の議長に通告(国会法第64条)
国会による新内閣総理大臣の指名(第67条)
新内閣総理大臣の指名を受けた者による組閣完了
旧内閣総理大臣に通告
旧内閣の閣議、新内閣総理大臣の任命についての助言と承認
新内閣総理大臣の任命、新国務大臣の任命と認証(任命式と認証式)
新内閣の成立を国会に通告
Article 71

 In the cases mentioned in the two preceding articles, the Cabinet shall continue its functions until the time when a new Prime Minister is appointed.
第72条

 内閣総理大臣は、内閣を代表して議案を国会に提出し、一般国務及び外交関係について国会に報告し、並びに行政各部を指揮監督する。
本条は、内閣総理大臣の主な仕事について規定している。内閣総理大臣の仕事は、本条以外にも規定されている。以下を参照。

条文 内容
本条 議案を国会に提出すること
一般国務及び外交関係について国会に報告すること
内閣の仕事に関係ある役所を指揮監督すること
第63条 両議院への出席権、発言権
第68条 国務大臣の任免権
第74条 法律と政令の署名・連署
第75条 国務大臣の訴追同意権
内閣法
第4条
閣議を開くときの議長としての職務
内閣法
第7条
権限争議裁決権
※内閣は、議案を一つの議院に提出したときは、予備審査のため、提出日から5日以内に他の議院に同一の案を送付しなければならない(国会法第58条)。また、各議院の会議または委員会において議題となった議案を修正したり撤回するときは、その院の承諾が必要である。ただし、一つの議院で議決後は、修正や撤回はできない(国会法第59条)。

※内閣総理大臣は行政各部を指揮監督するが、これについては、内閣法の第6条(内閣総理大臣は、閣議にかけて決定した方針に基いて、行政各部を指揮監督する。)と第8条(内閣総理大臣は、行政各部の処分又は命令を中止せしめ、内閣の処置を待つことができる。 )にも規定がある。
Article 72

 The Prime Minister, representing the Cabinet, submits bills, reports on general national affairs and foreign relations to the Diet and exercises control and supervision over various administrative branches.
第73条

 内閣は、他の一般行政事務の外、左の事務を行ふ。

 1 法律を誠実に執行し、国務を総理すること。

 2 外交関係を処理すること。

 3 条約を締結すること。但し、事前に、時宜によつては事後に、国会の承認を経ることを必要とする。

 4 法律の定める基準に従ひ、官吏に関する事務を掌理すること。

 5 予算を作成して国会に提出すること。

 6 この憲法及び法律の規定を実施するために、政令を制定すること。但し、政令には、特にその法律の委任がある場合を除いては、罰則を設けることができない。

 7 大赦、特赦、減刑、刑の執行の免除及び復権を決定すること。
本条は、内閣が行う事務について規定している(本条以外にもある)。

本条 説明
第1号 「国務を総理すること」とは、国の仕事(国務)である行政事務を内閣が最高の責任者として指揮し監督するということである。

国会が制定した法律を内閣が違憲であると判断した場合であっても、内閣は誠実に執行しなければならない(第99条の憲法尊重擁護義務、第81条の司法機関による違憲審査権)。
第2号 全権委任状、大使・公使の信任状、各種外交文書などを作成し(第7条第5号、第8号)、または、外国使節の接受に同意を与えたりすることである。
第3号 条約とは、協約・協定・議定書・決定書・覚書・交換通牒なども含まれる。条約が署名により成立する場合は、署名前に、また条約が署名および批准(第7条第8号)で成立するときは、その前に国会の承認が必要である。ただし、内閣は、便宜的に条約締結後に国会の承認を得てもよい。

条約を締結後に、内閣が国会に対して承認を求めたが、国会が承認しなかった場合は、以下の二つのことが考えられる。

その1:条約締結は、内閣の職務であるため、国会の承認を得られなかったとしても、条約は有効である。ただし、内閣の政治責任は残る。
その2:条約締結には、必ず国会の承認が必要であり、国会の承認によって効力が発生する。

一般的には、その2が正しいと考えられている。条約は法律と同じであり、国民生活と密接な関係にあるため、条約が効力を発するためには、国民の代表機関である国会の承認が必ず必要である。

なお、1969年の条約法に関するウィーン条約第46条第1項には、「いずれの国も、条約に拘束されることについての同意が条約を締結する権能に関する国内法の規定に違反して表明されたという事実を、当該同意を無効にする根拠として採用することができない。ただし、違反が明白でありかつ基本的な重要性を有する国内法の規則に係るものでる場合は、この限りではない。」としている。
第4号 法律とは、国家公務員法のことである。これに従って、一切の国家の公務員の人事に関する行政事務を総括し司る。国会議員、その職員および地方議会の議員と吏員は、本条が言う公務員には含まれない。
第5号 予算の原案を作成し、国会に提出し、その審議を受けること(第86条)。
第6号 内閣が作る法律を、政令という。政令には、執行命令(法律を実施するための性質のもの)と、委任命令(法律の委任による命令)がある。政令には、法律からの許し(委任)がなければ、罰則を設けることはできない。
第7号 恩赦を決定すること(第7条第6号)。
※これらの規定は、内閣の行う事務について、主なものである。当然、これ以外にも存在する(憲法や内閣法などに規定されている)。


本条以外の内閣が行う事務については、以下を参照。
条文 説明
第3条
第7条
天皇の国事行為について、助言と承認を与えること
第6条
第79条
第80条
・最高裁判所長官の指名
・その他の裁判官の任命
第53条 国会の臨時会の召集を決定すること
第54条 参議院の緊急集会を求めること
第72条 法律案を提出すること
第87条 予備費を設け、これを支出すること
第90条 決算の検査報告を国会に提出すること
第91条 国会および国民に財政報告をすること
※これ以外に、内閣法が規定している事務等がある。
Article 73

 The Cabinet, in addition to other general administrative functions, shall perform the following functions :

(1) Administer the law faithfully : conduct affairs of state.

(2) Manage foreign affairs.

(3) Conclude treaties. However, it shall obtain prior or, depending on circumstances, subsequent approval of the Diet.

(4) Administer the civil service, in accordance with standards established by law.

(5) Prepare the budget, and present it to the Diet.

(6) Enact cabinet orders in order to execute the provisions of this Constitution and of the law. However, it cannot include penal provisions in such cabinet orders unless authorized by such law.

(7) Decide on general amnesty, special amnesty, commutation of punishment, reprieve, and restoration of rights.
第74条

 法律及び政令には、すべて主任の国務大臣が署名し、内閣総理大臣が連署することを必要とする。
本条をまとめると、以下になる。

名前 説明
法律及び政令 署名や連署が必要なのは、法律と政令である。しかし、憲法改正や条約などについても、同様に署名や連署が必要であると考えられている。

署名や連署がなされていない法律や政令は、有効であるのかという問題がある。法律は国会、政令は内閣が制定するものであるため、署名や連署の有無にかかわらず、有効であると考えられている。もし、無効となるのであれば、法律や政令を国務大臣が有効または無効にできることとなり、憲法の精神に反することなる。
主任の国務大臣 例えば、教育に関する法律が国会で制定されたとする。この法律を国民のために実施するのは、内閣の仕事である(第73条)。そして、内閣の指揮監督の下において、教育に関する法律を分担し管理する責任者は、文部科学大臣(主任の国務大臣)である。

もし、法律と政令の内容に関する行政事務を担任する大臣が二人以上いる場合は、関係する国務大臣全てが署名しなければならない。この場合は、総務・法務・外務・財務・文部科学・厚生労働・農林水産・経済産業・国土交通・環境の順に署名することとなる。

また、内閣総理大臣も、主任の国務大臣に含まれる。例えば、内閣府の長は、内閣総理大臣である(内閣府設置法)。内閣府に関係のある法律や政令については、主任の国務大臣として署名しなければならない(この場合、連署は必要ではない。主任の国務大臣として、連署を兼ねた署名をする。)。
※行政事務を担当しない国務大臣を無任所大臣という(内閣法第3条)。無任所大臣の反対を、主任の大臣(本条に規定されている大臣のことである)という。この無任所大臣は、本条の署名には加わらない。しかし、内閣は国会に対して連帯して責任を負うため(第66条)、署名しなかった大臣であっても、行政の職務については内閣として責任を負う必要がある。


なお、本条の署名の形式等は、以下を参照。
  ○○法をここに公布する。
御名 御璽
平成○○年○○月○○日
        内閣総理大臣  氏名
  ○○法


  (本文)


        文部科学大臣  氏名(署名)
        内閣総理大臣  氏名(連署)
Article 74

 All laws and cabinet orders shall be signed by the competent Minister of State and countersigned by the Prime Minister.
第75条

 国務大臣は、その在任中、内閣総理大臣の同意がなければ、訴追されない。但し、これがため、訴追の権利は、害されない。
検察官が、在職中の国務大臣を訴える場合には、内閣総理大臣の許可が必要である(国務大臣には、内閣総理大臣も含まれるため、内閣総理大臣を訴追するかどうかについては、自らが許可するかどうかを決めなければならない。)。許可がない訴えは、効力がないため、裁判所は裁判をすることができない。

また、訴追を許可するかどうかは、内閣総理大臣の自由な判断でよい。判断を誤ったとしても、違憲ではない(ただし、国会において追求されることはありえる。)。

内閣総理大臣は、行政の最高責任者であるから、みだりに検察当局から政治的な関係で国務大臣を訴えることは慎まなければならない。行政が不安定になることを防ぐためである。


本条は訴追についての規定だが、国務大臣の逮捕や拘留についても内閣総理大臣の許可が必要なのかという問題がある。昭和23年の昭和電工疑獄事件において、ある国務大臣が内閣総理大臣の許可なく逮捕されたことがあったが、東京地方裁判所は、本条については、逮捕や拘留とは関係がないという判断をした。しかし、本条の規定の趣旨が、国務大臣の訴追が行政に与える影響を考慮し、行政が不安定にならないようにするためのものであるため、訴追よりも影響が大きい逮捕や拘留についても、やはり内閣総理大臣の許可が必要であると考えられている。


本条の規定は、国務大臣が在職中に限られるため、訴えることの権利が無いというわけではない。国務大臣が、在職中に、罪を犯した場合、その罪の時効は当然進行する。そして、内閣総理大臣が訴追を許可しなかった場合は、その許可しなかったときをもって、罪の時効は国務大臣が在職中の間、停止することになる。
Article 75

 The Ministers of State, during their tenure of office, shall not be subject to legal action without the consent of the Prime Minister. However, the right to take that action is not impaired hereby.
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