憲法 条文 憲法 解説
第7章 財政(Chapter 7:)
第83条

 国の財政を処理する権限は、国会の議決に基いて、これを行使しなければならない。
国の財政とは、国がその目的にかなった活動をするために必要な費用や財産を調達し、これらを保存・維持・使用・処分するなどの働きのことである。国は、基本的に必要な費用を国民からの租税収入によって調達する。つまり、国民の経済的負担によって行われるということである。

そのため、国の財政は国民の代表である国会の議決に基づいて行われなければならない。
Article 83

 The power to administer national finances shall be exercised as the Diet shall determine.
第84条

 あらたに租税を課し、又は現行の租税を変更するには、法律又は法律の定める条件によることを必要とする。
本条は、租税法律主義についての規定である。国が租税を収納するについては、法律が定めているところによって、そのとおりにしなければならないという原則、国民は、法律が定めているところによってのみ、租税を納めればよいという原則のことである。この原則は、国だけではなく地方公共団体の租税についても、当てはめられる。

租税の内容や租税を収納するための手続きを定める規定は、原則として、法律によって定められなければならない。ただし、例外として、特別の種類の租税についてだけは、法律が定めている条件によって、これらの規定を法律以外の法規(第41条、第73条)によって定めることができる。この法律以外の法規とは、法律よりも優越する効力を持つか、少なくとも法律と同じ効力を持つ法規のことである。つまり、条約と国際法規のことである。そして、具体的には、関税ということになる(地方税も例外であるという意見もある)。
Article 84

 No new taxes shall be imposed or existing ones modified except by law or under such conditions as law may prescribe.
第85条

 国費を支出し、又は国が債務を負担するには、国会の議決に基くことを必要とする。
国が費用を支払ったり、国が債務を負担する場合は、国家の議決が必要である。

国が債務を負担するというのは、国が借入金をするということだけではなく、国が金銭債務を負うこと全てを含んでいる。国の支出や債務は、最終的に国民の租税により返済されるものである。そのため、これらは国民の代表である国会の議決により行われなければならない。


議決方法については、いくつかの種類がある。
名前 条文 方法
国が支出を行う場合 憲法第86条 予算を定めるという方法で行われる
国が債務を負担する場合 憲法第86条
財政法第22条
予算を定めるという方法か、法律を定めるという方法
※国会の議決が条約の承認という形で行われることもある(第73条第3号、第61条)。
Article 85

 No money shall be expended, nor shall the State obligate itself, except as authorized by the Diet.
第86条

 内閣は、毎会計年度の予算を作成し、国会に提出して、その審議を受け議決を経なければならない。
本条は、予算の作成から成立までについて規定している。

国の仕事には、立法・司法・行政があるが、国の活動の中で一番大きなウェイトを占めるのは行政である。また、国の収入や支出などを取り扱う財政活動そのものは、行政の活動である。そこで、国の予算の作成は、内閣の職務と規定している(本条、第73条第5号)。

予算は内閣の職務であるが、内閣がこの権限を利用し、財政の面から国会や裁判所を制限することなどがないように、財政法第19条には、「内閣は、国会、裁判所及び会計検査院の歳出見積を減額した場合においては、国会、裁判所又は会計検査院の送付に係る歳出見積について、その詳細を歳入歳出予算に附記するとともに、国会が、国会、裁判所又は会計検査院に係る歳出額を修正する場合における必要な財源についても明記しなければならない。 」と、規定されている(この条文には、会計検査院についても規定されている。)。


本条の語句などは以下を参照。
名前 説明
予算を作成 内閣が国会に提出する予算の案を、財務大臣が作成し、閣議決定により定めることである。憲法では、この予算の案も、国会の議決により成立した予算も、どちらも予算と呼んでいる。
会計年度 日本の会計年度は、毎年4月1日から3月31日までの1年間とされている(財政法第11条)。
歳入予算 一会計年度の一切の収入の見積もり。
歳出予算 一会計年度の一切の支出の最高限度額の見積もり。
国会に提出 内閣が予算を国会に提出する場合、まず先に衆議院に提出しなければならない(第60条)。通常、内閣はその前年度の12月中に、次の会計年度の予算を国会に提出する(財政法第27条)。
予算の成立 予算は、原則として、衆議院と参議院の可決により成立する。詳しくは、第60条を参照。
補正予算 予算成立後、予算の額だけでは不足になり、やむをえない事情がある場合は、不足額を追加するための予算案を、予算作成の手続きと同じ手続きに従って、国会に提出することができる。

また、予算成立後、予算に変更を加える必要があれば、内閣は予算を修正する案を国会に提出することができる。
暫定予算 様々な事情により、一会計年度の予算を作成して国会に提出できないような場合は、内閣は一定期間だけの暫定予算を作成し国会に提出することができる。

この場合、一会計年度の予算が成立したときは、これに吸収される。
継続費 支払いが二つ以上の会計年度にまたがるような費用のことである。ただし、五つ以上の会計年度にまたがるものは認められない(ただし、予算をもって国会の議決後、延長することはできる。)。
特別会計 国が特定の事業を行ったり、特定の資金を保有してこれを運用したりするように、特定の歳入で特定の支出をまかなうときに、一般歳入・歳出と区分して経理をする必要がある場合に設けられる。
Article 86

 The Cabinet shall prepare and submit to the Diet for its consideration and decision a budget for each fiscal year.
第87条

 @ 予見し難い予算の不足に充てるため、国会の議決に基いて予備費を設け、内閣の責任でこれを支出することができる。

 A すべて予備費の支出については、内閣は、事後に国会の承諾を得なければならない。
歳出予算は、国の一会計年度の支出の見積もりであるため、実際的には不足が生じるような場合がある。この場合、補正予算案を編成すればよいが、軽微な補正についてまで議会を招集し補正予算案を審議することは議会運営上、行政運営上非効率である。このような場合、当初予算において使途を限定しない予備費を計上し、軽微な補正についてはこれをもって対処することとしている。

予算を作成するときに、具体的に必要額を予想することはできないが、経験的に通常これぐらい不足が生じるであろうという額を一括して予備費として、予算の中に組み入れておくことができる。当然、この予備費は国民の負担となるため、国の費用を支払うためには国会の議決が必要であるという第85条の原則が適用される。本条では、予備費は国会の議決に基づいて設けなければならないと規定している(議決の方法などは、規定されていない。財政法第24条に、「予見し難い予算の不足に充てるため、内閣は、予備費として相当と認める金額を、歳入歳出予算に計上することができる。」という規定がある。)。

そして、実際、予備費を支出しなければならない必要が生じた場合は、内閣の責任により支出することができる。そして、支出した後に開かれる国会の常会で、支出した予備費の内容を明らかにする予備費支弁の調書を提出しなければならない(財政法第36条)。また、国会により、予備費の支出が妥当であったかの承認を受けなければならない。もし、承認を得られなかったとしても、予備費の支出は有効である(ただし、内閣は政治的責任を問われることになる。)。
Article 87

1) In order to provide for unforeseen deficiencies in the budget, a reserve fund may be authorized by the Diet to be expended upon the responsibility of the Cabinet.

2) The Cabinet must get subsequent approval of the Diet for all payments from the reserve fund.
第88条

 すべて皇室財産は、国に属する。すべて皇室の費用は、予算に計上して国会の議決を経なければならない。
戦前の憲法では、皇室のことは、国民や国会が関与できなかった。皇室の財政も、原則として、皇室の機関が取り扱っていた。天皇の財産は御料といい、土地は全国にあり、昭和20年前後の御料の評価額は、15億円以上(当時の金額)という莫大なものであったといわれている。

現在の憲法では、皇室の財産は国会が関与し、財政についての民主主義を徹底することを規定している。そのために、天皇や皇族の財産を、個人的なものとそれ以外に区別し、後者を皇室財産として国の財産とした(この憲法の施行前に、御料に対しても財産税法が適用されており、皇室財産の多くは財産税の物納として国に収納されていたといわれている。)。

これにより、国の財産は、国有財産と皇室財産に区別されていたものが、国有財産に一本化された。ただし、国有財産となったものは全て皇室が使用できなくなったわけではなく、現に皇居や御用邸などは引き続いて皇室が使用している。

本条の規定により、予算に組み入れられる皇室費用には、以下のものがある。
名前 説明
内廷費 天皇、皇后、皇太子、同妃などの内廷にある皇族の日常費など
宮廷費 宮廷に必要な費用など
皇族費 内廷費のところに記載されている皇族以外の皇族の生活費、皇族がはじめて独立の生活を営む際に支給される一時金、皇族の身分を離れる際に支給される一時金など
※皇室経済法では、内廷費と皇族費の額は、法律で定めてるとしている。そして、皇室経済法施行法がその額を定めている。この額を変更するときは、皇室経済会議が内閣に意見を出し、内閣は国会にその内容を報告する。内閣は、内廷費と皇族費については、法定額をそのまま予算に組み入れなければならない。そして、国会もそれをそのまま承認する。
Article 88

 All property of the Imperial Household shall belong to the State. All expenses of the Imperial Household shall be appropriated by the Diet in the budget.
第89条

 公金その他の公の財産は、宗教上の組織若しくは団体の使用、便益若しくは維持のため、又は公の支配に属しない慈善、教育若しくは博愛の事業に対し、これを支出し、又はその利用に供してはならない。
本条は、国や公共団体が宗教団体等に、経済的な利益を与えることを禁じた条文である。現在の憲法では、信教の自由が保障されている(第20条)。そのため、国や公共団体はこの自由を侵してはならない。しかし、もし、国や公共団体が特定の宗教団体だけに特別の利益を与えるようなことがあっては、利益を与えられなかった宗教団体が不利な立場に立たされることとなり、結果的に信教の自由を侵すことにつながる。

また、本条は、公の支配の下にない慈善・教育・博愛の事業に対しても経済的な利益を与えることを禁じている。ここで問題となるのが、私立学校の扱いについてである。私立学校法第59条では、「国又は地方公共団体は、教育の振興上必要があると認める場合には、別に法律で定めるところにより、学校法人に対し、私立学校教育に関し必要な助成をすることができる。」、と規定されているが、私立学校が公の支配に属しないのであれば、本条に違反することとなる。私立学校で行われる教育は、特定の一部の者に対してだけ行われるわけではないため、公の性質を有していると考えられている。また、私立学校は一定の法的な規制や監督官庁の監督も受けている。そのため、一般的には、本条に違反しないと考えられている。

本条は、宗教団体、公の支配の下にない慈善・教育・博愛の事業に対して、経済的な利益を与えてはならないという条文であるが、これらについては租税法において租税を課さないとされている場合が多い。これについては、形を変えて利益を与えていることになり、本条に違反するのではないかという考え方も多い。
Article 89

 No public money or other property shall be expended or appropriated for the use, benefit or maintenance of any religious institution or association, or for any charitable, educational or benevolent enterprises not under the control of public authority.
第90条

 @ 国の収入支出の決算は、すべて毎年会計検査院がこれを検査し、内閣は、次の年度に、その検査報告とともに、これを国会に提出しなければならない。

 A 会計検査院の組織及び権限は、法律でこれを定める。
国の収入と支出の見積額は、各会計年度ごとに、予算で定められる(第86条)。しかし、予算はあくまで予測を定めたものにすぎないため、実際の金額とは合致しない場合もある。

そして、実際の収入と支出が不当であったり違法なものである場合もある。本条はその不正をなくすための条文である。

第1項において、各会計年度ごとに決算を作成しなければならないことを規定している。この決算は、財務大臣が作成することになっている(財政法第38条)。決算は、会計検査院(第2項において、法律で定めると規定されている。その法律とは、会計検査院法である。)が検査し、結果を検査報告という形で文書で作成しなければならない。そして、内閣は、検査報告と決算を次の会計年度中に国会の常会に提出しなければならない。国会では、衆議院と参議院がそれぞれ決算を審議し、是非を議決する。もし、否認されたとしても、すでになされた収入や支出に対しては何の効力も持たない(ただし、内閣の政治責任が問われる。)。


会計検査院については、会計検査院法において規定されている。以下を参照。
会計検査院法 内容
第1条 会計検査院は、内閣に対し独立の地位を有する。
第2条 会計検査院は、三人の検査官を以て構成する検査官会議と事務総局を以てこれを組織する。
第3条 会計検査院の長は、検査官のうちから互選した者について、内閣においてこれを命ずる。
第5条 @ 検査官の任期は、七年とし、一回に限り再任されることができる。

A 検査官が任期中に欠けたときは、後任の検査官は、前任者の残任期間在任する。

B 検査官は、満六十五才に達したときは、退官する。
Article 90

1) Final accounts of the expenditures and revenues of the State shall be audited annually by a Board of Audit and submitted by the Cabinet to the Diet, together with the statement of audit, during the fiscal year immediately following the period covered.

2) The organization and competency of the Board of Audit shall be determined by law.
第91条

 内閣は、国会及び国民に対し、定期に、少くとも毎年一回、国の財政状況について報告しなければならない。
内閣は、国の財政状況を国会と国民に対して、少なくとも年に1回、定期的に、報告しなければならない。

報告は、国会だけではなく、国民に対しても直接行わなければならない。また、財政は生き物であり変化していくし、また、報告がいつあるのかがわからなければ効果がないため、最低でも年に1回定期的に行わなければならない。


また、財政法第46条には、以下のように規定されている。
条文 内容
第46条 @ 内閣は、予算が成立したときは、直ちに予算、前前年度の歳入歳出決算並びに公債、借入金及び国有財産の現在高その他財政に関する一般の事項について、印刷物、講演その他適当な方法で国民に報告しなければならない。

A 前項に規定するものの外、内閣は、少くとも毎四半期ごとに、予算使用の状況、国庫の状況その他財政の状況について、国会及び国民に報告しなければならない。

つまり、内閣は、予算が成立したときと、四半期(3ヶ月)ごとに1回、財政状況を報告しなければならないということである。報告の方法は、印刷物や講演やその他適当な方法(ラジオやテレビなど)である。


さらに、国有財産法第34条と第37条では、以下のように規定されている。
条文 内容
第34条 @ 内閣は、会計検査院の検査を経た国有財産増減及び現在額総計算書を、翌年度開会の国会の常会に報告することを常例とする。

A 前項の国有財産増減及び現在額総計算書には、会計検査院の検査報告のほか、国有財産の増減及び現在額に関する説明書を添付する。
第37条 @ 内閣は、会計検査院の検査を経た国有財産無償貸付状況総計算書を、翌年度開会の国会の常会に報告することを常例とする。

A 前項の国有財産無償貸付状況総計算書には、会計検査院の検査報告のほか、国有財産の無償貸付状況に関する説明書を添付する。
Article 91

 At regular intervals and at least annually the Cabinet shall report to the Diet and the people on the state of national finances.
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