憲法 条文 憲法 解説
第8章 地方自治(Chapter 8:LOCAL SELF-GOVERNMENT)
第92条

 地方公共団体の組織及び運営に関する事項は、地方自治の本旨に基いて、法律でこれを定める。
本条では、一定の地方公共団体というものを前提として、それらの自治を保障しようとする規定である。しかし、憲法において、地方公共団体の定義について規定した条文はない。

地方自治法においては、地方公共団体は、以下の二つからなるとされている(地方自治法第1条の3)。
種類 具体名
普通地方公共団体 ・都道府県
・市町村
特別地方公共団体 ・特別区
・地方公共団体の組合
・財産区
・地方開発事業団


地方公共団体の権能と作用は、地方自治の本旨に従わなければならない。地方自治の本旨とは、簡単に言えば、地方のことは地方の意思で行うという原則のことである。大きく分けて以下の二つの原則からなる。
名前 説明 関連条文
団体自治の原則 国や中央政府から独立した統治組織としての都道府県・市町村が存置されなければならないということ 第94条
住民自治の原則 住民が直接・間接に自分が住んでいる地方公共団体の政治に参加すること 第93条
※上記の二つの原則が、同時に可能な状態になければならない。
Article 92

 Regulations concerning organization and operations of local public entities shall be fixed by law in accordance with the principle of local autonomy.
第93条

 @ 地方公共団体には、法律の定めるところにより、その議事機関として議会を設置する。

 A 地方公共団体の長、その議会の議員及び法律の定めるその他の吏員は、その地方公共団体の住民が、直接これを選挙する。
本条は、地方公共団体に地方議会を置くことを規定しているが、財産区などを除き、特別地方公共団体においてもやはり地方議会は置かなければならない。

この議会とは、住民の選挙によって選ばれた者による代表議会でも良いが、住民全員による総会などの形でも良い。地方自治法においては、町村や財産区のいては、議会にかわって町村総会や財産区総会を設けることができるとしている(地方自治法第94条、第95条、第295条)。

本条第2項では、住民の直接公選制が予定されている被選挙人には、地方公共団体の長、その議会の議員、法律の定めるその他の吏員がある。法律の定めるその他の吏員は、住民が直接選挙する吏員を置くことができるという趣旨のもので、必ずしも置かなければならないというものではない。

これらの者の選挙は、国会議員の選挙と同じく、普通・平等・直接・秘密選挙である。
Article 93

1) The local public entities shall establish assemblies as their deliberative organs, in accordance with law.

2) The chief executive officers of all local public entities, the members of their assemblies, and such other local officials as may be determined by law shall be elected by direct popular vote within their several communities.
第94条

 地方公共団体は、その財産を管理し、事務を処理し、及び行政を執行する権能を有し、法律の範囲内で条例を制定することができる。
本条は、地方公共団体が行うことができる権能について規定している。行うことができる権能は、以下の二種類である。

種類 内容
行政権能 ・財産の管理 道路、公園、広場、河川、港湾、湖沼、警察署・学校等の建物、公営の電車・バスなどのことである。これらを、第89条に違反しない限りにおいて、取得・維持・保存・運用・処分することができる。
・事務処理 公の権力の要素を伴わない範囲の事務処理のことである。
・行政を執行する権能 公の権力の要素を伴う行政のことである。警察権や課税権などのことである。
立法権能 ・条例制定 地方議会がその権限に属する事項について議決することによって制定される条例と(地方自治法第14条)、地方公共団体の長がその権限内の事項について制定できる規則のことである(地方自治法第15条)。また、この二つ以外にも、地方公共団体の公安委員会・人事委員会・教育委員会・公平委員会が、それぞれの事務について法律の定めるところに従って定める委員会規則なども、該当すると考えられている。
※司法権能については、認められていない。

※条例に罰則をつけることは、地方自治法第14条第5項において、条例に罰則の制定を委任しているため、可能である。しかし、第31条や第73条第6号に違反するのかどうかという問題がある。通説では、地方議会は住民の選挙によって選ばれているため国会の制定する法律に近似していることから、条例に罰則をつけることは可能であるとされている。また、規則に過料をつけることも、同様である(また、過料は刑罰ではない)。
Article 94

 Local public entities shall have the right to manage their property, affairs and administration and to enact their own regulations within law.
第95条

 一の地方公共団体のみに適用される特別法は、法律の定めるところにより、その地方公共団体の住民の投票においてその過半数の同意を得なければ、国会は、これを制定することができない。
本条は、地方自治に関する特別法についての規定である。第92条の一般原則の例外である。

第92条では、地方公共団体の組織や運営に関する一般的定めは、国会の通常の立法手続きで足りるとされている。しかし、特別的定めについては、本条の規定により住民の過半数の賛成が必要である。これは、国会が特定地域の地方公共団体のみに対して、不利益な立法をすることを禁じる趣旨である。そのため、何らかの利益を与えるような法律は、本条の規定には該当しないと考えられている。

条文中の、「一の」とは、「一個の」という意味ではなく、「特定の」という意味である。

住民投票については、本条で、法律の定めるところによりとして、法律に委任している。そして、地方自治法では、公職選挙法の選挙権と同様の資格によるとしている(地方自治法第262条)。選挙による投票は、必ずしも国会の議決が行われる前にしなければならないというものではない。国会法では、住民投票で過半数の同意が得られれば、その前に行われた国会の議決が確定し、法律となるとしている(国会法第67条)。

また、数個の地方公共団体で住民投票が行われ、そのうちの一つが過半数を得られなかったというような場合は、その一つ以外の地方公共団体において適用される法律として確定される。

本条の規定による、特別法には、以下のようなものがある。
・広島平和記念都市建設法
・長崎国際文化都市建設法
・首都建設法
Article 95

 A special law, applicable only to one local public entity, cannot be enacted by the Diet without the consent of the majority of the voters of the local public entity concerned, obtained in accordance with law.