労働基準法 条文 労働基準法 解説
第1章 総則
第1条 【労働条件の原則】

 @ 労働条件は、労働者が人たるに値する生活を営むための必要を充たすべきものでなければならない。

 A この法律で定める労働条件の基準は最低のものであるから、労働関係の当事者は、この基準を理由として労働条件を低下させてはならないことはもとより、その向上を図るように努めなければならない。
労働基準法とは、労働者が人間らしい生活ができるための労働条件の最低基準を定めたものである。そのため、労働関係の当事者は、この基準を理由に労働条件を低下させてはならず、向上させるよう努力しなければならない。

憲法第27条第2項に「賃金、就業時間、休息その他の勤労条件に関する基準は、法律でこれを定める。」という規定があり、勤労条件の基準は法律で定めなければならない。これを受けて、1947年に制定されたのが労働基準法である。

つまり、本条の労働条件とは、憲法第27条の勤労条件に対応するもので、労働基準法の保障している最低基準の労働条件の全てを含む内容を指す。

労働者を人たるに値する生活を営む・・・とは、労働者を生産用具ではなく人格をもった人間と認め、その労働条件の基本原則を明らかにしたものである。この場合、労働者が人たるに値する生活を営むためには、その標準家族の生活をも含めて考えること(昭和22年9月13日発基17号)、標準家族の範囲はその時その社会の一般通念によって理解されるべきものである(昭和22年11月27日基発401号)としている。
第2条 【労働条件の決定】

 @ 労働条件は、労働者と使用者が、対等の立場において決定すべきものである。

 A 労働者及び使用者は、労働協約、就業規則及び労働契約を遵守し、誠実に各々その義務を履行しなければならない。
労働者は労働力の売主であり、使用者はそれの買主である。労働力の売買にあたっては、双方が対等の立場で決めるのが当然である。

しかし、買主である使用者が有利な立場にあることが多く、一方、労働者は権利の自覚が希薄である場合が多い。

現実的に、労働条件を労使(労働者と使用者)対等で決定するという原則を実現するためには、仲間と一緒に交渉するか、法的に労働組合を作り、団体交渉をすることが多い。

そのために、労働組合法があり、第1条第1項に、「この法律は、労働者が使用者との交渉において対等の立場に立つことを促進することにより労働者の地位を向上させること、労働者がその労働条件について交渉するために自ら代表者を選出することその他の団体行動を行うために自主的に労働組合を組織し、団結することを擁護すること並びに使用者と労働者との関係を規制する労働協約を締結するための団体交渉をすること及びその手続を助成することを目的とする。」と規定されており、いわゆる労働三権(団結権、団体交渉権、争議権)が認められている。

本条第2項に、労働協約、就業規則、労働契約という三つの決め事がある。それぞれについては、以下を参照。
労働協約 説明 労働組合と使用者の間に結ばれる労働条件についての取り決めのことである。
労働組合法第14条 労働組合と使用者又はその団体との間の労働条件その他に関する労働協約は、書面に作成し、両当事者が署名し、又は記名押印することによつてその効力を生ずる。
労働組合法第15条 @ 労働協約には、3年をこえる有効期間の定をすることができない。

A 3年をこえる有効期間の定をした労働協約は、3年の有効期間の定をした労働協約とみなす。

B 有効期間の定がない労働協約は、当事者の一方が、署名し、又は記名押印した文書によつて相手方に予告して、解約することができる。一定の期間を定める労働協約であつて、その期間の経過後も期限を定めず効力を存続する旨の定があるものについて、その期間の経過後も、同様とする。

C 前項の予告は、解約しようとする日の少くとも90日前にしなければならない。
就業規則 説明 常時10人以上の労働者を使用する使用者は、始業時刻や終業時刻などについて、行政官庁に届け出なければならない。就業規則については、本法の第9章(第89条から第93条)の就業規則のところで規定されている。
労働契約 説明 使用者と個々の労働者の間で結ばれる契約である。労働契約については、本法第2章(第13条〜第23条)の労働契約のところで規定されている。
※これら三つについて、本条が規定する、「労使が対等の立場で」と「労使は労働協約・就業規則・労働契約を遵守し誠実にその義務を履行する」という基本が根底にある。


判例では、ある業務について何人でそれを行うか(労働密度)についても労働契約の内容となり、どちらかが一方的に変更することは許されないとされている(朝日新聞大阪本社事件)。
第3条 【均等待遇】

 使用者は、労働者の国籍、信条又は社会的身分を理由として、賃金、労働時間その他の労働条件について、差別的取扱をしてはならない。
本条は、憲法第14条の、「すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない」という規定を具体化したものである。

差別については、以下のような問題がある。
・民主主義に反し合理性がない
・トラブルを生む
・被差別者のやる気をそぐ

本条に違反した場合には、第119条により、六箇月以下の懲役又は三十万円以下の罰金に処せられることとなる。


判例では、法令の規制の適用がない限り、労働条件に雇入れそのものを含めないため、本条により採用差別を救済していない(慶応義塾大学付属病院事件、三菱樹脂事件)。しかし、内定以降は労働条件に含め、内定・試用の取り消し、転勤・出向の差別について救済するケースが多い。


条文中のその他の労働条件には、通達では、解雇に関する条件を含むとしている(昭和23年6月16日基収1365号)。例えば、就業規則等で信条を理由として解雇しないことが保障されている場合において、信条を理由に解雇されれば監督権を発動することになる。しかし、就業規則等でこのような定めがない場合に、信条を理由に解雇されたときは、監督権を発動することはない。ただし、民事事件としては、解雇は賃金や労働時間などよりも重要な労働条件とみなされ、信条を理由とする解雇について、判例では、本条の精神に反し民法第90条の公序に反して無効としたり、直接本条の労働条件にあたるとする解釈をしている(三菱樹脂事件)。


国籍や信条などについては、以下を参照。
意味 判例など
国籍 個人が特定の国家に所属し、その国民たる資格や身分。 在日朝鮮人であることを隠していたという理由で内定を取り消した場合は、本条に違反し無効としている(日立製作所事件)。
信条 信じていること。 信条とは、宗教的信条に限定するという判例もあるが、通達(昭和22年9月13日発基17号)や多くの判例(三菱樹脂事件など)も、宗教的なもの以外に政治的なものを含めている。

前橋・甲府・長野・千葉・横浜の5地裁のいわゆる東京電力事件では、それぞれ事実や構成は異なるが、東京電力に対して、賃金について信条差別禁止規定に違反し民事法上不法行為にあたるとして、損害賠償を認めている。
社会的身分 社会的な地位などのことである。 社会的身分とは、通達では、生来の身分のこととしている(昭和22年9月13日発基17号)。

判例では、臨時労働者は労働契約に基づくものとし、社会的身分にはならないとしている(帝倉荷役事件)。この判例に対しては、現在かなり疑問の声が多い。


その労働条件についての差別が、国籍・信条・社会的身分を理由としているかどうかは、その差別に合理性があるかどうかによる。

例えば、賃金差別については、年功序列別賃金・仕事別賃金が採用されている場合にそれが同じであるかどうかが、合理的判定の基準となる。人事差別については、初めに、業務上の必要性・基準の合理性・人選の妥当性があるかどうか、次に、相容れない信条を持った人間をその職場から排除する意図があるかどうかなどが中心となる。


判例では、学力・技能の基準、年齢が若いこと、独身であることの三つを明示して行った転勤を信条差別ではないとしたものがある(日本コロムビア事件)。

別の判例では、開設わずか1ヶ月で1名勤務の部署に、技術者としては未熟の者を転勤させたケースでは、本人の能力等を無視した業務上の必要性があるとは言い難い転勤として、信条差別にあたるとしたものがある(三洋電機事件)。
第4条 【男女同一賃金の原則】

 使用者は、労働者が女性であることを理由として、賃金について、男性と差別的取扱いをしてはならない。
本条は、性別だけを理由とする、合理的理由の伴わない賃金差別を禁止する規定である。本条に違反すれば、第119条により、6ヶ月以下の懲役又は30万円以下の罰金に処せられることになる。

通達では、合理的理由にあたらない場合として、以下のように述べられている。
・社会通念として、もしくは当該事業場において女性労働者が一般的・平均的に能率が悪いこと、知能が低いこと、勤続年数が短いこと、扶養家族が少ないこと等は、合理的理由とはならない(昭和22年9月13日発基17号)
・「女性は一般的に能率、能力、責任感、欠勤率などで劣る」、「将来の期待度などが劣る」、「女性は母性保護が与えられること、時間外労働・深夜勤務などに制限がある」、「生計責任の男女差」は、合理的理由とはならない(労働省婦人少年局、男女同一賃金 1961年パンフレット49号)

これらに共通しているのが、一般的考えなどではなく、女性の賃金を個々的に能力・能率を中心として考えなければならないということである。


本条に関係する判例のうち主に賃金に関するものは、以下である。
名前 内容
秋田相互事件 男女別本人給与表の適用、扶養家族の有無別本人給与表を実施し、扶養家族のない男性だけには調整給を支給し扶養家族のある場合と同額の本人給を支給することは、労働基準法第4条違反とした。
岩手銀行事件 女性が、「自己の収入をもって、一家の生計を維持する者」に該当しても、女性は家族手当の受給権者としないことは、労働基準法第4条違反とした。
日産自動車事件 家族手当支給規定の取り扱いについて、家族手当の支給対象者を夫婦のいずれか収入額の多い方とすることは、他に優れた選択肢があったとしても、それ自体は不合理とはいえず、労働基準法第4条や民法第90条に違反しないとした。
日本鉄鋼連盟事件 昭和44年から49年当時(男女雇用機会均等法以前の時期である)の募集・採用差別は公序に違反しないが、基本給引き上げ・一時金について男女差別した協約は公序に反するとした。
鳥取県公立学校教員事件 合理性のない男女別退職勧奨年齢基準による退職勧告、退職手当の不利益措置は、不法行為であるとした。
社会保険診療報酬支払基金昇格事件 男性職員は勤続年数のみを基準とした一律昇格だが、女性の場合は選考による昇格であったため、女性の昇格は男性よりも著しく遅いのは、合理性のない差別であり、公序に反し無効であるとした。
日ソ図書事件 昭和57年5月から63年1月まで働いていた中途採用の女性の給与は、年齢や勤続年数の近い他の男性4人と比較して、賃金格差が生じていたのは、労働基準法第4条違反だとした。
三陽物産事件 非世帯主や独身で転勤しない社員は年齢に関係なく26歳相当の給与にするという例外規定が存在し、女性社員の多くがこれに該当した。これは労働基準法第4条違反だとした。その後、東京高裁で和解。
住友生命保険事件 既婚者の女性であることを理由に一律低査定を行うことは、不法行為だとした。その後、大阪高裁で和解。
※これら以外にも様々な判例がある。

請求の方法には、以下のものがある。
名前 説明
1 労働基準法第4条違反、労働基準法第13条による差額支払い
2 法の一般原則としての平等の原則による賃金支払い
3 不法行為の損害賠償(民法第709条、国家賠償法第1条)
4 債務不履行の損害賠償(民法第415条)
5 労働契約の履行(労働基準法第15条第1項、労働基準法施行規則第5条第1項第3号)
※判例では、3の方法が最も多い。5は、和解のときにとられる。


賃金以外の女性差別には、以下のようなものがある。
・結婚退職
・若年退職
・定年をめぐる女性差別

これらについては、民法第90条公序良俗違反により無効とする判例が多数ある。

また、有名なものに、日産自動車事件がある。これは、就業規則において、定年を、「男性55歳、女性50歳」とか「男性60歳、女性55歳」などとしていたものが違法であるかどうかが争われた事件である。判決では、民法第2条の「この法律は、個人の尊厳と両性の本質的平等を旨として、解釈しなければならない。」という趣旨から、民法第90条の公序良俗違反により無効とした。

現在は、男女雇用機会均等法(1986年施行)があるため、立法的に解決されているものが多い。
第5条 【強制労働の禁止】

 使用者は、暴行、脅迫、監禁その他精神又は身体の自由を不当に拘束する手段によつて、労働者の意思に反して労働を強制してはならない。
実際に、暴行などを加えなかったとしても、反抗すれば暴行を加えるような気勢を示して1日14時間労働をさせた場合は、本条に違反するという判例がある(北海道鉱山事件)。また、女性の就寝中に服や靴などの所持品を取り上げ、逃亡を防止し、1週間働かせた場合も、本条に違反するという判例がある(共栄亭事件)。

このように、精神または身体の自由を不当に拘束する手段によって、労働者の意思に反し労働を強制するようなことは、絶対にあってはならない。

本条に違反すれば、第117条により、1年以上10年以下の懲役又は20万円以上300万円以下の罰金に処せられることになる。
第6条 【中間搾取の排除】

 何人も、法律に基いて許される場合の外、業として他人の就業に介入して利益を得てはならない。
本条は、他人の就職の世話をして利益を得ることを禁止した条文である。ただし、これが全て禁止というわけではなく、以下のような場合は認められている。

・法律に基づいて許可されている場合
職業安定法第45条により、労働者供給事業を行うことができる。また、労働者派遣法第5条・第16条により、労働者派遣事業を行うことができる。
・業(反復・継続)として行っていない場合


本条に違反すれば、第118条により、1年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処せられることになる。
第7条 【公民権行使の保障】

 使用者は、労働者が労働時間中に、選挙権その他公民としての権利を行使し、又は公の職務を執行するために必要な時間を請求した場合においては、拒んではならない。但し、権利の行使又は公の職務の執行に妨げがない限り、請求された時刻を変更することができる。
本条は、公民権・公の職務を保障する規定である。

労働省労働基準局(現在は、労働省ではなく厚生労働省となっている)によれば、公民権・公の職務とは、以下のようになる。
名前 名前 条文等 説明
公民権 1 法令に根拠を有する公職の選挙権・被選挙権
2 憲法第79条 最高裁判所裁判官の国民審査
3 憲法第95条 特別法の住民投票
4 憲法第96条 憲法改正の国民投票
5 地方自治法 地方自治法による住民の直接請求
6 公職選挙法第21条 選挙権や直接請求権の行使等の要件となる選挙人名簿の登録の申出
※訴権の行使は、公民権の行使にはならない。しかし、行政事件訴訟法第5条に規定する民衆訴訟、公職選挙法第25条に規定する選挙人名簿に関する訴訟、公職選挙法第203条・第204条・第207条・第208条・第211条に規定する選挙または当選に関する訴訟は、公民権の行使となる。
公の職務 1 国や地方公共団体の公務に民意を反映してその適正を図る職務。議員、労働委員会の委員、陪審員、検察審査員など。
2 国や地方公共団体の公務の公正妥当な執行を図る職務。民事訴訟法第271条による証人・労働委員会の証人等の職務など。
3 地方公共団体の適正な執行を監視するための職務。公職選挙法第38条第1項の選挙立会人等の職務など。
※単に労務の提供を主たる目的とする職務は、本条がいう公の職務には該当しない。例えば、予備自衛官が自衛隊法第70条の規定による防衛招集、自衛隊法第71条の規定による訓練招集に応じたとしても、本条の公の職務には該当しない(昭和63年3月14日基発150号)。


使用者は、労働者から公民権の行使・公の職務に必要な時間を労働時間中に請求されたときは、拒否することはできない。ただし、これらを行使するのに妨げがない限り、請求された時間を変更することができる。この場合、労働時間外に変更することはできず、労働時間内に変更しなければならないし、労働時間内であっても行使の妨げになるような時間であってはならない。

通達では、「公民権の行使を労働時間外にするよう定めたことにより、労働者が労働時間中に選挙権の行使を請求することを拒否すれば違法である」としている(昭和23年10月30日基発1575号)。


労働者が、労働時間中に、公民権の行使・公の職務を執行した場合において、賃金をどうするかという問題は、労働者と使用者の間で決めなければならない(昭和22年11月27日基発399号)。また、別の通達では、投票当日の選挙権の行使について、「民間の会社、工場等においても、公務員関係と同じように選挙権行使のための便宜を図るとともに、遅刻、早退による給与の差し引きを行わないよう関係各省庁から協力を依頼すること」としている(昭和42年1月20日基発59号)。


本条は、公民権の行使・公の職務の執行による不就業を理由に解雇することを禁止していない。しかし、これを認めるとすれば本条の保障している公民権の行使・公の職務の執行はできないことになる。

判例では、次のようなものがある。

就業規則に会社の承認を得ずに公職選挙法による選挙の立候補や公職に就任した者を懲戒解雇にすると規定されていた会社において、会社の承認を得ず市会議員になった者を懲戒解雇にした場合は、就業規則の規定は本条に違反して無効であるとした(十和田観光バス事件)。


ただし、本条による公民権の行使・公の職務の執行には、特権的な地位が与えられているわけではなく、使用者は労働者が本条による保障を求めたとしてもそれを手放しで受認しなければならないというわけではない。使用者と労働者の利益を調整するためには、休職という方法がある。休職の間は、賃金を支払う必要がないため、使用者側にはさほどの不利益にはならない。実際的に、労働者の公民権の行使・公の職務の執行が、解雇に発展するまでの合理的な理由というのはほとんどない場合が多い。


本条に違反すれば、第119条により、6ヶ月以下の懲役又は30万円以下の罰金に処せられることになる。
第8条 【】

削除
本条は、削除された。削除前は、第1号から第17号まで規定されていたが、それらは、附則の別表第1の部分に移行している。

別表第1は、以下である。

「一 物の製造、改造、加工、修理、洗浄、選別、包装、装飾、仕上げ、販売のためにする仕立て、破壊若しくは解体又は材料の変造の事業(電気、ガス又は各種動力の発生、変更若しくは伝導の事業及び水道の事業を含む。)
二 鉱業、石切り業その他土石又は鉱物採取の事業
三 土木、建築その他工作物の建設、改造、保存、修理、変更、破壊、解体又はその準備の事業
四 道路、鉄道、軌道、索道、船舶又は航空機による旅客又は貨物の運送の事業
五 ドック、船舶、岸壁、波止場、停車場又は倉庫における貨物の取扱いの事業
六 土地の耕作若しくは開墾又は植物の栽植、栽培、採取若しくは伐採の事業その他農林の事業
七 動物の飼育又は水産動植物の採捕若しくは養殖の事業その他の畜産、養蚕又は水産の事業
八 物品の販売、配給、保管若しくは賃貸又は理容の事業
九 金融、保険、媒介、周旋、集金、案内又は広告の事業
十 映画の製作又は映写、演劇その他興行の事業
十一 郵便、信書便又は電気通信の事業
十二 教育、研究又は調査の事業
十三 病者又は虚弱者の治療、看護その他保健衛生の事業
十四 旅館、料理店、飲食店、接客業又は娯楽場の事業
十五 焼却、清掃又はと畜場の事業 」
第9条 【定義】

 この法律で「労働者」とは、職業の種類を問わず、事業又は事務所(以下「事業」という。)に使用される者で、賃金を支払われる者をいう。
労働基準法においての労働者とは、職種等は関係なく、以下の2点を満たす者のことである。

・労働基準法の適用される事業または事務所で使用される者
・賃金を支払われる者

この2点を満たせば、正社員、派遣社員、アルバイト、日雇い、外国人、請負など、全て労働者となる。

労働者の基本的要素は、使用従属関係にあるかどうかである。出勤・退社などの時間的拘束を受け、場所・業務について使用者の指揮命令のもとで労働し、その対価として賃金を支払われる者のことである。

本条の適用除外の労働者については、第116条に規定されている。


労働省労働基準局(現在は、厚生労働省)は、かなりの昔から雇用契約ではなく、実質的使用従属関係や労働関係の基準により、労働者かどうかを判断している。これまでの判断には、以下のようなものがある(事実関係が異なれば、結論も違うことに注意しなければならない)。
労働者であることを 内容
否認 ・法人・団体・労働組合の代表者
・刑務所の囚人
・家庭裁判所から補導を委託された非行少年(ただし、受託者の施設外の一般民間事業場で就労する場合は、労働者となる)
・宗教儀式を行う舞女
・競輪競争参加者
・非常勤の消防団員
・授産施設の作業員
肯定 ・新聞配達人
・新聞配達に従事する学童
・商船学校の実習生
・雇用契約による大工
・あんま
・はり灸師
・院外作業に従事する入院患者
・組合の専従職員
・放送協会専属の管弦楽団
・在籍中の未復員者
・市町村の固定資産評価員
・調教師に対する厩務員
・県の鳥獣保護員
・委託契約による学校用務員
条件次第で肯定 ・委任契約による保険外務員と称する者であっても、実質上労働関係があるとみなされる者
・法人役員で業務執行権または代表権を持たない者が、工場長や部長の職にあって賃金を受ける者
・共同経営事業出資者でも、賃金を受けて働いている者


判例では、有名なものに大塚印刷事件がある。この判例では、使用従属関係の有無を、以下の点等で考慮すべきだとしている。

・仕事の依頼、業務従事に対する諾否の有無
・時間的・場所的拘束性の有無
・業務内容が使用者により定められたものか、使用者による一般的な指揮監督関係の有無、服務規律の適用
・労務提供の代替制の有無
・業務用器具の負担関係
・報酬が労働の対価であるか
・生活保障的要素の有無
・給与所得税等の源泉徴収の有無
・退職金制度の有無


労働基準法の労働者ではなく、民法の自由契約(委任や請負など)にした場合については、以下を参照。
名前 有利 不利
働く側 ・歩合給により収入を上げることができる
・時間的・場所的な拘束を受けない
・労災保険法等の適用がない
・いつも仕事があるとは限らない
使用者側 ・労働基準法や労働組合法の規制を受ける必要がない
・人員が必要なときにだけ雇うことができる
・より高い歩合給を出す他会社に人員をとられることがある
第10条 【定義】

 この法律で使用者とは、事業主又は事業の経営担当者その他その事業の労働者に関する事項について、事業主のために行為をするすべての者をいう。
本条は、使用者の定義について規定している。

労働基準法においての使用者とは、「事業主又は事業の経営担当者その他その事業の労働者に関する事項について、事業主のために行為をするすべての者」のことである。つまり、労働者を監督する権限を持っている者のことであり、課長・部長・営業所長・工場長なども該当するということである。

ただし、この監督上の権限というのは、具体的事件により労働基準法の条文ごとに違っているため、注意しなければならない。

例えば、第34条第3項には、「使用者は、第一項の休憩時間を自由に利用させなければならない。 」、と規定されている。これに違反した使用者は、第119条により6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金に処せられる。この場合、労働者に対して監督権限を持つのは、通常は社長ではなく、課長などであり、当然使用者も課長となる。

また、第89条には、「常時十人以上の労働者を使用する使用者は、次に掲げる事項について就業規則を作成し、行政官庁に届け出なければならない。」、と規定されている。これに違反した使用者は、第120条により、30万円以下の罰金に処せられる。この場合の使用者は、通常は工場長などである。


在籍型出向の場合、「出向元、出向先、出向した労働者の三者の取り決めによって定められた権限と責任に応じて出向元の使用者または出向先の使用者が、出向した労働者について労働基準法等における使用者としての責任を負う」としている(昭和61年6月6日基発333号)。


派遣の場合は、労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律(派遣法)の第44条を参照。
第11条 【定義】

 この法律で賃金とは、賃金、給料、手当、賞与その他名称の如何を問わず、労働の対償として使用者が労働者に支払うすべてのものをいう。
本条は、労働基準法においての賃金の定義について規定している。労働基準法の賃金とは、労働者が労働をしたことに対して使用者が支払う全てのもののことである。毎月の給料、ボーナス、諸手当、その他名称がなんであれ、賃金ということになる。


労働者に支払われるものが、賃金か否かについて行政の判断は以下のようになっている。
名前 内容
賃金には当たらないもの ・器具の損料
・作業用品代
・基本旅費
・自家用車を仕事に使用する場合においての維持費、重量税等、ガソリン代等
・工員の作業衣
・役職員交際費
・労働者が自己を被保険者として保険会社と任意に保険契約をしたときにおいて、企業が行う保険料の補助金
・臨時に支給される祝品
・月5万円以下の通勤費
・3泊4日以下の海外への慰安旅行費
・職務上必要な研修会費や大学での聴講費用
賃金に当たるもの ・労働者が法令により負担しなければならない所得税、健康保険料、年金保険料、雇用保険料等について、事業主が労働者に代わって負担する部分
・換金できる祝品
両方にあたるもの ・社宅や寮は、労働者が支払う金額が実際の相場等の3分の1以下であるときは、支払う金額と実際の費用の3分の1との差額部分についてを賃金とする(昭和22年12月9日基発452号)。社宅や寮がある会社において、その社宅や寮に入居しない者に対して、住宅手当等を一律に支給している場合は、これを賃金とする(昭和28年10月16日基収2386号)。住宅や寮が職務上供与されていたり抽選等による場合は、福利施設となり賃金ではない(昭和23年2月20日基発297号、昭和33年2月13日基発90号)。

・食事(賃金の減額がないこと、就業規則や労働協約に定められ明確な労働条件の内容となっていないこと、食事の内容が社会通念上僅少なものであること)。なお、食事の価格の50%以上を労働者が負担し、かつ使用者の負担が3500円以下である場合は、賃金にはあたらない。

・結婚祝い金・死亡弔慰金・災害見舞金等は、労働協約や就業規則や労働契約にあらかじめ支給条件等が明らかにされていれば、賃金とみなす(昭和22年9月13日基発17号)。

・退職手当は、労働協約などで支給条件が明らかであれば賃金とみなし、第24条第2項の臨時の賃金等にあたる。賞与も同様である(新日本製鉄事件)。



労働者に支払われたものが賃金にあたる場合は、賃金台帳に記載しなければならない(第108条)。また、労働基準法の賃金に関する規定には、賃金にあたるものを賃金として含めなければならない。
第12条 【定義】

 @ この法律で平均賃金とは、これを算定すべき事由の発生した日以前三箇月間にその労働者に対し支払われた賃金の総額を、その期間の総日数で除した金額をいう。ただし、その金額は、次の各号の一によつて計算した金額を下つてはならない。

 1 賃金が、労働した日若しくは時間によつて算定され、又は出来高払制その他の請負制によつて定められた場合においては、賃金の総額をその期間中に労働した日数で除した金額の百分の六十

 2 賃金の一部が、月、週その他一定の期間によつて定められた場合においては、その部分の総額をその期間の総日数で除した金額と前号の金額の合算額

 A 前項の期間は、賃金締切日がある場合においては、直前の賃金締切日から起算する。

 B 前二項に規定する期間中に、次の各号の一に該当する期間がある場合においては、その日数及びその期間中の賃金は、前二項の期間及び賃金の総額から控除する。

 1 業務上負傷し、又は疾病にかかり療養のために休業した期間

 2 産前産後の女性が第六十五条の規定によつて休業した期間

 3 使用者の責めに帰すべき事由によつて休業した期間

 4 育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律(平成三年法律第七十六号)第二条第一号に規定する育児休業又は同条第二号に規定する介護休業(同法第六十一条第三項(同条第六項 及び第七項において準用する場合を含む。)に規定する介護をするための休業を含む。第三十九条第八項において同じ。)をした期間

 5 試みの使用期間

 C 第一項の賃金の総額には、臨時に支払われた賃金及び三箇月を超える期間ごとに支払われる賃金並びに通貨以外のもので支払われた賃金で一定の範囲に属しないものは算入しない。

 D 賃金が通貨以外のもので支払われる場合、第一項の賃金の総額に算入すべきものの範囲及び評価に関し必要な事項は、厚生労働省令で定める。

 E 雇入後三箇月に満たない者については、第一項の期間は、雇入後の期間とする。

 F 日日雇い入れられる者については、その従事する事業又は職業について、厚生労働大臣の定める金額を平均賃金とする。

 G 第一項乃至第六項によつて算定し得ない場合の平均賃金は、厚生労働大臣の定めるところによる。
本条は、平均賃金の算出方法について規定している。労働基準法の中で、平均賃金の定義が必要な条文は以下である。
条文 内容
第20条 解雇予告手当
第26条 休業手当
第39条 年次有給休暇
第76条 休業補償
第77条 障害補償
第79条 遺族補償
第80条 葬祭料
第81条 打切補償
第91条 減給の限度


労働基準法の基本的精神は労働者の生活を保障することにあるため、平均賃金の算出においては、できるだけ労働者の通常状態における具体的賃金を確保しようとしている。


平均賃金の一般的な算出方法は、以下である。

1日の平均賃金 3ヶ月間の賃金総額 本条第3項各号の賃金 本条第4項の賃金等
────────────────────────
3ヶ月間の総日数 本条第3項各号の日数


平均賃金の算出方法は、上記も含め大きく分けて3つある。以下を参照。
説明 備考
その1:一般の場合 ・上に記載した方法である。 ・起算日は、原則として初日不算入である。ただし、例外もある。予告手当は解雇通知をした日である。休業手当は休業を開始した日である。年次有給休暇については休暇を与える日である。災害補償については事故の発生した日または診断によってその発生が確定した日である(労働基準法施行規則第48条)。賃金締切日がある場合においては、直前の賃金締切日から起算する(本条第2項)。採用後3ヶ月未満の者は、採用日から起算する(本条第6項)。

・通達では、賃金締切日がある場合は、採用後賃金締切日から起算するとしている(昭和23年4月22日基収1065号)。sかし、賃金締切日から計算すれば1ヶ月未満となる場合は、事由発生日から計算するとしている(昭和24年労働省告示5号2条)。

・本条第4項の臨時に支払われた賃金とは、臨時的・突発的原因に基づいて支払われた賃金のことである。また、結婚手当のように原因の発生が不確定であったり、発生確率が非常に低いものも臨時に支払われた賃金となる。しかし、これら以外については臨時に支払われた賃金とはみなさない(昭和22年9月13日発基17号)。

・賃金が通貨以外のもので支払われる場合(本条第5項)は、厚生労働省令で定める。労働基準法施行規則第2条と第24条に規定されている。
その2:平均賃金の最低額保証 1:賃金の算定方法が労働日や労働時間によつて算定されたり、出来高払制や請負制による場合は、賃金の総額をその期間中に労働した日数で除した金額の60%

2:賃金の一部が、月、週その他一定の期間によつて定められた場合においては、その部分の総額をその期間の総日数で除した金額と前号の金額の合算額


1の計算方法により算出された金額が、上記の二つによって計算された額を下回ってはならない。
・この計算方法は、日給・時間給・請負給等の者を保護するための規定である。

・左の計算方法は、例えば、3ヶ月間の間に10日だけ働いた日給者の場合は、以下のようになる。

1:10日間で得た賃金を10日で除した金額の60%以下に下がってはならないということである(2がある場合は、2の金額も加算される)。

2:もし賃金の一部、例えば、家族手当や通勤手当などが月ぎめであるような場合は、3ヶ月間の総額を総日数で除した金額を1に加える。
その3:厚生労働大臣が決める場合 ・その1やその2でも決まらない場合と日日雇い入れられる者については、厚生労働大臣が決める
※その1とその2の場合において、以下の事由があるときは、期間と賃金から控除する。

1 業務上負傷し、又は疾病にかかり療養のために休業した期間
2 産前産後の女性が第六十五条の規定によつて休業した期間
3 使用者の責めに帰すべき事由によつて休業した期間
4 育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律(平成三年法律第七十六号)第二条第一号に規定する育児休業又は同条第二号に規定する介護休業(同法第六十一条第三項(同条第六項 及び第七項において準用する場合を含む。)に規定する介護をするための休業を含む。第三十九条第八項において同じ。)をした期間
5 試みの使用期間



労働基準法施行規則の中で、本条に関係するものは以下である。
条文 内容
第2条 @ 労働基準法(昭和二十二年法律第四十九号。以下「法」という。)第十二条第五項の規定により、賃金の総額に算入すべきものは、法第二十四条第一項ただし書の規定による法令又は労働協約の別段の定めに基づいて支払われる通貨以外のものとする。

A 前項の通貨以外のものの評価額は、法令に別段の定がある場合の外、労働協約に定めなければならない。

B 前項の規定により労働協約に定められた評価額が不適当と認められる場合又は前項の評価額が法令若しくは労働協約に定められていない場合においては、都道府県労働局長は、第一項の通貨以外のものの評価額を定めることができる。
第3条 試の使用期間中に平均賃金を算定すべき事由が発生した場合においては、法第十二条第三項の規定にかかわらず、その期間中の日数及びその期間中の賃金は、同条第一項及び第二項の期間並びに賃金の総額に算入する。
第4条 法第十二条第三項第一号から第四号までの期間が平均賃金を算定すべき事由の発生した日以前三箇月以上にわたる場合又は雇入れの日に平均賃金を算定すべき事由の発生した場合の平均賃金は、都道府県労働局長の定めるところによる。
※第4条の場合、当該労働者に対して一定額の賃金があらかじめ決められている場合は、その額により推算する。これがない場合は、その日にその事業場で同一業務に従事した労働者の一人平均の賃金額により推算する(昭和22年9月13日発基17号)。
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