労働基準法 条文 労働基準法 解説
第10章 寄宿舎
第94条 【寄宿舎生活の自治】

 @ 使用者は、事業の附属寄宿舎に寄宿する労働者の私生活の自由を侵してはならない。

 A 使用者は、寮長、室長その他寄宿舎生活の自治に必要な役員の選任に干渉してはならない。
事業の附属寄宿舎とは、事業経営の必要上その一部として設置され相当人数の労働者が宿泊し、共同生活の実態を備える施設のことである(昭和23年3月30日基発508号)。

この事業の附属寄宿舎については、使用者は不介入とされている(本条)。

また、事業附属寄宿舎規定には、以下のような規定がある。
条文 内容
第4条 使用者は、次の各号に掲げる行為等寄宿舎に寄宿する労働者の私生活の自由を侵す行為をしてはならない。

1 外出又は外泊について使用者の承認を受けさせること。
2 教育、娯楽その他の行事に参加を強制すること。
3 共同の利益を害する場所及び時間を除き、面会の自由を制限すること。

使用者は、これらの行為をしてはいけないのは当然であるが、その他労働者の私生活の自由を侵す行為もしてはいけない(昭和30年2月25日基発104号)。


事業附属寄宿舎は共同生活を営む場であるため、使用者から私生活の自由を守るためには、私的自治が必要である(自治会)。本条は、この自治会の役員の選任に使用者が干渉してはいけないとしている。


もし本条に違反すれば、第119条により、6ヶ月以下の懲役か30万円以下の罰金に処せられる。
第95条 【寄宿舎生活の秩序】

 @ 事業の附属寄宿舎に労働者を寄宿させる使用者は、左の事項について寄宿舎規則を作成し、行政官庁に届け出なければならない。これを変更した場合においても同様である。

 1 起床、就寝、外出及び外泊に関する事項

 2 行事に関する事項

 3 食事に関する事項

 4 安全及び衛生に関する事項

 5 建設物及び設備の管理に関する事項

 A 使用者は、前項第一号乃至第四号の事項に関する規定の作成又は変更については、寄宿舎に寄宿する労働者の過半数を代表する者の同意を得なければならない。

 B 使用者は、第一項の規定により届出をなすについて、前項の同意を証明する書面を添附しなければならない。

 C 使用者及び寄宿舎に寄宿する労働者は、寄宿舎規則を遵守しなければならない。
本条は、使用者は寄宿舎規則を作成し、行政官庁に届け出る義務について規定している。記載しなければならないことなどについては、以下を参照。

本条 内容 備考
第1項第1号 起床、就寝、外出及び外泊に関する事項 この4項目について作成・変更するには、労働者の過半数を代表する者の同意が必要である(労働者の過半数ではなくて、労働者の過半数を代表する者である)。

また、この同意は届出をするときに書面で添付しなければならない。
第1項第2号 行事に関する事項
第1項第3号 食事に関する事項
第1項第4号 安全及び衛生に関する事項
第1項第5号 建設物及び設備の管理に関する事項 事業附属寄宿舎規定第5条には、「使用者は、なるべく教養、娯楽、面会のための室等寄宿舎に寄宿する労働者のための適当な福利施設を設けなければならない。 」、と規定されている。

通達では、部屋代や寝具の損料を労働者に負担させる場合については、労働条件に関する事項とみて、就業規則のほうに規定することを提案している(昭和23年3月30日基発508号)。


この項目だけは労働者の代表の同意を得ずに、使用者が作成・変更できることになっている。これは、寄宿舎の管理権を持っているのは使用者だからである。しかし、同意が必要ないからといっても、使用者は労働者側の意見を聞くなどしたほうが良い。
※使用者と寄宿舎に寄宿する労働者は、寄宿舎規則を遵守しなければならない。


この寄宿舎に関しての判例には、以下のようなものがある。

・時間外帰寮・無断外泊・退寮命令無視・門限違反などの行為をした場合は、寄宿舎規則違反として寄宿舎内で何らかの罰を受けるのはやむを得ないが、解雇理由となることはない。

・労働者の上司が、施設維持について具体的必要性がないにもかかわらず、無断で部屋に入るのは、私生活の自由に対する違法な侵害行為である。

これら以外に、八幡製鉄事件(昭和36年3月28日)や東京厚生年金病院事件(昭和41年9月20日)などがある。
第96条 【寄宿舎の設備及び安全衛生】

 @ 使用者は、事業の附属寄宿舎について、換気、採光、照明、保温、防湿、清潔、避難、定員の収容、就寝に必要な措置その他労働者の健康、風紀及び生命の保持に必要な措置を講じなければならない。

 A 使用者が前項の規定によつて講ずべき措置の基準は、厚生労働省令で定める。
本条は、附属寄宿舎の換気や採光など、必要な措置の基準についての規定である。第2項にあるように、基準については厚生労働省令で定めることとされているので、つまり、事業附属寄宿舎規程において詳しく規定されている。

この事業附属寄宿舎規程は、安全衛生基準について、以下の二つに大別して、規定している。
名前 事業附属寄宿舎規定 内容
第一種寄宿舎安全衛生基準 第2章(第6条〜第36条) この章の規定は、労働者を六箇月以上の期間寄宿させる寄宿舎(法別表第一第六号に掲げる事業等で事業の完了の時期が予定されるものにおいて、当該事業が完了するまでの期間労働者を寄宿させる仮設の寄宿舎を除く。)について適用する。
第二種寄宿舎安全衛生基準 第3章(第37条〜第39条) この章の規定は、労働者を六箇月に満たない期間寄宿させる寄宿舎又は法別表第一第六号に掲げる事業等で事業の完了の時期が予定されるものにおいて、当該事業が完了するまでの期間労働者を寄宿させる仮設の寄宿舎について、適用する。
※つまり、寄宿舎での生活が6ヶ月以上か未満かで、区別しているということである。


また、建設業附属寄宿舎規程というものが全24条ある。
第96条の2 【監督上の行政措置】

 @ 使用者は、常時十人以上の労働者を就業させる事業、厚生労働省令で定める危険な事業又は衛生上有害な事業の附属寄宿舎を設置し、移転し、又は変更しようとする場合においては、前条の規定に基づいて発する厚生労働省令で定める危害防止等に関する基準に従い定めた計画を、工事着手十四日前までに、行政官庁に届け出なければならない。

 A 行政官庁は、労働者の安全及び衛生に必要であると認める場合においては、工事の着手を差し止め、又は計画の変更を命ずることができる。
附属寄宿舎の設置・移転・変更について、届出義務があるのは、以下の場合である。

条文 内容
本条 ・常時10人以上の労働者を就業させる事業
労働基準法施行規則第50条の2 法第九十六条の二第一項の厚生労働省令で定める危険な事業又は衛生上有害な事業は、次に掲げる事業とする。

1 使用する原動機の定格出力の合計が二・二キロワツト以上である法別表第一第一号から第三号までに掲げる事業

2 次に掲げる業務に使用する原動機の定格出力の合計が一・五キロワツト以上である事業

  イ プレス機械又はシヤーによる加工の業務

  ロ 金属の切削又は乾燥研まの業務

  ハ 木材の切削加工の業務

  ニ 製綿、打綿、麻のりゆう解、起毛又は反毛の業務

3 主として次に掲げる業務を行なう事業

  イ 労働安全衛生規則(昭和四十七年労働省令第三十二号)別表第六の二に掲げる業務

  ロ 労働安全衛生法施行令(昭和四十七年政令第三百十八号)第六条第三号に規定する機械集材装置又は運材索道の取扱いの業務

4 その他厚生労働大臣の指定するもの
事業附属寄宿舎規程第3条の2 @ 法第九十六条の二第一項の規定による届出をしようとする者は、様式第一号による届書に次の書類を添えて、所轄労働基準監督署長に提出しなければならない。

1 周囲の状況及び四隣との関係を示す図面
2 建築物の各階の平面図及び断面図

A 寄宿舎の一部を設置し、移転し、又は変更しようとするときは、前項の規定による届出は、その部分についてのみ行なえば足りるものとする。


監督署長が命令を出すのは、「工事の着手の差し止め」と「計画の変更」である(本条第2項)。

なお、工事の着手後については、第96条の3に規定されている。


本条第2項に違反すれば、第119条により、6ヶ月以下の懲役か30万円以下の罰金に処せられる。
第96条の3 【監督上の行政措置】

 @ 労働者を就業させる事業の附属寄宿舎が、安全及び衛生に関し定められた基準に反する場合においては、行政官庁は、使用者に対して、その全部又は一部の使用の停止、変更その他必要な事項を命ずることができる。

 A 前項の場合において行政官庁は、使用者に命じた事項について必要な事項を労働者に命ずることができる。
本条は、寄宿舎の工事後の措置についての規定である。もし、寄宿舎が、安全及び衛生に関し定められた基準に反する場合、行政官庁は、使用者と労働者に対して、寄宿舎の全部または一部の使用停止・変更・その他必要な事項を命じることができる。

また、寄宿舎が安全及び衛生に関し定められた基準に反し、また、労働者に急迫した危険がある場合においては、一介の労働基準監督官も本条の措置を命じることができる(第103条)。

本条第1項に違反すれば、第119条により、6ヶ月以下の懲役か30万円以下の罰金に処せられる。
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