労働基準法 条文 労働基準法 解説
第11章 監督機関
第97条 【監督機関の職員等】

 @ 労働基準主管局(厚生労働省の内部部局として置かれる局で労働条件及び労働者の保護に関する事務を所掌するものをいう。以下同じ。)、都道府県労働局及び労働基準監督署に労働基準監督官を置くほか、厚生労働省令で定める必要な職員を置くことができる。

 A 労働基準主管局の局長(以下「労働基準主管局長」という。)、都道府県労働局長及び労働基準監督署長は、労働基準監督官をもつてこれに充てる。

 B 労働基準監督官の資格及び任免に関する事項は、政令で定める。

 C 厚生労働省に、政令で定めるところにより、労働基準監督官分限審議会を置くことができる。

 D 労働基準監督官を罷免するには、労働基準監督官分限審議会の同意を必要とする。

 E 前二項に定めるもののほか、労働基準監督官分限審議会の組織及び運営に関し必要な事項は、政令で定める。
本条は、労働基準監督官が権力などに屈することが無いよう、逆に、自らの権力を濫用することが無いようにするため、資格や任命方法などについて規定している。

しかし、実際的な詳細については、命令で定めることとし、労働基準監督機関令において規定されている。


労働基準監督官の資格などについては、以下を参照。
名前 条文 内容
資格 原則 労働基準監督機関令第1条 労働基準監督官は、国家公務員法 (昭和二十二年法律第百二十号)の定めるところにより行われる労働基準監督官を採用するための試験に合格した者のうちから任用しなければならない。
例外 労働基準監督機関令第1条但し書き ただし、一般職の職員の給与に関する法律 (昭和二十五年法律第九十五号)第六条第一項第一号 イに規定する行政職俸給表(一)に定める職務の級が四級以上である者又は同表の適用を受け、かつ、厚生労働大臣が定める条件に該当する者を任用する場合は、この限りでない。
罷免 ・本条 C 厚生労働省に、政令で定めるところにより、労働基準監督官分限審議会を置くことができる。

D 労働基準監督官を罷免するには、労働基準監督官分限審議会の同意を必要とする。
・労働基準監督機関令第2条 @ 労働基準監督官分限審議会は、労働基準法(昭和二十二年法律第四十九号)第九十七条第五項の規定による同意を必要とする事案が生じた場合に、置かれるものとする。

A 労働基準監督官分限審議会は、九人の委員で組織し、労働基準法第九十七条第五項の規定によりその権限に属する事項を処理するものとする。

B 労働基準監督官分限審議会の委員は、第一項の事案が生じた場合に、厚生労働大臣が任命する。

C 労働基準監督官分限審議会の委員は、労働政策審議会の労働者を代表する委員、使用者を代表する委員及び公益を代表する委員のうちから各別に互選された者について各一人並びに学識経験者(厚生労働大臣があらかじめ作成した労働基準監督官分限審議会委員候補者名簿に記載されているものに限る。)のうちから六人を任命する。

D 労働基準監督官分限審議会の委員は、第一項の事案に係る処理が終了したときは、解任されるものとする。

E 労働基準監督官分限審議会の委員は、非常勤とする。
・労働基準監督機関令第4条 @ 労働基準監督官分限審議会は、会長が委員に対し適当な方法で通知をして招集し、その議事は、出席委員の過半数で決する。可否同数である場合には、会長の決するところによる。

A 労働基準監督官分限審議会は、委員の三分の二以上又は労働政策審議会の委員のうちから任命された委員一人以上及び学識経験者のうちから任命された委員二人以上が出席しなければ、議事を開き、議決をすることができない。

B 労働基準監督官分限審議会の会長は、厚生労働大臣の求めがあつた場合には、五日以内に、労働基準監督官分限審議会を招集しなければならない。
第98条 【】

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第99条 【労働基準主管局長等の権限】

 @ 労働基準主管局長は、厚生労働大臣の指揮監督を受けて、都道府県労働局長を指揮監督し、労働基準に関する法令の制定改廃、労働基準監督官の任免教養、監督方法についての規程の制定及び調整、監督年報の作成並びに労働政策審議会及び労働基準監督官分限審議会に関する事項(労働政策審議会に関する事項については、労働条件及び労働者の保護に関するものに限る。)その他この法律の施行に関する事項をつかさどり、所属の職員を指揮監督する。

 A 都道府県労働局長は、労働基準主管局長の指揮監督を受けて、管内の労働基準監督署長を指揮監督し、監督方法の調整に関する事項その他この法律の施行に関する事項をつかさどり、所属の職員を指揮監督する。

 B 労働基準監督署長は、都道府県労働局長の指揮監督を受けて、この法律に基く臨検、尋問、許可、認定、審査、仲裁その他この法律の実施に関する事項をつかさどり、所属の職員を指揮監督する。

 C 労働基準主管局長及び都道府県労働局長は、下級官庁の権限を自ら行い、又は所属の労働基準監督官をして行わせることができる。
本条は、労働基準監督機関の長の職務権限や上下関係についての規定である。まとめると、以下のようになる。

条文 名前 上司 権限
本条第1項
本条第4項
労働基準主管局長 厚生労働大臣 ・労働基準に関する法令の制定改廃
・労働基準監督官の任免教養
・監督方法についての規程の制定及び調整
・監督年報の作成
・労働政策審議会及び労働基準監督官分限審議会に関する事項(労働政策審議会に関する事項については、労働条件及び労働者の保護に関するものに限る。)その他この法律の施行に関する事項を所掌
・所属の職員の指揮監督
本条第2項
本条第4項
都道府県労働局長 労働基準主管局長 ・管内の労働基準監督署長を指揮監督
・監督方法の調整に関する事項その他この法律の施行に関する事項を所掌
・所属の職員の指揮監督
本条第3項 労働基準監督署長 都道府県労働局長 ・臨検
・尋問
・許可
・認定
・審査
・仲裁
・この法律の実施に関する事項の所掌
・所属の職員の指揮監督
第100条 【女性主管局長の権限】

 @ 厚生労働省の女性主管局長(厚生労働省の内部部局として置かれる局で女性労働者の特性に係る労働問題に関する事務を所掌するものの局長をいう。以下同じ。)は、厚生労働大臣の指揮監督を受けて、この法律中女性に特殊の規定の制定、改廃及び解釈に関する事項をつかさどり、その施行に関する事項については、労働基準主管局長及びその下級の官庁の長に勧告を行うとともに、労働基準主管局長が、その下級の官庁に対して行う指揮監督について援助を与える。

 A 女性主管局長は、自ら又はその指定する所属官吏をして、女性に関し労働基準主管局若しくはその下級の官庁又はその所属官吏の行つた監督その他に関する文書を閲覧し、又は閲覧せしめることができる。

 B 第百一条及び第百五条の規定は、女性主管局長又はその指定する所属官吏が、この法律中女性に特殊の規定の施行に関して行う調査の場合に、これを準用する。
本条は、厚生労働省女性主管局長の仕事についての規定である。

その仕事とは、労働基準法の女性に特殊の規定の制定改廃・解釈、勧告、援助、文書の閲覧、調査である。

また、第101条と第105条の規定については、厚生労働省女性主管局長・その指定する所属官吏にも準用される。
第101条 【労働基準監督官の権限】

 @ 労働基準監督官は、事業場、寄宿舎その他の附属建設物に臨検し、帳簿及び書類の提出を求め、又は使用者若しくは労働者に対して尋問を行うことができる。

 A 前項の場合において、労働基準監督官は、その身分を証明する証票を携帯しなければならない。
本条は、労働基準監督官の権限について規定している。権限は以下である。

・事業場・寄宿舎・その他の附属建造物の臨検
・帳簿・書類の提出命令
・使用者・労働者への尋問

労働基準監督官は、これらの権限を行使する場合、身分を証明する証票を携帯しなければならない。

本条に違反すれば、第120条により、30万円以下の罰金に処せられる。


なお、日本が批准した、ILO総会で採択された「工業及び商業における労働監督に関する条約」には、以下のような規定がある。
条文 内容
第12条 1 正当な証明書を所持する労働監督官は、次の権限を有する。
  (a) 監督を受ける事業場に、昼夜いつでも、自由に且つ予告なしに立ち入ること。
  (b) 監督を受けるべきであると認めるに足りる相当の理由があるいずれの場所にも、昼間立ち入ること。
  (c) 法規が厳格に遵守されていることを確認するため必要と認める調査、検査又は尋問を行うこと、特に、
   (i) 法規の適用に関するいかなる事項についても、余人をまじえずに又は証人の立会の下に使用者又は企業の職員を尋問すること。
   (ii) 労働条件に関する国内の法令の規定により備え付けなければならない帳簿、台帳その他の書類が法規に適合していることを確め、及びそれらの書類の写をとり、又は抜すいを作るため、それらの書類の提出を要求すること。
   (iii) 法規により要求される掲示を行わせること。
   (iv) 使用され、又は取り扱われる原料及び材料を分析のため収去すること。但し、このような目的のために原料又は材料を収去することを使用者又はその代表者に通告しなければならない。
2 監督官は、臨検をする場合には、任務の遂行を妨げる虞があると認める場合を除く外、その来訪を使用者又はその代表者に通告しなければならない。
第16条 事業場に対しては、関係法規の実効的な適用の確保に必要である限りひんぱん且つ完全に監督を実施しなければならない。
第102条 【労働基準監督官の権限】

 労働基準監督官は、この法律違反の罪について、刑事訴訟法に規定する司法警察官の職務を行う。
労働基準監督官は、労働基準法違反の罪については、刑事訴訟法上の司法警察官の職務が認められている。この職務の行使については、臨検などの行政上の権限とは異なり、現行犯の場合を除いては裁判官の令状が必要である。
第103条 【労働基準監督官の権限】

 労働者を就業させる事業の附属寄宿舎が、安全及び衛生に関して定められた基準に反し、且つ労働者に急迫した危険がある場合においては、労働基準監督官は、第九十六条の三の規定による行政官庁の権限を即時に行うことができる。
附属寄宿舎が安全・衛生に関して定められた基準に違反している場合、本来であれば所轄監督署長が必要な措置を命じなければならない(第90条、第96条の3)。

しかし、労働者に急迫な危険がある場合においては、労働基準監督官がすぐに所轄監督署長の権限を行使することができる。
第104条 【監督機関に対する申告】

 @ 事業場に、この法律又はこの法律に基いて発する命令に違反する事実がある場合においては、労働者は、その事実を行政官庁又は労働基準監督官に申告することができる。

 A 使用者は、前項の申告をしたことを理由として、労働者に対して解雇その他不利益な取扱をしてはならない。
本条は、労働基準法違反について、労働者の申告権について規定している。労働基準法違反は、工場・事業場内において行われるため、外部からは発見されない場合が多い。そのため、労働基準法違反を防ぐためには、そこで働く労働者の協力が何より必要である。

本条第1項では、労働基準法違反の事実がある場合、労働者は行政官庁か労働基準監督官に申告することができるとした。この労働者とは、労働基準法違反が行われている職場の労働者に限定されない。例えば、中小企業であれば、地区労や合同労働組合等に依頼することも多い。

本条第2項では、第1項の申告を理由に、申告をした労働者に対して解雇やその他の不利益な取り扱いをしてはいけないと規定している。不利益な取り扱いとは、転任や賃下げなどの使用者ができる一切の行為のことである。

本条に違反すれば、第119条により、6ヶ月以下の懲役か30万円以下の罰金に処せられる。


また、本条では申告ができるのは労働者とされているが、労働基準法違反は犯罪であるため、労働者ではなくても誰でも告発できる。申告は、所轄監督署長や労働基準監督官にすることとなる。また、検察庁への告発ということも可能である。申告は、告発も含めて広い意味で解釈するのが妥当である。
第104条の2 【報告等】

 @ 行政官庁は、この法律を施行するため必要があると認めるときは、厚生労働省令で定めるところにより、使用者又は労働者に対し、必要な事項を報告させ、又は出頭を命ずることができる。

 A 労働基準監督官は、この法律を施行するため必要があると認めるときは、使用者又は労働者に対し、必要な事項を報告させ、又は出頭を命ずることができる。
行政官庁は、本条第1項の規定により、使用者または労働者に必要な事項を報告させたり出頭を命じるときは、以下の事項を通知しなければならない(労働基準法施行規則第58条)。

・報告をさせ、又は出頭を命ずる理由
・出頭を命ずる場合には、聴取しようとする事項

また、現在は、労働基準法施行規則第57条において、臨時報告事項が規定されている。
「@ 使用者は、次の各号の一に該当する場合においては、遅滞なく、第一号については様式第二十三号の二により、第二号については労働安全衛生規則様式第二十二号により、第三号については労働安全衛生規則様式第二十三号により、それぞれの事実を所轄労働基準監督署長に報告しなければならない。

1 事業を開始した場合
2 事業の附属寄宿舎において火災若しくは爆発又は倒壊の事故が発生した場合
3 労働者が事業の附属寄宿舎内で負傷し、窒息し、又は急性中毒にかかり、死亡し又は休業した場合

A 前項第三号に掲げる場合において、休業の日数が四日に満たないときは、使用者は、同項の規定にかかわらず、労働安全衛生規則様式第二十四号により、一月から三月まで、四月から六月まで、七月から九月まで及び十月から十二月までの期間における当該事実を毎年各各の期間における最後の月の翌月末日までに、所轄労働基準監督署長に報告しなければならない。

B 法第十八条第二項の規定により届け出た協定に基づき労働者の預金の受入れをする使用者は、毎年、三月三十一日以前一年間における預金の管理の状況を、四月三十日までに、様式第二十四号により、所轄労働基準監督署長に報告しなければならない。 」
第105条 【労働基準監督官の義務】

 労働基準監督官は、職務上知り得た秘密を漏してはならない。労働基準監督官を退官した後においても同様である。
本条は、労働基準監督官の義務について規定している。

労働基準監督官は、職務上知り得た秘密を、在任中はもちろんのこと、退職後も、漏らしてはいけない。
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