労働基準法 条文 労働基準法 解説
第3章 賃金
第24条 【賃金の支払】

 @ 賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。ただし、法令若しくは労働協約に別段の定めがある場合又は厚生労働省令で定める賃金について確実な支払の方法で厚生労働省令で定めるものによる場合においては、通貨以外のもので支払い、また、法令に別段の定めがある場合又は当該事業場の労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定がある場合においては、賃金の一部を控除して支払うことができる。

 A 賃金は、毎月一回以上、一定の期日を定めて支払わなければならない。ただし、臨時に支払われる賃金、賞与その他これに準ずるもので厚生労働省令で定める賃金(第八十九条において「臨時の賃金等」という。)については、この限りでない。
本条は、労働者にとって最も大切な賃金についての規定である。

労働者の賃金に関する法律は、以下である。
法律 条文 内容
労働基準法 第4条 男女同一賃金
第11条 賃金の定義
第12条 平均賃金の定義
第17条 前借金との相殺禁止
第24条 賃金の支払い
第25条 非常時の支払い
第26条 休業手当
第27条 出来高払い
第59条 未成年者の賃金受領権
第91条 減給の制限
民法 第306条等 賃金の先取特権
第510条 賃金の差押禁止
民事執行法 第152条


労働基準法では、賃金の支払いについて、5つの原則を規定している(本条)。以下を、参照。
原則 内容
通貨払いの原則 賃金は、通貨で支払わなければならない。この場合、通貨とは強制通用力のある貨幣(日本銀行券等)のことである。
直接払いの原則 賃金は、労働者本人に直接支払わなければならない。
全額払いの原則 賃金は、全額払いでなければならない。
毎月一回以上支払いの原則 賃金は、毎月一回以上支払わなければならない。
定期日払いの原則 賃金は、定期日に支払わなければならない。



通貨払いの原則には、例外もあり、厚生労働省令や労働協約に規定があれば、現物給与で支払うことができる。現物給与には、有価証券等の他に、6ヵ月ごとに支給している通勤定期乗車券も含まれ、賃金台帳に記入すべきであり、各月分の賃金の前払いとして認められるとしている(昭和25年1月18日基収130号、昭和33年2月13日基発90号)。また、労働基準法施行規則と最低賃金法には、以下のような規定がある。
労働基準法施行規則第2条 @ 労働基準法(昭和二十二年法律第四十九号。以下「法」という。)第十二条第五項の規定により、賃金の総額に算入すべきものは、法第二十四条第一項ただし書の規定による法令又は労働協約の別段の定めに基づいて支払われる通貨以外のものとする。

A 前項の通貨以外のものの評価額は、法令に別段の定がある場合の外、労働協約に定めなければならない。

B 前項の規定により労働協約に定められた評価額が不適当と認められる場合又は前項の評価額が法令若しくは労働協約に定められていない場合においては、都道府県労働局長は、第一項の通貨以外のものの評価額を定めることができる。
最低賃金法第5条 賃金が通貨以外のもので支払われる場合又は使用者が労働者に提供した食事その他のものの代金を賃金から控除する場合においては、最低賃金の適用について、これらのものは、適正に評価されなければならない。

なお、賃金の口座振込みについては、次の要件を満たす場合は、違法ではないとされている。
・労働者の意思に基づいていること
・労働者が指定する本人名義の預金・貯金口座か、証券総合口座に振り込まれること
・振り込みの全額が、賃金支払日に受け取れること


直接払いの原則に関する通達や判例には、以下がある。
・本人か使者に渡すのは差し支えないが、代理人に渡すことは違法と解釈するのが常識である(昭和63年3月14日基発150号)
・賃金債権の譲渡は禁止されていないが、譲渡後であっても労働者に支払わなければならない(電電公社事件、住友化学工業事件)

なお、直接払いの原則については、労働基準法では例外を認めていない。


全額払いの原則に関する通達や判例には、以下がある。
・使用者が労働者に対して持っている損害賠償請求権と賃金との相殺はできない(関西精機事件、日本勧業経済会事件)。
・労働者が自由意志に基づき相殺に同意した場合は、自由意志であることの理由が客観的に存在していれば、違反ではない(シンガー・ソーイング・メシーン・カムパニー事件)。自由意志であるかどうかの判断は、厳格になされなければならない(日新製鋼事件)。

全額払いの原則には、例外がある。法令や協定がある場合は、使用者は全額のうちの一部を控除しても構わないとされている。労働基準法において、控除の限度額を規定した条文はない。どの程度まで控除できるかについては、以下の通達や判例を参照。

・使用者からの控除は、一賃金支払期における俸給の4分の1が限度である(民事執行法第152条、民法第510条、昭和29年12月23日基収6185号、昭和63年3月14日基発150号)。
・協定とは、必ずしも労働協約である必要はない。労働者の過半数で組織する労働組合がないときは、労働者の過半数を代表する者との書面による協定で良い。
・遅刻や早退等、労働力の不提供が原因による賃金の減額は、労働力の不提供分を限度に行う場合は、全額払いの原則に違反しない。しかし、それ以上に行う減額は、違法である。


毎月一回以上支払いの原則と定期日払いの原則には、例外がある。以下については、原則通りでなくても、罰せられない。
・一ヶ月を超える期間の出勤成績により支給される精勤手当
・一ヶ月を超える一定期間の継続勤務に対して支給される勤務手当
・一ヶ月を超える期間にわたる事由によって算定される奨励金や能率手当

これら以外については、毎月一回以上、定期日に支払わなくてはならない。

通達では、使用者は、社会通念上しなくてはならない最善の努力をせずに、確約した定期日に支払わなかった場合には、送検するとしている(昭和24年3月14日基発290号)。不可抗力などの場合であれば、刑罰を受けることはないということである。しかし、この場合であっても、民事上の責任を免れることはできない。そのため、労働者は民事訴訟という方法で賃金の支払いを求める必要がある。この時、未払賃金の遅延損害金は、民法の年5分と、商法の年6分のどちらかの利息もあわせて支払うこととなるが、現在では商法の年6分とする場合が多い。

なお、会社が倒産した場合の未払賃金については、賃金の支払いの確保等に関する法律という法律と、賃金の支払いの確保等に関する法律施行令に規定がある。
条文 内容
賃金の支払いの確保等に関する法律第7条 政府は、労働者災害補償保険の適用事業に該当する事業(労働保険の保険料の徴収等に関する法律(昭和四十四年法律第八十四号)第八条の規定の適用を受ける事業にあつては、同条の規定の適用がないものとした場合における事業をいう。以下この条において同じ。)の事業主(厚生労働省令で定める期間以上の期間にわたつて当該事業を行つていたものに限る。)が破産手続開始の決定を受け、その他政令で定める事由に該当することとなつた場合において、当該事業に従事する労働者で政令で定める期間内に当該事業を退職したものに係る未払賃金(支払期日の経過後まだ支払われていない賃金をいう。以下この条及び次条において同じ。)があるときは、民法(明治二十九年法律第八十九号)第四百七十四条第一項ただし書及び第二項の規定にかかわらず、当該労働者(厚生労働省令で定める者にあつては、厚生労働省令で定めるところにより、未払賃金の額その他の事項について労働基準監督署長の確認を受けた者に限る。)の請求に基づき、当該未払賃金に係る債務のうち政令で定める範囲内のものを当該事業主に代わつて弁済するものとする。
賃金の支払いの確保等に関する法律施行令第3条 法第七条の政令で定める期間は、次に掲げる日(事業主が前条第一項第四号に掲げる事由に該当した日以後、破産手続開始の決定を受け、又は同項第一号から第三号までに掲げる事由のいずれかに該当することとなつた場合には、第二号に掲げる日)の六月前の日から二年間とする。

1 事業主が破産手続開始の決定を受け、又は前条第一項第一号から第三号までに掲げる事由のいずれかに該当することとなつた場合には、当該事業主につきされた破産手続開始等の申立て(破産手続開始、特別清算開始、再生手続開始又は更生手続開始の申立てであつて、当該破産手続開始の決定又は該当することとなつた事由の基礎となつた事実に係るものをいう。以下この号において同じ。)のうち最初の破産手続開始等の申立てがあつた日(破産手続開始等の申立てがなかつた場合において、裁判所が職権で破産手続開始の決定をしたときは、当該決定があつた日とする。)

2 事業主が前条第一項第四号に掲げる事由に該当することとなつた場合には、同号の認定の基礎となつた事実に係る同号の申請のうち最初の申請があつた日
賃金の支払いの確保等に関する法律施行令第4条 @ 法第七条の政令で定める範囲内の未払賃金に係る債務は、同条の未払賃金に係る債務のうち、同条の請求をする者に係る未払賃金総額(その額が、次の各号に掲げる同条の請求をする者の区分に応じ、当該各号に定める額を超えるときは、当該各号に定める額)の百分の八十に相当する額に対応する部分の債務とする。

1 基準退職日(前条に規定する期間内にした当該事業からの退職(当該退職前の労働に対する労働基準法(昭和二十二年法律第四十九号)第二十四条第二項本文の賃金又は当該退職に係る退職手当がこれらの支払期日の経過後まだ支払われていない場合の退職に限る。)の日をいうものとし、当該退職が二以上ある場合には、これらのうち最初の退職の日をいうものとする。以下同じ。)において三十歳未満である者 百十万円

2 基準退職日において三十歳以上四十五歳未満である者 二百二十万円

3 基準退職日において四十五歳以上である者 三百七十万円

A 前項の「未払賃金総額」とは、基準退職日以前の労働に対する労働基準法第二十四条第二項本文の賃金及び基準退職日にした退職に係る退職手当であつて、基準退職日の六月前の日から法第七条の請求の日の前日までの間に支払期日が到来し、当該支払期日後まだ支払われていないものの額(当該額に不相当に高額な部分の額として厚生労働省令で定める額がある場合には、当該厚生労働省令で定める額を控除した額)の総額をいうものとし、当該総額が二万円未満であるものを除くものとする。

つまり、倒産等の場合の未払賃金は、退職前6ヶ月以内の期間に支払期日が到来した賃金であれば、80%を国が支払ってくれるということである。
第25条 【非常時払】

 使用者は、労働者が出産、疾病、災害その他厚生労働省令で定める非常の場合の費用に充てるために請求する場合においては、支払期日前であつても、既往の労働に対する賃金を支払わなければならない。
本条は、労働者等が出産や疾病や災害などの非常の場合について、賃金前払いについての条文である。


本条は、労働者が出産・疾病・災害にあった場合について書かれているが、これら以外に厚生労働省令(労働基準法施行規則)においても規定されている。
労働基準法施行規則 内容
第9条 法第25条に規定する非常の場合は、次に掲げるものとする。

1 労働者の収入によつて生計を維持する者が出産し、疾病にかかり、又は災害をうけた場合

2 労働者又はその収入によつて生計を維持する者が結婚し、又は死亡した場合

3 労働者又はその収入によつて生計を維持する者がやむを得ない事由により一週間以上にわたつて帰郷する場合


本条に違反すれば、第120条により、30万円以下の罰金に処せられる。
第26条 【休業手当】

 使用者の責に帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は、休業期間中当該労働者に、その平均賃金の百分の六十以上の手当を支払わなければならない。
使用者は、使用者の責に帰すべき事由による休業の場合、労働者に平均賃金の60%以上の手当てを支払わなければならない。

本条とは別に民法第536条第2項には、いわゆる危険負担についての規定がある。労働基準法との違いは、以下である。
名前 条文 内容 使用者が支払わなければならない金額
民法 第536条第2項 債権者の責めに帰すべき事由によって債務を履行することができなくなったときは、債務者は、反対給付を受ける権利を失わない。この場合において、自己の債務を免れたことによって利益を得たときは、これを債権者に償還しなければならない。 100%
労働基準法 本条 使用者の責に帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は、休業期間中当該労働者に、その平均賃金の百分の六十以上の手当を支払わなければならない。 60%以上
※判例は、以下である。

・本条は民法第536条第2項の特別規定であり、労働者の労務の履行の提供を要せずして使用者に反対給付の責任を認めている(駐留軍極東空軍山田部隊事件)。

・本条と民法の目的・要件・効果はそれぞれ違うため、労働者はどちらの規定によっても請求できる(ノースウェスト航空事件)。これは、請求権競合説といわれているものである。

※つまり、使用者は休業が民法第536条第2項の要件に該当していなくても、労働基準法第26条の要件に該当していれば、労働者に支払いをしなくてはならない。


本条の、「使用者の責に帰すべき事由」に該当するものなどについては、以下を参照。
名前 内容
通達 ・通常の経営者としてなしえる最善を尽くしていたか(昭和24年2月5日基収4142号)。

・使用者が通常なすべきあらゆる手段を講じていたか(昭和23年7月20日基収2483号)。
使用者の責めに帰すべき事由にあたらないもの ・自然現象による休業
使用者の責めに帰すべき事由にあたるもの ・操短勧告による休業
・中小企業安定法による生産制限による休業
・経済事情その他外部の事情による休業
・原料繭の不足による休業
・配給機構の不円滑による休業
・倉庫充満による一部休業
・親会社の経営難のため下請工場が休業した場合の休業


判例では、不景気のため休業しなければならないような時でも、同業他社が休業せずうまく経営を行っているような場合は、休業手当を支払わなければならないとしている(カルケット食品事件)。しかし、同業他社なども軒並み休業しなければならないようなときは、雇用保険法の雇用調整助成金として、使用者が支払った休業手当などが助成される。

本条に違反した使用者は、第120条により、30万円以下の罰金に処せられる。また、支払わなかった使用者には、労働者からの請求により、未払金と未払金と同一額の付加金を支払うよう裁判所から命じられることがある(第114条)。
第27条 【出来高払制の保障給】

 出来高払制その他の請負制で使用する労働者については、使用者は、労働時間に応じ一定額の賃金の保障をしなければならない。
出来高払制やその他の請負制の場合、結果によっては賃金が少なくなりすぎることがありえる。例えば、出来高がゼロであったら、賃金もゼロということになりかねない。そのようなことがないように、使用者は労働者に対して労働時間に応じて一定額の賃金の保障をしなければならない。

しかし、問題は、本条は一定額と規定しているだけで、具体的にいくらと規定していないため、どれぐらいの額が保障されるかは労使間の交渉次第ということになる。

なお、通達では、通常の実収賃金をあまりへだたらない程度の収入が保障されるようにしなければならないとしている(昭和22年9月13日発基17号)。
第28条 【最低賃金】

 賃金の最低基準に関しては、最低賃金法(昭和三十四年法律第百三十七号)の定めるところによる。
条文のとおり、賃金の最低基準については最低賃金法において定めることとされている。
第29条 【】

削除
第29条から第31条までは、最低賃金などについて決める賃金審議会等について規定されていたが、これらについては最低賃金法において規定されることとされたため、削除された。
第30条 【】

削除
第31条 【】

削除
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