労働基準法 条文 労働基準法 解説
第6章の2 妊産婦等
第64条の2 【坑内業務の就業制限】

 使用者は、次の各号に掲げる女性を当該各号に定める業務に就かせてはならない。

 1 妊娠中の女性及び坑内で行われる業務に従事しない旨を使用者に申し出た産後一年を経過しない女性 坑内で行われるすべての業務

 2 前号に掲げる女性以外の満十八歳以上の女性 坑内で行われる業務のうち人力により行われる掘削の業務その他の女性に有害な業務として厚生労働省令で定めるもの
本条は、女性の坑内業務の制限についての規定である。まとめると、以下になる。

条文 対象者 制限範囲
第63条 満18歳未満の者 坑内で行われる全ての業務
本条第1号 ・妊娠中の女性

・坑内で行われる業務に従事しない旨を使用者に申し出た産後1年を経過しない女性
本条第2号 上記(第63条と本条第1号)以外の女性 坑内で行われる業務のうち人力により行われる掘削の業務その他の女性に有害な業務として厚生労働省令で定めるもの
※本条第2号が規定する厚生労働省令とは、女性労働基準規則第1条のことである。以下を参照。
労働基準法(以下「法」という。)第六十四条の二第二号の厚生労働省令で定める業務は、次のとおりとする。

1 人力により行われる土石、岩石若しくは鉱物(以下「鉱物等」という。)の掘削又は掘採の業務
2 動力により行われる鉱物等の掘削又は掘採の業務(遠隔操作により行うものを除く。)
3 発破による鉱物等の掘削又は掘採の業務
4 ずり、資材等の運搬若しくは覆工のコンクリートの打設等鉱物等の掘削又は掘採の業務に付随して行われる業務(鉱物等の掘削又は掘採に係る計画の作成、工程管理、品質管理、安全管理、保安管理その他の技術上の管理の業務並びに鉱物等の掘削又は掘採の業務に従事する者及び鉱物等の掘削又は掘採の業務に付随して行われる業務に従事する者の技術上の指導監督の業務を除く。)


本条に違反した者は、第118条により、1年以下の懲役または50万円以下の罰金に処せられる。
第64条の3 【危険有害業務の就業制限】

 @ 使用者は、妊娠中の女性及び産後一年を経過しない女性(以下「妊産婦」という。)を、重量物を取り扱う業務、有害ガスを発散する場所における業務その他妊産婦の妊娠、出産、哺育等に有害な業務に就かせてはならない。

 A 前項の規定は、同項に規定する業務のうち女性の妊娠又は出産に係る機能に有害である業務につき、厚生労働省令で、妊産婦以外の女性に関して、準用することができる。

 B 前二項に規定する業務の範囲及びこれらの規定によりこれらの業務に就かせてはならない者の範囲は、厚生労働省令で定める。
本条は、女性の危険有害業務についての就業制限を規定している。まとめると、以下になる。

条文 対象者 制限範囲
本条第1項 ・妊娠中の女性
・産後1年を経過しない女性

※上記をあわせて妊産婦という。
・重量物を取り扱う業務
・有害ガスを発散する場所における業務
・その他妊産婦の妊娠、出産、哺育等に有害な業務
本条第2項 ・妊産婦以外の女性 ・重量物を取り扱う業務
・有害ガスを発散する場所における業務
・その他妊産婦の妊娠、出産、哺育等に有害な業務

上記の業務のうち、女性の妊娠または出産に係る機能に有害である業務
※本条第1項と第2項の業務範囲等については、厚生労働省令(女性労働基準規則)で定める。


厚生労働省令(女性労働基準規則)については、以下を参照。
女性労働基準規則 内容
第2条 @ 法第六十四条の三第一項の規定により妊娠中の女性を就かせてはならない業務は、次のとおりとする。

1 次の表の上欄に掲げる年齢の区分に応じ、それぞれ同表の下欄に掲げる重量以上の重量物を取り扱う業務

年齢 重量(単位 キログラム)
断続作業の場合 継続作業の場合
満16歳未満 12 8
満16歳以上満18歳未満 25 15
満18歳以上 30 20

2 ボイラー(労働安全衛生法施行令(昭和四十七年政令第三百十八号)第一条第三号に規定するボイラーをいう。次号において同じ。)の取扱いの業務

3 ボイラーの溶接の業務

4 つり上げ荷重が五トン以上のクレーン若しくはデリック又は制限荷重が五トン以上の揚貨装置の運転の業務

5 運転中の原動機又は原動機から中間軸までの動力伝導装置の掃除、給油、検査、修理又はベルトの掛換えの業務

6 クレーン、デリック又は揚貨装置の玉掛けの業務(二人以上の者によつて行う玉掛けの業務における補助作業の業務を除く。)

7 動力により駆動される土木建築用機械又は船舶荷扱用機械の運転の業務

8 直径が二十五センチメートル以上の丸のこ盤(横切用丸のこ盤及び自動送り装置を有する丸のこ盤を除く。)又はのこ車の直径が七十五センチメートル以上の帯のこ盤(自動送り装置を有する帯のこ盤を除く。)に木材を送給する業務

9 操車場の構内における軌道車両の入換え、連結又は解放の業務

10 蒸気又は圧縮空気により駆動されるプレス機械又は鍛造機械を用いて行う金属加工の業務

11 動力により駆動されるプレス機械、シヤー等を用いて行う厚さが八ミリメートル以上の鋼板加工の業務

12 岩石又は鉱物の破砕機又は粉砕機に材料を送給する業務

13 土砂が崩壊するおそれのある場所又は深さが五メートル以上の地穴における業務

14 高さが五メートル以上の場所で、墜落により労働者が危害を受けるおそれのあるところにおける業務

15 足場の組立て、解体又は変更の業務(地上又は床上における補助作業の業務を除く。)

16 胸高直径が三十五センチメートル以上の立木の伐採の業務

17 機械集材装置、運材索道等を用いて行う木材の搬出の業務

18 鉛、水銀、クロム、砒素、黄りん、弗素、塩素、シアン化水素、アニリンその他これらに準ずる有害物のガス、蒸気又は粉じんを発散する場所における業務

19 多量の高熱物体を取り扱う業務

20 著しく暑熱な場所における業務

21 多量の低温物体を取り扱う業務

22 著しく寒冷な場所における業務

23 異常気圧下における業務

24 さく岩機、鋲打機等身体に著しい振動を与える機械器具を用いて行う業務

A 法第六十四条の三第一項の規定により産後一年を経過しない女性を就かせてはならない業務は、前項第一号から第十二号まで及び第十五号から第二十四号までに掲げる業務とする。ただし、同項第二号から第十二号まで、第十五号から第十七号まで及び第十九号から第二十三号までに掲げる業務については、産後一年を経過しない女性が当該業務に従事しない旨を使用者に申し出た場合に限る。
第3条 法第六十四条の三第二項の規定により同条第一項の規定を準用する者は、妊娠中の女性及び産後一年を経過しない女性以外の女性とし、これらの者を就かせてはならない業務は、前条第一項第一号及び第十八号に掲げる業務とする。


妊産婦以外の女性については、雇用機会の拡大という立場から、妊産婦等と比較して就業制限が大幅にカットされている。女性労働基準規則において、妊産婦以外の一般女性に禁止されているのは、第2条第1項の第1号と第18号のみで、それ以外については本人が使用者に申し出た場合のみ適用される。
第65条 【産前産後】

 @ 使用者は、六週間(多胎妊娠の場合にあつては、十四週間)以内に出産する予定の女性が休業を請求した場合においては、その者を就業させてはならない。

 A 使用者は、産後八週間を経過しない女性を就業させてはならない。ただし、産後六週間を経過した女性が請求した場合において、その者について医師が支障がないと認めた業務に就かせることは、差し支えない。

 B 使用者は、妊娠中の女性が請求した場合においては、他の軽易な業務に転換させなければならない。
本条は、女性が子供を産む前後において、就業を制限する規定である。

名前 休暇期間 備考
産前 ・6週間
(多胎妊娠の場合は、14週間)
・女性からの請求があった場合、使用者は休暇を与えなければならない(請求がなければ、与えなくても良い。ただし、請求があった場合は、業務に支障が出たとしても、与えなければならない。)。

・出産予定日が延びた場合は、その延びた期間も休業期間に含まれる。
産後 ・8週間 ・使用者は、8週間の休暇を必ず与えなければならない(女性からの請求の有無は関係ない。)。また、業務に支障が出たとしても、与えなければならない。

・産後6週間を過ぎてからは、女性からの請求があれば、医師が支障がないと認めた業務で労働させることができる。
※女性が妊娠中は、請求があれば、他の軽易な業務で労働させなければならない。軽易な業務とは、原則として女性が請求した業務のことである(昭和22年9月13日発基17号)。

※出産とは、妊娠4ヶ月(1ヶ月を28日とする)以上の分娩のことであり、死産も含まれる(昭和23年12月23日基発1885号)。

※産前産後の休暇は、法的に有給が保障されていない。賃金については、労使の交渉などによらなければならない。健康保険法適用の事業については、お金が支払われる(ただし、この間において使用者からの支給が報酬にあたると、その額だけ、出産手当金が減額される)。

※妊娠中と出産1年以内の女性については、保健指導や健康診査を受けることができる(母子健康法第10条、第13条)。また、男女雇用機会均等法では、事業主に対して、「必要な時間が確保できるようにしなければならない」、としている。また、


男女雇用機会均等法には、以下のような規定がある。
条文 内容
第9条 @ 事業主は、女性労働者が婚姻し、妊娠し、又は出産したことを退職理由として予定する定めをしてはならない。

A 事業主は、女性労働者が婚姻したことを理由として、解雇してはならない。

B 事業主は、その雇用する女性労働者が妊娠したこと、出産したこと、労働基準法(昭和二十二年法律第四十九号)第六十五条第一項の規定による休業を請求し、又は同項若しくは同条第二項の規定による休業をしたことその他の妊娠又は出産に関する事由であつて厚生労働省令で定めるものを理由として、当該女性労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。

C  妊娠中の女性労働者及び出産後一年を経過しない女性労働者に対してなされた解雇は、無効とする。ただし、事業主が当該解雇が前項に規定する事由を理由とする解雇でないことを証明したときは、この限りでない。


本条に関連する判例には、以下のようなものがある。
・産前産後の休業期間や育児時間を欠勤扱いにし、賞与を支給(賞与の支給には、90%以上の出勤率が必要という規定があった)しなかった場合について、一審・二審判決では、公序良俗に反して無効とした(東朋学園事件、高宮学園事件)。しかし、最高裁は、公序良俗に反しないとした。これは、日本セーリング事件、エヌ・ビー・シー工業事件、沼津交通事件の最高裁判決の意向に沿うものである。これらの判決については、産後の休暇は本条による強制であることから考えると、疑問視する声が多い。
第66条 【産前産後】

 @ 使用者は、妊産婦が請求した場合においては、第三十二条の二第一項、第三十二条の四第一項及び第三十二条の五第一項の規定にかかわらず、一週間について第三十二条第一項の労働時間、一日について同条第二項の労働時間を超えて労働させてはならない。

 A 使用者は、妊産婦が請求した場合においては、第三十三条第一項及び第三項並びに第三十六条第一項の規定にかかわらず、時間外労働をさせてはならず、又は休日に労働させてはならない。

 B 使用者は、妊産婦が請求した場合においては、深夜業をさせてはならない。
本条は、妊産婦が請求した場合、時間外労働や深夜業等を禁止する規定である。まとめると、以下になる。

本条 条文 内容 本条の内容
第1項 第32条の2第1項 変形時間外労働 左記の場合であったとしても、妊産婦が請求した場合、1週間において40時間(第32条第1項)、1日において8時間(第32条第2項)を越えて労働させてはならない。
第32条の4第1項
第32条の5第1項
第2項 第33条第1項 非常災害の場合 左記の場合であったとしても、妊産婦が請求した場合、時間外労働や休日労働をさせてはならない。
第33条第3項 非現業の公務員の場合
第36条第1項 三六協定の場合
第3項 妊産婦が請求した場合、深夜業をさせてはならない。


なお、本条に違反した場合、第119条により、6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金に処せられる。
第67条 【育児時間】

 @ 生後満一年に達しない生児を育てる女性は、第三十四条の休憩時間のほか、一日二回各々少なくとも三十分、その生児を育てるための時間を請求することができる。

 A 使用者は、前項の育児時間中は、その女性を使用してはならない。
本条は、母体と生児の保護のための規定である。

生児を育てるための時間とは、授乳のためだけの時間ではなく、生児を育てるために必要な時間のことである。

育児時間中の賃金については、労使双方によって決めなければならない。平成7年4月1日からは、雇用保険から、育児休暇中、一定の要件がを満たせば、育児休業基本給付金と育児休業者職場復帰給付金が支給されるようになった。

通達や判例などについては、以下を参照。

・往復時間を含めて30分の育児時間を与えれば違法とはならない。しかし、往復時間を除いた実質的な育児時間を与えることが望ましい(昭和25年7月22日基発2314号)。
・本条の規定は1日8時間労働を前提としている。勤務時間4時間以内の場合については、1日1回最低30分の育児時間で良い(昭和36年1月9日基収8996号)。
・育児時間中の賃金は保障すべきである(ILO103号条約)。
第68条 【生理日の就業が著しく困難な女性に対する措置】

 使用者は、生理日の就業が著しく困難な女性が休暇を請求したときは、その者を生理日に就業させてはならない。
本条は、使用者は、生理日の就業が著しく困難な女性が、休暇を請求したときは、就業をさせてはいけないと規定している。労働基準法が改正される前は、生理に有害な業務に従事する女性に対して生理休暇権が規定されており、違反に対する罰金は8,000円であった。


女性の生理は病気とは違うため、その判断は個人によって異なる。判例や通達などについては、以下を参照。

・原則として、生理であることの特別の証明がなくても女性労働者の請求があれば、休暇を与えるのが望ましい。生理日に就業できるかどうかの難易は、各人によって異なる。(昭和23年5月5日基発682号)
・女性労働者は生理日においての休暇請求を濫用してはならない(城西学園事件)
・就業規則等により生理休暇の日数を限定することは許されない(昭和23年5月5日基発582号)
・生理休暇の請求は、半日とか何時間なども認められる(昭和61年3月20日基発151号)。
・生理休暇日の賃金について、有給にするかどうかは、労使の合意による(昭和23年6月11日基収1898号)
・生理日に出勤した女性労働者に特別手当を支給することは第67条(現在の本条)の趣旨に反する(昭和25年8月30日婦発215号)
・生理休暇を取得したことにより、精勤手当て等を減額することは、法の趣旨に照らして好ましくない(昭和49年4月1日婦収125号)。精勤手当てについては、エヌ・ビー・シー工業事件も参照。


本条に違反すれば、第120条により、30万円以下の罰金に処せられる。


なお、労働基準法は最低基準について規定したものであるため、本条の内容を上回る内容を設定することが一番望ましい。例えば、「就業が著しく困難」を「就業が困難」とか、「生理休暇3日までは有給」などである。
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