商法 条文 商法 解説
第1編 総則

第1章 通則
第1条 【趣旨等】

 @ 商人の営業、商行為その他商事については、他の法律に特別の定めがあるものを除くほか、この法律の定めるところによる。

 A 商事に関し、この法律に定めがない事項については商慣習に従い、商慣習がないときは、民法 (明治二十九年法律第八十九号)の定めるところによる。
商事(商人の営業や商行為など、企業に関する事柄)に関して適用される法律の中で最も重要なのが、商法である。しかし、実際の具体的事例については、商法以外の法律が適用される場合もあり、法どうしの優先順位が問題となる。どれがまずはじめに適用されるかについては以下の表を参照。

商事に関して適用される優先順位
優先順序(上から下) 説明
商事自治法 会社などが作る自主的な規定のことである。つまり、会社の定款・取引所の業務規定・手形交換所の交換規則などのことである。これらは、強行法の規定や公序良俗に反しない限り、私的自治の原則によって法的拘束力をもつ。
商事条約 現代においては、国際的に行われる取引が増えており、国家間において結ばれた条約や批准などが、一定範囲において適用されることがある。例えば、「船荷証券に関するある規則の統一のための国際条約」、「小切手ニ関シ統一法ヲ制定スル条約」などのことである。
商事特別法 商法とは別に、商事に関する特殊事情について規定されたものであり、「特別法は一般法に優先して適用される」という法適用上の一般原則により、商法に優先して適用される。つまり、特別法と商法のどちらにも規定されている場合、まず特別法が適用され、特別法に記載がない場合は、商法が適用される。そのため、商事に関しては、商法に優先して適用される特別法の存在に注意する必要がある。例えば、「手形法」、「金融商品取引法」、「会社法」、「銀行法」などのことであり、多数ある。
商法 本法のことである。商法は民法の特別法である。
商事慣習法 法としての意義を持った商事に関する慣習のことである。慣習とは、多くの人々が以前からずっと行っている社会的事実のことで、必ずしも文章で規定されているとは限らない。営業活動などは定型的・反復的に行われるため、慣習法が成立しやすい素地があり、法律と変化していく実際の経済との空白を埋める役割がある。慣習は法律のように文章にはなっていないため、法的意義を認めることについては議論がある。

また、民法第92条の事実たる慣習は当事者の意思を明確にする事実関係に関して慣習が意義を持つ場合のことであり、商事慣習法とは異なるというのが多数説である。
民事特別法 商法と商事特別法の関係と同じである。
民法 民法のことである。
民事慣習法 商法と商事特別法の関係と同じである。
※上記以外に、判例と条理というものがある。判例は強制力を伴う裁判所の判決のことである。条理とは、誰もが当然と考えることがらである。
第2条 【公法人の商行為】

 公法人が行う商行為については、法令に別段の定めがある場合を除き、この法律の定めるところによる。
公法人とは、国や地方公共団体や公庫などのことである。公法人が行う商行為とは、例えば、市が運営する市バスや水道事業などのことである。一般的に、このような国や地方公共団体が、行政目的を達する手段として営業を行う場合、それぞれ特別の法令で規定されていることが多く、通常であればその特別法が優先的に適用されるが、そのような法令がない場合は商法が適用される。

法令とは、法律と命令のことである。以下の表を参照。
名前 説明
法律 国会の議決により制定される。
民法、商法などがある。
命令 行政機関が作成する法規範のことである。
内閣が制定する政令、各省が制定する省令がある。
※命令は、法の効力関係上、法律より下位となる。

命令は法律よりも下位であるが、公法人の商行為については、命令であっても商法に優先して適用される。
第3条 【一方的商行為】

 @ 当事者の一方のために商行為となる行為については、この法律をその双方に適用する。

 A 当事者の一方が二人以上ある場合において、その一人のために商行為となる行為については、この法律をその全員に適用する。
例えば、卸売業者と小売業者の取引においては、どちらも商人であるため商法が適用されるということはすぐに理解できる。だが、小売業者と消費者の取引のように、一方が商人でもう一方が非商人の場合、民法が適用されるのか商法が適用されるのかといった問題が生じる。

本条において、このような問題が生じないように、当事者の一部でも商行為を行う者がいる場合は、商法が適用されると規定されている。

ただし、商法の規定のなかには以下の表のような例外もあるので注意する必要がある。
適用 条文
当事者双方が商人である場合 ・第513条1項
・第521条
・第524条から第528条
当事者の特定の一方のための商行為である場合 ・第511条
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