商法 条文 商法 解説
第2編 商行為

第10章 保険

第1節 損害保険

第2款 火災保険
第665条 【火災による損害】

 火災ニ因リテ生シタル損害ハ其火災ノ原因如何ヲ問ハス保険者之ヲ填補スル責ニ任ス但第六百四十条及ヒ第六百四十一条ノ場合ハ此限ニ在ラス
「火災によって生じた損害は、その火災原因が何であったとしても、保険者は保険金を支払う責任がある。ただし、第640条(戦争などが原因の損害)および第641条(保険契約者側の悪意で生じた損害)の場合は、保険金を支払う責任はない。」

本条は危険普遍の原則についての規定である。これは、原因が何であったとしても、保険金を支払わなければならないということである。ただし、戦争や変乱、保険契約者の悪意などが原因である場合は別である。

しかし、本条は強行規定ではないため、保険約款などでこのような場合は支払わないなどとされている場合も多い。例えば、被保険者と世帯を同じくする親族の故意、放射線による損害など多くの事由は免責となっている。
第666条 【消防、避難により生じた損害】

 消防又ハ避難ニ必要ナル処分ニ因リ保険ノ目的ニ付キ生シタル損害ハ保険者之ヲ填補スル責ニ任ス
「消防または避難に必要な行為によって、保険の目的(保険をかけたもの)に生じた損害について、保険者は保険金を支払う責任がある。」

延焼防止の破壊、水による破損、搬出時の破壊などによって生じた損害であっても、保険者は保険金を支払わなければならない。約款などによって、支払わないと規定しても、免責されない。
第667条 【他人の物を保管する人がかけた保険】

 賃借人其他他人ノ物ヲ保管スル者カ其支払フコトアルヘキ損害賠償ノ為メ其物ヲ保険ニ付シタルトキハ所有者ハ保険者ニ対シテ直接ニ其損害ノ填補ヲ請求スルコトヲ得
「賃借人(借りた人のこと)やそのほか他人の物の保管者が、保管物に損害を与えたために支払わなければならないであろう損害賠償のために保険をかけたとき、保管物の実際の所有者は保険者に対して直接保険金の支払いを請求することができる。」

本条の保険契約は、物の保管者が、故意や過失により所有者に対して負うことのある損害賠償責任のために結ぶ責任保険についての規定である(火災保険の部分に本条があるのは少し変であるが、火災は責任保険の保険事故中で最も重要なものであるためである。)。

本条は、保管者が、自分自身のためにかけた保険についてである。その為、その物の実際の所有者が被保険者となり、保険金を受け取るという保険ではない。しかし、損害が発生し保険金が支払われたとしても、保険をかけた者がそのお金を費消したり、破産してしまった場合、実際の所有者にお金がいかないことも考えられる。そこで、所有者保護のために、本条が規定され、所有者は直接保険者に対して保険金を支払うよう請求することができるとしている。

そうすると、保管者と所有者のどちらに支払い請求権の優劣があるのか問題となるが、本条により所有者のほうに請求権は移転すると考えられている。
第668条 【火災保険証券の記載事項】

 火災保険証券ニハ第六百四十九条第二項ニ掲ケタル事項ノ外左ノ事項ヲ記載スルコトヲ要ス

 1 保険ニ付シタル建物ノ所在、構造及ヒ用方
 
 2 動産ヲ保険ニ付シタルトキハ之ヲ納ルル建物ノ所在、構造及ヒ用方
「火災保険証券には第649条第2項の事項と次の1と2の事項を記載する。」

1 保険をかけた建物の所在地、構造、使い方
2 動産に保険をかけたときは、それが置いてある建物の所在地、構造、使い方」

まとめると、以下の表のようになる。
条文 内容
第649条第2項 1 保険の目的(保険をかけることができるもの)
2 保険者がどんな事故から損害をおぎなうか
3 保険価額を決めたときは、その保険価額
4 保険金額(支払われる保険金の最高額)
5 保険料およびその支払い方法
6 保険期間を定めたときは、その開始と終了の年月日
7 保険契約者の名前または商号
8 保険契約の年月日
9 保険証券を作成した場所および作成年月日」
第668条(本条) 1 保険をかけた建物の所在地、構造、使い方
2 動産に保険をかけたときは、それが置いてある建物の所在地、構造、使い方
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