商法 条文 商法 解説
第2編 商行為

第10章 保険

第1節 損害保険

第3款 運送保険
運送保険は、運送品に生じる運送危険を保険事故とする。これは運送中に生じる可能性のある一切の危険であり、火災、紛失、盗難、衝突、その他の不可抗力などをカバーするのが通常である。運送品は運送されるため、所有者の支配から脱し、危険などを予知したり予防したりすることができないためである。
第669条 【運送保険の期間】

 保険者ハ特約ナキトキハ運送人カ運送品ヲ受取リタル時ヨリ之ヲ荷受人ニ引渡ス時マテニ生スルコトアルヘキ損害ヲ填補スル責ニ任ス
「保険者は特約がないときは、運送人が運送品を受け取ったときから荷受人に引き渡すときまでの間で生じる損害に対して、保険金を支払う責任がある。」

この期間中は、一切の危険をカバーするものと考えられている。ただし、特約などで別の定めをしている場合は別である。
第670条 【発送地主義】

 @ 運送品ノ保険ニ付テハ発送ノ地及ヒ時ニ於ケル其価額及ヒ到達地マテノ運送賃其他ノ費用ヲ以テ保険価額トス

 A 運送品ノ到達ニ因リテ得ヘキ利益ハ特約アルトキニ限リ之ヲ保険価額中ニ算入ス
「@ 運送品の保険は、発送地の発送時における価額と、送り先までの運送賃と、その他の費用の合計額を、保険価額とする。

A 運送品が到着することによって利益が上がることになっているときは、その点の特約がある場合に限り、@の合計額に加えることができる。」

第638条では、損害が発生した場所における価額とされているが、運相保険の場合は発送した場所とする発送地主義をとっている。また、運送賃や荷造り費用なども、実際に損害が発生した場合は荷主の負担となるため、保険価額に加えることができる。

Aは、売主の利潤利益についてであり、これについても特約があれば保険価額に加えることができる。原価100の商品を相手先に120で売り、商品を相手先に送った場合、特約があれば100ではなく120に運送賃などを加えた保険金が支払われるということである。
第671条 【運送保険証券の記載事項】

 運送保険証券ニハ第六百四十九条第二項ニ掲ケタル事項ノ外左ノ事項ヲ記載スルコトヲ要ス

 1 運送ノ道筋及ヒ方法

 2 運送人ノ氏名又ハ商号

 3 運送品ノ受取及ヒ引渡ノ場所

 4 運送期間ノ定アルトキハ其期間
「運送保険証券には、第649条第2項の事項と、次の1から4の事項を記載しなければならない。

1 運送の道筋とその方法
2 運送人の名前または商号
3 運送品の受け取り場所と引き渡し場所
4 運送期間が決まっているときはその期間」

まとめると、以下の表のようになる。
条文 内容
第649条第2項 1 保険の目的(保険をかけることができるもの)
2 保険者がどんな事故から損害をおぎなうか
3 保険価額を決めたときは、その保険価額
4 保険金額(支払われる保険金の最高額)
5 保険料およびその支払い方法
6 保険期間を定めたときは、その開始と終了の年月日
7 保険契約者の名前または商号
8 保険契約の年月日
9 保険証券を作成した場所および作成年月日
第671条(本条) 1 運送の道筋とその方法
2 運送人の名前または商号
3 運送品の受け取り場所と引き渡し場所
4 運送期間が決まっているときはその期間
第672条 【運送の道筋などの変更】

 保険契約ハ特約アルニ非サレハ運送上ノ必要ニ因リ一時運送ヲ中止シ又ハ運送ノ道筋若クハ方法ヲ変更シタルトキト雖モ其効力ヲ失ハス
「運送保険契約は、運送状の必要から一時運送を中止したり、運送の道筋や運送方法を変更した場合でも、その効力を失うことはない。ただし、特約がある場合は別である。」

運送方法や道順の変更などは、実際の運送上、頻繁にありえることである。もし、商法第657条の規定により、保険者に解除権があると、被保険者が不利益をこうむるため、本条が規定されている。
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