商法 条文 商法 解説
第2編 商行為

第4章 匿名組合
匿名組合制度は、出資をする者(匿名組合員)と営業をする者(営業者)からなる企業形態である。

匿名組合制度
匿名組合員 出資をする 営業成績に応じた利益配分を受ける。営業には関与せず、営業上の取引についての責任も負わない。
営業者 営業をする 法律的に企業主体となり、営業を行う。
第535条 【匿名組合契約】

 匿名組合契約は、当事者の一方が相手方の営業のために出資をし、その営業から生ずる利益を分配することを約することによって、その効力を生ずる。
匿名組合契約は、当事者の一方(匿名組合員という)が現金やそれ以外の財産を出資し、もう一方(営業者という)がそれを使い事業を行い、得た利益を匿名組合員に分配するという契約のことである。

営業者が、数人以上の人から出資を受けた場合、法律上は営業者と出資者の間の匿名組合契約が出資者の数だけ存在する。
第536条 【匿名組合員の出資及び権利義務】

 @ 匿名組合員の出資は、営業者の財産に属する。

 A 匿名組合員は、金銭その他の財産のみをその出資の目的とすることができる。

 B 匿名組合員は、営業者の業務を執行し、又は営業者を代表することができない。

 C 匿名組合員は、営業者の行為について、第三者に対して権利及び義務を有しない。
本条を簡単に説明すると以下の表のようになる。

第536条 説明
第1項 匿名組合員が行った出資は、営業者の財産となる。
第2項 匿名組合員は、お金かその他の財産だけを営業者に出資することができる。
第3項 匿名組合員は、営業者の業務を執行したり、営業者を代表したりすることができない。つまり、営業には関与できないということである。
第4項 匿名組合員は、営業者がした営業上の行為によって、直接第三者に対して権利をもったり、義務を負わせられたりしない。つまり、第3項と同じで営業には関与できないということである。
第537条 【自己の氏名等の使用を許諾した匿名組合員の責任】

 匿名組合員は、自己の氏若しくは氏名を営業者の商号中に用いること又は自己の商号を営業者の商号として使用することを許諾したときは、その使用以後に生じた債務については、営業者と連帯してこれを弁済する責任を負う。
本条のような場合、取引相手は匿名組合員の営業と考えることがあり得るため、第14条の名板貸しの責任と同じように、匿名組合員と営業者の連帯責任としている。
第538条 【利益の配当の制限】

 出資が損失によって減少したときは、その損失をてん補した後でなければ、匿名組合員は、利益の配当を請求することができない。
営業上の損失により、営業者の財産額が出資額を下回った場合についての規定である。このような場合、損失を取り戻し、財産額が出資額を上回った後でなければ、匿名組合員は営業者に利益配当を請求することができない。

例えば、匿名組合員が始めに100を出資したとする。そして、営業者がそれを使い営業をした結果、財産額が80になったとする。この場合、匿名組合員は営業者に利益を配当するように請求することはできない。もし、営業をした結果、財産額が120になっていた場合、20が利益となり、匿名組合員はこれを分配するよう請求することができる。

匿名組合制度において、匿名組合員と営業者が損失をどのように分担するかという規定はないが、双方が分担するという考えが一般的である。
第539条 【貸借対照表の閲覧等並びに業務及び財産状況に関する検査】

 @ 匿名組合員は、営業年度の終了時において、営業者の営業時間内に、次に掲げる請求をし、又は営業者の業務及び財産の状況を検査することができる。

 1 営業者の貸借対照表が書面をもって作成されているときは、当該書面の閲覧又は謄写の請求

 2 営業者の貸借対照表が電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるもので法務省令で定めるものをいう。)をもって作成されているときは、当該電磁的記録に記録された事項を法務省令で定める方法により表示したものの閲覧又は謄写の請求

 A 匿名組合員は、重要な事由があるときは、いつでも、裁判所の許可を得て、営業者の業務及び財産の状況を検査することができる。

 B 前項の許可に係る事件は、営業者の営業所の所在地(営業所がない場合にあっては、営業者の住所地)を管轄する地方裁判所が管轄する。
匿名組合員は出資をしているため、営業者がそれをどのように運用しているのかを監督する権利がある。本条は、財産状況を検査するための規定である。

匿名組合員は営業年度の終わりに、営業者の営業時間内に限って、貸借対照表を閲覧したり写しをもらったりすることができる。また、重要な事情がある場合は裁判所の許可を得た上で、いつでも財産状況などを検査することもできる。
第540条 【匿名組合契約の解除】

 @ 匿名組合契約で匿名組合の存続期間を定めなかったとき、又はある当事者の終身の間匿名組合が存続すべきことを定めたときは、各当事者は、営業年度の終了時において、契約の解除をすることができる。ただし、六箇月前にその予告をしなければならない。

 A 匿名組合の存続期間を定めたか否かにかかわらず、やむを得ない事由があるときは、各当事者は、いつでも匿名組合契約の解除をすることができる。
本条は当事者の意思によって匿名組合契約が終了する場合の規定である。

匿名組合契約が終了するとき(当事者の意思による場合)
第540条 説明
第1項 匿名組合契約の存続期間を決めなかったときや、決めたとしても当事者のうちのどちらかが死ぬまで続くとしていた場合は、当事者のうちのどちらからでも、営業年度が終わる日の6ヶ月前までに予告をすれば、匿名組合契約を解除することができる。
第2項 やむを得ない事情があるときは、当事者のうちのどちらからでも、匿名組合契約を解除することができる。
第541条 【匿名組合契約の終了事由】

 前条の場合のほか、匿名組合契約は、次に掲げる事由によって終了する。

 1 匿名組合の目的である事業の成功又はその成功の不能

 2 営業者の死亡又は営業者が後見開始の審判を受けたこと。

 3 営業者又は匿名組合員が破産手続開始の決定を受けたこと。
本条は当事者の意思によらずに匿名組合契約が終了する場合の規定である。

匿名組合契約が終了するとき(当事者の意思によらない場合)
第541条 説明
第1号 匿名組合契約を結ぶときに決めた事業目的を達成したとき。または、その目的を達成するのが不可能となったとき。
第2号 営業者が死亡したとき。または、営業者が後見開始の審判をうけたとき。
第3号 当事者のどちらかが裁判所から破産手続き開始の決定を受けたとき。
第542条 【匿名組合契約の終了に伴う出資の価額の返還】

 匿名組合契約が終了したときは、営業者は、匿名組合員にその出資の価額を返還しなければならない。ただし、出資が損失によって減少したときは、その残額を返還すれば足りる。
匿名組合契約が終わったとき、営業者は財産などを出資者に返還しなければならない。財産額は年月がたつうちに変化するため、以下のようにして行う。

匿名組合契約終了による返還
匿名組合契約終了時の額 数値 営業者は
財産額(利益が出ており増加) 120 120を返還する
出資額 100 本来、出資額を返還しなければならない
財産額(損失により減少) 80 80を返還すればよい
※匿名組合員が出資した額を100とした場合
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