商法 条文 商法 解説
第2編 商行為

第5章 仲立営業
仲立営業とは、他人と他人の契約の締結が容易になるように仲介をすることである。適当な取引相手がわからないとき、相手の信用状態がわからないとき、相手に自己を知らせないで取引をしたいときなどに用いられる。

例えば、商品・有価証券の売買、金融、保険、海上運送などで利用されることが多い。

仲立営業は商人の商取引を補助するものとして発達してきたが、現在では非商人のためだったり商取引以外の行為での仲立営業もある。しかし、本章で規定しているものは、商行為の仲立営業についてを規定している。そのため、居住用の土地建物の売買、家事使用人の雇い入れの媒介の引き受けなどは相対的商行為であり業として行う場合には民事仲立人として商人にはなるが、本章が規定している仲立人ではない。
第543条 【仲立人】

 仲立人トハ他人間ノ商行為ノ媒介ヲ為スヲ業トスル者ヲ謂フ
「仲立人とは、他人と他人との間で商行為が成立するように、仲介することを商売にしている者のことである。」

仲立は、仲立人が他人間の商行為を仲介することにある(商行為という部分が大事である)。例えば、サラリーマンのAが不動産屋のBの斡旋で農家のCから土地を買ったとする。この場合、Bの行為は仲立とはならない(AもCも商人ではない)。

商行為の定義などについては、商法第4条、第501条〜第503条も参照。
第544条 【仲立人の禁止行為】

 仲立人ハ其媒介シタル行為ニ付キ当事者ノ為メニ支払其他ノ給付ヲ受クルコトヲ得ス 但別段ノ意思表示又ハ慣習アルトキハ此限ニ在ラス
「仲立人は、仲介をした当事者のために自分自身で支払いをしたり、お金や品物等を受け取ったりすることはできない。しかし、そうしてもよいという約束や慣習があるときはしてもよい。」

別の決まりがあるならそれに従うということである。
第545条 【見本の保管義務】

 仲立人カ其媒介スル行為ニ付キ見本ヲ受取リタルトキハ其行為カ完了スルマテ之ヲ保管スルコトヲ要ス
「仲立人が仲介をした商行為において、見本を受け取ったときには、その商行為が完了するまで、その見本を保管しておかなければならない。」

本条は見本によって物を売買する見本売買についての規定である。商品について他人間で争いが起こるのを防ぐためである。
第546条 【結約書の作成】

 @ 当事者間ニ於テ行為カ成立シタルトキハ仲立人ハ遅滞ナク各当事者ノ氏名又ハ商号、行為ノ年月日及ヒ其要領ヲ記載シタル書面ヲ作リ署名ノ後之ヲ各当事者ニ交付スルコトヲ要ス

 A 当事者カ直チニ履行ヲ為スヘキ場合ヲ除ク外仲立人ハ各当事者ヲシテ前項ノ書面ニ署名セシメタル後之ヲ其相手方ニ交付スルコトヲ要ス

 B 前2項ノ場合ニ於テ当事者ノ一方カ書面ヲ受領セス又ハ之ニ署名セサルトキハ仲立人ハ遅滞ナク相手方ニ対シテ其通知ヲ発スルコトヲ要ス
「@ 仲立人の仲介により当事者間で商行為が成立したときは、仲立人はすぐに各当事者の氏名または商号、契約の年月日、商行為の要領を記載した書類を作り署名し、各当事者に渡さなければならない。

A 商行為が成立後すぐにそれを実行しなければならない場合をのぞき、仲立人は@の書類に各当事者の署名をもらい、相手方へその書類を渡さなければならない。

B @とAの場合、当事者の一方が書類を受け取らないとき、または、書類に署名をしないときは、仲立人はすぐに当事者のもう一方にそのことを通知しなければならない。」

本条の書類は、結約書、締約書、仕切書などと呼ばれている。当事者の紛争を防ぐために作成される証拠証券である。この書類が作成されなかったとしても、契約が成立しなかったことにはならない。
第547条 【仲立人日記帳】

 @ 仲立人ハ其帳簿ニ前条第1項ニ掲ケタル事項ヲ記載スルコトヲ要ス

 A 当事者ハ何時ニテモ仲立人カ自己ノ為メニ媒介シタル行為ニ付キ其帳簿ノ謄本ノ交付ヲ請求スルコトヲ得
「@ 仲立人は仲立人日記帳という帳簿を作り、これに各当事者の氏名または商号、契約の年月日、商行為の要領を記載しなければならない。

A 各当事者は、いつでも仲立人の仲介を受けた契約について、仲立人日記帳の写しを交付してくれるよう請求することができる。」

本条の帳簿を仲立人日記帳という。これは第32条以下の商業帳簿ではないが、保存に関しては第36条と同様だといわれている。
第548条 【氏名または商号を伏せておく場合】

 当事者カ其氏名又ハ商号ヲ相手方ニ示ササルヘキ旨ヲ仲立人ニ命シタルトキハ仲立人ハ第546条第1項ノ書面及ヒ前条第2項ノ謄本ニ其氏名又ハ商号ヲ記載スルコトヲ得ス
「当事者の一方が、自分の氏名または商号をもう一方に対して伏せておくようにと仲立人に命令したとき、仲立人は第546条の結約書と仲立人日記帳において氏名または商号を書くことができない。」

氏名または商号を伏せておく場合、次条の義務がある。
第549条 【自ら履行する義務】

 仲立人カ当事者ノ一方ノ氏名又ハ商号ヲ其相手方ニ示ササリシトキハ之ニ対シテ自ラ履行ヲ為ス責ニ任ス
「仲立人が当事者の一方の氏名または商号を、当事者のもう一方に知らせなかったときは、仲立人が自らもう一方に対して約束を実行する責任を負う。」

契約自体は、当事者と当事者の間で成立するが、氏名や商号を教えてもらわなかった当事者に対して、仲立人は約束を実行する責任を負わなければならない。
第550条 【仲立料】

 @ 仲立人ハ第546条ノ手続ヲ終ハリタル後ニ非サレハ報酬ヲ請求スルコトヲ得ス

 A 仲立人ノ報酬ハ当事者双方平分シテ之ヲ負担ス
「@ 仲立人は、第546条が規定する結約書の手続きが終わった後でなければ、報酬を請求することができない。

A 仲立人への報酬は、契約の当事者が半分ずつ負担しなければならない。」

報酬のことを、仲立料という。仲立人が仲立料を請求するためには、当事者間において契約が有効に成立することが必要であるが、契約が実際に履行されたかどうかは問題とはならない。
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