商法 条文 商法 解説
第2編 商行為

第6章 問屋営業
商法上の問屋(といや)とは、通俗的な用語である問屋(とんや)とは異なり、取り次ぎ営業の一つである。問屋の行為の法的性質は間接代理である。

例えば、証券会社や商品取引所の会員である商品取引員(商品仲買人)が本章の問屋にあたる。
第551条 【問屋】

 問屋トハ自己ノ名ヲ以テ他人ノ為メニ物品ノ販売又ハ買入ヲ為スヲ業トスル者ヲ謂フ
「問屋とは、他人の依頼を受け、自分の名前で物の売買をすることを商売にしている者のことである。」

この他人のことを委託者といい、取引上の損益が帰属する。
第552条 【問屋の法律上の地位】

 @ 問屋ハ他人ノ為メニ為シタル販売又ハ買入ニ因リ相手方ニ対シテ自ラ権利ヲ得義務ヲ負フ

 A 問屋ト委託者トノ間ニ於テハ本章ノ規定ノ外委任及ヒ代理ニ関スル規定ヲ準用ス
「@ 問屋が他人のためにした物の売買は、問屋自らが相手方に対して権利を得、義務を負う。

 A 問屋と委託者との関係は、本章の規定以外にも、委任(民法第643条以下)と代理(民法第99条以下)についての規定が準用される。」


問屋の行為は以下の表のようになる。
問屋の行為
法律上(形式) 問屋の行為となる。
経済上(実質) 委託者に帰属する。

問屋の義務 問屋の権利
善管注意義務 報酬請求権
通知義務 取戻権
指値遵守義務 介入権
履行担保義務 留置権その他


問屋が物の売買の後に破産した場合、委託者の問屋と債権者に対しての地位はどうなるかという問題がある。色々な意見があるが、一般的には委託者は代金請求権または買い入れ物品について取り戻し権を有すると言われている。
第553条 【問屋の責任】

 問屋ハ委託者ノ為メニ為シタル販売又ハ買入ニ付キ相手方カ其債務ヲ履行セサル場合ニ於テ自ラ其履行ヲ為ス責ニ任ス但別段ノ意思表示又ハ慣習アルトキハ此限ニ在ラス
「問屋が他人のためにした物の売買において、相手方が義務を実行しないときは、問屋が委託者に対してその義務を果たさなければならない。しかし、あらかじめ別の取り決めがあった場合や慣習があるときはそれに従う。」

本条は委託者保護のための規定である。
第554条 【値段が指定されているとき】

 問屋カ委託者ノ指定シタル金額ヨリ廉価ニテ販売ヲ為シ又ハ高価ニテ買入ヲ為シタル場合ニ於テ自ラ其差額ヲ負担スルトキハ其販売又ハ買入ハ委託者ニ対シテ其効力ヲ生ス
「問屋が委託者の指定した価格より安く売ったり、高く買ったりした場合において、問屋がその差額を負担したときは、その売買の効果は委託者に生じる。」

委託者が指定した価格のことを指値といい、問屋は本来であればこの価格に拘束される。問屋は指値とは違う価格で売買をした場合、遅くとも売買の通知と同時にそのことを通知しなければならない。
第555条 【問屋が自ら買主または売主となるとき】

 @ 問屋カ取引所ノ相場アル物品ノ販売又ハ買入ノ委託ヲ受ケタルトキハ自ラ買主又ハ売主ト為ルコトヲ得此場合ニ於テハ売買ノ代価ハ問屋カ買主又ハ売主ト為リタルコトノ通知ヲ発シタル時ニ於ケル取引所ノ相場ニ依リテ之ヲ定ム

 A 前項ノ場合ニ於テモ問屋ハ委託者ニ対シテ報酬ヲ請求スルコトヲ得
「@ 問屋が取引所の相場のある物の売買を委託されたときは、自ら買主または売主となることができる。この場合の売買代金は、問屋が委託者に対して、自分が買主または売主となったことの通知を発したときにおける取引所の相場によって定めることとなる。

A @の場合、問屋は委託者に報酬を請求することができる。」

本条の問屋の権利を介入権という。ただし、証券取引所・商品取引所の会員については、公正な市場価格の形成・委託者保護のために特別法で介入権の行使が禁止されている。
第556条 【委託者が物を受け取らないとき】

 問屋カ買入ノ委託ヲ受ケタル場合ニ於テ委託者カ買入レタル物品ヲ受取ルコトヲ拒ミ又ハ之ヲ受取ルコト能ハサルトキハ第五百二十四条ノ規定ヲ準用ス
「問屋が委託により買い入れをした場合、委託者がその物を受け取らないときまたは受け取ることができないときは、第524条(供託、競売)の規定を準用する。」

本条のような場合、問屋はその物を供託するか競売することができる。
第557条 【問屋の通知義務と留置権】

 第二十七条及ビ第三十一条ノ規定ハ問屋ニ之ヲ準用ス
「第27条(代理商の通知義務)と第31条(代理商の留置権)の規定は、問屋についても準用する。」

問屋が物の売買をしたときはすぐにそのことを委託者に通知しなければならない(第27条)。また、委託者が問屋に対して債務の履行をしないとき、問屋は債務の履行があるまで預かっている物を留置しておくことができる(第31条)。
第558条 【準問屋】

 本章ノ規定ハ自己ノ名ヲ以テ他人ノ為メニ販売又ハ買入ニ非サル行為ヲ為スヲ業トスル者ニ之ヲ準用ス
「本章の規定は、自分の名前を使って他人のために物の売買以外のことを行うのを商売にしている者に対しても適用する。」

本条の規定は、出版・広告・保険契約や賃貸借の取次業者などの準問屋に対してのものである。
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